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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
53/82

Day8 戦況移動


 ■◇■


「気づかれたみたいね」

「まぁ良いじゃん。どうせすぐにばれる役回りなんだからさ」

「ま、それもそうね……てことで、降参してくれると私達も助かるんだけど……その感じは無理よね」

「ですね。戦うしかないかと思います」

「そっちの方が分かりやすくて良いんじゃん?」


 桜海ソラの目の前にはAチームの男女が立ち塞がっている。

 桜海ソラが元々居たルートから旗への直線上に彼等が立っていたという事は待ち伏せされていたという事に他ならない。

 しかしそれは一つ桜海ソラに疑問を抱かせる事実だった。


「どうして私の位置を?」

「ああ、それね」


 桜海とて無策に敵の陣地に接近した訳では無い。

 隠密行動が得意、とまでは彼女は自身の能力を評価していないが、にしても特殊任務の発令から現在までそれ程時間は経過していない。桜海の位置が相手に把握されるには早すぎる。


「悪いけど教えらんないな。でも悪く思わないでよ、異能力者ってそういうもんでしょ?」

「てことでごめんな!教えらんね」

「そうですね、正論です」


 桜海の位置を追う手段が何かしら存在するのは間違いない。それをどうにかしない限り、今後の行動は相手チームに筒抜けという事になる。

 だが、桜海は一旦これらの事を思考の隅に追いやる事とした。

 それは目の前に敵が立っているから。兎も角目の前の問題を解決しない事には文字通り前に進む事が出来ないからだ。


「では始めましょうか、濡木(うるき)さん、弦流(つるる)さん」

「……へぇ、私達の事知ってくれてるんだね」

「時間はありましたから」


 女子生徒の方の名前が濡木羽(うるき はね)。男子生徒の方の名前が弦流良和(つるる よしかず)。どちらもBチームメンバー。


 桜海は転校してきたばかり、彼女がクラスメイト達と知り合ってからまだ一週間程度しか経過していない。これは今回の訓練において明確なディスアドバンテージだった。


 このクラスの人間は互いの異能力の事をある程度把握している。

 本来なら異能力者にとって異能力とは生命線、秘匿するに越した事は無いものだ。しかし学園生活となると、必然互いの異能について知る機会は多くなる。

 それ自体は問題ではない。学生達にとって同級生はライバルであると同時に、仲間なのだから。


 だがそれは転校生である桜海には有利に働かない。

 彼女が知っているクラスメイトの異能は、彼女が自身の試合以外の時間で見た八名と宗谷智晴の異能だけ。たったの九つだけである。

 対して彼女の異能は既に多くのクラスメイト達の間で知るところとなってしまっている。それだけ彼女の力に注目が集まっていたというのも理由だが、宗谷を瞬殺した彼女の実力はクラスの人間にとって気を付けなければならないものになってしまった、というのも理由だ。

 彼女にしてみれば、出来るだけ()()()とはいえ、不利な事には変わりない。


 だから学んだ。

 彼女がBチームのメンバーになってから、他のクラスメイトとの間にある差を埋める為に彼女はこのクラスの人間の情報を頭に詰め込んだ。

 自身を除いたクラスメイト計三十九名の異能と性格、特徴。短い期間、限界もあるが道木修や朱音万智の協力も得て可能な限り。


 それは当然の過程であり結果だった。

 彼女にとって学ぶ行為は何の苦にもならない。


「ま、想定内想定内。寧ろ良かったよ、これで安心して戦えるから……さ!」


 言葉を言い終える前に、弦流の肉体が動く。同時に濡木も右方向へと走り出す。


 距離を詰めようと動く弦流に対して、濡木の動きは桜海の行動範囲を制限するのが目的の動き。また目標を絞らせない様にする動きであった。


「異能力!」


 弦流が異能領域を展開する。

 瞬間、彼の肉体から迸るエネルギーが腕に集中し深緑のオーラを形成した。


「――――〈鎌鼬〉!」


 異能発動の引鉄と共に吹き荒れる突風。幾重にも重なった目に見えない風の刃が弦流の両手から放出された。それは直進してくる弦流と桜海の間に存在している。しかし当然に疾走する弦流よりも風刃の方が桜海に到着するのは早い。

 異能によって生み出された風の刃は単なる突風では済まされない。局所的には台風に近しい程の風速、弦流の想像の賜物である鎌鼬が彼女に襲い掛かる。

  


