Day4 多分役立てないと思うけど
■◇■
「本当に良いんですか……?」
「もう本当に寧ろありがとうございますって感じですので!」
「ですが……」
「良いって良いって。俺達からの友好の印って事で、受け取ってくれって。それにこれから十分働いてもらうんだ、事前報酬ってやつさ」
先程の店で購入した服が入っている袋を抱えながら、桜海さんが申し訳なさそうにしている。
道木も僕も、そして特に朱音さんも桜海さんに買ってあげたくて(貢ぎたくてともいう)買ったんだからそんなに気にしなくても良いのに。
「……分かりました。ではお返しは必ず結果で返させて頂きます。皆さん本当にありがとうございます」
「おっ、期待してるぜ。我らが新たなエース」
「わ、私も本番では全力でサポートしますから……!き、緊張はしていますが」
「はい、期待していて下さい」
頼もしい返事。
確かに今回の団体訓練でBチームのカギとなるのが目の前に居る三人である事は間違いない。特に桜海さんは新しく加入した切り札級の力。その戦力をどう運用するのかはチームの指揮を執る道木と朱音さん次第と言っても良いだろう。
ま、半分僕には関係ない事とは言えね。
「団体訓練は週明けの月曜日から始まる。もうあんま時間も無いからな、明日の授業が終われば土曜は自主訓練だ。一部の部隊は実習室を借りて仕上げるつもりだけど、桜海さんはどうする?」
「……訓練したい、と言いたい所ですが生憎土曜日は予定がありまして……。日曜日は駄目でしょうか?」
「まー、借りられ無い事も無いんだが。なんせ団体訓練は長期戦だからな。内のチームでは前日は休みに充ててるんだよ。これは全員共通だ」
「わ、私達作戦立案班もです」
団体訓練は長ければ三日間にも及ぶ訓練になる。訓練内容次第ではあるが、過去の記録を遡ってみれば最大三日の長期戦だ。
訓練内容は全クラス同一なので、例え制限時間が三日間で無くとも各クラスには一応三日間の団体訓練の日程が用意されている。週明けの月曜日が僕等の団体訓練日なので、現在は他のクラスが訓練中という訳だ。
そういう意味では丁度土日を挟んで僕達の日になるというのは少し幸運かもしれない。
「そうですか……では仕方ありませんね」
「これが俺の方針でな、すまんけど受け入れて欲しい」
「いえ、不満は一切ありません。道木さんの言っている事は正しいと思います。では土曜の訓練に参加出来ない分明日の授業では一層頑張らなければいけませんね」
「本当に頼もしい限りだな。俺達も負けてられんぞ、な!」
「は、はい!任せて下さい!」
「多分役立てないとは思うけど、勿論精一杯やるつもりだよ」
「お前そこは役立つって言えよ!?」
チームのリーダーを務める道木も、作戦立案の中心である朱音さんも、背負っている責任は重い筈だ。例え僕達が彼等にそんな責任を追及しなくても、彼等は責任を背負うのを辞めないだろう。
だからこそ、僕達も頑張らなければならないと思わせてくれるのだろう。
「そういえば、今は他のクラスの方が団体訓練を行っているのですよね?」
「そうだな。訓練内容秘匿の関係上同時に複数のクラスの訓練は行えないからな」
「きょ、教師陣の目が行き届かないっていうのもありますけど……」
団体訓練が同時に行えないのは訓練内容を秘匿する為だ。先程言ったと思うけど、訓練の日程が全て三日間なのもソレが原因。
そして不測の事態に備えられる様に教師陣の監視の目が足りる様にする為でもある。
「成程。では今はどこのクラスが団体訓練を?」
「スカウト組だよ。ま、正確には一組だな」
スカウト組スカウト組と僕等は呼ぶが、実際のクラス番号では一組だ。
因みに僕等は四組で団体訓練も最後の組。けれどこれは番号で行われているのではなく、ランダムに割り振られているだけである。
