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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
45/82

Day3 いやまぁ、本気ですけども


 ■◇■


「おう!昨日は悪かったな。いや~うっかりしてたぜ。怪我とか残ってないよな?」

「うっかりも何も、いつもの事だから気にしてないよ。痛みも特に無いし。ただ……」

「ただ?」

「夜道には気を付けろよ」

「めちゃくちゃ気にしてるじゃねーか!?」


 当たり前だ。結構痛かったんだから。

 道木が良い奴なのは知っているし、そもそも試合形式での授業なのだかた変に手加減するという方が間違っている。道木の対応は有木も言っていたようにあれで正解だ。

 それはそれとして痛かったかた少しは恨むけどね。


「てかよ、少しはフィジカルとか鍛えろよな。自分の弱点とか分かってんなら尚更」

「は?何言ってるんだよ、俺の本当の本気なら圧倒的に勝利だっだからね?」

「じゃあ、あの試合は本気じゃ無かったのか?」

「いやまぁ、本気ですけども」

「ダメじゃん」


 とまぁ冗談は置いておいて、次の日の水曜日である。

 教室に到着するなり道木から謝罪を受け、軽い冗句を言いつつ自分の席へ進む。昨日とは異なり、人だかりは無く、今日はやけにスムーズに自分の席まで辿り着く事が出来た。

 思い出してみれば、昨日は桜海さんを囲むクラスメイト達の壁で席まで辿り着くのも一苦労だったし、一昨日は気絶した事でそもそも教室に来る事が出来なかった。久しぶりに普通の登校だ。


 どうやら桜海さんはまだ来ていないらしい。

 何かあったのかもしれないけれど、確率が高いのは昨日の騒ぎを鑑みて遅めに登校してくるという線。まだホームルームの開始まで時間もあるし、早めに来ても彼女にとって良い事は無い。どうせ囲まれて終いなら、遅めに来る方が心理的な余裕も生まれるってものだ。

 うん、こっちの方が無難だし彼女の考えつきそうな事だ。


 有木の話によれば昨日様子を見に来てくれていたらしいし、感謝を伝えておかないと。折角応援してくれていたのに無様な姿を晒したので少し恥ずかしいけれど……それと感謝はまた別口だし。

 あぁ、そういえば約束の件もある。今となっては履行するのか、って感じではあるのだけれど。


 と、考えつつ彼女の到着を待っていたのだが。


 ……遅い。

 もうすぐホームルームが始まってしまう。時計の針を見ればHRまで残り三分も無い。

 僕達のクラスの担任である杠信二もまだ来ていないが、彼の場合はよくある事だ。彼の場合はホームルーム直前にやって来るか、ホームルームが始まった後にやって来るかの二択なのだけれども。

 兎に角、普段遅刻ギリギリの僕でもこの時間には何とか教室に辿り着いているというのに、真面目な桜海さんがこの時間まで教室に居ないとは考えにくい。


「あー、お前等おはよう。ほら、席にとっとと戻れ」


 そうこうしている内に杠信二も教室に入って来た。

 時計の針を見る。長針はもう殆ど十二時の方向と重なっており、残り時間が一分も無い。チャイムが鳴る誤差を考えても一分と少し位。


 そしてチャイムが鳴り……。


「ではホームルームを始め――」

「すみません、遅れました」

「おー、来たか……今始まった所だ、さっさと座れ」


 間一髪と言うべきか、杠信二がホームルームの開始を宣言しようとした所で桜海さんは教室の中に入って来た。杠信二の性格から言って、よっぽどの遅刻をしない限りはホームルームに間に合わなくとも遅刻扱いにはしない。つまり実質のタイムリミットはもう少し後だ。褒められた行動じゃないけどね。

 なので僕も普段少々遅めに登校するのだけれど、転校したての桜海さんはそんな事を知る由も無いので慌てて登校してきたのだろう。

 汗一つかいてはいないが、昨日より髪が乱れている気がする。どうやら遅刻ギリギリとなって急いで来たというのは間違いないらしい。……というかなんかでかい鞄を持っている。


「じゃーこれで全員揃ったな。ではホームルームだ」


 今度こそ杠信二の言葉でホームルームが始まった。


 ■◇■


 桜海さんの遅刻?はあったものの、ホームルームは特に何事も無く終了した。ホームルームは毎日あるのでこういう日も勿論存在する。

 ホームルームが終わると杠信二は授業をするクラスに移動する為、さっさと教室を出て行った。


 流石に三日目となりクラスメイト達の興味関心も薄れたのか、或いは昨日の様子を見て近寄り難いと感じたのか。どちらも理由としてはあるのだろうが、ともかく昨日はあれだけ桜海さんの周囲を囲っていた人だかりは今日はもう見られない。


 席に座りながら身を捩り、ちらりと後ろを確認すると桜海さんはいつの間に整えたのかブロンドの髪は既に綺麗に流れており、彼女は次の授業の教科書類を机の上に準備していた。


「おはよう、桜海さん。有木先生から聞いたよ、昨日は様子を見に来てくれたみたいでありがとう。残念ながら僕は気を失っていて何にも覚えてないんだけどね」

「おはようございます。様子を見に行ったといってもすぐに帰りましたから。感謝される程の事じゃありませんよ」

「それでもね。そういえば今日は遅かったけど、何かあった?」

「特に何かあったという事は無いんですが……昨日借りた本を読んでいたらいつの間にか朝になっていて……。急いで準備をして来たのですがギリギリの時間になってしまいました」

