勧誘②
一週間に一度は無理でした。
■◇■
生徒会長と分かれ、二人は外で待っていた舞桜瞳と合流した。
「お疲れ~、何の用事だったの~?」
「会長から夏の三校戦への出場を打診されました」
「えっ~!?凄いじゃん凄いじゃん~。もしかして新君も~?」
「まぁ………隠しても仕方ないか。うん、僕も」
今隠したとしても、今後の試合練習等でどのみち露呈する。
上手く隠し通せても結局本番では分かるのだ。
「正直僕も何でか分からないけどな」
ならば『理由は自分にも分からないが、了承した』というていにしている方が後々都合が良い。
「確かにね~だって一年生から指名するなら永宮君だっているのに。そうじゃなくてもさ~、新君新人戦にも出てないじゃん。銀子ちゃんは優勝したけどさ~」
白木銀子は結局勝ち上がり、順当に決勝戦で同じく天帝近衛四家の一族である永宮雅成と戦った。
戦闘は熾烈を極め、それまでに行われたどの試合よりも苛烈だった。
肉体を強化し、鋼を越える強度と獣を越える俊敏さを持つ白木銀子。
対し、超火力の猛火を操り、怒涛の攻撃を仕掛けてくる永宮雅成。
どちらが勝利するのかギリギリまで分からない試合だったが、勝利を収めたのは白木銀子だった。
「だから不思議なんだよ」
「永宮君はまだ打診していないだけかもしれませんが。不思議ですね」
「はっ!もしかして、新君………」
「な、なんだよ」
驚きの表情のまま、新の顔を見つめる舞桜瞳。
もしや、正体が………とも思ったが、すぐにそれは勘違いだったと分かる。
「会長と仲がすっごく良いとか!?」
「そんな訳ないだろう!?」
方向違いも良い所の解答に、思わずツッコんでしまう。
「だってだって~、普通一年生で代表になんてなれないのにさ~代表に選ばれたんでしょ~?しかも会長が自分から呼び出してさ~!それって、仲良しこよしってことなんじゃないのかな~って」
「第一、僕は今日で会長に会うのは二度目だよ」
「ん~?じゃあ前にもどこかで会ってたんだ」
「………そりゃあ一度くらいはあるだろ。同じ学校の生徒なんだから」
呆れて思わず二度目と口にしてしまった新。
すぐに誤魔化すが、自分でも自分の誤魔化しが厳しいものであると分かる。
羅盤学園は広い。しかも学年毎に過ごす校舎が異なっている。
部活動や課外活動、研究で異なる学年の生徒が顔を合わせることはあり得るだろうが、新はそうした活動にはまだ参加していない。
そうなると、現在三年生である庵膳木星毅会長とは出会う機会が無いのだ。
「え~じゃあ何で出会ったのさ~」
「そんなこと別に良いだろ………って袖を掴むないでって!伸びる!」
「良いじゃん~教えてくれても~」
「ほんとにすれ違ったとかそういうレベルだから!」
「い~や!絶対に違うね!私の勘がそう告げてるよ~」
鋭い。
舞桜瞳の言う通り、新が会長と出会ったのはもっと直接的な場所と状況であった。
そもそも新の言う、すれ違ったが『出会ったことがある』に含まれるのかは怪しい。舞桜瞳が疑うのも無理は無い、というか当然ではある。
だがそんな状況を見かねたのか、傍に居た白木銀子が助け舟を出した。
「そういえば、他の二校でも今頃代表選手が選ばれているんでしょうか?」
「あっ確かに~!うちが今の時期から選んでるってことは、他もそろそろの筈だもんね~!」
上手く舞桜瞳が新しく興味を持ちそうな話題を出した白木銀子。
舞桜瞳もその誘導のままに今まで掴んでいた新の袖を離す。既に興味は他に移ったようだ。
「えっと~荒日学園と、雅写学園だよね~?」
「はい。国立の異能者養成学園はそこに羅盤を合わせた三校だけですね」
「そう考えると少ないよね~。もしかして、私達って結構凄い?」
「そうですね。勿論一概には言えませんが、国立三校に入学出来ている時点でそれなりの素養はあると考えてもいいでしょう」
校風の異なる三校だが、世の中にはより多くの異能者養成学園が存在しその校風も多彩だ。
技術研究に特化した学園もあれば、迷宮探索者の育成に特化した学園もある。
異能者養成学園の数だけ校風があり、特色がある。国立の学園は国営だが、他の異能者養成学園はそうしなければ生き残れないという現実的な事情もあるだろう。
羅盤学園の場合は『玉石混交』。
数多の石の中から、一握りの玉を見出す事を目的とした学園だ。
故に生徒数も全学園で最大。学園の敷地面積も共に最大である。
「まぁ、雅写学園は………少し例外でしょうけど」