「異能――――」


 だがそれも桜海にすれば既知の内容。

 弦流良和の異能力、〈鎌鼬〉は彼の両手から鋭い空気の刃を形成し飛ばす異能力。両手を風刃の発生源とする所が伝承における鎌鼬と類似している。

 問題はない、自身の実力なら問題なく撃ち落とせる。

 だが桜海が異能領域を展開しようとして、気が付く。


 周囲に発生したぬるりとした空気感、身に纏わりつく様な不快な雰囲気。

 ――――彼女の周囲に存在する、凶悪な湿気を。


(これは、濡木さんの――――)


 思考を加速させる桜海。

 迫る風刃は問題なく撃ち落とせる。彼女の異能なら今から発動しても間に合うだろう。

 〈天撃〉とは雷の力、雷電の顕現である。〈天撃〉に用いるエネルギーはそれに相応しく雷の速度で身体を流れ、外を流れる。


 そう、()()()()()のだ。


 彼女の〈天撃〉の威力は宗谷を瞬殺してみせた事からも明らか。もとより雷の力とは凄まじいもの。体内に異能領域を展開し、異能エネルギーで肉体を強化している異能力者ですら被害を避ける事は難しい。宗谷ですら短時間ではあるが行動不能に陥ったのだ、その威力は濡木等も知る所である。


 濡木の異能力は空気中の水分を操る異能力。創造系統現象系typeエレメンタルに属する異能力だ。名を羽〉といい、彼女の周囲に羽が舞い散る様に生み出した水をばら撒く異能力である。

 〈濡羽〉によって生み出された水の羽は彼女の意思で操作可能。そして含ませるものを工夫する事も出来る。例えば、今彼女がしている様に。


 純粋な水は電気を通しにくい。これは簡単な科学の話。

 では今桜海ソラに纏わりつく湿気……〈濡羽〉によって生成された水分はどうだろうか。


(……拙い)


 濡木達、もっと言えば宗谷達は考えた。

 どうすれば桜海ソラの〈天撃〉を防げるのだろうか、と。


 異能領域の展開速度で凌駕する?Bチームメンバーに宗谷よりも異能領域の展開が早いものは殆ど居ない。打ち合いになれば不利になるのは必至。ならば不意を突くか、多数での戦闘だろう。

 異能領域の強度で上回り、かき消す?異能の基本原則で言えば、『異能は、より強力な異能が優先される』。だがこれは異能同士にある程度大きな差が無ければ完全にかき消す事は出来ない。ましてや宗谷と同程度となると、かき消すというのはまず不可能だろう。


 ではどうするか?

 その答えがコレだった。


 〈天撃〉の異能力が電気エネルギーに近しい性質を持っている事に気が付いたのは、実際に〈天撃〉を受けた宗谷だった。実際、あの試合を見ていたBチームメンバーも宗谷と桜海の間に走る光を目撃していた。

 それを元に彼等は仮説を立てた。


 〈天撃〉の異能力は雷を模したものであり、その性質は電気エネルギーに類似している。

 〈天撃〉の速度は凄まじいものだが、しかし雷を模したもので有る以上何かを伝って対象へと到着するのではないか。

 ならば、実際の雷と同じく、その放出は誘導出来るのではないか。


 異能力者が自分の異能をその身に受ければどうなるか。宗谷の身体を行動不能に陥らせた異能力、少なくとも桜海自身もただでは済まないだろう、と。


 そして実際、Bチームメンバーの推測の大部分は正解である。


 会話中も、否、会話前から周囲には濡木の生み出した水を含んだ空気が充満している。桜海ソラも異能領域が展開されてからの水ならまだしも、既に生み出された水までは感知しきれなかった。

 水を準備した後は直進する弦流に注意を引かせ、濡木は静かに準備をしていた。


 桜海ソラの肉体に纏わりついた、電気を良く通す濡木の水。迫る〈鎌鼬〉の風刃を〈天撃〉で迎撃すれば、当然放出された〈天撃〉は水に伝導し桜海の元へ伝わる。

 伝われば、〈天撃〉をその身に受ける事になる。


 それは拙い。到底できない。彼女には選択できない。


 ならば――――と彼女は考えるが、既に遅く。


 水の影響を受けない〈鎌鼬〉による風の刃が、桜海ソラに直撃した。

 

 ■◇■

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