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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
52/82

Day8 状況移行(改稿2023/9/28)


 ■◇■


 団体訓練が始まる前、準備時間。


「カギになるのはこの特殊任務だろうな。説明されなったものの中でもコレが一番重要だ」


 Aチーム陣地にて宗谷が集まったチームメンバーに向けて話す。

 

 手には配布されたルールブック。全員に配布されたそれには杠信二が話さなかったルールも記載されている。全体で見れば話していないルールの方が多い位だ。

 全体の流れとなるルール以外にも、違反行為や禁則事項、その他特殊な事態になった場合の学園側の対応の仕方等事細かに記載されている。

 確かにこの量を口頭で説明するのは不可能。『自分でルール把握位しやがれ』というのが学園側の対応という事なのだろうが、特殊任務が説明されなかったのはその他の意図が絡んでいる様に宗谷には思えた。


「特殊任務って例年通りに行けば何?」

「まぁ本題とは違うけど、条件に大きく関わってくる副題って感じかな。例年で言えば達成できれば報酬、出来なければ罰がって感じで調整されてる」

「じゃあ今回のケイドロでもそんな感じなんかな」

「多分な。ルールブックにはどんな任務が出るかまでは書かれて無い……けど重要なのはここだ」


 宗谷がルールブックの一文を指さす。

 特殊任務の条項には、ある一文が添えてあった。


「『尚、頭領に選出された生徒は特殊任務に必ず参加しなければならない』。文字通り頭領役に生徒は絶対参加って事だね」

「ああ。頭領には幾つかメリットがあるが……この特殊任務への強制参加は恐らくそれを打ち消す程のリスク。そもそも頭領が逮捕された時点で不利になるルールというだけで巨大なリスクにも関わらず、更にこうしてルールで縛ってくるという事はそれだけ特殊任務が重要だという事だろう」


 頭領は逮捕された時点から一時間以内に脱獄出来なかった場合、その頭領が所属するチームは即時敗北になる。これは余りにも大きなリスクであり、これに比べれば頭領が持つメリット等ほんの些細なものだ。

 例えば頭領の全体通信は確かに強力な機能だが、この効果を十分に受けられるのは指揮や支援を担当する生徒。特殊任務に必ず参加しなければならないという条件がある以上、後方支援に徹せられなくなる為このメリットは薄れてしまう。

 宗谷や道木は前線で戦闘も行うが、前線で戦闘を行う者は同時に逮捕される危険性もある。こうなると頭領は出来るだけ逮捕されにくい場所に配置した方が良いという考えにもなる。

 この様に頭領が得られるメリットは一概にも強力とは言い切れないのだ。

 その上で頭領には追加の制限があるとなれば、頭領と言う役割はデメリットばかりだろう。


「どちらにせよ、準備時間も残り少し。早急に方針を固めなければならない」


 準備に用意された時間は決して長いとは言えない。

 両チーム事前に入念な準備を行っているとは言え、直前にルールが提示されているのだ。それなりに方針を固める時間を要するのは当然だった。


「つまり『隠す』か『前に出すか』だね」

「ああ」


 作戦指揮担当の生徒が発言する。

 それに対して宗谷は当然の様に頷いた。


「『隠す』なら出来るだけ目立たない動きをする生徒になる。が、特殊任務に強制参加という制限がある以上本来の役割以外もして貰う必要性が生まれてしまう。対して『前に出す』なら……担当は僕だろうな」


 宗谷は理解していた。


 宗谷の異能はtypeルールに属する異能である。自身の展開した異能領域内に、特殊な法則を適用させる。創造系統の中でも実体を持たないtypeルールは対策が非常に困難。typeルールの異能力者よりも強力な異能領域を展開し、typeルールの異能領域を中和しなければ逃れる事は出来ない。

