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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
57/82

Day8 戦闘続行

18時にアップされた方をまだ見ていない方はそちらもよろしくお願いいたします。


 ■◇■


 倒れ伏せる二人を見下ろしながら、桜海ソラは確かに感じ取っていた。


 地に伏せた両名は暫く動けない。それだけの攻撃をしたと自覚している。

 少なくとも一時間は彼女達の肉体が自由に動く事は無いだろう。規則に則れば今彼女達を逮捕すればかなり有利に働く事は間違いない。

 桜海ソラの攻撃手段は放出。今回は開始地点が近かった為に仕方なく弦流良和は直接攻撃したが、肉体を直接に強化した近接戦闘は本来の戦闘スタイルではない。

 濡木羽を倒した手段も異能エネルギーを変換して生み出した弾を放出したものだ。


 だが、いやだからこそ彼女は感じ取っていた。

 確かに感じた違和感。その正体までも彼女は確かに推測していた。


「成程……待たれていた訳ですか」


 彼女がそう呟く。

 瞬間、茂みから飛び出す石礫が彼女の身体を襲う。

 一つ一つは小さいもの。しかし小さくともそれなりの速度で飛来する石はそれだけで破壊力を有している。いかに異能力者の肉体が頑強と言えど、痛覚神経は存在している。

 痛みを感じればそれだけ肉体のパフォーマンスは落ちるし、何より思考に影響する。


 何より、飛来する石礫は一方向からではない。

 四方八方から飛来する極々小さな礫が、今まさに彼女の元へと駆けていた。


 それらを桜海ソラは旋回し、礫を弾き飛ばす。

 肉体に纏った雷は桜海ソラの回転と共に雷光の軌跡を生み出し森の中を照らした。

 

 この攻撃が、彼女の推測が正しかった事を証明していた。


 そして一人、彼女は話し出した。

 そこに居る誰か、いや誰か達に向けて。


「既にここは〈理知減測〉の範囲内だったという事ですね」


 桜海ソラが感じた違和感。それは明らかに彼女が最後に放った攻撃の威力が落ちていた事だった。

 彼女は確かに攻撃をした。その攻撃は濡木と弦流、二人の動きを止めるには十分な威力を有していた。しかし彼女は本来更にその上を狙って攻撃したつもりだった。


 即ち彼女の攻撃は確かに二人の動きを止めはしたが、意識を奪うに至っていない。

 手加減はした。それは間違いない。しかし手加減し過ぎた訳も無い。彼女が生を受けてから共にする自らの力だ、加減を誤る筈は無い事は他ならない彼女自身が分かっている。


 ならば原因は。

 思い当たる原因はたった一つ。


「足止めを受けている途中に、私はいつの間にか貴方の異能領域内に入り込んでいた。いや入れられていた、という事ですよね?宗谷さん」


 返答は無い。しかし返答の代わりに現れたのは七名のAチームメンバー達。各チーム二十名ずつである事を考慮すれば今倒れている二名を含めておよそ半数の人数である。


「悪いね、これも作戦なんだわ」

「気にしていませんよ。団体訓練(チームプレイ)は寧ろ推奨されているのですよね?」

「物分かりが良いね、桜海さんは」

「少し予想はついていましたから」

「なら、さっさとお縄に付いてくれよな!やれッ!!」


 その号令と共に、七つ分の異能力が彼女の元へ飛来する。

 一つは先程を同じく石礫であり、或いは氷の柱であり、森に落ちていた朽木であった。その他にも七種類の異能が再び彼女の元へと襲い掛かる。


 彼女は異能力を発動させる為、再び異能領域を展開する。同じようにエネルギーを集め、異能を発現させんとする。そこに特別なものは何も無い、一種のルーチンワーク。

 だから失敗など有り得ない……にも関わらず。

 彼女の異能は発現せず、ただ雷光の残滓が肉体を辛うじて強化しているのみ。


 彼女の推測は正しく、現在彼女は策に嵌められていた。

 そして、これこそがAチームの採った作戦だった。


 ◇

 