スカウト組はその名の通り学園のスカウトマンによってスカウトされた学生で構成されたクラス。入学前から優秀だった者や、特殊な過程を経ている者だけが在籍している特別なクラス。
カリキュラムも一般入学の僕達とは大きく異なり、特に実技訓練の回数はかなり多くなっている。これは入学前から異能をある程度確立した者だけで構成されたクラスで有る為に、一から異能の特性を把握していく様なステップは省略されているからでもあるそうだ。
三年生ともなれば宗谷や道木の様にスカウト組と比べても遜色ない実力を持つ生徒は各クラス存在する様にはなるけれど、やはり平均値という意味ではスカウト組は群を抜いている。
「荒神期生も殆ど三年のスカウト組だからな。あそこは魔境だよ、魔境」
「桜海さんなら負けてないと思うけどね。でもスカウト組はやっぱり強いよ」
「そ、そもそも荒神期生って知ってますかね……?荒日学園の特待生みたいな感じの人達なんですけど……し、知らなかったら私が教えますけど……!」
あ、そういえば荒神期生について知らない可能性もあるのか。
この学園では当たり前過ぎてつい知っているていで話を進めてしまった。
「朱音さんありがとうございます。でも大丈夫です、荒神期生については少しですが聞いていますので」
「そ、そうですか……」
自分が桜海さんに教ええてあげられると思ったのだろう。朱音さんは見るからに意気消沈していた。確かにこの四日間で桜海さんは戦闘能力だけでは無く学力も非常に優秀だと分かっているけど。だからといってそんなウキウキにしなくても。
「確か……荒日の荒神期生、羅盤の生徒会、雅写の七骨でしたか?相当に優秀な異能者なのでしょうね」
「荒神期生はまー強いぞ。三校戦も大体荒神期生だけで出場するしな。ま、それを言ったら他の学園も今言ったメンツばっかだけどさ」
「三校……戦……?また知らない言葉が出てきました。対抗戦とは何ですか?」
桜海さんはそのまま道木に問い返す。
「あーそっか、海外に住んでたんだもんな。三校戦ってのは正確には『国立異能者養成学園交流対抗試合』って言うんだけど長いから俺達は『異学三校対抗戦』とか『三校戦』とか後はシンプルに『学園対抗戦』とか言うんだ。正式名称には戦って文字は入って無いんだけどな」
異学三校対抗戦。それは国立の異能者養成学園三校が一堂に集い、各学園の代表者が交流試合を行う異能者養成学園の一大イベントの一つだ。
異学三校対抗戦というのは俗称だが、学園に通う学生や教師陣の含めてこの俗称が呼ばれるので殆ど公式の名称の様なものである。
「国立の三校というと、荒日学園と羅盤学園そして雅写学園ですね」
「そ、そうです。ま、毎年夏休みの終わり頃に開催されるんです。殆どの学生にとっては観戦で終わるイベントなんですけど……ま、毎年凄く盛り上がるんですよ!」
「学園の代表者を出して戦う訳だからね。交流とか言ってるけど、実質学園の威信を賭けた試合さ」
「俺は勝手に学生異能者最強決定戦って思ってるぜ」
「学生異能者の最強……」
道木の言っている事は言い得て妙というやつだ。
交流対抗試合と銘打ってはいるものの、その実態は各学園がそれぞれ代表の学生を競い合わせる戦い。三校総当たりで勝ち星を競い合うこの対抗戦は、確かに学園の威信を賭けたものになるだろう。
情報秘匿の観点から一般人の殆どは知らないが、政府関係者や世界異能機関の認定員等も多数訪れる学生異能者にとっての晴れ舞台とも言える。
「わ、私の推しは羅盤の庵膳木会長です!一度お話した事があるのですが、とても紳士的でかっこいい方でした!お、応援してます!」
「まぁアレはバケモンだな。正直勝てる未来が見えん」
朱音さんが勢いよく主張した言葉に、うんうんと道木も同意する。
「そんなに強い方なのですか?その庵膳木さんという方は」
「強いですよ!羅盤最年少生徒会長!無敵の生徒会長!同世代で彼に勝てる人間は居ません!」
