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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
46/82

Day3 見ての通り気楽に生きてるからさ


 ■◇■


 昼休みに図書室に行き、本の交換を終えて午後の授業(因みに今日受け付けてくれたのは昨日とは普通に別人だった)。午後の授業は昨日の対戦形式の訓練とは打って変わって個人での訓練である。

 異能は普通は秘匿しておくもの。異能者養成学園では訓練を通して同級生達の異能を知る事にはなるが、基本原理となるその点は実の所変わらない。公開異能者番付なんかは特殊なのだ。


 なので学園でも実技授業の中にこうした個人で訓練を行う授業日を設けているという事である。

 流石に完全に一人で異能の特訓を行う、という訳にはいかないがある程度のグループに分かれて各実習室に散らばる感じだ。このグループも結構融通が利くので、団体訓練等の前にはそれぞれのチームで固まり相手のチームには特訓の内容を秘密にする事も出来る。


 そして現在僕は同チームの人間三名、桜海さんと一緒に実習室に入っていた。


「じゃあ桜海さん、よろしくー」

「はい、よろしくお願いしますね」

「いやーめっちゃ心強いよ!てかこれもう勝っただろ」

「人数的には互角なんだけどねー」


 そう、桜海さんは昨日の試合結果を元に僕達のチームに入る事になった。

 僕等のチームは元々一人少なかったので人数的には同数になったという事になる。結果を見て決めると杠信二は言ってはいたが、結局人数差を優先する形にしたようだ。


 一応この決定について文句が無かった訳では無い。


 ◇


 授業開始前。


「えー、という事で桜海のチームはBチームだ。異議異論はは受け付けない」

「異議あり!!どう見ても平等じゃありませんが!!??」

「異議は受け付けないと言っただろうが、黙れ」


 杠信二の決定に異を唱えるのも無理は無い。

 元々奇数のこのクラス。故に大まかにチーム同士の実力差が出ないようにチーム分けがなされていたのだが、異を唱えたのは人数が多い筈のAチームの人間だった。


「明らかにそっちの方が強くなってますって!道木とか朱音とか……これ平等じゃないです!」

「そうですよ先生ー!こっちの宗谷、昨日負けてんですよー!」

「……すまん」

「五月蠅いぞお前等!!てか空気読め!宗谷の目の前で無能とか言うな!」

「そこまでは言われてませんよ!?」


 そう、チームメンバーが一人少なくとも均衡が取れているという事はBチームの方が平均値は高いという事。道木は勿論、朱音さんもまたクラスの中では指折りの実力者であり、宗谷も含めたこの三人はスカウト組と比べても見劣りしない実力は持っている。

 そこに昨日宗谷を圧倒してみせた桜海さんが入るというのは、当事者たるAチームからすれば一方的に不利になったとも捉えられる状況だ。

 宗谷が決して弱い訳では無いし、彼の能力が落ちた訳でも無いのだがそう認識するのも無理は無い。


「まー、お前等の言う事はよく分かる。だが俺はこれでトントンだと判断した。理由が聞きたいか?」

「聞かせて下さい」


 Aチームの生徒がそういうと、渋々といった様子で杠信二は理由を説明し始めた。


「一つは、別に俺はAチーム(お前等)が弱いとは考えて無いのが一つ。確かに道木も朱音も内のクラスでは優秀だがこいつらは純粋に宗谷と相性が悪いだろ。元々宗谷対道木と朱音想定なんだよ、こっちは」


 杠信二の言う通り、道木の異能も朱音さんの異能も宗谷の異能とは相性が悪い。しかも完全初見だった桜海さんの時とは異なり、宗谷は道木達の事はよく知っている。杠信二の見立てた二対一の構造はあながち間違いでも無い。


「二つ目は、それでもやっぱ人数差はでけぇって事だ。確かにBチームは平均高いが……団体訓練は単純に殴り合う訓練じゃないからな。人数の差は作戦に大きく影響する。これがトントンになっただけだ」


