Day8 流石に擁護できないぞ
流れの都合上今回短いです。
19時にもう一話アップしますのでそちらも合わせてよろしくお願いします。
『旗前で待ち構えて遅れてやって来たAチームを一網打尽にして逆転作戦』
何とも気の抜けるというか長ったらしいというか、控えめに言ってもダサすぎる作戦名だ。こればっかりはいくらリーダーといえども流石に擁護できないぞ、道木。
これだけ分かりやすく名前で説明してくれているのだから態々僕から作戦内容を説明するまでもないだろうけれど、この作戦は旗前でAチームを罠にはめて逮捕するという至極簡単な作戦である。
相手の注目が完全に離れた場所で戦闘中の桜海さんに向いている現在、一ミリも警戒どころか注目だってされていないであろう僕が隠れて近づき工作を行うという訳だ。
多分桜海さん対策に宗谷は今何かをやっている。
二人から三人がかりで足止めをしているというのが僕の予想だけど、多分正解だろう。
本当なら宗谷だって桜海さん対策にもっと人員を割きたい筈だ。桜海さんさえ逮捕してしまえばAチーム的にはかなり戦況は有利に傾くから。
けれど逮捕されるリスクを考えると宗谷にはそうは出来ない。今回の宗谷は個人で戦っているのではなく、チームで戦っているのだから余計にそんな行動はとれないだろう。
だからこそ、少し僕は心配していた。
桜海さんの実力は、というより戦闘能力は宗谷を超えている。芸術的なまでの速攻勝利はまぐれでも何でもなく、それだけ彼女と宗谷との間に差があったからだと僕は思っている。
勿論宗谷の本領は一対一ではないから、場合にもよるだろうけれど。
少なくとも、異能者としての『格』で言えば、桜海さんの実力は高すぎると言わざるを得ない。
そんな桜海さんに二、三人で挑むという事は何かしらの策を用意しているから。
勝算とまでは言えなくとも、足止めを確信できる何かを用意しているから。
正直、桜海さんなら策なんてどうにでもするという思いもあるけれど。
それでも、心配な事はある。
とはいえ、今は信じるしかない。
桜海さんも此方に向かっている。僕は他のAチームメンバーが到着する前に、工作を済まさなければ。うっかり失敗しましたとか、笑えない冗談だ。
そうして僕は気配を殺し……静かに旗に近づいた。
■◇■
「おい、見えたぞ……!」
「周囲を警戒しろ!限界まっで気を抜くな!!」
「分かってる!足止め出来ている内に、全てを済ますぞ……!」
三人の男子生徒が草木を掻き分け、その場所に近づく。
彼等の目に映っているのは、木々生い茂る森の中、不自然に陽光が差し込む開けた場所。丁度実習室に備わっているリングが三つ程入る広さをある円形の空間。
彼等は木の裏に身を潜め、静かに周囲の様子を探った。
「……うん、感じない。多分僕等が一番乗りだ」
「……了解。展開を維持できるか?」
「大丈夫。数分位なら」
男子生徒の一人がそういうと、恐らくは三人組の中で班長を務めているのであろう男子生徒がそっと木々から顔を覗かせ空間の内側を観察する。
最初に発言した男子生徒の異能力は大した戦闘能力を持たないもの。そういった異能は別に珍しくない。一応カテゴリーで分けるのなら戦闘向きではあるのだろう。しかし純粋な火力はお世辞にも高いとは言えない。
だが彼には得意技がある。それこそが周囲の気配を探る力だった。
ある意味では宗谷の異能の様に、自身を中心にして広範囲に異能領域を広げる事で周囲を探知する。
彼の能力は朱音万智の〈音叉感応〉に比べ、かなり範囲も狭く持続も短い。これは彼自身の異能力の応用であり、別個の能力では無いからだ。
しかし自身も戦闘に加わる事が出来るという意味では朱音万智とは明確に異なっている。
今回の作戦に選ばれたのもこの力が理由だろう。
他の二人は純粋な戦闘要員。彼がサポーターという役割で迅速に旗を奪取する為の索敵要員という事だ。
今も自信を中心に異能領域を薄く広げ周囲の様子を探っていた。
「……こちら三馬、旗を存在を確認した」
『了解です。周囲にBチームの姿を見えますか?』
班長役と思われる男子生徒が懐から通信機を取り出し、通信を行う。相手は本部にいる支援要員のAチームメンバーだ。
「いや、見えない。やっぱり宗谷の思った通りだったって事だろうな」
『ですね。ですが警戒は怠らないで下さい。待ち伏せされている可能性は十分考えられます』
「鳴子の探知にはまだ引っかかってない。一先ずは探知範囲内に誰も居ないと考えて良いと思う」
『了解しました』
男子生徒はすぐ傍の木の後ろで探知に集中している男子生徒を一瞥すると、すぐに空間の方へ視線を戻した。
「一応聞くが、宗谷は?」
『宗谷君は戦闘中です。すみませんが宗谷君はそっちに行けないと思います』
「大丈夫だ……ちゃっと取ってちゃっと帰る。……切るぞ」
『了解』
男子生徒が通信を切ると、プツンという音と共に向こう側からの音も聞こえなくなった。そして男子生徒は通信機を再び懐に戻しながら、同行してきた二人へと視線を向ける。
その視線をまた二人の男子生徒は確認すると、三人組の彼等は音を最大限に立てない様に静かに空間の中央へと駆け出していく。
彼等は走る。その視線の先には一本の旗。
大きさは一メートルに満たない程度であり、地面に突き刺さった棒の先には白い布が括りつけられている。また旗の先端には球状の物体が取り付けられていた。
「――――取った!」
班長役の男子生徒が硬く旗を握り締め、地面から引き抜く。
力を入れ過ぎたのか、或いは最初からそれ程強く地面に突き刺さって居なかったのか。兎も角、旗はあっけない程に簡単に地面から抜かれ彼の手元に収まった。
「よし、Bチームが来る前にここを去るぞ。鳴子、周囲にまだBチームは来てないか?」
「ちょっと待って……いや、近づいて来る気配がある。あっちとあっちからだ」
鳴子と呼ばれた男子生徒が迫る気配を確認したのだろう。彼が感じた気配のある方向を指さす。
それは彼等が此処へやって来た方向、そしてBチーム陣地のある方向だった。
「ちっ……まぁそりゃ来るか。どうする三馬?」
「桜海が居る方には行けない。邪魔になる。俺達の役目はこの旗を持ち帰る事だ。鳴子、気配はまだ遠いか?」
「かなり近づいて来てる。このままだと出会っちゃう……かも」
「なら遠回りになるが一度迂回しよう。迷ってる暇はない、今は兎に角移動だ」
そうして三馬と呼ばれた少年の指示により、彼等は再び森の中へと駆け出した。
彼等の判断は速かった。迅速な対応だったと言える。
彼等は限られた時間の中で、限りなく正確な判断を下した。
自らの職分を忘れず、しかし柔軟に対応した。
だから、彼等を誰も責める事は出来ない。