 しかしtypeルール共通の性質だが、その分異能領域外からの干渉には脆弱であるという性質がある。これは適用される法則が異能領域内に限定されるが故に宿命の様なものだ。

 typeルールの法則は、異能力者の異能領域内でのみ適用される。逆を言えば異能領域外に居る存在に対しては無力に等しい。


 宗谷の異能領域の展開速度は速い。同年代で見ても上位に位置しているのは間違いない。

 先日は桜海ソラの異能に展開速度で負けはしたが、そもそもエネルギーを放出するタイプの異能力は展開速度の速さが自慢の様なもの。宗谷の展開速度は決して遅くない。


 宗谷自身の戦闘スタイルは自身の異能領域内に相手を入れ、相手を追い詰めていくもの。〈理知減測〉にとって時間経過は味方。相手が異能を使用すればするほどに消耗するエネルギーは多くなり、やがては異能を発現させる事が出来なくなってしまう。

 そして対象外に設定している仲間が追撃を加える、というのが一連の流れだ。

 宗谷自身も格闘術には自信があるが、異能が使える仲間に戦って貰う方が確実である。


「前線で僕が頭領として戦う。これならある程度距離を保ちながら戦えるから逮捕されるリスクは抑えられる筈だ。同行するメンバーに警護もして貰えるしな……ただ僕が牢屋を守る事は出来なくなる」


 そう、それが問題だった。

 

 宗谷が頭領をするという事は必ず陣地から離れる時間が生まれてしまうという事。

 宗谷の異能領域の限界範囲は十五メートル程度だが、十分牢屋を覆える範囲だ。

 〈理知減測〉は本来防衛にこそ真価を発揮する。異能領域を展開したまま待ち構える事が出来る上に、相手を強制的に同じ土俵に引きずり出せるからだ。

 そして脱獄方法が限られるこのルールでは、異能を封じられる宗谷の異能はピタリとはまっていた。

 

「脱獄を警戒するなら、僕が牢屋の番をするのがベストなのは間違いない。陣地内に居られる人数に制限がある以上、人員は限られるからな。だが頭領をするならこの策は使えない」

 

 頭領を逮捕するという特殊な勝利条件を除けば、相手チームを全員逮捕しなければならないという勝利条件のこの訓練。相手を逮捕するのが最も重要な事には変わりないにしても、牢屋の防衛も最重要事項の一つだ。それは宗谷以外の人間にも理解出来ている。

 陣地内に滞在出来る人間の数が限られているこのルール。牢屋の防衛は出来るだけ少人数で多数の人間を相手に出来る者が相応しい。

 そういう意味でも宗谷は適役なのだが……頭領という要素がそれを阻む。


 頭領は必ず誰かを任命しなければならない。

 しかし頭領になれる人間は結果として限られている。


 準備時間も残り僅か、すぐにでも頭領役の人間を決め、具体的な動きを決めに入りたい所。 

 

 そして少しの沈黙の後、一人の女生徒が口を開いた。


「あの、もし宗谷君が良いならだけど、私こんなの考えてたの」

「ああ、是非聞かせて欲しい」

「うん。あのね――――」


 女生徒は少し恥ずかしそうに自身の考えた案をチームメンバーの前で語った。


 女生徒が語り終えた後、暫く。


「……うん、面白い。面白いな、それ」

「で、でしょ!?折角広いフィールドなんだし、宗谷君が良いならやってみたいと思って」

「よし。それで行こう。正直これ以上迷っている時間は勿体ない。やるなら大胆に行こう」


 宗谷が微笑み、Aチームの方針は固まったのだった。


 ■◇■

 

