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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
58/82

Day8 はい(はい)

9月は私生活がかなり多忙となり、中々更新出来ず申し訳ないです……今回の話も少し短いですが、今後は更新のペースをなるべく上げられるようにします。

 

 ■◇■


 これは、どうするべきなのか。

 僕は茂みに隠れ、気配を殺しながら目の前の光景を観察していた。


 戦っているのは我らがエースである桜海ソラさんと、七人のAチームメンバー達。そして見えない所に異能領域を展開している宗谷が隠れている。

 最低でも八人に加えて、恐らくは先に桜海さんによって倒されたのであろう二人で合計十人のAチームメンバーがここに集結している形だ。たった一人の少女を逮捕する為に。


 大仰と言えば大仰なんだろうけれど、実際桜海さんはそれだけ警戒すべき存在だ。

 たった一人の強者が戦場を蹂躙するのは、異能者にとって起こりえる事。かの〈魔王〉や世界最強がそうであるように、レイドボスと化した異能者は一定数居る。

 桜海さんがそういうレベルに届いているかと言われれば、流石に学生異能者の範囲に収まりはするだろうけれど。それでも彼女一人の戦力が他の生徒の数人分を遥かに上回っているのは目の前の光景が証明している通り。


 さて、では何故そんな状況で僕が加勢に入らないのか。

 それは僕がこの場では完全な足手纏いにしかならないから、自分で言うのは少し辛いものがあるけれど、悲しいけれど事実だ。


 僕の弱点は発動の遅さと必要なエネルギー量の多さに起因している。

 乱戦の中では初めの一発は奇襲として成立しても、次の攻撃に移る間に攻撃を受けてリタイヤ間違いなし。更に言えば宗谷の異能領域内で二発目が正常に撃てるのかというのも微妙なラインだ。

 もし折角加勢しに来たけど、これ以上は何も出来ないです……とかいう状態になれば、これはもう完全に状況が悪化している。足手纏い追加である。


 だがこのまま放置する事も、僕には出来ない。

 僕は懐に隠した物をぎゅっと握る。


 どうにか連絡が取れれば良いのだけれども、生憎僕に通信機は渡されていない。数が制限されている以上、班で行動している所や桜海さんに渡す方が効率的だからだ。


 本来なら僕の裏工作は単独行動で完結するもの。更に桜海さんの実力から言っても受け渡しはスムーズに終了する予定だった。この受け渡しをする為にBチームメンバーの何人かも陽動として別の場所で行動してくれているのだ。

 他のBチームメンバー達が足止めをしている間に速やかに細工を終えて、そこに到着した桜海さんへと受け渡す。その後は誘導したAチームメンバーを多数で制圧。これが本来の流れ。

 桜海さんに渡すのは、桜海さんが持っているのが一番安全だからだ。まぁ僕が持っていれば基本奪いたい放題みたいなものだから、これは当然の判断だ。


 しかし予想外だったのはAチームが桜海ソラという一人の人間を逮捕する為に、凡そ半数の人員を投入して来たという事だった。

 これのせいで本来予定していた妨害もあまり上手く行かなかったようだったし、何より桜海さん自身が大きな足止めに会ってしまった。

 幸い取り換えも誘導も何とかギリギリ間に合ったけれど、それでも桜海さんが危機に陥ってしまっている状況はかなり悪いパターンと言える。


 勿論僕がこのまま陣地まで持って帰るという選択肢もあった。

 だが、()()()()()()()()


 僕は懐に入れた、()()()()()を握り締めながら、思考する。


 あの時僕がしていた裏工作というのは単純にして明快、これ以上ない位原始的な妨害工作。そう、旗のすり替えだった。

 他の生徒達がそれぞれ戦闘をしている中で気配を殺して旗に接近し、速やかに本物の旗を偽物の旗を入れ替える。そしてAチームに偽物の旗を取らせ、本物の旗を自陣まで持って帰還する。

 言ってしまえばそれだけの事なんだけど、これが上手く嵌った。


 言い出したのは朱音さんだった。


 ◇


 旗の位置が送られ、少し。


「この場所は……まさかとは思っていたけど」


 送られて来た座標が示しているのは、明らかな地図の空白地点では無かった。

 その地点はAチームBチームどちらの陣地からも離れ、地図を確認する限りでは開けた場所でも何でもない。ただし、ある情報を踏まえて見れば違和感に気が付ける場所。


「……スタート地点、ですね」


 旗の座標。それは団体訓練開始時に集まった場所のすぐ近くだった。

 与えられた地図にはスタート地点として記載されているが、それ以上でもそれ以下でもない。

 最初に杠先生から団体訓練の内容説明を受けた後、公平を期すためと共通のスタート地点から各チームのメンバー達は移動を開始する事となっていた。


 そのスタート地点、そこが旗の存在する座標であったのだ。


「……すぐに作戦を伝達する。桜海さんはAチーム陣地の偵察に向かっているからスタート地点まで戻るには結構時間がかかるからな」


 スタート地点は若干だがBチーム陣地に近しい場所に位置していた。北西に位置しているAチームの陣地からだと、相応の時間を要する。

 実際には桜海さんの移動速度で考えれば五分程度の時間しかかからないのだが、それをこの時の道木が知る由は無かった。というより道木自身もそこまで速いとは思っていなかったのだろう。


「兎にも角にも時間が無い、まだ作戦が何もない。距離では多少有利だが、陣地外で活動しているメンバーも居る事を考えればそれ程差は無い。向こうも時機に動き出す。すぐに作戦を考えるぞ」


