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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一章 ようこそ異能学園へ
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帰路に着く

「ねぇねぇ、新君」

「何さ」

「信じられないよね〜!」

「だから何が」

「あの白木銀子さんと一緒に下校してるんだよ〜!信じられる訳ないじゃん!」

「あぁ…そういう事」

「そういう事~!」


 校門を出て下校途中、すたすたと新の横まで歩いて来た舞桜瞳がそんな事を言い出した。

 ぴょこぴょことあからさまに喜んでいる事を表現しつつ新の横でニヤついている。

 その様子はとても高校生には見えない。もっと小さい小動物を見ている気分にさせる。中学生や小学生でも今時こんなに素直に喜べない。それもまた彼女の魅力の一つ、という事なのだろうか。

 オリエンテーションは自体は午前中には終わった為、まだまだ街は明るかった。様々な装いの人々が街を行き交っており、相応の賑わいが聞こえている。

 学園が存在するのは異能特区でも中心部にあたる地域だ。当然に人の数も多い。

 学園運営の関係者だけじゃなく、研究者として異能特区に住まう者や商業施設で働く者、純粋な住人等様々だ。若干若者の数の方が多いが老若男女問わず行き交っている。

 日本最大の異能特区である森影異能特区は都市人口も国内最大である。学生以外のそういった大人たちの人数比は他に比べて高く、また住む地域も区分けされていない為に多くの場所で学生以外の人間も活動しているのだ。

 本日は同じようにオリエンテーションを終えたばかりの学生達が多いというのもあってか日中にしては学生服の人間も多い。学生寮が近くにある事を考えると上級生も混ざっているに違いない。


「でも実際に帰ってる訳なんだから」

「そうなんだけど〜」


 全身を使って震えている舞桜瞳。

 些か対応に困る新だが、舞桜瞳も対応される為に言った訳ではないのだろう。

 むふふ〜、と言いつつすぐ後ろを歩く白木銀子を見てまたニヤついている。

 少々気持ち悪い動作であるが、理由は分からないでもない。

 白木の一族は天帝近衛の一つ。言うなれば超重要な家であり、貴族や華族のような立ち位置に近い。芸能人よりも更に遠い存在。一般人が彼等と出会い、親しくなる事等ほぼ有り得ない話なのだから。

 それでも過剰だとは思うが。


「ふふ、二人とも仲が良いんですね。幼馴染とか、ですか?」


 そんなコソコソと話す二人を見て白木銀子がくすりと笑った。

 指を口にそっと手を当ていかにもお嬢様といったような仕草である。

 どうやら新達が話していた事は筒抜けだったらしい。


「ううん幼馴染じゃないよ。新君とは昨日カフェで出会ったばっかり。そこで意気投合しちゃったんだよね。これて運命かも〜?」

「そうなんですか?」

「何が運命だよ、舞桜さんが勝手に話しかけて来たんじゃないか」


 新にすればいきなり話しかけられて、いきなりカフェに行って何故か大量のお代を払わされた相手である。運命は運命でも不運の方に違いない。

 理不尽に(悪い意味で)慣れた新以外なら訴えられても当然の事だがそこは空気の読める舞桜瞳、瞬時に新の距離感を理解しおふざけをしたのだろう。新の付き合いの良さにも早々に気が付いていたのだ。

 流石のコミュ力強者、新も既にその術中に嵌っているのかもしれない。

 その後の新が一切怒ってなかったのは流石に意外だったようだが


「そうだっけ」

「そうだよ」

「じゃあそんな気がしてきたかも?」

「かもじゃない、本当だ」


 等と話し、軽口を叩きあう二人を見つつまた白木銀子が微笑む。

 意外にも白木銀子はよく笑う方らしい。昨日見かけてから今日この時に至るまで舞桜瞳と話している時も常に穏やかな微笑みを浮かべていた。

 世間の彼女に抱くイメージとはかけ離れているが、案外これが彼女の素なのかもしれない。

 それでも彼女が新の観察対象には他ならないのだが。


「でも凄く仲が良いように見えます。やっぱり運命なんじゃないんですか?」

「違うってそんなんじゃない。舞桜さんが勝手に言ってるだけだ」

「酷いよ~、私達運命を確かめ合った仲じゃん~」

「だから誓ってないって。運命という言葉を気に入らないで」

「ディスティニー、だよ」

「英語にしても無駄だから!」


 その後も下らない世間話をしながら三人は帰路を進む。

 話の内容は本当に他愛もないもので舞桜瞳が話題を提供し残る二人がそれに答えるといった感じだ。新が適度にツッコミ、白木銀子が穏やかに笑う。その繰り返し。

 一問一答に近い形式で、殆どの時間は一歩的に舞桜瞳が喋っていた。しかしそれが意外な程に上手く当て嵌まり、新も自然な形で話せているのを感じていた。

 学園生活の事、明日の試験についての事、昨日のナンパの様な事はよくあるのか、家族の話。短く様々な事を話しているうちに、羅盤学園の学生寮と新の自宅との分岐点に近づいていく。