 開始から一時間と少し。

 道木が単独行動をしていた桜海に通信を行う十分ほど前。


 Bチーム陣地に集まった作戦立案班及び、指揮担当の道木は陣地に備わった固定通信機に送られて来た最初の特殊任務を確認していた。


 一枚の紙に出力されたそれには、特殊任務に関する条件が羅列されていた。


「第一任務……『旗錠奪取』。敷地内のポイントに設置された旗を先に奪取したチームが報酬を入手する事が出来る……か」


 ルールブックに比べればかなり簡潔ではあるが、一言一句見逃す事は出来ない。どこに攻略のヒントが隠されているのか分からないのだから。


「これは……凄いな」

「ええ……正直こんな()()、絶対欲しいに決まってます……」


 指令書を確認した道木と朱音が揃って驚嘆する。

 それも当然だろう、内容が内容だ。寧ろこの反応はチームの核である二人ならば当然の反応。同時刻特殊任務を確認した宗谷もまた「……は?」と言葉を失っていたのだから。


 二人が確認している『旗鍵奪取』の指令書、そこに書かれた報酬は次の様なもの。


 〇報酬。今回の任務で獲得した旗は鍵である。

 〇旗は脱獄の際に暗号の過程を一度だけ省略する事が出来る。


 つまるところの()()()()()()()

 本来ならばネックとなる脱獄の際の暗号を一度だけだが無かった事にする事が出来る鍵。

 脱獄難易度が高い今回の作戦において、そして既に三人の生徒が逮捕されたBチームにとって喉から出が出る程に欲しい報酬だ。


「公平を期す為に旗の位置情報が送られるのは特殊任務開始から十分後。つまり……」

「あ、後五分位ですね……ど、どうします?とりあえず皆を招集しますか?」


 旗の位置情報が送られてくるのは、指令書と同様に陣地に備え付けられた通信機。つまり今陣地外に居るメンバーは知る事が出来ない。旗の位置情報を知れるのは今陣地に居るメンバーだけだ。

 

「いや……招集はしなくていい。だけど離れた場所に居る人間の把握を頼む朱音、()()()()()で」

「は、はい……それは勿論しますけど……ほんとに招集しなくて大丈夫でしょうか?五分後なら多分一番遠い班が戻って来るのにもギリギリですよ。旗は絶対欲しいですし……」

「ああ、だけどそれでいい。何しろ旗が何処にあるのか分からないんだ。下手に集めて遠ざかるよりはリスクが高いけど、分散させておく方が良い」


 旗の位置が送られてくるのは今から五分後。

 招集をかけて指示を共有するのは一つの案に違いないが、もしもの事を道木は想定する。


 そのもしもとは、招集前の位置の近くに旗が存在する場合だ。

 旗がどのように設置されているのかは分からない。団体訓練の開始後に学園側が設置しに来たのか、或いは元々隠されていたのか。


(多分、後者……旗は隠されている。じゃなきゃ万が一見つかった場合に特殊任務が成立しないからな。旗の報酬がでかすぎるだけに偶然獲得ってのは避けたい筈だ)


 後者ならば位置情報が送られる前に旗を獲得するのは不可能に等しい。少なくとも旗の姿形すら把握できていないのだ、異能を用いても探す事は容易ではない。


「朱音の能力で位置を把握。位置情報が送られ次第、通信を入れて旗を獲得に向かわせる。多分向こうのチームも同じように動くだろうが……取り逃すのだけは勘弁だからな」


 道木が思うBチームの核となるのは三名。

 一人目は道木修自身。作戦指揮だけでなく、前線での戦闘、後方からの支援等様々な役割をこなすバランサー、それが道木だ。宗谷の異能との相性は悪いが、それでもBチームの中では最上位の戦力。

 もう一人は新に加入した桜海ソラ。尋常じゃない異能の展開速度を誇る彼女は、宗谷を瞬殺した実績を持っている。道木も正面から戦えば勝てる自信はない程の実力があるのは確かだ。


