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ピヨピヨ精霊

公爵令嬢は王太子殿下と結婚する訳にはいかない。

作者: ユミヨシ

「イレーヌ・マルグリブルク公爵令嬢。」

「何でございましょう。」


イレーヌはいきなり、声をかけられて驚いた。


ここは王立学園。声をかけてきたのは、この国のレオル王太子殿下だったからである。


金髪碧眼のこの王太子はとても美男で女性達に人気があった。


そして、今、貴族令嬢達の間で婚約者を探しているとの事であったが。


イレーヌに向かってレオル王太子は、


「イレーヌ嬢、どうか私の婚約者になって欲しい。そなた程、勉学も出来て、マナーも完璧な令嬢はいないだろう。それに…何よりもその美しさ。未来の王国の王妃にふさわしい。」


イレーヌは慌てて、


「わたくしは、そのような王妃になれる器ではありませんわ。王家から正式に申し込みがあっても、両親に断るように言って貰います。」


「そなたが断って、他の誰がなると言うのだ?」


「他の家の公爵家の令嬢だって優秀ですわ。」


「そなた以上の優秀な令嬢はいないだろう?」


「いえいえ、優秀な令嬢はいると思います。」


イレーヌは焦った。


とんでもない。自分は王妃になる訳にはいかないのだ。


レオル王太子はイレーヌに向かって、


「私は諦めぬ。正式に王家からマルグリブルク公爵家に申し込みをするようにしよう。その時は良き返事を期待しているぞ。」


「いえ、お断りさせて頂きますわっ。」



真っ青になって、その場を去るイレーヌ。


そう、この国の王妃になる訳にはいかないのだ。



マルグリブルク公爵家に戻ると、イレーヌは訴えた。


「今日、レオル王太子殿下から、婚約者になってくれないかと打診がありましたわ。

お父様。お母様。王家から申し込みがあっても絶対に断って下さいませ。」


マルグリブルク公爵である父は、


「おおおおおっ。何て有難い話なんだ。受けるとしよう。」


母であるマルグリブルク公爵夫人は、


「ええ、うちの娘が王妃なんて、有難い。しっかりとお受けして、ね?イレーヌ。」


「ですから、わたくしはっ。わたくしには無理ですわ。」


いくら言っても両親は有難い話だと、受ける気満々である。



イレーヌは自室に戻り、ベッドの上で泣き崩れた。


どうしようどうしようどうしよう。


とんでもない事になってしまった。


ピヨピヨ精霊である自分は、公爵令嬢に化けて生きてきた。

今までだってやっとだったと言うのに、王妃になんてなってしまったら…

どこかでバレたらそれこそ大変である。



ピヨピヨ精霊とは、身体が球体でつぶらな瞳に、羽が生えている森に住む小さな精霊である。


その精霊が今から10年前に、イレーヌ・マルグリブルク公爵令嬢に森で出会ったのが、イレーヌ7歳の時だった。


彼女は森で倒れていて、今にも死にかけていたのだ。


「わたしはもう駄目、でもちちうえ、ははうえを悲しませたくない。お願い。

わたしになって。わたしになって…お願い。」


彼女を助ける事は出来なかった。


でも、死ぬ間際の少女の願いを、ピヨピヨ精霊は叶えてしまったのだ。



公爵令嬢として10年。ピヨピヨ精霊はマルグリブルク公爵家のイレーヌとして、

バレずに生きて来た。


死ぬ間際に本物のイレーヌに頼まれた事を叶えるために。


一生懸命勉強をし、マナーも完璧に覚えた。


マルグリブルク公爵夫妻を喜ばせる為に。



いつの間にか、ピヨピヨ精霊イレーヌは、両親に愛情を感じ、人間世界に馴染んでしまったのだ。


でも…さすがに自分はピヨピヨ精霊。


人間と結婚する訳にはいかない。



どうすればいい?どうすれば…


そうだ。もし強引に婚約されても、冷たい態度を取ればいい。


レオル王太子に愛想をつかされればいいのだ。


イレーヌはベッドで一生懸命考えた末、そう結論を出したのだが。



両親がレオル王太子との婚約を引き受けてしまい、

イレーヌは強引にレオル王太子の婚約者となってしまった。


「イレーヌ。一緒にお昼を食べよう。」


「いえ、わたくしは教室で。」


「君は私の婚約者になったのだ。出来るだけ君と一緒にいたい。

美しいイレーヌ。君の事が好きだ。」


えええええええっ???


