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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
42/82

Day2 神々しさなら負けない

 

「……知らない天井だ」


 目が覚めると、白色が広がっていた。

 身体にかかる重力の感覚的に自分は寝転んでいて、目の前にある白色は天井らしい。

 そういえばああいうの何処から始まったんだろう。


「いや、昨日来たばっかりじゃないか。馬鹿言ってるんじゃないよ。どうしてそうも意識を手放すのが上手いんだい?もしかして態とやってないか君?」


 有木柚木がいつもの様に僕にツッコミを入れる。

 そういえばそうでした、昨日寝転んだばかりでした。


 身体を起こすと、有木が自身の定位置に座りながら此方を向いて珈琲を飲んでいた。


「態と気絶する程マゾじゃないです。今の期間は対人訓練で……道木の奴が加減を知らないんですよ。馬鹿正直に全力で殴らなくても良いのに……てて、まだ痛いな」

「馬鹿。道木は正々堂々やったんだよ。それに君も君で貧弱過ぎる。もう少し身体を鍛えるとかしたら良いのに何でしないんだい?」

「してますよ筋トレ位……なんか不運なだけで……」


 有木の言い分は正しい。

 道木のやった事は何一つ規則を違反してはいないのだから。規則で禁止された『過剰な攻撃』というのは気絶した僕に追い打ちをするような行為であって、普通に攻撃する分にはルール道理である。

 そしてあの道木がそんな非道な事をする訳が無い事位、クラスメイトとして過ごしてきたのだから知っている。だからこそ、手加減無しで瞬殺という事実がキツイ所ではあるのだろうけれど。

 僕は気にしないよ?


