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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一戦 時代の寵児達
81/82

正解

2週間ぶりです。よろしくお願いします。

 

 ■◇■


 爆音。何かが爆ぜる音が硝子を突き抜け店内にまで響き渡る。

 余りの轟音と爆風の音。重低音が耳を揺らす。


 同時にその衝撃に店外に置かれていた観葉植物や看板が吹き飛び、窓硝子に衝突する。

 幾らかの硝子が砕け散り、破片が周囲に巻き散らかされた。


「な―――!」

「………………」


 幸いにして新と男性の座る席には多少硝子片が飛んできただけで直接の怪我は無い。

 そもそも新の肉体はこの程度の物質では傷一つ与えられない。


 異能の専門的な訓練を受けた人間は大なり小なり肉体の強化術を学ぶ。それは異能力者にとって必要不可欠な生命線を守る為にだ。

 異能力者の攻撃は生身の肉体では到底耐えられないものが殆ど。

 戦闘を視野に入れる異能力者ならば飛来する硝子片で大怪我を負うことはまず無いだろう。

 新もまたそうして肉体強化の術を心得ている。


 だが一般人は別だ。


「きゃああああああああああ!!」

「お、おい!?何が起こってるんだよ!?」

「血が、血が!!」

「怪我してる!早く誰か!!」


 不幸にも砕け散った硝子付近に座っていた客たちは阿鼻叫喚の様相を見せる。

 硝子片が肉体に突き刺さり、血を流す者。

 飛来した看板に強く身体を打ち付けられ下敷きになっている者。

 そしてそれらの周囲に居合わせ、恐怖を植え付けられて叫ぶ者。


 先程迄の賑やかさとは一転、今この場にあるのは絶叫。

 声と声が重なりあい、違った形で混沌としていた。


 肉体強化が出来ず、間に合わなかった者たちだ。


「何が―――」


 新が窓の外を見る。

 壁と一体となった窓硝子越しにモールの中央広場が見える。


 そこに見えたのは更なる悲劇。

 店内の二次的な爆風の被害者ではなく、直接爆風を身に受けて吹き飛ばされ怪我をしている者達だった。

 目に見えるだけでも二十人は超えているだろう。


 間違いない。新は確信する。

 これはテロの一種だ、と。


 それに気が付いた新はすぐさま店外へ出ようと席を立ちあがらんとする。


 だが、


「待て」

「―――ッ」


 立ち上がろうと机に手を置いた段階で、目の前の男にそれは静止させられた。


 新を制し、そのまま男は静かに手元のグラスを口元に運ぶ。

 店員が三杯目を持って来ていないので、元々各卓に置かれている所謂お冷だ。


 カランと状況に見合わぬ氷の音が鳴る。

 周囲に轟く阿鼻叫喚の嵐の中で、男は何も気にも留めていないようにグラスを置いた。


「座れ」

「………………」


 新は促されるままに再び腰を椅子に降ろす。

 逸る気持ちはあった。本音で言えばすぐにでも外へ赴き状況を確認すべきだと考えていた。

 新はこれまでに幾度となく組織の作戦と戦闘を行ってきた。その中にはテロリスト集団の制圧も含まれている。

 実際に新自身がテロの現場に出くわしたことは無いが、制圧任務ならばこなしたことがある。


 だが、新は素直に目の前の男性に従う事にした。


 それは単に年上の大人だからでも、何か他に考えがあるからでも無い。

 ただ、新の直感でしかない。

 だが何故か、そうすべきだと感じたのだ。


「何が起こったと思う?」

「………テロです」

「それは何故だ?」


 男性が問う。

 答えを強制するような、強い問いかけ。


「今日は休日です。モール内には普段以上に人が溢れている。しかも中央の広場に爆弾を仕掛けていることから、犯人は人殺しを躊躇っていない」

「それだけなら快楽殺人をあり得るな。特に異能者なら。何故テロだと?」

「人殺しを躊躇っていないにもかかわらず、爆発そのものの威力は低いからです。しかも爆発は一回だけ。つまりこの爆弾の目的は『見せつけ』と『人質』だと考えられます」