「朱音は言い過ぎだが、まぁそうだな。絶対勝つっていうより、絶対負けない、それが庵膳木星毅だ」
一年生の時には既に羅盤学園の生徒会長に当選し、そこから現在に至るまで生徒会長として君臨し続ける男。間違いなく僕達の世代においては最強の学生異能者。
今の僕とは比べる事も出来ない程の、完璧超人。それが庵膳木星毅。
「代表の選出は夏休み前の最終試験が終わったら行われる。今回の結果次第じゃ、もしかしたら桜海さんも代表に選ばれるかもな?」
「代表には荒神期生の方々が選出されるのではないのですか?」
「殆どの場合はな。荒神期生の奴等は元々学園が認めた生徒で構成されてるからな。でも、桜海さんみたいに特殊な事情がある奴は少なからずいる。去年は一般入学組の生徒が代表として出てたぜ」
「ひ、一人だけですけどね……あの人も、と、特殊というか怖い方ですし……」
「まぁ、な」
道木も朱音さんも去年の三校戦の事を思い出しているのだろう。
いや、それ以前の事かも知れない。それは未だに当時の生徒達の間で語り継がれる事になる伝説の光景となったのだから。
目の前の二人も、そして他ならない僕自身もあの光景は忘れられない。
「――ま、この話は此処までにしようぜ」
道木が重くなった空気を断ち切る様に、明るく言った。
そう、これは桜海さんには関係の無い事。彼女が居ない間に起こった出来事、無理に話す必要も、それによって空気を悪くする必要も無い。
こういう時、やはり空気を読めるのは道木の良い部分なのだろう。
「さて、次はどうする?まだ時間はあるし、もうちょい適当に回るか?それとも買い食いでもする?」
爽やかに笑う道木の姿に、僕等の空気は再び和やかなものに戻ったのだった。
◇
「いやー結構買ったな」
「で、ですね……うひひ」
もうすっかり日も暮れて、夜の時間になりかけている。
ショッピングモール内には飲食店も多いのでまだまだ人は多いが、学生にとってはこの辺りの時間が限界だろう。僕等にはまだ明日も学校があるのだ。余り遅く変える訳にはいかない。
それに僕も妹が家でご飯を作って待ってくれているだろうし。
「実際に居た時間はそこまでだったけどね」
「ま、十分十分」
「凄く楽しかったです。沢山買って貰っちゃいましたが……」
そう言う桜海さんの手には服やら雑貨やらが入った袋があった。
服はほぼほぼ全部朱音さんが買ってあげたもの(朱音さんはあの後も数着彼女に貢いでいた)だけれど、一部雑貨は僕達があげたものだ。友好の証というと大仰な感じだけれど、これから共に戦う仲間へのプレゼントとして。
これだけの荷物、僕等が一方的にあげたものなので本当は僕等が持つべきなのだろうけれど、桜海さんはそれを断った。折角自分へ贈られたものだから、持つ位はしたい、との事だった。
そこまで気にしなくてもいいのに。
「明日の訓練が終われば週明けはいよいよ本番だ。まだ何が課題として与えられるのかは分かんねーけど、俺達もやれるだけの事はやってる。本番で実力を見せつけるだけだ」
「さ、桜海さん用の作戦はもう殆ど出来てますので……明日にはお渡しできると思います」
「ありがとうございます。頼りにしていますね」
「こっちこそ、頼りにしてるぜ桜海さん」
「僕の事忘れてないよね?」
そうして帰り道、道が分かたれるまでの間僕等は本番に向けてそれぞれの話をした。
友人が四人も集まれば、話題に欠く事は殆どない。元々短い時間だったけれど、あっという間に時は過ぎていく。気が付いた時には分かれる岐路に居た。
ここから駅に乗って帰る者も居れば、そのまま徒歩で帰る者も居る。そうでなくとも帰る方角は別々なのだから、ここでお別れだ。
「じゃあ、また明日学校で」
そう言って、僕等は手を振りながらそれぞれの家へと帰って行ったのだった。
■◇■
そして、時は本番当日へと流れる。




