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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
40/82

Day2 一概に言える強さもあります

 

 ■◇■


 制限時間三分というのは短いようで長い。


 異能者の身体強化というのは単に運動能力を強化するに留まらない。そこには当然、強化された肢体を動かす為の思考力の強化も含まれる。簡単に言えば、頭の回転が速くなるのだ。

 誰にでも経験がある様に、思考が加速すると時間の流れが遅いように感じ始める。

 そうなれば三分という時間は数字以上の長さになるのだ。


 これは最大出力を維持できるのかという問題もあるけれど、もう一つは戦況の停滞にある。


 異能者の戦いというのは相性が大きな割合を占めている。

 それを覆すのが戦術であり、技術であり、切り札と呼ばれるようなもの。

 では、それらさえも戦況を変化させるに足るものでは無かったのならば。


 残っているのは先程の無鯛さん対椅子木の試合だ。

 近距離潜伏主体の無鯛さんと、広範囲制圧主体の椅子木。お互いに決定打を持たない試合。

 無鯛さんは近づけず、椅子木の異能の威力では無鯛さんの異能領域に阻まれダメージを与えらえれない。千日手にも等しい試合だった。


「まぁ、それを覆せるように鍛えるのも異能者の義務なんだろうけどね」

「椅子木さんに押し切る力があれば、或いは無鯛さんにもう少しの工夫があれば結果は変わっていたかもしれませんね」

「難しいとは思うけどね。まぁ向き不向きだから。これだけじゃ測れないよ」


 例えば団体訓練において無鯛さんの〈無息歩行〉は場に存在するだけで警戒に値する。

 息を止めているという制約はあるが、制約故の隠密能力は防衛線においては特に脅威になるだろう。


 そして椅子木も同様だ。椅子木の本領は遠距離からの前線の支援。彼が直接火力を叩き込むのではなく、複数の敵を相手に活躍する能力なのだ。


「ではこの訓練には意味が無いと?」

「そうは言ってない。創意工夫は大切だからね」


 創意工夫は必要だ。停滞は退化に等しく、創造無くして進歩は有り得ない。

 人類の歴史は、創造行為の賜物なのだから。


「では貴方ならどう戦いましたか?」

「それはどっち側の目線での話?無鯛さん?それとも椅子木?」

「そうですね……無鯛さんの方でお願いします」


 僕が無鯛さんならどう戦ったか、ね。


「そうだね……まずは速攻を仕掛けるかなぁ。開始後速攻で透明化して、背後に回る……と足音とかでフェイントをかけて前から殴り飛ばすとか?実際無鯛さんの異能の使用感がどんなものか分からないから、あくまでアイデアだけど」

「ですがそれは無鯛さんもしていた事ですよね?」


 そうだ。今僕が言ったのは無鯛さんがさっきの試合で最初にした事。

 でも椅子木は彼女の異能が透明化だと知っているから、透明化に反応して円の中に異能をばら撒く様に発動させて居場所を炙り出した。


「そうだね。でもどうせ椅子木の攻撃はそんなに効かないんだから押し切るよ、僕ならだけど」


 最後にはお互いに決めて無しで停滞していたのだ。

 なら少しの被弾は無視して速攻で決めに行った方がまだ勝ちの目がある。


「成程……自身の肉体に強固な異能領域を纏う、自己対象の異能ならではの特攻という事ですね」


 肉体変化系統や、自分を対象にして発動する異能等は体外に向けての異能領域展開を不得意とする代わりに自身の肉体に展開する異能領域の強度は他の異能よりも高い傾向にある。

