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あなどり!-another world dream-  作者: ねこずきのくま
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プロローグ

突然ですが、皆さんに質問です。

皆さんは今の生活から逃げ出したいと思ったことはありますか?

それも『学校や仕事を辞める』と言ったものや、『全てのしがらみから解放されて友人知人の一切いないどこか別の場所で人生をやり直したい!』と言うような、云わばやろうと思えばやれる実現可能なものではなく、例えば『死んで生まれ変わってもう一度はじめから自分じゃない自分として人生をやり直す』というような、やりたくてもやれない、所詮は夢物語のような願望を抱いたことはありませんか?

そのような話はラノベやマンガ、アニメではよく見かけるものです。

なぜよく見かけるのかというと、多くの人が同じような願望を抱いたことがあり、今の生活に何かしらの不満を持っているからに他ならないでしょう。

そしてその不満を決して乗り越えられない壁、どうしようもない運命と勝手に決めつけ、物語の中の主人公に憧れを抱く。

『他人の芝生は青く見える』と言う言葉が示す通り、人は自分と大してスペックの変わらないたかが人間同士の関係でさえ、あるいは憧れ、あるいは妬み、時に羨望の眼差しを向けるもの。自らの持つものよりも、他人の持つものの方が良く見える、ということもあるのでしょう。

それが創作物の中でしか有り得ないような完全無欠のヒーローに対してならば、または平凡な主人公であったとしても有り得ないような成功を掴むサクセスストーリーであったならば、自らに重ねずにはいられないのも無理はありません。


これは多くの人々と同じように、今の生活に満足していなかった一人の人物の物語。

まさか本当に異世界で人生をやり直せるとは思ってもいなかった彼は、念願が叶った世界で果たしてどのような道を歩むのか。

やり直しに成功して今度こそは不満のない生活を送れるのか、はたまた今よりも酷い境遇となり果て、やり直す前の人生が如何に恵まれたものであったのかを身を持って知ることになるのか。

異世界、即ちアナザーワールドで夢を掴むことはできるのか。


それでは皆さま、その人物の物語をお楽しみください。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


20××年1月某日。

一人の男が夜も更けて真っ暗な道を歩く。

少し離れたところには繁華街があったのだが一本でも道を外れてしまうとそこはびっくりするほど静かで、暗がりの道へと変わる。


「はぁ。今日も疲れたなぁ・・・。部長のやついつも俺にばっかりネチネチ言いやがって。もう仕事も何もかも辞めてどこか遠くにでも行こうかな・・・。」


こんな情けない独り言を零しながら家路を急いでいるのは相模原さがみはら 京介きょうすけ25歳。

彼のこれまでの人生は、それこそ下を見ればキリはないのだろうが決して恵まれたものとは言い難かった。

生まれつき病弱であった彼は入退院を繰り返してきた。そんな病弱であった彼がスポーツで輝けるはずもなく、運動全般は超苦手。

では勉強の方はと言うと、辛うじて進級出来るレベルではあったものの成績は下から数えた方が圧倒的に早いという実力。

それでも何とかFランクの大学には入学でき無事卒業できたものの勤められたのは超が付くほどのブラック企業。

家庭の方でも両親は彼が小学2年の時に離婚。引き取ってくれた母は他の男が出来て京介にかまうことはほとんどなかった。唯一の救いは虐待されるようなことだけはなかったというくらいであろうか。

しかし世の中は上手くいかないもので、親からの虐待こそなかったが、クラスメイトからのいじめは酷いものだった。

そんな彼が人生やり直したいと思う感情は至って普通のことであったと言えよう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「くそっ!」


ガンッ


運動が苦手でひ弱な俺は目の前に置かれていた閉店で電気の消えた個人商店のゴミ箱を思いっきり蹴っ飛ばした。

もちろん俺の力では周囲に響き渡った音ほどは飛んで行かなかったのだが、運が悪いことに目の前を歩いていたガラの悪い3人組の一人に直撃した。

直撃とは言っても所詮は俺の力だ。

少し飛んだあとすぐに道路に落下したゴミ箱が勢いを殺しながら転がって当たった程度ではあったのだがその3人がそれを許すことはなかった。


「おいワレ!何してけつかんねん。」


「えっ?」


コテコテの大阪弁で理解できなかった。

ちなみに俺の住む街は東京。生まれも育ちも東京。

もちろんここも東京。

ナゼニ大阪弁??


