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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
62/82

Day8 大嵐投下

 

 ■◇■


「居なくなった……?」


 宗谷がその報告を聞いたのは、目覚めてすぐだった。

 戦闘終了後、気を失い陣地で介抱を受けていた宗谷。正直現在も万全の状況とは言えないが、しかし血相を変えて報告をしてくるチームメイトを放っておく事も出来ない。


「う、うん。本当に一瞬だけなんだよ?あいつがトイレに行くって言うから、本当に一瞬だけ別れて……」

「でも五分位待っても帰って来なかったから、俺が見に行ったんだ。そうしたら……」

「……影も形も無かった、と?」

「お、音も何も聞いて無いんだよ!?私達だってあんなに近くで誰かが戦ってたら流石に分かるよ!」


 青ざめた顔で、彼女等は語る。

 嘘や誤魔化しをしている様子は見られない。彼女等は本当に何が起こったのか、理解出来ていないのだ。


「理解している。疑ってる訳じゃ無い。ただ、不可思議だ」


 戦闘が起こっていたら、まず音が出る。音も無くというのは普通有り得ない。襲われるにしても、居なくなった男子生徒が声も上げずに消えるという事は考えにくい事態だ。

 そもそも三人組で行動している彼女等の異能はある程度バランスが取れる様に采配されていた。そして居なくなった生徒は戦闘面での能力が優れていた生徒。ただ消える、というのは尚更有り得ない。


 そして同時にBチームによる攻撃とも考えにくい。

 何故なら逮捕モジュールを使用したとして、声も上げさせずに、とはそう上手く行かないだろう。そもそも宗谷はそういった事が出来る生徒に心当たりがない。


「本当に何も聞こえなかったんだな?」

「う……うん。近くに居たけど、気配も何も感じなかったよ?」

「仮設トイレの方にも痕跡は残って無かった……と、思う」

「思う?」

「暗かったし、俺達も何が起こってんのか分からなくなって……すまん」


 頭を下げる生徒。だが、彼を責める事は出来ない。


「いや、良い。パニックになる方が困るからな。……今日はもう暗い。日が昇り次第すぐにその仮設トイレに行ってみよう。何か痕跡が残っているかもしれない」

「あいつ、大丈夫かな……?こ、これってもしかして神隠しってやつなんじゃ……」


 青ざめた顔で、失踪した男子生徒の事を心配する女子生徒。

 当然だ。未知とは恐怖。特に現場に居た彼女等にとっては、先程迄居た人間が突然消えるという経験をしたのだ。何が起こっているのか、と不安になるのも当然だろう。


「……訓練中は外界と連絡を取る事は出来ない。だが先生達も、放置しているとは考えにくい。恐らく彼は大丈夫だ。兎に角今は休もう」

「そ、そうだよね。うん、分かった……」


 不安になるチームメンバーを励ます宗谷。

 今言った事は確かに合理的であり、嘘は吐いて居ない。だが宗谷はあえて、ある可能性に言及しなかった。それをすると、余計に彼女を不安にさせる事になると理解していたからだ。


(……『放置している』のではなく、『まだ把握できていない』のだとすれば)


 それはつまり、団体訓練に何かが起こっているという事に他ならない。

 宗谷にも、道木にも、学園側にも、他の誰にも。


(道木に言うか?だが、まだBチームの行動では無い、とも言い切れない。それにこちらの罠だと考えられる可能性は大いにある。かと言って僕の異能を使えば……余計信じてはくれないだろうな)


 疑念は積もる。この事を打ち明ける事が、どう働くのか予測出来ない。

 様々な可能性が除外出来ない現在、下手に動けばそれだけで大きく戦況が変化する事だけは見て取れる。


(……一先ずは、日が昇ってからだ。そこで何か分かるかもしれない。僕も今は拙い、殆ど力が出せない)


 宗谷の戦闘方法の大部分を占めるのは相手の異能力を制限し、エネルギーを減少させてからの近距離戦。

 先の戦闘で体力を使い果たした現在、彼は殆ど戦力にならないというのが現状だ。


(一体、何が起こっているんだ……?嫌な予感がする)


 そして宗谷は知っていた。

 嫌な予感は、的中するものだという事を。


 そして、宗谷は決断する。


 ■◇■


 翌日。Bチーム陣地。


「…………」

「あ、あの桜海さん?」

「……………………」

「な、何か話してくれると……非常に助かるのですが……」


 陣地の中、目覚めた桜海ソラを囲うチームメンバー達の中で少女は無言のまま俯いていた。

 宗谷と同じく戦闘の後に疲労からか気を失った桜海ソラはそのまま陣地へと運ばれ、そこから現在に至るまで泥の様に眠っていたのだ。


 しかし目覚めたかと思えば、周囲をきょろきょろと見た後何も言わずに俯いてしまったのである。


「……取り敢えず謝っとけ……な?」

「いやいやいやいやいや!僕何もしてないって!?ね!?桜海さん!?」

「…………」

「お前……」

「最低……」

「ご、誤解だって!!??何が誤解かは知らないけどさあ!?」


 周囲の刺すような視線が一点に集まる。

 先程までは疑惑止まりだった視線が、次第に確信を得たものへ変化していた。


「……すみません。大人げない事をしました」

「いや大人では無いけどな」


 やがて気を取り直したのか桜海ソラは立ち上がり、頭を下げた。


「それで、結局あの後どうなったのでしょうか?」

「あぁ。旗を取りに来た奴等の内、二人逮捕した。ただ先走った奴が一人逮捕されてしまってな。これで現状、こっちの逮捕者は四人。向こうが五人。人数を見れば有利になった」