 そろそろ分岐点に至るかどうか、といった所で舞桜瞳が思い出したように新と白木銀子の方を振り返った。


「あっ、そういえば白木さんに新君の事まだ紹介してなかったよね?」

「えっ今更!?ここまで来といて?」

「そうですね……そういえばそうでした。私新さんの事名前しか知りませんね」


 まさか新も白木銀子も結構な時間話してから言われるとは思わなかっただろう。

 通りで初めから名前しか呼ばれない訳である。そもそも新のフルネームを知らなかったのだ。


「ほ~ら新君、自己紹介して~。私だって実は君の事全然知らないんだから」

「はいはい、分かったから……って服を引っ張るな!」


 母親におもちゃをねだる駄々っ子の様に振る舞う舞桜瞳に苦言を呈しつつ、別に断る理由も無いので新は簡単な自己紹介をする事にした。


「えと、八十新です。一応白木さんと同じ十五組。よろしく」

「他には~?」

「他って……」


 話す事が思い浮かばない。

 本来ならテンプレートに沿って行うものなのだろうが……生憎新たにはテンプレート等無い。彼は学生歴二日目の学生ビギナーである。


「好きなものは食べる事、とか?」

「もっと他だよ〜」

「う~ん、趣味は……特に無い、かな」


 余りにも、自己紹介としては余りにもクオリティが低いがこれが新の精一杯である。

 実際新に趣味らしい趣味は無いのだ。

 しいて言うならば同僚(ダイス)の手料理を食べる事は少ない毎日の楽しみであったが、今は異能特区に潜入中である。同僚の手料理を食べることは出来ないし、そもそも同僚の作る料理を食べる事は趣味ではない。

 一応新なりに言葉を選んだ結果、内容的には薄すぎるものとなってしまったのであった。緊張している、というよりもある程度話した後だからこそ改まって自己紹介するのは変な気恥ずかしさがあったのだろう。

 しかしそんなしょうもないものを彼女が許す筈もなく。


「違うよ!もっと新君だけの事が聞きたいの!食べる事とか普通過ぎるし趣味が無いならどうして自己紹介で言うのさ~!?」

「だったら何を言えって言うんだよ」

「例えばそうだね~好きな女の子のタイプとか!」

「ばばば馬鹿な事は言わないでよ!?」


 昨日気になる人がいるかどうか問われただけで慌ててしまった新である。当然そんな話題に答えられる筈もない。当然の様に顔は赤くなっていき言葉も詰まってしまった。

 新が学校生活について学ぶにあたって参考にした教科書(マンガ)。同僚によって渡されたソレがラブコメと呼ばれる類であり、しかもかなりギャグ路線の物であった事を彼はまだ知らない。

 その結果彼の脳内には多分に間違った恋愛が刷り込まれている。特に学校という場においては。

 男女が何故か廊下で重なり合い、泳げば水着が流され、出会った恋人はこれまた何故か主人公をぶつ。

 新は組織内に居る間任務一辺倒な人生を送って来たのだ。誰かと恋愛関係になるという状態への経験が皆無に近い。

 更に言えばこれ迄に新の周囲に居た女性といえば、姉の様な存在か、完全に仕事の話しかしない存在かの二択。女性と話す事は出来てもそういう関係になる事に免疫もない。


「新君、慌てすぎだって。そんなに難しいことかなぁ?ちょっと好きなタイプ言ってくれるだけで良いんだよ〜?……あ、もしかして~」

「な、なんだよ」


 ニヨニヨと笑いながらこちらを伺う姿は天使か悪魔か、小悪魔か。

 性質が悪いという点ではどれも同じだ。質が悪い。

 少なくともこの場における彼女の伏線回収能力は抜群だったと言わざるを得ない。


「私の事がタイプだったんでしょ~!?」

「ちッ違う!断じて違う!」


 全力で否定する新。しかしその行動は世の中では逆の意味を持ってしまう場合がある事を彼は知らない。


「あら、そうだったんですか。ではやはりお二人は運命ですね」

「どうやらそうだったみたいだね~。でもごめんね?私まだそういうの早いと思うの」

「違うから!?っていうか白木さんまで一緒に何言ってるんだよ!」


 くすくすと笑う白木銀子。

 意外とよく笑うとは思ったが、まさかこんな悪ノリに参加してくるとは予想外である。


「ふふ、ごめんなさい。新さんがあんまりにもからかいがいがあるものですから」

「……そんなにかなぁ?」

「新君は自分が大分愉快な人間だって理解した方が良いよ〜。こんなに適応力のある人中々いないって」

「君に言われたくないけどね!?」

「第一初めて会った人に奢るかな〜普通。多分普通じゃないよね〜」

「それは君が帰ってしまったから仕方なく──!」


 と、そんな風に話していたその時だった。

 前方から「きゃあ!」という女性の叫び声が聞こえる。


「お、おおおお、おお!!」


 前方に立っていたのは一人のやつれた男だった。

 顔は青白く、所々服も擦り切れている。肉はついているのにやつれた、という印象を与える立ち姿。

 手には鋭利なナイフを持ち、震える手で柄を押さえながら新達の行く手を遮る様に立ちふさがっている。

 震えながらナイフを持つその姿はいかにもヤバい奴、である事は間違いなく……何より新はその姿を知っていた。

 昨日の帰り道で見かけた男だったのである。


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