「えッじゃあ寝ずに学校に来たって事!?」

「恥ずかしながら……。集中すると時間の流れを忘れてしまう癖があって……悪癖なのですが……読書に集中するとつい朝までという事が結構……」


 読書が好きというのは図書室を回った時に聞いていたけれど、それは凄い。妹も集中すれば時間を忘れる所はあるけれど、流石に次の日学校に遅刻しそうになるまででは無いし。

 あれ、というか……。


「本借りられたんだね?端末用意して貰えたんだ?」


 そう、桜海さんは転校の時期の関係かまだ生徒用電子端末を受け取っていない。図書室で本を借りる為にはこの端末で貸出の登録を行わなければならない。だからこそ昨日は諦めてそのまま帰った訳だけど。

 もしかした放課後、端末を受け取ったのかもしれない。


「いえ、端末はまだなのですが。あの後もう一度図書室に行ったら、昼休みと同じ図書委員の方と出会いまして。その後事情を説明したら、特別に自分の端末で私の分まで借りて下さったんです」

「成程ねぇ。それは思いつかなかったな……あーごめん、じゃああの時に僕の端末を貸してあげれば良かったな……」

「あ、謝らないで下さい。これは図書委員会の人間だから特別に許された事でしょうし……あの時に思いつかなかったというのは寧ろ普通ですよ」


 確かに桜海さんの言う通りではある。

 各生徒に配られた端末は、学園内で様々な設備を利用したり制度に登録する為に必要な生徒証としての役割も担っている。

 つまりデータとして個人を判断したり管理したりするのはこの端末の役割だという事だ。

 なので普通自分の端末を他者に貸し出したりする事は少ない。それは勝手に利用されても文句が言えないという事だから。

 信頼関係があっても面倒臭い事になる可能性は高く、実際過去には試験の入れ替えや訓練中の事故なんかも起こっているそうだ。


「結果的に通常より多くの本を貸し出して頂けたので、貴方が謝る事は何もありませんから」

「……そっか。なら謝るのは止めておこうかな」


 別にそれ程重い気持ちで謝った訳じゃ無いのだけど、桜海さんが気にするようならこれ以上無理に繰り返す必要も無い。相手が気にしている事を繰り返す程サディストじゃないしね。


「でもそっか、だから来るのが遅れたんだね。もしかして借りた本結構読んじゃった感じなのかな?」

「そうですね。借りた本ニ十冊、全部読み切ってしまいました」

「えっ!?全部!?もしかしなくても借りた本って昨日見てたあの分厚い奴とかも含めてだよね!?あれ一日でニ十冊全部読んだの!?」

「深夜には一通り読み終えたのですが気になったものをもう一周しようと呼んでいる間に朝になってしまい……本当に悪癖なんです……お恥ずかしい」

「いやいやいや恥ずかしいというか凄いよ」


 恥ずかしいというか最早特技だ。しかもニ十冊を一度読み終えて二週目に入ったという。どんな速読能力なんだ、趣味とかそういうレベルじゃないだろう。

 悪癖だと桜海さんは謙遜しているが、集中力は異能力を使用する時に必要となる重要な能力の一つ。もしかしたら彼女の異能の展開速度の速さの秘訣はこの圧倒的な集中力にあるのかもしれない。


「……で、どうだった?満足は出来た?」

「はい、かなり。流石は国立の異能者養成学園ですね。発行部数の少ない希少な書籍もしっかりと蔵書してあり、つい読み耽ってしまいました」

「へぇ。じゃあ一番のお気に入りは?それを僕も読んでみようかな」

「一番、一番……うーん、一番と言われると難しいですが……」


 彼女は少し迷う姿を見せ、自分の机の横にかけられた鞄の中をまさぐる。

 ……それ借りた本だったんだね。ニ十冊ともなればそりゃあ大きい鞄が必要となる訳だ。

 少し迷った後、彼女は一冊の本を鞄の中より取り出す。それは僕が想像していたような分厚い本では無く、新書本サイズの比較的薄く小さな書籍だった。


「そうですね、迷いますがこれが一番興味を惹かれました」

「何々……『超常犯罪と異能者の進化論』?小難しいタイトルだね」


 この本は昨日僕と見ていたものの中には無かった。つまり昨日追加で選んだ十冊の内の一冊という事だろう。タイトルだけ見れば超常犯罪……つまりは異能犯罪について書かれた本に思しいけれど、それと進化論というのはどういう関係があるんだろうか。


「内容は詳しくは言いませんが、この本の趣旨を簡単に言うなら『異能犯罪者の存在が次代の異能力を生み出して来たのではないか』という事について考察がなされている本です。内容は少し古いものにはなっていますが……今にも通じる所があり、少し珍しい論点でしたので一番に選ばせて頂きました」

「異能犯罪者っていうと昨日の授業でやってたみたいな?」


 丁度昨日の授業で扱った異能犯罪者。気を失ったというか色々あって濃密な一日だったからか昨日の事だというのに何だか遠い日の記憶のようだ。

 桜海さんが歴史が好きというのも、昨日の授業で判明した事だ。


「そうです。所謂『世代の壁』についても触れられているのですが……詳しい事は読んでみた方が早いですし、理解出来ると思いますね」

「オッケー、なら僕もこれ読ませて貰おうかな。あ、でも一度返してからね。流石に又貸しは怒られると思うからさ」


 少し今の自分には難易度が高い内容だが、しかし折角桜海さんがおすすめしてくれた本だ。時間はかかるだろうけれどゆっくり読ませて貰おう。

 その前に一度返却してからではあるけどね。ただでさえ特例で貸し出されているのだから、もし又貸しで僕に貸し出されたと判明すればややこしい事になるどころか図書委員のあの人に目を付けられるかもしれない。


「あ、そうですね。では昼休みに一緒に返しに行きましょうか」

「そうだね……ん?」


 あれ、何か今さらっと今日のお昼休みも休憩出来ない事が確定しなかった?


 ■◇■

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