 この二人はどちらかと言えば前線で戦う異能力。敵を倒す為の異能、今回の場合で言うのなら逮捕する為の異能力だ。

 しかし三人目、朱音万智は二人とは全く性質が違う。


 完全な後方支援型の異能力。それも索敵に特化した異能。

 最初に多少無理をしてでも戦力を分散させたのは朱音の異能を用いて居場所がある程度は把握できたからだ。……結果的にそれが仇にはなったのだが。


「じゃあ……使うね……ふぅ……〈音叉感応〉……」


 しかし今は状況が異なる。

 戦わずとも良い。先に旗さえ入手できれば良いのだ。


 朱音の異能が発現する。陣地内の人間は静かにその様子を見守っていた。

 別に声をかけてはいけない訳ではないが、集中出来るに越したことは無い。


 朱音万智の異能力〈音叉感応〉。

 それは朱音自身からある異能領域を波の様に同心円状に展開する事であたかもエコーロケーションの様に異能領域内の状況を感知する異能力。

 単なる音による探知では無く、異能領域による探知で有る為に応用の幅も広い。攻撃に転ずる事は朱音の性格上難しいが、索敵に指揮・支援に非常に有用な異能力だ。


 相応の時間は要するが、かなりの範囲を朱音一人で探査出来る為、広いフィールドが舞台の今回の団体訓練では非常に役に立つ異能力である。


「あ、あの」


 チームメンバーが見守る静寂の中、朱音万智がおずおずと発言をする。


「どうした朱音」

「と、特殊任務って頭領役の人は強制参加ですよね?でもこれってどうやって参加・不参加を決めるのでしょう?旗まで移動してたら参加している事になるのでしょうか?それか、旗を獲得するのは頭領じゃないといけないとか……?」

「あぁ、それは俺も気になってる。けど多分、まぁ推測にはなるけど、動きだな」

「動き?あ、もしかして」


 そこで朱音も思い至ったのだろう。

 彼女は胸元にある通信機を指さした。


「あぁ、多分な。頭領が使う通信機は特別製だ。そこに何か発信機でも仕込んでるんじゃないかな」

「結構大雑把ですね?」

「……ま、参加してれば気にする事もないさ」


 その時、固定通信機が音を出して反応をする。

 Bチームメンバーが持ち出した通信機からの着信音ではない。

 先程にも鳴った同じ音、つまりは学園側からの通信。


「来た……!!」


 急いで通信を確認する道木。未だ朱音の探知は完了していないが、しかし確認が遅れて初動を誤る訳にもいかない。場所によっては道木自身が動く事も検討していた。


「この場所は……まさか……」


 そして、時は現在へと動く。


 ◇


『悪い。余り悠長にしている時間は無いんだ』

「ええ、大丈夫です。状況はおおよそ把握しました」

『流石、じゃあ早急に伝えたポイントに向かって欲しい』

「了解しました」


 通信機を起動したまま、桜海ソラは途轍もない速度で森林の中を疾走していた。

 時に枝から枝へと飛び移り、ぬかるんだ土を駆け、岩を超えて進む。


『特殊任務の概要については今伝えた通り。桜海さんの役割はポイントまで辿り着く事、これを最優先にして旗を見つけ次第周囲の状況把握に努めて欲しい。そして出来るなら』

「旗を獲得し、作戦行動に移る……ですね」


 提示された地点までこのまま行けば五分とかからない。元々の位置取りが良かったのもあるが、それだけ桜海の移動速度が速かったという事でもある。


 だが、それはこのまま行けばの話。


『この通信の後他の班にもすぐにポイントに急がせる。繰り返すけど決して無理はしない様に』

「……道木さん、それこそ無理ですね」

『何……?』

「流石に、ばれてしまった様です」

『なっ……まさか!?』


 桜海の目の前に立ち塞がる二人の生徒。

 どちらもBチームメンバーではない。つまり……


「通信を切ります。大丈夫です、何とかしますので」

『……安心しとくさ』


 通信が途切れ、道木の声もまた途切れた。


「……さて、お相手願います」


 団体訓練開始から約一時間四十五分。

 桜海ソラ、会敵。


 ■◇■


異能ランクの目安

宗谷智晴 ランク4中位相当

道木修  ランク4下位相当

朱音万智 ランク4下位相当


異能のランク5迄の異能は様々な要素で決定される為、一概にランクの高低が性能に直結するとは言えない。宗谷の異能はtypeルールの希少さも相まって高めに査定されている。異能領域の強度自体は道木と比較しても同程度。

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