こんな美形な王太子殿下に、愛を告白されて、ドキドキしない女性なんて

いないと思えるんですが。


いや、自分は人間ではないけれども…


思わず赤面してしまうイレーヌ。



「わ、解りましたわ。お昼をご一緒するだけですわよ。」


「有難う。」



共に、食堂の窓際でお昼を食べたのだが、

目の前で食べるレオル王太子殿下の仕草がそれはもう美しくて。


思わず見とれてしまうイレーヌ。


「さすが王太子殿下。完璧なマナーでございますわ。」


「当たり前だ。生まれた時から、マナーは身に着けるように教育を受けている。」


微笑む姿もそれはもう美しくて。


あああああっ…わたくしが本物の人間のイレーヌだったら、


何もかも投げ捨てて王妃になるでしょう。




でも…わたくしはピヨピヨ精霊。


人間と結ばれる訳にはいかないの。


ここで冷たい態度を取って王太子殿下に愛想をつかして貰わねば。


レオル王太子が、イレーヌに向かって、


「今度、王宮で夜会がある。エスコートをしてあげるから、一緒に出よう。」


「いえ、わたくしは夜会に出るにはまだ早いのではないかと…」


「今から出て本格的な社交デビューの練習をするのは、未来の王妃として必要な事だ。」


「確かにそうですわね。」


「イレーヌには私からドレスをプレゼントしよう。そうだな…君の綺麗な銀の髪に映えるドレスは何色だろうか?緑…緑のドレスをプレゼントしよう。」


「まぁ、光栄ですわ。」


つ、冷たい態度はどこ行った?自分っ…


更にレオル王太子は畳みかけてくる。


「イレーヌの好きな花はなんだ?花をプレゼントしたい。」


「花ですの…」


こんな美男から花のプレゼントまで貰えるだなんて、それはもう胸がドキドキで…


「わたくしの好きな花は薔薇ですの。真っ赤な薔薇が欲しいですわ。」


ここは公爵令嬢らしく、ゴージャスな薔薇にしておきますわね…


レオル王太子は微笑んで、


「真っ赤な薔薇の花を100本プレゼントしよう。イレーヌが喜んでくれるなら、お安い御用だ。」


「有難うございます。」




それからのレオル王太子との、時間は夢のように過ぎていった。


共に王立学園で勉学に励み、休みの日にはお忍びデート。


色々な話をして、色々な物を見て、色々な体験をして…


イレーヌはとても幸せだった。


自分がピヨピヨ精霊だと言うことを忘れた訳ではないけれども…


でも、もう少しだけレオル王太子と共にいたかったのだ。



イレーヌはレオル王太子の見かけだけでなく、その人柄にも惹かれてしまっていたのだから…

彼はとても優しく誠実だった。

知識も深く広く、話をしていてとても楽しかった。



ああ…わたくしが人間であったら…


どんなに良かった事でしょう。


でも…早いものね…


もうすぐで王立学園を卒業しなければならない。




そして、それを機にわたくしは…去りましょう。


マルグリブルク公爵家も、そしてレオル王太子殿下の元からも…




そして、卒業パーティの日、イレーヌは深緑のドレスを着て、パーティに出席した。

レオル王太子から、初めてプレゼントされた深緑のドレスを着たかったのだ。


レオル王太子は、イレーヌの耳元で、


「君にそのドレスはとてもよく似合う。君の美しい銀の髪を引き立たせて、とても品よく見せてくれるよ。」


「有難うございます。レオル王太子殿下。」


「それで、君を喜ばせたい事があるんだ。婚約期間を終えて、そろそろ結婚をね。私達は学園を卒業するのだ。王太子妃として君を迎えたい。」


あああ…恐れていた事を…言われてしまったわ。


でも…わたくしは…


お断りします…



言いたかった。でも、イレーヌは言えなかった。


貴方の事が好き、貴方の事がとても好き…貴方の事が大好き…