 宗谷智晴、荒日学園三年生。

 宗谷の異能力〈理知減測〉は確かに強力な異能力である。

 異能力者には出力できる限度が存在している。そして出力の限界と、異能力者が持つエネルギーの総量は同一ではない。出力できる限界というものはエネルギー総量から見れば大幅に小さな値であり、それが普通というものだ。

 だがこれは欠陥ではない。当然出力の限界値は高い程に高い性能を発揮するだろうが、この限界は一種の安全装置なのだ。一度に大量のエネルギーを失えば、異能力者は生命活動すら危うい状態に陥る事もある。

 この安全装置が外れてしまうのが異能の暴走なのだが、今はひとまず置いておこう。


 兎も角、異能力者には出力の限界が存在する。その中で威力を調整し、使用するエネルギー量をやりくりし異能力者は戦闘や活動を行うのだ。


 宗谷の異能力はそこに下限を設けるのである。

 対象になった異能力者は異能を使えば使う程に下限が高くなり、いつしか上限を下限が殆ど同一になってしまう。そうなれば異能は最早発現出来ない。

 また出力しようと用いたエネルギーからその下限の数値を減算する事で、仮に発現しても発現した異能の効果は満足には得られなくなってしまう。


 typeルールに属する異能力はどれも世界に新たな『法則』を生み出すものだが、中でも宗谷の異能力は異能が発現する仕組みに関与したtypeルール。対異能力者の戦闘においては強力な異能であり、都度異能を発現しなければならないタイプの異能力者にとっては天敵になり得る程の効果を持つ。


 しかしながら弱点も存在している。

 〈理知減測〉の下限設定は、宗谷の異能領域内で実際に発動した異能にのみ反応する。

 例え宗谷が目視で発現を確認した異能であっても、異能領域内にて発現したものでなければ効果は及ばないのだ。また一度異能領域を閉じればその下限設定もリセットされてしまう。


 言うまでも無く宗谷の〈理知減測〉に直接の攻撃力は無い。

 宗谷は〈理知減測〉発動後の戦闘の為に格闘トレーニング等を行ってはいるが、あくまで身体能力が向上した人間の格闘術の域を出ないものだ。


 つまる所宗谷の弱点とは、〈理知減測〉が明確に効果を及ぼし始める前段階にある。

 桜海ソラとの初戦の時の様に一撃で勝負をつけられたり、或いは下限設定が意味を成さない程に出力の限界が高い異能力者であれば〈理知減測〉は大した事も出来ずに終わってしまう。


 故に宗谷は普段戦闘訓練を行う時、回避行動や防御行動を優先する。

 宗谷とて異能力者であり、保有する異能エネルギーの総量は多い方だ。身体能力を強化し回避に徹すれば〈理知減測〉が効き始めるまでは耐えられる。


 だが今回宗谷が用いたのはある意味、こういった戦闘スタイルとは反対方向のもの。


 宗谷の異能〈理知減測〉は宗谷を中心とした同心円状の異能領域内において効果を発揮する。

 そして向かい合っての勝負となれば異能の発現速度で彼が桜海ソラに勝てないのは既に分かっている。

 更にこれは団体訓練、集団での行動が鍵を握る作戦行動の場。


 ならばどうするのか。

 その答えがこれだった。


 宗谷は現在桜海ソラから約三十メートル程離れた場所で護衛役の一人の生徒と共に居る。

 この約三十メートルという数値は宗谷がギリギリ維持できる異能領域の半径の数値であり、同時に宗谷が()()()()()()()()()()()()()()()であった。


 ◇

 

(私を待ち構えていた場所ではまだ異能領域は展開されていなかった。という事はあの時は近くに潜伏していた?それとも、ギリギリまで展開した状態で待機していたか。でもそれだけならまだ気が付ける筈……まだ何か)


 異能領域が知覚出来るかどうかは状況や人間によっても異なるが、桜海ソラは比較的そういったものに敏感な方だ。仮に異能領域が展開されていれば何かしら感じているだろう。

 もし感じられなければ何かしらの理由がある筈だ。


 そして、桜海ソラ思い当たる。


(……そうか、その為の濡木さんの異能力)