 道木がそう言うと、朱音さんが口を開いた。


「あ、あのね。少し考えたんだけどさ」

「何だ朱音。何か思いついたのか?」

「うん。もしかしたらって考えてたんだけどね、旗のすり替えとか、どうかな」

「すり替え……旗自体をか?」

「う、うん。旗をすり替えて、偽物の旗をAチームに取らせる。これが出来れば私達が鍵も取れるし、その後の行動も握る事が出来るよね?」


 朱音さんが提案したのは旗のすり替え。本物を頂きながらも、偽物を相手に渡すという行動。


「例えば、相手は旗を取ったと思ったら私達に合うのを避けるだろうから配置によっては移動方向を誘導できるだろうし……そこで桜海さんと合流すれば移動先で挟み撃ちとかにも出来る」

「だけどそれは旗のすり替えが出来るなら、だろ。肝心の旗のすり替えはどうやってするんだ?」

「多分だけど、大丈夫だと思う。だって旗の形は情報には無いから、すり替えてしまっても先に着いた私達以外には気づかれないよ……多分」


 そう、学園から送られて来た情報はあくまでも『旗がある』という情報だけだ。その旗がどんな形をしてるのか、姿形に関する情報は何一つ存在していない。


「見た目さえそれらしければ良いから、多分峯田さんの異能で作ってもすぐにはバレない。向こうも偽造の可能性は疑うかもしれないけど、無鯛さんはAチームのメンバーだし……兎に角旗を奪って離脱する事を優先するんじゃないかな……って思うんだけど……どうだろ」


 峯田さんというのは自身の思い描く物を創り出す創造系統物質系の異能力者だ。創り出す物の制限が緩い代わりに一回一回創り出す際に具体的なイメージをする必要があり時間がかかるのだとか。


 道木は数秒考え、そしてすぐに結論を出した。


「よし。それで行く、改善点は通信機を持っている奴等には逐一伝える方向で、今は兎に角動き出す事を優先しよう。峯田さん!旗の偽物は作れるか?」

「う、うん!『旗』なら何でもいいんだよね?一、二分位で行けるよ!」

「すぐに出してくれ!」


 作戦が纏まり、朱音さんともう一人の支援要員の男子生徒達は慌ただしく行動を始める。

 そんな中で道木はぐるりと身を翻し、特にする事も無かったので陣地防衛要員の一人と交代して陣地に戻っていた僕の方を見るとがっと肩を掴んでくる。


「よし、出番だ!!行って来てくれ!」

「はい」


 はい。


 ◇


 という訳で間に合わない事を心配していたけれど、何とか間に合い旗を取り換える事が出来たという訳だ。実際にはBチームの足止めの効果というより、Aチームが桜海さんの逮捕に人員を割いた結果間に合ったという方が大きいのだろうけれど。


 兎も角旗のすり替えは上手く行ったけれど、肝心の桜海さんが強烈な足止めに会ってしまった。


 確かに桜海さんは強い。しかし幾ら桜海さんでも常に八人の相手をする事は出来ない。

 今倒されている二人の様に、少人数なら人数の不利を覆せても八人による連携はそれだけで脅威的だ。それぞれが桜海さんに逮捕されない様に上手く立ち回り、宗谷によって異能を制限されている桜海さんをじわじわと追い詰めている。


 このままでは、いずれ桜海さんは力尽きて逮捕されてしまう。

 そうなれば両チームの戦力差は大きく開く。


 宗谷が無事、しかもまだ一人も逮捕されていないAチーム。

 桜海さんが逮捕され、更に三人が既に逮捕されているBチーム。

 この差は恐らく埋まる事は無い。


 鍵をこのまま僕が持ち帰ったとしても、鍵の()()から言って僕が使う事は出来ない。


 というのもこの鍵、認証制だったのである。

 逮捕モジュールと似通った仕様と言えば分かりやすいかもしれない。鍵を真の意味で奪取するには、鍵自体に異能エネルギーを通す事で元々登録された僕等のデータと照応し使える様になるという仕様だった。

 特殊任務の終了条件とする為にこんな仕様にしたんだとおもうけれど、これは同時にある程度の実力が無ければ鍵は宝の持ち腐れになってしまうという事でもあった。


 仮に僕がこの鍵を認証し、特殊任務を終えるとする。

 そうすればこの鍵を使えるのは僕だけ。つまり脱獄させる役目も必然僕になる。そう、この僕がである。


 なので候補としては戦力としてある程度戦える人間になる。例えば桜海さんや道木といった主戦力だ。

 しかし道木は作戦の指揮を担当している。なので最適なのは桜海さん……なのだけれども。


 クソ、どうする。

 このまま傍観していた所で結果は見えている。何か行動しなければならない。

 単独行動だからと通信機を他の班に回すようにしたのが完全に裏目に出てしまった。というか予想できないでしょ、まさか特殊任務を半分放棄してまで桜海さんを狙い撃ちするなんてさ。


 ただ理解出来るのは事実。Aチームからすれば桜海さんは頭領の可能性が一番高い人物だし、何より強い。

 そこを抑えられるなら脱獄の権利一回分よりも価値があると考えたのかもしれない。一応は裏で人員を回しながら。


 こういう所宗谷は抜け目無いんだよなぁ……。


 等と考えて居たその時―――戦況は轟音と共に激烈に変化した。

 

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