 だから椅子木の異能では無鯛さんの異能領域を突破出来なかった。


「言い方は酷いけどね。でも桜海さんだってそうするだろ?」

「そうですね……お互いに異能の情報が割れている状況なら、少しでも早く決着を急ぐでしょうね」


 結局この試合は互いに互いの異能の事を知っていて、制限時間範囲制限付きという実践とは程遠い状況なのだから本人がその場でどう動くかしかないのだろうけどね。


「さて!次の試合を見ようかな。僕は最後の組だし」

「私はこの次ですね。そうだ、私の試合が終わったら貴方の試合を見に行っても良いでしょうか?」

「えぇ~いいよ、別に。僕の試合なんて見ても面白く無いよ?本当に」

「応援してくださるのですから、私も応援しないと平等じゃありませんから。それに貴方がどんな風に戦うのか、興味があるんです」

「えぇ~……まぁ良いけどさ。でも本当に僕は退屈だと思うよ?」


 僕の試合は見応えが無いよ?謙遜とかでは無くて本当に。

 しかもよりにもよって相手はアイツだし、これは本当の本当に見所無く終わっちゃうかもしれないのに。


 でも確かに応援の件を持ち出されると断る方が悪い気がする。桜海さんは僕が応援すると言ったら素直に受け入れてくれたのだから。


「はぁ、じゃあ良いよ。でも、過度な期待はしないでね?いやホント」

「はい。楽しみにしていますね」


 うんこれ、分かってないね?


 ■◇■


 あんまり長ったらしくしても仕方ないのでダイジェストで。


 続く二回戦。現在僕らの見ている円で試合を行ったのは、的場さんと津島さん。

 勝利したのは的場さんで制限時間内で決着が着いた。


 試合内容は的場さんが一方的だったという訳では無いけれど、先にエネルギー切れを起こした津島さんが降参をした事で的場さんの勝利が決まった形である。

 津島さんの戦闘スタイルは短期決戦型なので、最初の攻防で押し切れ無かった時点で相当に厳しい試合だったとも言える。

 的場さんは試合中防戦一方だったのだけれど、津島さんが降参を選んだ事で救われた感じかもね。とはいえ津島さんに勝機は無かったので仕方ない。


 さ、この試合に関しては以上。

 という事で。


「頑張ってね」

「はい、頑張ってきますね」


 やって来たのは三回戦、桜海さんの試合。

 合間合間に休憩を挟んでいるので体感としては結構待った感じだ。


「アドバイスは出来ないから、後方で腕組みしながら見守っとくね」

「?はい、ありがとうございます」


 あ、伝わってない。


「では行ってきますね」


 円の中に桜海さんと対戦相手が入る。

 お互いに円の中心に歩み寄り、開始線の所で歩みを止めた。

 別に円形だから何処から入っても良いのだけれど、こういうのは大概対戦相手が対面になるように入場していく。まぁ慣習というか気分的なものだろう。


 両者対面し、互いの表情を確認しているようである。


 桜海さんの対戦相手はクラスの中でも上位の実力を持っている奴だった。

 眼鏡をかけた誠実そうな男性。名前を宗谷智晴(そうやともはる)


 彼女には結果として伝えなかったが、彼の実力は本物だ。クラスの中の上位、学年全体で見てもかなり良い位置に居る事は間違いない。それだけ実践に寄っている異能者という事でもある。


 異能力も戦闘に非常に特化した異能なのだが、しかし彼の特筆すべき点は彼自身のスペックだろう。

 見た目通り質実剛健な性格の彼は、例え相手の情報をある程度知っている訓練での試合であっても実力を見定めてかた戦い方を決定する戦闘スタイル。

 まぁある意味では誠実とは真逆の嫌な戦い方ではある。


 彼の異能は創造系統の中でも珍しい創造系統現象系typeルール。

 『現象』を創造する現象系の中でも『法則』を生み出す希少な異能力だ。

 創造系統現象系のあるタイプを除けば、異能者の中で最大数を誇る創造系統の中でも最も珍しいともされているのが創造系統現象系typeルールなのだけれど、その珍しさに見合っただけの効果はある。