 桜海ソラがあの場所で待ち伏せを受けた時、既に濡木の異能によって生成された水が周囲にばら撒かれていた状態だった。その水は濡木の異能エネルギーを微量ながら含んだ水、創造系統特有のエネルギーが無くなるまでは存在し続ける水分。

 この異能力が既に発動されていた事により、桜海ソラが射程距離内に入った後に〈理知減測〉の異能領域を被せても気づき難くなっていたのだ。異能領域が無から有に変わるのではなく、一から二への変化、更にあの場には弦流と桜海ソラ自身の異能領域もあった。

 混戦状況では普段容易に気付けるものも気づき難くなる。


 これは二重偽装。

 異能領域の多重化と、宗谷の潜伏。二重の偽装により桜海ソラは戦闘開始直後には既に宗谷の異能領域内に存在し、〈理知減測〉の効果を受けてしまっていたのである。


(これは……少し拙いですね)


 今いる七人の目的は時間稼ぎではない。そもそも七人も桜海ソラ自身に戦力が投入されている以上、時間稼ぎという中途半端な結果で終わらせる筈も無い。

 Aチームは既に桜海ソラを頭領役であると仮定し、勝負を決めに来たのである。


 Aチームからすれば仮に桜海ソラが頭領役であればこの後一時間を自陣の防衛に費やし、頭領で無ければ旗を取りに来たであろうBチームをこのまま一斉に逮捕するというどちらに転んでも利がある作戦。

 既に最大の障壁である桜海ソラを逮捕出来ているのであれば宗谷を自陣の防衛として配置する事も出来るのだ、ここで勝負を決めにくるのはある意味効果的な策と言えよう。


 だがそれも逮捕できず、寧ろ返り討ちにされれば状況は反転する。有利ではなく不利へと転じ、最悪半数のメンバーが逮捕されてしまう。だからこそ彼等はここで勝負を決める為、合わせて十人もの人数を桜海ソラとの戦闘の為に投入したのである。


(無理に発現させても効果は得られない。それどころかしっかり使ったエネルギー分は失われてしまう。七人を相手するには火力が足りない)


 先程一度の減算を受けた段階で意識を奪おうと発現させた異能は肉体の自由を奪う程度にまで威力が落ちた。ならば次に発現させた時は更に威力が落ちてしまう。


 今は回避行動に徹し攻撃を避けているが、それもいずれ限界が来るだろう。


(――――)


 桜海ソラは思考する。

 現在この場に集まっているのはAチーム七人、そして少し離れて宗谷ともう一人。既に弦流と濡木の二名を倒しているが濡木の方はまだ逮捕出来ていない。

 加えて七人のAチームメンバー達は間違っても逮捕されないように出来る限り距離を取って連携行動を行っている。近づけば何人かは逮捕出来るだろうが、結局逮捕されてしまうだろう。


 Bチームの作戦の核には既に桜海ソラが居る。間違っても逮捕される事は出来なかった。


(旗が既に確保出来ているのなら、既に此処に居る意味は無いですが……通信機に反応が無い以上まだあの作戦は進行中でしょうね。私が受け取っていない以上当然と言えば当然ですが……)


 待ち伏せは想定されていた。しかしここまでの大人数を一人の為に投入、しかもまだ一日目でしてくるというのは予想外の出来事。既に進行中の作戦においてもここまで足止めを受ける事は桜海ソラにとっては完全に予定外のことであった。


 元々予定されていた桜海ソラの役割は旗を受け取り確実に自陣へと帰還する事。

 しかし現状それは叶わない。

 時間を鑑みれば、既に旗が確保されてしまったという可能性も存在している。


(仮に旗が既に奪われているのであれば、彼等の目的は既に私の逮捕だけ。退避が無難な選択ですが……連絡手段が限られている以上、気が付いて貰うしかありませんね)


 桜海ソラ自身は通信機を持っているが、他の実働班に連絡する手段が無い。

 しかし他のチームメンバーが気付くのを待つというのも無理がある話であるという事も分かっている。


 なら――――。


(ごめんなさい――――お父さん)


 桜海ソラは異能領域を展開する。


 ◇

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