「ほ、本当なら全員捕まえときたかったんですけどね……偽物を持ち逃げされたので、向こうのチームには旗鍵が偽物だったってばれてるでしょうし……」


 本来の作戦なら、人数の有利を活かして偽物の旗を取りに来たAチームメンバーを全員逮捕する予定だった。だが連絡の遅れや、旗を持った仲間を逃がす為に残り二人が殿を務める形で足止めをしたのだ。

 結果として二人は捕まえたが、決死の抵抗によりBチーム側も一人逮捕者を出してしまったのである。


「すみません……もっと早く私がそちらに向かえていれば」

「いやいや、桜海さんは良くやったよ。寧ろ、凄すぎるっているか……」


 向こうで三人を囲っている間、桜海ソラは十人ものAチームメンバーを相手したいた。

 寧ろ、あれだけの攻撃の中で逮捕されずに生き残っている方が有り得ない事だ。


「というか私がポンコツだったから駄目なんですぅぅぅ……!!なんでか分かんないんですけど、上手く状況が拾えなくってぇ……!!ほ、本当に……うう」

「朱音の事は誰も疑って無いさ。お前も昨日は一日中動きっぱなしだったからな、そんな事もあるだろ」

「うぅ……こんな事初めてです…………」


 嘆く朱音万智。相当昨日から悩んでいたのか、うぅ……と表情を曇らせたままだ。

 昨日桜海ソラの寝顔を見て少々おかしくなっていた彼女だが、昨日の行動は無意識ながら癒しを外に求めてしまった結果だったのかもしれない。


「まぁ朱音の事は気がかりだが……逮捕人数は上、しかも旗鍵も入手している。偽物にすり替える作戦はバレてるだろうが、これはかなり有利な状況だ。宗谷の方も相当疲弊しているだろうしな」

「そ、そうですよ!これも全部、桜海さんの活躍のおかげです!一人で一発三人逮捕!流石です!」

「ですが迷惑もかけてしまいましたし……」


 申し訳なさそうに謝る桜海ソラだが、彼女の力が大きいのは事実だ。彼女の行動によってBチームは一気に逮捕者数でも上回る事が出来たのだから。


「つーか、本当に働かなくちゃいけないのはコイツだよ。話を聞いてると宗谷と戦ってる間ずっと陰から見守ってるだけで何もしてなかったそうじゃないか」

「そ、れはあ……色々ありましてぇ……」

「色々って何だよ。サポート位出来るだろ、本当に様子を窺うだけなんて……」

「正直驚きました……」

「そういうガチな反応の方が辛いんですけど……」


 その様子を苦笑しながら桜海ソラは見ていたが、やがて改めて話題を切り出す。


「それで、旗鍵は今どうなっているのですか?」

「ああ。旗鍵なら、此処にある。これは桜海さんが使った方が良いだろうからな」


 そう言って道木は傍に置かれていた旗鍵を桜海ソラへと手渡した。

 桜海はその旗鍵を受け取り、握る。

 

 すると細長い金属の棒が中心付近で二分される。突っ張り棒の様に、金属棒が伸びた形だ。

 中から現れたのは液晶ディスプレイ。そこに浮かび上がるNO USERの文字。


「……成程、これが認証制という事ですね」

「た、多分持った人間の逮捕モジュールに反応しているですかね?どうやって認証するんでしょうか?」

「だったら異能領域の波長か?確か逮捕モジュールも同じ仕組みだよな」

「やってみますね」


 そう言って桜海ソラは静かに息を吸うと、自身の異能領域を展開する。

 戦闘中に展開していたものよりも遥かに小規模、体内に常駐している異能領域を体外に薄く展開しただけの異能領域だ。


 だが、それで十分だった。


 桜海ソラの展開した異能領域が手から広がり、旗鍵に触れる。

 すると、NO USERと表示されてたディスプレイの文字が変化し始める。時間にして数十秒。やがてディスプレイにはSORA OMIと表示された。

 表示された直後、金属棒の上部と下部が外れ、地面に落ちる。


 そうした金属棒の中から現れたのは、ディスプレイを頭に付けた鍵だった。


「変わり、ましたね」

「変わったな」

「変わりましたね」

「変わったね?」


 実際に認証した桜海ソラも、何がどうなったのか上手く把握できていないのだろう。四名の間に何とも言えない沈黙が訪れる。

 だがその小さな静寂も束の間、陣地に設置されていた通信機が自動で起動する。それは特別任務が送られて来た時と同じ反応。

 急いで朱音万智が固定通信機を確認しに行く。次いで他の三名も固定通信機の元へ駆け寄った。


「お、送られてきました!」

「朱音、読み上げてくれ!」

「は、はい!……『特別任務終了。旗鍵奪取チームはBチーム』。お、終わりました!私達の、Bチームが特別任務を達成しましたよ!」


 その言葉に、その事実に顔を明るくする四人。

 こうして、特別任務は終わる。


 最初で、最後の特別任務が。

  

 ■◇■


 台風は、突然そこに訪れない。

 気象情報予測の精度は技術と共に進歩し、最早天候の予測とは人類にとって予知に等しいものとなった。

 確定された未来。確定された気象情報。

 天災も、一部を除けば備えられる未来だろう。


 しかし、人災は違う。


 悪という嵐は、常に傍に潜み、そして突如として社会を荒らす。


「ようし、動くぞ」


 過去も、今も。


「―――全滅だ」

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