第1話 俺、爆誕!!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
人気のない路地を一人の女性が苦し気な声を発しながら歩いている。
時刻は昼過ぎ。
まだ人の出も多そうな時間帯ではあったが表通りから何本も奥へ進んだこの場所にはこの女性以外の人影はなかった。
「うっ、もう・・・」
女性は一際苦しそうな呟きをもらすと最後の力を振り絞るようにちょうど目の前にあった廃屋に入っていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
気が付くと俺は心地よい温もりを感じる、水の中のような、どこか不思議な場所にいた。
(ああ・・・心地よいな。)
ずっとこのまま居たいくらいであったが新しく生まれ変わらせられるためにさっきまで天使名乗る女性にあっていたわけなのでそういうわけにもいかないのだろう。
そんなことを考えていると徐に何かに吸い込まれる感覚がした。
(くうっ・・・、何か狭いところに来たぞ。なんじゃこりゃ??)
さっきまでの心地よさはどこへやら、今度は一転かなり不快な場所に来た。
そうしているうちにもどんどん体は吸い込まれていく。
そして遂にその空間から解放されると強烈な光が俺を襲った。
(なんだっ!?)
「おぎゃぁ、おぎゃぁっ!」
謎の赤ん坊の声がした。
いや、これ俺の声だわ。
ということは、さっきまでの場所は俺のママンの腹の中か。
ということは、
こんにちは異世界!
こんにちはママンッ!!
パパンはどこかな??
普通、産まれるシーンではお母さんと産婆さんが居て、産まれると同時にお父さんが飛び込んでくるっていうのが定番だよね?
ガサガサッ
そんな物音がしたものの何の声も聞こえてこない。
これどんな状況??
とりあえず周りを見てみる。
しかし、なぜか視界がはっきりしない。
色調もモノクロに近いような?
そういえば生まれたての赤ちゃんは最初こんな感じの視界なんだっけ?
決して色盲ではないと信じたい!
そんなことを考えていると、
『スキル:全知全能の効果で千里眼を取得しました。』
なんかよく分からんアナウンスが聞こえた。
「うbghbvsっぼあsbこyせbbcjんmr・・・」
ようやくママンに何か話しかけられたようだが何を言ってるのかまったく分からんかった。
すると、
『スキル:全知全能の効果で言語理解を取得しました。』
俺の身体は毛布のようなものに包まれたかと思うとそのままママンらしき女性に抱きかかえられた。
このときママンの顔をようやく見れたがかなりの美人さんだ。
欧米の人気女優などでも太刀打ちできないほどであろう。
それからママンはどこかへ歩き始めた。
さっき出産が終わったばかりだというのに寝てないで大丈夫なんだろうか。
それに俺の身体にもへその緒とかついたままだと思うんですけど・・・
微かに除くママンの表情は険しかった。
いや、普通息子が産まれたら大喜びせん?
もしや娘が欲しかった??
そしてパパンは?
スキル千里眼を常時発動させ天井から見渡してみてもママン以外には誰もいなかった。
誰の手も借りない自力出産だったとは恐れ入る。
そして今どこへ向かっているのだろう。
さっきの部屋も何か瓦礫だらけの廃屋みたいなところやったし、何か様子がおかしいな。
ママン以外に人の気配も無かった。
ママンは俺を抱えたまま廃屋の外へ出るとそのまま歩き続ける。
そして何やら大きな建物の前まで来ると、クルクルと辺りを見渡した。
「誰も見てないわね・・・」
ママンはそう呟くと俺をその建物の端、ちょうど隣の建物との間の隙間にそっと置いた。
えっ??
「ごめんね・・・」
ママンはそう言うとそのまま早足で立ち去ってしまった。
なんとっ!!
これってまさかっ!
イキナリステラレタ??
あっ、あまりのことに思考まで棒読みになってもうたわっ!
まさかの捨て子?
そうか、天使に願うべきはスキルやステータスではなくてそこからやったかっ!
『普通の家庭に産まれますように』
まずここを押さえておくべきだったのだ。
そう、俺は捨てられた。
こうなっては成長する前に死ぬかも知れん。
何しろ人間が生きていくのに最低限必要な、衣、食、住の全てが失われたところからのスタートなのだ。
コレ、何の無理ゲー??
しかしまだチャンスはあるっ!!はず・・・。
心ある誰かに拾われる可能性も。。。
もはやそう信じるしかないっ!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
いきなり捨てられた俺。
きっと誰かに拾ってもらえるはず。
そう信じていた時が僕にもありました。。。
それから数日の月日が流れるも誰も俺を拾ってくれることはなかった。
その間『千里眼』で視覚を操作し、俺の居る場所からいろいろなところを見てみた。
どうやら俺が捨てられたのは教会の隅らしい。
ママンも一応気は使ってくれたんだろう。
しかし置く場所が問題だった。
それなら建物の入り口で良かったではないかっ!
しかしママンに置かれたのは隣の建物との隙間。
それもちょっと入ったところ。
はっきりいって通りからは俺は見えない。
なら声を発すればと思うであろう。
『言語理解』は習得したものの、俺はまだ話が出来るほどは口の筋肉が発達していない。
もちろん赤ちゃんの俺がしゃべるのは些か問題があるのであろうが・・・
なら泣き声でというと、いくら泣いてみても誰も俺のところまで来てくれることは無かった。
普通こんなことある?
明らかに変な場所から赤ん坊の声が聞こえたら探しに来るよね?
そんな俺に唯一気付いてくれたのは野良猫一匹だった。
その猫は真っ白でかなり可愛かった。
野良猫は俺のへその緒も食べてくれた。
最後はペロペロとなめとってくれたので一応へその緒はもう残っていないと思う。
その猫もそれ以来姿を見せない。
もちろん俺も数日間、何も食べないままで居たわけではない。
このままでは死ぬと思った俺は本能で水を生成していた。
『スキル:全知全能によりウォーターの魔法を習得しました。』
その時に流れたアナウンスはコレ。
この水にどこまでの栄養価があったのかは不明であるが、生き延びるために生み出したウォーターだ。
きっとそれなりに必要な栄養価は備わっていたんだろう。
そんな俺の孤独は突然終わりを迎えることになる。
現時点での主人公ステータス
名前:なし(生後まもなく捨てられたため)
固有スキル:全知全能、魔力無限
習得スキル:千里眼、言語理解、浄化(漏らした時に習得)
習得魔法:水魔法Lv1ウォーター