「で、今何時ですか?もしかして結構経ってます?」

「おめでとう。馬鹿みたいに長かった前回よりは短いよ。流石に授業は終わっているけれどね、大体半時間位かな」

「あちゃ~まぁそうですよねぇ」


 元々僕の試合は最後の組だった。なのでそりゃあそうだ。半時間とはいえ気を失えば授業も終わる。

 そもそも前回が長すぎた。原因不明の攻撃による気絶なので、何故それだけ気を失っていたかは分からないが。今回は理由も分かっているので半時間というのは妥当だろう。


「一応検査しておくかい?まぁ道木の事だから上手にやってくれているだろうけど。……あぁそう、ついさっき二人君を訪ねて来た生徒が居たよ」

「え、もしかして女子でした?それも綺麗なブロンドヘアに青い瞳の」

「やけに詳しいな……でも合ってるよ。噂の転校生の子だね。名前は確か……そうだ、桜海ソラさん。初めて会ったけれど、確かに噂になりそうな見た目の子だったね」


 どうやら僕が気を失って運ばれた後、様子を見に来てくれたらしい。さっきという事は、授業が終わってその足で訪ねて来てくれたのだろう。

 そういえば試合が終わったら異能の事話してくれるって言ってたなぁ。応援してくれたのにかなり情けない姿を見せてしまって大変に申し訳ない。

 が、僕は気にしないよ?……本当。


「ん?というか二人?」


 気にしていなかったけれど、二人というのは二人という事だ。

 しかも有木が何も言わなかったという事はもう一人も女子という事だろう。


 でも誰だ?これまで僕が倒れた時に救護室に来てくれた女子なんで居なかったのだけれど。


「ああそうだよ。というかもう一人はすぐそこで待っている」

「へ……?」


 有木が珈琲を飲みながら、救護室の隅に置かれているソファの方を指さす。

 僕はその咆哮を見る為に身体を動かし、カーテンから顔を覗かせると……


「……あぁ、やっと起きたんだね」

「なんだ……玉記か。うっかり僕はクラスの女子が見に来てくれたのかと思ったよ」

「なんだって何?折角待っててあげたのに失礼じゃないの」


 そこに居たのは僕の妹、玉記だった。

 いやまぁ玉記も荒日学園に通う学生な訳だし、そりゃあ居てもおかしくないのだけれど。寧ろ兄妹である事を考えれば、当然と言えば当然なのかもしれないけれども。


「でも出来るなら他の女の子が良かった……!」


 そういう学生らしいイベント経験したい。


「まじでキモイんだけど。……まぁいいや。早く帰るよ、今日の晩御飯の買い出し手伝って貰いたいんだからさ。荷物持ちたいでしょ、兄さん好きだもんね荷物持つの」

「誤解があるし、そんな理由で待っててくれたんなら寧ろなんか辛いものがあるんだけれど?」

「はいはいキモイキモイ」

「そんな凄い凄いみたいなテンションで罵倒されても」


 そういえば今日は買い出しの日だったか。昨日の晩そんな事を言っていた様な気もする。

 家の家事分担は正直適当だけれど、大まかに買い出しなんかは僕の担当になっている。時々玉記が目当てのものを買う為に付いて来る事もあるが、それもたまたまだ。

 今日ここに残って待っていてくれた理由は、つまり今日の買い出し担当の僕が目覚めるのが遅くなれば買い出しが出来ないからという事なのだろう。決して自分一人では行きたくないというのが玉記らしい。

 でもこれブラコンとかじゃなくて、自分一人苦労するのが嫌なだけなんだよね……。


「有木先生待たせて貰ってありがとうございました。兄も目覚めたのでそろそろ帰らせて頂きます」

「待つ位全然良いよ。こっちの馬鹿に比べたら何百分の一程度の滞在時間だしね。君も大変だね」

「分かってくれる人が居るだけで救われます……ほらこれ以上迷惑かける前に行くよ」

「僕は厄介なペットか何かなのか??」


 流石に扱いが酷いよ。そりゃあこの前買い出しの日に救護室行きだった時は買い出しをすっかり忘れて家に帰ってしまったけれどさ。それだって態とじゃない、不可抗力みたいなもんだ。


「そんな事は思ってないよ。だって……」

「だって……?」

「ペットに荷物は持たせられないでしょ?かわいそうじゃん」

「じゃあもうそれはペット以下だよ!!殆ど下僕だよ!!」


 実の兄をペット以下だとぅ!?