 快楽殺人者とテロリストの大きな違いは、交渉の余地の有無であると新は考えている。

 快楽殺人者の目的はあくまでも『殺人』であるのに対し、テロリストの目的は『主張を通すこと』にあるのだ。

 その目的の違いこそ、犯罪者という存在を区別するラインだと言えるだろう。


「モール内には多くの人間が居るとはいえ、今の爆発音を聞けば大抵の人間は逃げ出します。でも犯人は一回だけの爆発で終えた。その一回で爆発の目的を遂げたから。つまり犯人にとってはこれからが本番な筈です」


 銀行強盗を例にすれば、多くの場合犯人は人質を殺さない。

 それは人質が居ないと知れば警察が武力を行使し、逆に自らの安全を失うからだ。

 少なくとも警察の場合は人質が生きている間は手出しできない。

 人質は生きているからこそ人質足り得るのである。


 大量の死者を産む程の威力が無い爆弾が一度きり。

 これが次回に繋げる為の犯罪ならば、爆発はもっと強力な物の方が効果的だ。

 爆破予告、殺人予告、次があるのであれば威力を躊躇う必要性は薄い。


 しかし今回の犯人はあえて威力と回数を抑え、人質を生み出した。

 つまり犯人にとっては今回が主張を通す為の本番だと考えられる。


「ふむ、まあ及第点だな」


 新の推測を聞き、男性は表情を変えずにそう言い放つ。


「一般論的な推理だが、学生という身分を考えれば十分だろう。寧ろ、その年齢でそれだけの考えが瞬時に巡る人間はそういまい。それだけ羅盤の教育が良いということか?」

「………恐らくは」


 まさか所謂秘密結社に所属し、齢十七にして数々の任務をこなし、優秀な同僚によって教育されてきたからです、とは言えない。


「だが満点ではない。所詮はガキの推測だ。重要な考えが一つ抜けているな」

「重要な、考えですか」

「そうだ」


 新は自分の向き不向きを理解しているつもりだ。

 自身の役割は頭脳仕事ではなく、前線に立ち組織の敵を倒すこと。

 現場毎に多少は自己の判断に委ねられる部分があるとはいえ、それはあくまでも状況対応に過ぎず、おおまかな作戦任務の流れは組織の他の人間の仕事だ。

 例えばディテクターは完全に後方支援の担当である。


 新はそれを不満に思っている訳では無い。

 ボスの采配に間違いがあるとは考えていない。


 だからこそ、新はここで自分の何が不足しているのかを素直に尋ねた。


「爆発が一回だけと君は仮定しているが、それは違う」

「―――」


 その一言で、既に新は察しがつく。

 それは確かに自身に存在した盲点。


「この爆発は同時多発的に起こっている」


 爆発音とは、普通はそれなりの音量を伴うものだ。

 そして同時に、一つの爆発につき音は一回である。

 銃声がそうであるように、音が回数の指標にもなる。

 それだけ爆発音は人の耳によく届き、通る音なのだ。

 実際新の推測も、この爆発音を元にして行われている。


 一つの爆発があれば一つの音が、二つの爆発ならば二つの音が生じる。


 では目の前の男性が言う様に、爆発が同時多発的に行われたのだとすれば。

 普通は爆発音が複数聞こえる筈である。


 もし仮に複数の爆発が起こっているにも関わらず一つの音しか聞こえなかったのならば、それは複数の爆発音が全く同時に新の耳に届いたという事だ。


 だがそれは難しい。

 音が文字通りの音速で伝わるとしても、距離という物理的な制約が存在する以上そこには必ずズレが生じてしまう。

 全く同時の爆発は、全く同時に爆発音が聞こえることと同じではないのだ。


 ならばこの爆発は一回のみだったのか。

 既に新は気が付いている。


「………音だ」

「やるじゃないか。どう考えた?」


 新は促されるままに、新しい推測を話す。


「この爆発の威力が弱いと考えたのは死者が出ていないからだけではありませんでした。もう一つの理由は、『音』。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ほう」