だから、離れたくないの…


でも、貴方の前から消えなければならないの…


さようなら。レオル王太子殿下。


わたくしはこのパーティが終わったら黙って貴方の前から…消えます。




両親が嬉しそうにこちらをみて微笑んでいる。


マルグリブルク公爵夫妻もずっと騙してこうして日が過ぎてしまった。



ごめんなさい。貴方の本当の娘は死んでいるの。


わたくしは偽者なのよ。


さようなら…お父様。お母様。


わたくしは行きます。




レオル王太子殿下と最後のダンスを踊る。


愛しい貴方…貴方と過ごした二年間はとても幸せだったわ。


愛しています。愛しい貴方…



レオル王太子とダンスを終えると、イレーヌはカーテシーをし、


「少し、疲れましたわ。控室で休んで参ります。」


「ああ、そうだな。踊り過ぎたか。後で又、会おう。」



レオル王太子の微笑む綺麗な顔をしっかりと焼き付けて、

ホールにいる両親の顔をしっかりと焼き付けて、イレーヌはその場を後にしたのであった。






イレーヌ・マルグリブルク公爵令嬢が卒業パーティの夜から、忽然と姿を消して行方不明になって一年が経った。


レオル王太子も、マルグリブルク公爵夫妻も必死になってイレーヌを探したが見つからなかった。


レオル王太子の悲しみは尋常ではなく王宮に引きこもってしまい、マルグリブルク公爵夫妻も愛しい娘が消えてしまって、それはもう憔悴しきって、特に夫人は寝込んでしまう位の悲しみ様だった。






そしてピヨピヨ精霊であるイレーヌは深い森で、元の姿になって、静かに暮らしていた。


小さな丸い身体に羽を生やして、ピヨピヨと鳴きながら、森の奥で飛んでいる。



人間の世界の事は夢だったのだ。とても幸せなそして、悲しい夢…


会いたいわ…レオル王太子殿下…お父様。お母様…会いたい…


時折、人間だった頃を思い出して…ピヨピヨ鳴きながら、飛ぶ精霊。


そんなとある日、道を懐かしいそして愛しい人が歩いていた。


何故…何故…こんな所にいるの?レオル王太子殿下…


こんな深い森に彼がいるはずがない。


でも、それは紛れもなくレオル王太子で。


彼は森に向かって、何やら話しかけていた。



「よく当たる占い師に占って貰ったんだ。イレーヌはここにいるって…

私は君の事が忘れられない。君が私の元から去ったのはどうしようもない事情があったのだろう。君が何者であろうと私は君の事を愛している。君が王妃になる事が出来ないというのなら…私は王位を諦めたい程に。どうか出て来てほしい。私は君とダンスが踊りたい。

君がいない世界なんて生きる価値もない。どうかお願いだ。イレーヌ。君に会いたい。」


ああ…会いたい。わたくしも貴方に会いたいわ。


人間の姿になってイレーヌはレオル王太子に抱き着いた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。わたくしは人間ではないの…だから、貴方の傍からいなくなるしかなかった。会いたかったわ。愛している、愛しているの…」


レオル王太子もイレーヌを抱き締めてくれた。


「私も愛している。イレーヌ。もう、私の傍からいなくならないで欲しい。」


「嬉しい。有難うございます…レオル様っ。」




しばらくして、レオル王太子は、王太子の地位を降りて、地方の領主になった。

イレーヌは両親とも再会を果たして、両親は真実を話したら、泣きながらも、もういなくならないでと、ピヨピヨ精霊であるイレーヌを受け入れてくれた。


イレーヌはレオルと結婚をした後、小さな領地でひっそりと仲良く幸せに暮らしたという。





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