 幾ら愛すべき妹とはいえ限度がある。


「それじゃあお世話になりました」

「……お世話になりましたー」


 釈然としない気持ちだけれど、しかし玉記が態々僕を待ってくれていたというのも事実。

 それに正直有木には迷惑をかなりかけている。色んな事を融通してもらっているのだし、事情を知っている玉記が気を使うというのも無理は無い話だ。

 にしたって下僕扱いは酷いとは思うが。


「はいはい。暫くはここに来ない事を祈ってるよ、お大事にね」


 そうして優雅に珈琲を啜る有木は手を振りながら僕等を見送った。


 ■◇■


 荒日学園を取り囲む伊野異能特区。

 復興からの発展を遂げた森影異能特区とは異なり、後天的に都市が異能特区と認められた形式の伊野異能特区は認定前の街並みをそこそこに残している。

 全てが全て古い訳では無いが、主な道路は変わっていないし、多少再開発が行われたとはいえ森影異能特区に比べれば誤差のようなものだろう。


 なので伊野異能特区内の商業施設というのも、様々なものが存在している。

 数は少ないが個人商店もあり、大規模なショッピングモールも存在しているのだ。

 そして今僕等が買い出しに来ているのもまた、そういった所謂町のスーパーである。


「兄さん、こっちの方が安いからそれは戻しておいて。ああそれとポン酢がもう無いから取って来て」


 カートを押しながら、事前に用意していたメモを片手に玉記が僕に指示を出す。


「そういえば今日の晩御飯は何?」

「今日は二日目のカレー。それで明日は冷しゃぶでもしようかな。母さんから送られて来たお肉がまだ余ってたし、使い切ろうかなって思って」

「だからポン酢ね、了解」


 因みに我が家のしゃぶしゃぶはポン酢である。

 ゴマだれもあったら使うけど、うちでは家族そろってポン酢派だ。


 調味料コーナーで普段使っているポン酢を手に取り玉記を探すと、玉記は総菜コーナーで何やら迷っている様子だった。


「ほら、ポン酢。……何見てるんだ?」

「ん、ありがとう。カレーだけだと寂しいかと思ってみてたんだけど、正直心惹かれるものは無いかな」


 確かに並んでいる総菜はいまいちパッとしない。というか久しぶりに総菜コーナーに来たからこのスーパーの定番とか覚えてないな。

 残っているのは、『食べるけど態々買う程好きでもないなぁ』って感じのものばかりだ。


「あ、でもコロッケとか、唐揚げとか……こういうのカレーに乗せて食べるのは?」

「そうだね……うん、そうしよっか。じゃあどっちでも好きな方取って良いよ」

「じゃあ唐揚げにしようかな。王道な気がする」

「なら唐揚げにしようか」


 自分で言っといてなんだけれど、カレーにはコロッケより唐揚げの方がメジャーだろう。

 唐揚げカレーは王道な組み合わせな気がする。


「……そういえばさ」

「ん?どうした玉記」


 僕が四個入りか六個入りかで迷っていると、後ろから玉記が話しかけてきた。


「調子はどう?その、昨日の今日だしやっぱり何かあるんじゃないの?」


 あぁ成程、やはり玉記は僕にとって愛すべき妹なのだ。

 救護室で口ではああ言っていたけれど、こうして買い出しについてきてくれたのは僕の体調を気遣っての事だったのだろう。


「心配してくれてたんだ」

「当然でしょ。家族なんだから」


 家族。当たり前のように彼女はそう口にする。

 昨日と同じ、彼女はこの言葉を何ら恥ずかしいとは感じていない。


 でも、玉記が口に出すのをためらうのには理由があるだろう。


「大丈夫だよ。昨日のは意味不明原因不明だったけどさ、今日のはクラスメイトとの対人訓練で僕が油断したからだ。道木……相手も悪いやつじゃないし、訓練だしこういう事もあるさ。体調も有木のお墨付きだし、もうぴんぴんしてるよ」


 油断が理由ではない事は黙っておく。


「なら、良いんだけどさ」


 僕が手に持っていた唐揚げを受け取り、籠の中に入れると玉記はそのままレジの方へと向かう。

 その後ろを僕もまた追いかけるのだった。


 ◇


 家に帰り、食卓を囲んでいると、再び玉記が何かを思い出したかのように話始める。 


「あ、そうだ」

「今度は何?またなんか思い出した?」

「桜海さんだよ、兄さんの事はもういい」


 僕等は二日目のカレーに唐揚げを乗せて食べている。

 久しぶりに食べるけど唐揚げは無難に美味しかった。


「また桜海さん噂になってたよ。今日の実習で凄かったらしいね」

「あぁ、そうだった。うん、凄かったよ。まさかあの宗谷を瞬殺とは思わなかった」

「らしいね。もう結構広まってるよ。『噂の美少女転校生、実習で対戦相手を瞬殺!』とか何とか」


 いや文字通りだけど。美少女転校生って単語にするとなんか恥ずかしくない?

 僕の瞬殺とは大きな違いだ。


「兄さんも瞬殺だったのに、そっちは噂になってないね」


 思わず口に入れてた白米を噴き出す。


「ちょっ。キモイし汚い!」

「おい!有木から聞いてるんじゃないか!!」

「そりゃあ聞くでしょ、というか有木先生も話すでしょ身内なんだから」


 そうだけれども。

 桜海さんが瞬殺して注目されてる中で、僕が瞬殺されてひっそり寝込んでいるのは最悪の対比関係だ。今日一日桜海さんと話していた僕だから、余計にそう思ってしまうのかもしてないけれど。


「てかいつもの事じゃん。兄さんが倒れて救護室行きなんてさ」

「道木とは相性が悪いんだよ……あいつ凄い速いんだ」


 それも桜海さん程では無いが。

 道木は今日初めて戦ったから、僕も今までにない位普通に瞬殺されただけで普段はもっと善戦してるさ。敗北には変わりないけども。


「悔しいなら本気出せば良いじゃん」

「出せるなら出したいさ……」


 まぁ本気出せば神々しさなら負けてないし?

 それに実践では瞬殺とか関係ないさ。騙してでも、狡い手を使っても、姑息な手段で生き残っても、最終的に勝っていれば同じことなんだから。

 と、言い訳をしておく。


「……なら出せば、本気」


 玉記からの鋭い指摘をスルーしつつ、僕は静かにカレーを口に運ぶのだった。

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