 面白そうに男は笑う。

 だがそんなことは気にも留めず、新は自身の推論を続けていく。


「中央の爆発には『見せつけ』と『人質』以外にももう一つ狙いがあった。それは『カモフラージュ』。音によって他の場所の状況を隠そうとした。モール内の情報伝達手段を絶つ為に」


 新が外に目をやる。

 そこには爆破され、見るも無残な形になった中央広場が変わらずそこにある。

 そして、粉々になった放送機械も共にそこにあった。


「そして恐らく、他の場所で爆発させられたのはスピーカー。この中央を恐怖で孤立した孤島とする為の爆発です」


 モール内各所に設置されたスピーカーが爆破され、中央の放送設備であるステージのスピーカーも破壊されている。

 つまり情報的にこの場所は孤立した状態に陥っている。

 爆発に巻き込まれた客たち、特に負傷を負って身動きを制限された者たちにとって現状を把握する為のモール側からのアナウンスはもう見込めない。

 そして同時に、外部からの連絡手段もまた途切れてしまった。


 正に絶望的な危機と言えるだろう。


「―――どうでしょうか?」


 一通りの新たな推測を伝え終え、新は目の前の男性の顔色を窺うようにして見る。

 男性は相も変わらず静かに目を伏せ、グラスを傾けていた。


 数秒。周囲に広がる状況を忘れらように、沈黙が訪れる。


 カラン。氷の音が机に戻されたグラスと共に聞こえ、そして。


「良いだろう」

「………ありがとう、ございます」


 男が、良しとする。

 新はその言葉にひとまずの安堵を覚える。


「では私たちはどうするべきか?このまま助けが来るのを静かに待つか?それともこの店の外へ問題解決の為出て行くか………学生の君ならば、どちらが正しい?」

「………出ます」

「外にはテロリストが居るだろう。未熟な学生は餌でしかないかもしれない」

「テロリストは周囲には居ません。外を見ると、全員が何かしらの被害を被っています。犯人はそんな分かりやすいことはしない筈です。それに………」

「それに、どうした?」


 新はその先を言うべきか一瞬迷う。

 だが言うべきだと、そう判断する。


「それに、俺には此処で黙って待つことが『正しい』選択だとは思えません」


 感情的な、理由にもなっていないような理由だ。

 新自身もよく理解している。


 任務のこと、組織のことを考えれば極力目立たないように動くべきであり、この場合の正解とは『待つ』ことだろう。

 そもそも新の社会的な身分は未だ学生。羅盤学園という国立異能者養成学園に通う身ではあれど、社会的には『未成年』の『子供』でしかない。そういう意味でも本当の正解は『待つ』ことの筈だ。


 それでも、新は何かを感じ取っていた。

 新には言語化できない何か。

 それはこの夏までの間、普通の一人の少年として仲間と共に過ごしたが故の変化だったのかもしれない。

 或いはそうなる為に与えられた何かか………。


 兎も角、新は正解を言わなかった。

 感情を理由に、正解を正解と思えなかった。

 まるで純粋な子供のように。


 だが、


「訂正しよう」

「………は?」


 かけられたのは、予想外の言葉。

 訪れると予期していた筈の言葉ではない、訂正の言葉。


「私は先程君を『ガキ』だと言った。それは訂正しよう」

「訂正、ですか」

「そうだ。君は決してそこらに居る『ガキ』と同じではない。君は………本当の愚か者だ」

「―――それ、は」


 愚か者。その通りかもしれない。

 新は返す言葉に詰まり、何も言えない。


「しかし、良いだろう」

「―――え」

「君の名前はなんと言う?」

「名前、ですか?」


 咄嗟に、オウム返しをしてしまう新。

 それほどまでに、男の会話は急だった。


「そうだ。早く言え。私の時間は貴重だ」


 男に急かされ、新は言う。


「八十、八十新」


 ボスによって与えられた、現在の彼の名前。


 それを聞き、男性は立ち上がる。


「では八十。着いて来い。君に『正解』を教えよう」


 ■◇■

 

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