「実は私、あんまりそこらへんの事情よく知らないんだよね~。八王って名前は知ってるんだけど。確か~野心王?とかなんとか」
舞桜瞳はそんな風に新の達に問いかけた。
「そうですね………少し長くなりますが、大丈夫ですか?」
「えっ、うん大丈夫だよ~?」
白木銀子が舞桜瞳の了承を得ると、懐からタブレット端末を取り出す。
そうして、何か操作するとあるネット上のページが映し出された。
それは世界異能機関のホームページのある部分。
異能のランク認定基準について図解されている個所だった。
「現在世界異能機関は異能のランクを六段階に定めています。科学技術で代替可能なランク1から始まり、世界規模に影響力を持っていた〈魔王〉や〈怪物〉といったランク6まで存在します」
「それくらいは知ってるよ~」
「はい。ですが確認させて頂きました。ご存じの通り、理外の存在とされている、或いは存在が証明されていない〈迷宮〉や〈大陸〉の様な異能力者であってもランクは認定されている。世界異能機関に所属する〈閲覧権限〉と呼ばれる異能力者が直接認定するから、そんなことが可能なのです」
〈閲覧権限〉。それは世界異能機関に所属する世界最高のランク認定員だ。
曰く、一目見ただけで相手の全てを見抜く力を持っている。
曰く、性格から身体能力、異能の詳細まで見えぬものはない。
「ですがここに例外が居ます。それが、八王なのです」
白木銀子はこれまでよりも一層神妙な面持ちで言う。
「突如して超常史に現れた、八人の強大な力を持つ異能力者。彼等は自らを『王』と語り、今なお超常社会に君臨しています」
「でも私よく知らなかったよ~?」
「それは瞳が普通の世界で生きて来たからでしょうね。一部の八王を除いて、彼等は日常社会に関係することは少ないですから。そうでなくとも、報道規制と情報統制から多くの情報が制限されています」
「じゃあ~その〈野心王〉は例外ってことなんだよね?」
はい、と白木銀子は頷く。
「八王の行動基準は明確だと言われています。美食、芸術、平穏、愉悦………中には人類社会に利益をもたらす王も居ますが………〈野心王〉は特別危険な存在だと言って良いでしょう」
「…………」
新は静かに白木銀子の話を聞いていた。
新自身………正確には組織にも大きく関わっていることでもある。
「かつて、政府が新たな異能特区の設立の為に動きました。その結果、ある町が選ばれた。それが今の東骸異能特区………つまり東骸市です」
「雅写学園のあるところだよね」
「はい。雅写学園は本来、なんて事は無い、それこそ荒日学園や羅盤学園と同じ様な異能者養成学園はになる筈でした。ですが異能特区が世界異能機関に認定された直後………〈野心王〉がその地に降り立った」
異能特区は世界異能機関の認定を得ることで設立される。
これは世界異能機関に加盟している国共通の規則だ。
つまり、異能特区とは世界異能機関が認めた特別行政区。
異能に関する規制が緩和された場所ということである。
そんな場所に、野心王が降り立った。
「そこからは一瞬だったといいます。〈野心王〉は数々の規律を廃し、東骸を闇と悪、暴力と陰謀が渦巻く都市に変えてしまった。抵抗も無意味、誰一人として野心王を止めることは出来なかった。そして東骸の名前も変わる、『椋の路』と書いて『椋路』だった町の名前は『骸』の町と呼ばれるようになったのです」
たった一人の存在が、都市丸ごとを支配する。
超常史ならば、それが出来る。
だが超常史であっても、余りにも困難な行い。
何故ならばそうした社会の敵は、いずれ公権力によって排除されるからだ。
テロリストや犯罪者。そうした者達は他の異能力者によって排除される。
だが、されなかった。
数々の敵を退け、殲滅し、その玉座を守った。
そしていつしか都市は彼の物となった。
世界異能機関も〈野心王〉をそれ以来積極的に排そうとはせず、黙認する姿勢を取っている。
非常に危険性の高い八王の一人が姿を眩まさずに一つの場所で留まり、しかも支配して以降は自ら積極的に他者を害する様子も無いというのは都合が良かったのだ。
ここで無理に公開異能者を投入し、甚大な被害を出すことを避けたかったのもあるだろう。
「以上が八王の一人、〈野心王〉についてです」
白木銀子はそう話を締めくくり、端末の電源を落とした。
「本当に簡単にですが、大丈夫でしたか?」
「うんうん~!すっごく分かりやすかったよ~!でも何で八王にはランクが無いんだろうね?」