 これもそうだ。団体訓練の目標は敵チームを全滅させる事には無い。極論それでも勝利は出来るだろうが、訓練の目的から言えば間違っていると言わざるを得ないだろう。

 団体訓練の目的とは将来異能者として作戦任務を行う演習であり、協力して目的を達成する連携にある。学園側をそれを分かっているから例年単純に目の前の敵を倒せば勝利という条件にはしてこない。

 例えば複数人で同時に拠点を制圧する任務だったり、敵の大将を見つけ出すのが目的だったり。珍しい所では演習場内に隠された旗を見つけ出すのが勝利条件だった年もある。こういった勝利条件の達成は単純な戦闘だけでは達成が困難だ。


 故に人数の差というのは特に団体訓練においてはある意味メンバーの実力以上に勝敗を分ける要素と言ってもいい。異能とは十人十色、千差万別。人相の数だけ異能は存在しているのだから、一人増えればそれだけ出来る事も広がっていく。


「そしてお前等Aチームが単純に不利にならない理由三つ目は……当日Bチームにはハンデが与えらえる事が決まったからだ」

「「「……は?」」」

「詳細は当日の勝利条件発表の際に言うが、致命的なハンデじゃない事だけは言っておいてやる。まー、こっちもこっちでどうするか大変だったんだ。許せ」

「ちょっと――――!?」


 今度はBチームから上がる悲鳴。有利になったと思っていた状態からの墜落、衝撃は二倍増しだ。

 ま、こうなるんじゃないかとは薄々思っていたけどね。


「じゃー、異論は認めんという事で。それぞれ所定の場所で時間まで訓練だ。適当に見て回るので、何かアドバイス等必要な場合は声をかけるように……あー、それとだな宗谷」

「はい?」

「俺がこの条件でOKを出したのはお前が次は対策を練れる奴だと信じているからだ。まー、これは完全な私情だから此処でしか言わんがな。分かったか?」

「――はい!」

 

 宗谷が勢いよく返事をする。その様子からは、自身がチームを勝利に導くのだというやる気が明確に感じ取られた。杠信二もまた普段の行いからは想像できないが、有木柚木同様に良き指導者なのである。

 

「つーわけで頑張れよ……以上解散」


 その後ちらほらと文句を言う声は聞こえてはいたが、宗谷への激励を見て文句を大っぴらに言おうとする者は居なかった。

 そして各々が割り振られた場所へと移動を開始していく。

 僕もまた例外では無く、いつもの場所に向かおうと立ち上がると不意に声が掛けられた。


 桜海さんだ。


「約束、覚えてますか?」

「勿論。確か能力について話してくれるんだよね?」


 そう。昨日は僕が気を失ったせいで聞けなかったが、試合が終わった後に桜海さんから彼女の異能について教えて貰う約束をしていた。


「勿論秘密に、だよね」

「はい。……ですがもう一つの方も覚えていますか?」


 そういえば彼女からは二つと言われていた。一つは彼女の異能について言いふらさない、秘密にする事。そしてもう一つは僕の試合が終わった後に話すと言っていた筈だ。こちらについても僕が気を失った事で有耶無耶なりかけてしまっていた。


「そういえばそうだったね。……で、もう一つの条件って何?」

「……貴方の異能についても教えて欲しいんです」


 ◇


 という訳で、回想終わり。

 つまり僕に声をかけたのは桜海さんで今こうして同じ場所で訓練を行う事になったという経緯である。


「じゃあ行くよ?……本当にそんな大したものじゃないからね?がっかりしないでよ?」

「大丈夫ですよ。がっかりなんてしません」


 自己紹介も程々に他のチームメンバー達はそれぞれの特訓や調整に入っていた。

 この実習室に居るBチームのメンバーは個人で行動して敵チームを攪乱したり、或いは相手の動きを偵察する為の個人行動が主となるメンバー。だからこそ新しくBチームに加入した桜海さんもこの班と一緒の実習室に分けられたのだろう。