「おーいたっ!こりゃ骨までいってんな。」


「アニキッ!おズボンも汚れてまっせ。」


「ほんまやな。こりゃ治療費だけやのうてクリーニング代も貰わんとなっ!」


まさに世紀末のザコ敵のようなチンピラは俺に向かってゆっくりと近づく。

固まる俺。


ここからはRPG風にお楽しみください。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


デンデンデンデンデン♪♪(お好きなRPGのラスボスのテーマでも思い浮かべてください)


チンピラA、チンピラB、チンピラアニキが現れた!


俺の攻撃。

ガンッ

俺はゴミ箱を蹴飛ばした。

チンピラアニキに1ポイントのダメージ!!


チンピラアニキの攻撃。

チンピラアニキは威嚇したっ!!


「おいワレ!何してけつかんねん。」


俺は竦み上がった。


俺の攻撃。

俺は呟いた。


「えっ?」


チンピラアニキの攻撃。

チンピラアニキは威嚇したっ!!


「おーいたっ!こりゃ骨までいってんな。」


俺は竦み上がった。


チンピラAの攻撃。

チンピラAは威嚇したっ!!


「アニキッ!おズボンも汚れてまっせ。」


チンピラアニキの攻撃。

チンピラアニキは威嚇したっ!!


「ほんまやな。こりゃ治療費だけやのうてクリーニング代も貰わんとなっ!」


チンピラアニキの攻撃。

チンピラアニキはゆっくりと近づいた。


俺の攻撃。

俺は逃げ出したっ!!


「逃がすかっ!!」


しかし回り込まれてしまった!!


チンピラBの攻撃。


「おらっ!!逃げてんとちゃうぞっ!!」


ドカッ

バキッ


俺に70ポイントのダメージ。

俺は倒れた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ガスッ

バキッ

ドカッ


その後も攻撃を受けた俺はそのまま気を失った。

気付けばゴミ箱にケツから入れられていた。

なお財布は無くなっていた。


何とか起き上がった俺は警察に電話をしようとポケットを弄る。

しかし、そこにあるはずのスマホは無かった。


「スマホまで持ってかれたか・・・」


仕方ない。

まずは家まで帰るか・・・

そして俺は痛む身体を無理に動かして家路を急ぐ。

帰ったら通報しよう。

と言っても家電を引いているわけでもないのだが、お隣の部屋に住む人にでも頼んでみよう。

話したことは無いんだけど・・・

俺の住むアパートは単身者向けの安アパートなのだが、よくよく考えてみれば隣にどんな人が居たのかもあまり思い出せないな。


そして何とか家に着いた俺は荷物を部屋に放り投げ、通報してもらうためにお隣の扉をノックする。


コンコンッ


「すみませーん。」


しばらくしてガチャっと勢いよく扉が開かれる。


出てきたのは先ほどのチンピラBだった。


「なんやワレッ!さっきのガキやないかっ!!」


「っ!!」


俺は逃げ出した。

なお、俺の部屋はアパートの2階だ。

そして俺のアパートの階段は外付け階段なのだが、急いでいるので1段飛ばしで駆け降りる。


「待たんかいワレっ!!」


チンピラBは案の定追いかけてきている。

家が知られたということはチンピラ達にとっても良いわけはない。

通報された場合に犯人として特定されるわけだから。


追いかけてくる方も必死。

もちろん俺も必死。


なので階段を降りる途中、足を踏み外してしまったことも必然であったかも知れない。


「うわっ!!」


ガンッ

ドンッ

ゴロゴロゴロッ!!


頭や体を階段にぶつけながら落ちて言った俺は最後には転がるように1階に到達した。


「きゃあああっ!!」


響く女性の叫び声。

アパートに備え付けられている街灯でやけに明るく照らされていると感じられたそこには女性が立っており、見上げれば男の夢が広がっていた。


(あっ!ピンクか・・・)


「いやあああーーーーーっ!!!」


思いっきり蹴り飛ばされた俺は道路に転がり出る。


ブッブーーーーーッ!!!


物凄い音量のクラクションが鳴り響く。

迫るトラック!

やけに時間がスローに感じるなと思った次の瞬間、


ドンッ!!!


一際大きな音を響かせて俺は宙を舞った。

そしてそのまま意識を失った俺はここに相模原 京介としての生涯を終えたのだった。

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