「その理由は私のも分かりません。ランクでは測れない程の力を持っているからなのか、ランク認定は出来るけれどまだしていないだけなのか………情報が伏せられていますから」
「謎なんだね~?」
「はい、謎なんです」
存在が確認されていない、理論上居るとされている異能力者ですらランク認定はされている。
世界に迷宮を生み出したとされているランク6、〈迷宮〉。
世界に新たなる大地を生み出したとされているランク6、〈大陸〉。
だが存在が確認されているにもかかわらず、八王はランク認定を受けていない。
その理由はいくら天帝近衛四家の白木銀子であっても知ることは出来なかったのだろう。
「だから雅写学園は同じ国立なのに、皆に怖がられてるんだね~。なんか納得~」
「東骸も完全に無法って訳じゃ無いんだけどな。区域によって結構差があるらしい」
「あれ、そうなんだ」
「そうですね。確か雅写学園のある場所は比較的治安が良い方だったと思いますよ。一応国立ですからね」
雅写学園も羅盤学園や荒日学園と同じく、一応は国立の異能者養成学園。
私立の異能者養成学園とは異なり、そこで働いている教員は公務員だ。
正確には教員として配属されている国家所属の異能者である。
そもそもの話、〈野心王〉に関連した話を雅写学園が公式に認めた事は無い。故に舞桜瞳のように知らない人間は実際多いだろう。
「ですがやはり雅写学園の生徒は荒々しい気質の生徒が多いです。入試も殆どないようなもので、学園内でも争いが絶えないという話も聞きますし………」
そうした噂があるのは事実だった。新も知っている。
〈野心王〉の方針によって雅写学園は来るもの拒まず、入学する意志さえあれば入試の結果は関係ないとされているのだ。
雅写学園が公式に認めた事実は無いが、不合格になった者が設立以来存在しない為にそう噂されているのである。
よって普通は国立の学園に入学できないような人間でも雅写学園には生徒として在籍している。
だがそもそも東骸異能特区について知っているまともな人間はわざわざ雅写学園に入学しようとは思わない。故に雅写学園に入学するのは、元々東骸に合った気質の持ち主、或いは特別な事情がある者かだ。
「その分、僕等より普段から対人戦の経験値を積んできてるってことだ」
「そうですね。試合を見れば一目瞭然ですが、雅写の生徒は皆非常に攻撃的な戦い方を好みます」
「うえ~大変だね~。でも銀子ちゃんなら絶対勝てるよ~!」
「勿論勝つつもりですよ。出場するからには」
「うんうん~!私すっ~ごく応援してるからね~?あ、新君もね」
「適当かよ。………まぁ良いけど」
ついでの様な扱いではあったが、応援されるというのは悪い気はしない。
それに組織の任務とは異なり、三校戦は名目上は親善試合でもある。命のやり取りをするという事は無い、そんな極めて平和的な試合である。
「じゃあ~今日は二人の応援記念日だ~!帰りに何か食べようよ~!」
「………僕の奢りは無しだよ?」
「えっ………」
絶望の表情を見せる舞桜瞳。まるで世界が終わる瞬間のようだ。
「えっ………じゃないだろ!昨日も奢ったし、その前も僕だったじゃないか」
「そ、そんな………新君に買ってもらうスイーツが世界で一番美味しいのに~………?」
「誰が買ったって味は同じだよ!そもそも僕等の応援記念日なのにどうして僕が買うんだよ」
「こんな世界、破壊するしかないの………?」
「ほんとに〈魔王〉みたいなこと言わないで瞳」
わなわなと震える舞桜瞳。
名前にかけてツッコミを入れる白木銀子。
そんな二人と、八十新。
これが今の彼の日常だった。
「うう~今月ピンチなのに~!でも~二人の応援記念日って言ったし~!」
「毎回思うんだけど、そんなに何にお金使ってるんだ?」
「秘密~」
へたくそな口笛を吹いて誤魔化す舞桜瞳。
どうせろくなものに使ってないんだろうな、と新は心の中で思った。
「じゃあ今日は私が奢りましょうか。瞳には前の前の前に奢って貰いましたからね」
「はっ!そ、そうだよ~!前の前の前は私だったよ!ふふん、やっぱり奢られてばっかりじゃないってことだね~。分かった~新君?」
「その前は銀子さんと僕が交代だっただろ………」
そんな会話をしながら、彼等は帰路をいく。
新はすぐ先の未来のことを、今だけは考えないようにした。
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