 もう一年も同じクラスなので僕はそれ程感想も出て来ないけれど、しかし彼女にとっては宗谷との試合は初見。僕達が知っている対策も彼女は知らない。

 特にtypeルールは対処法を知っているか否かで、攻略難易度が大きく変化する。それでも『法則』という目に見えないものを扱っているだけあり、単なる力押しでは何ともならない場合が多い。


 だからこそ僕は彼女に宗谷の異能を伝えたかったのだけれど、彼女は断る時こうも言っていた。


 ―――私の異能は初見の方が望ましいんです。


 自身の異能が戦う相手にとって初見である事は、おおよそ全ての場合において望ましい事だ。

 しかしああも言い切るという事は、彼女の異能には何らか初見殺しの要素があるという事なのだろう。

 だからこその自信だった筈だ。


 この試合は桜海さんの異能、そしてどちらが先に相手の異能力を攻略するのかが鍵になるだろう。


 さて、どうなるのかな。

 勿論応援しているのは桜海さんだ。まぁ約束もあるけど、それ以前に応援したくなったから。

 今朝の騒ぎようといい、彼女には人に好かれる才能があるのかもしれないね。

 僕も今日少し一緒に居た位で、長い付き合いのクラスメイトよりも応援したくなっているのだから。


「あー、全員準備は出来ているな?」


 杠信二の確認に対して、生徒達は無言の肯定で返答する。


 この試合が、他のどの試合よりも注目されているのは見ている生徒の数が証明している。

 皆、桜海さんの異能がどんなものなのか知りたがっているのだ。

 そして宗谷とどう戦うのか、どのようにして異能を攻略するのか。


 注目の理由はもう一つあった。

 初見同士の試合は最近行われていない。故に目の前の初見同士の試合がどのように展開されていくのか、皆実践に近いこの試合に興味を示していたのだ。


「よし。では――――始め!」


 開始の合図。

 僕は円の内に居る二人を見ていた。


「異能、展開――」

「異能力――」


 二人が同時に異能の引鉄(トリガー)を引く。

 円の中に満たされる両者の異能領域。

 

 宗谷の異能はtypeルール。異能領域の内部は彼の領域(テリトリー)、彼は自身の異能領域内に新たな法則を適用する。


 そして――。


「〈理――」

「〈天撃〉」


 早く、宗谷の異能が完全に適用されるよりも早く、彼女の異能が顕現する。

 

 瞬間――――宗谷の身体が崩れ落ち、いや墜落する。


「――ガッ!?」


 彼を貫いたのは青く輝く雷光。速く、鋭く、凶悪な電撃。

 〈天撃〉と呼ばれたそれは、いとも容易く宗谷の身体を貫いた。


 その場で膝を着き、そして前へと彼の身体は倒れる。

 バタン、という音が円の外に居る自分達の元へと届いた。


 あぁ――成程。

 僕はどうやら勘違いしていたみたいだ。


 僕は彼女の言葉を聞いて、彼女の異能が宗谷の様に初見殺しの要素を含んでいるんだと考えていた。或いは初見であるからこその強みがあるんだと考えていた。


 でも、それは全くの逆だったのだ。

 彼女の言う『初見の方が望ましい』とは、文字通りの意味でしかなく。本当に『初見の方が上手く行く』位の意味合いでしかなかった。それ以上でもそれ以下でも無かった。


 つまり、関係なかったのだ。

 彼女にとっては相手の異能は関係なかった。

 相手よりも速く異能を展開できて、そしてそれが一撃必殺の威力を有しているのだから。


 強さは一概には言えない。

 異能とは相性の差が大きな要素となるから。


 だだ、一概に言える強さは存在する。


「――ありがとうございました」


 それは、単純な強さ。

 相性に左右されない、高い実力と技術、そして才能に裏打ちされた単純な力。


 かの〈世界最強〉や〈魔王〉の様に。

 単純に強いという才覚。

 

 試合時間は数秒。

 伏して動かない宗谷と無傷で開始地点から動いていない桜海さん。

 誰の目から見ても勝敗は決していた。

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