 そうして今は昨日の約束を履行する為、僕の異能力を見せる所。

 確かに僕の方の異能も彼女に教えるというのは正に交換条件だ。


「じゃあ行くよ――――」


 僕は異能領域を展開する。体内から体外へと展開される異能領域、異能者が異能を発現させる為の特殊な力場は目に見えないが確かにそこに存在している。

 この異能領域の展開速度や強度、規模なんかが異能の性能に大きく関わっているのだが……僕が展開している異能領域は余りにも――()()


 そして時間にして数秒かかりようやく――。


「――〈愚者一撃〉!!」


 僕の放った異能の一撃は少し離れた的へと真っすぐに伸びていき、着弾した。けれども先の試合の様にこの数秒は試合においては余りにも遅く拙い速度なのだ。

 それこそ桜海さんと試合をすれば僕が一回異能を放つ間に最低三回は倒されるだろう。


「……ね、だから言ったろ。僕は異能領域の展開速度が特別遅いんだよ。しかも異能の威力自体も然程高い訳じゃ無い。だからああいう試合形式じゃ僕は本当に弱いんだ……がっかりしたろ?」


 発現も遅く、威力も低い。なので僕は対人訓練、特に試合形式の訓練は本当に苦手だ。まず当てられないし、運よく当たったとしても普通の異能力者なら一発は確実に耐えられてしまう。そして二発目を撃つのに時間がかかり……と、この異能は本当に試合に向いていない。

 それでも団体訓練の様な状況ならやりようはあるので、こうして個人行動班に振り分けられたという訳だ。


「いえ、見せて下さりありがとうございました。……異能の状態は使用者のパーソナリティに大きく依存すると言います。異能領域の展開速度が特別に遅いというのは、もしかしたら何か心情に原因があるのかもしれません。何か思い当たる事はありませんか?」

「あー杠先生とか有木先生にもそんな事言われたなあ。でも結局原因は分からず仕舞いなんだよね、僕自身は見ての通り気楽に生きてるからさ。トラウマとか何にもないよ」


 戦場で心に深い傷を負った異能者はパーソナリティの変化により、これまでと同様には異能力が使えなくなるという事例が存在している。杠信二や有木柚木が指摘したのはそんな可能性だった。

 だけれど僕にはそんな事は起こっていない。これは僕が生み出された時からそういうものだった事だし、生まれ持ったものなので勿論トラウマとか心理的外傷も無い。


「そう、ですか……何にせよ交換条件は成立ですね」

「じゃあ次は桜海さんの番という訳だ」

「はい。ですがここで披露するという訳にも行きません。一応秘密なので」


 確かに。実習室は普通に広く、ここにいるメンバーとはある程度距離を隔てているとはいえ異能を使えば普通に見えてしまう距離。事実今いる場所からでも、他のメンバーの様子は確認出来ている。その逆もまた然りという事だ。


「じゃあどうする?また放課後どこかの空き教室でも借りてやる?」

「いえ、そこまでして頂くのは申し訳ないので……そうですね、口頭で説明しても良いですか?直接見せられないのは不公平かもしれませんが……」

「いやいやそんな事全然気にしないから!そもそも教えて貰えるだけでも何で僕が……?って感じなのにさ。不公平って言うなら僕の方が不公平だよ」


 桜海さんの異能は間違いなく強い。宗谷に圧勝してみせたその実力は本物だ。

 だというのに、少し関わって喋った事のあるだけの僕に自身の異能を教えるというのは不平等条約もびっくり事。彼女には特にメリットも無いというのに。


「そうですか?」

「そうそう。だから口頭とか全然気にしないし、寧ろその方が良いよ」


 結局このチームは今だけのもの。今回の団体訓練が終われば、今のチームメンバーは味方のままかもしれないし、敵になるかもしれないのだ。何なら昨日の様な対人訓練ではチーム関係なく試合もしていたし、異能を秘匿出来るのならそれに越した事は無い。

 そもそも異能者というのは自分だけの切り札を隠し持つもの。それを気にしたりはしない。


「ありがとうございます。では、私の異能……〈天撃〉について話させて頂きますね」


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