Day2 強さとは一概には言えない
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何とも盛り下がってしまった昼休みだったけれど、兎に角僕達は学園を回り終えた。
正確にはその全てを回り切ってはいないし、まだまだやろうと思えば紹介も出来るのだけれど、限られた昼休みという時間だけでは主要な施設だけが限界だ。
でもそれなりに頑張って紹介したのだから誉めて欲しい。
という訳で、午後の授業である。
午後からは杠信二も言っていた様に実技の時間。特に団体訓練が次の月曜日に迫っている最近の午後は殆どが実技訓練の授業に充てられている。
普段から異能学園という事もあって毎日実技はあるけれど、それでも午後からの授業全てが実技になるというのは流石に団体訓練前等の特別な期間だけだ。これでも学生だし、実技以外にも異能に関して学ばなければいけない科目は山ほどもあるのだから。
そして土日と休んで更に月曜日は気絶していたのでうっかり忘れていたけれど、今日からは毎日実技訓練。種類は様々だけれど、割合的に多いのはやはり集団演習や今から行われる対人戦闘訓練……所謂一対一の戦闘を想定した模擬戦だ。
「あー……一、二、三……まぁ居るだろ。揃ったな、じゃあ始めるぞ」
「せんせー適当過ぎでーす」
「態々数えなくても見りゃ分かるんだから良いんだよ」
僕達が今居るのは幾つかある実習室の内の模擬戦用の部屋。
この部屋は実習室の中では一番シンプルな造りで、それなりの広さの円形のステージが部屋の中に四つ設置されているだけの部屋だ。つまり同時に四試合並行で戦闘出来る。
「じゃー、今から今日の相手を決めてくからしっかり確認しろよ?……ほいっと」
気の抜けた杠信二の合図と共にモニターに二名ずつのペアで名前が表示される。自分の名前と共に表示された名前の人間が今日行われる模擬戦の対戦相手という訳だ。
これが桜海さんが転校してくる前はこのクラスは奇数だったので毎回一人余りが出て、二回分模擬戦をする人間が改めて選出されていた訳だけど、今はきっちり二名ずつ全てのペアが表示されている。
勿論その中には僕の対戦相手も。一年も一緒に実技訓練を受けていてもクラスメイト達全員とは中々戦わないもの。今日の相手も初めて当たる相手だった。
ついでに桜海さんの名前も探すと、僕の少し前に名前が見つかった。
どうやら対戦相手はこのクラスでも結構な実力を持っているやつみたいだ。
「あー、では一番から四番まで円の中に入れ。時間は三分で区切りだ。あーもう分かってるとは思うが過剰な攻撃意思を伴った攻撃は禁止だからな?もしやったら、即刻止めに入るからそのつもりで」
杠信二が面倒臭そうに注意を終えると一番から四番に表示されたクラスメイト達はぞろぞろと自分の番号の円の内側に移動していく。
この注意もいつも通り、聞き慣れたものだ。
当たり前だけれどこれは模擬戦なので、過剰な攻撃行為は禁止である。一応詳しく言うと、『必要性のお伴わない異能による肉体への強力な攻撃行為』とかだった気がする。
「五分後一斉に開始だ。準備運動はしっかりやっとけよ」
さて、僕もストレッチでもしておくか。
と考えていると横から僕に声がかけられる。桜海さんだ。
「普段もこの様に訓練を?」
「ん?まぁそうだね、基本的にはそうかな。一時間分しか授業時間無い時には前半後半とかに分けて片方はその時間ずっと見学とか。今は団体訓練前だし、時間にも余裕があるから結構自由だけど」
「確かに見る事も重要な学びになりますからね」
「貴重な情報源だしね」
実際、何かを生み出すには何かを吸収して取り入れる事が必要不可欠だ。
アウトプットにはインプットがセット。それに見学すれば同級生の戦術や異能なんかを把握出来る。これでも授業だから勝敗は成績になるので普段の情報集めは大事だ。
あぁ、そういう意味では彼女にとってこの試合は不利だ。
僕らは今までの時間、このクラスで何度も実習を行ってきた。実際に戦った事は無くとも、クラス全員がどんな異能でどういう風な性格なのか、どういう戦い方なのかは知っている。
けれど桜海さんは完全に無知の状態。
これはハンデを抱えているに等しい。
「あの、良かったらなんだけどさ」
「はい?何でしょうか」
「良かったら君の対戦相手の事、少し教えようか?」
だから僕は
提案する。しかし彼女は微笑みながらこう返した。
「お気持ちは嬉しいです。ですが、遠慮させてもらいますね」
それは否定だった。
「そっか、じゃあ止めておく」
「はい。気を使ってくれたんですよね?……ですが私が彼等の事を知らないのと同じ様に、彼等も転校生である私の事は知らないんですよ?」
あっ。そういうえばそうだ。
僕はてっきり桜海さんがクラスメイト達の事を一方的に知らないものとばかり考えていたけれど、それは僕等の方も同じ。転校生である彼女の事は、この場にいる誰もが未知のそんざいなのだ。
……ん?
「あれ、じゃあ昨日の実習では異能は使わなかったんだ?」
考えてみればこの一週間は毎日実習がある筈だ。僕は毎日の時間割をいちいち確認していないのが、それ位は覚えている。今日忘れていたのは単なるうっかりで、覚えている事には覚えているのだ。
「はい。昨日はまだ実技参加の同意書にサインして居なかったんです。それに昨日の実技は午前中だったようなので、タイミングが悪く私は参加出来ませんでした」
「あ~~そういえばそんなの書いた覚えがあるなぁ……それは運が悪かったね」
入学時は大量の書類を整理して記入して提出してだったので詳しくは思い出せないけれど、そんな書類にサインしたような気がする。異能の実技訓練は時として大きな事故に発展する恐れもある。なので学園側は予め実技参加の同意書を作成しておくのだ。
「はい。ですがこれはアドバンテージでもあります」
「へぇ、それはどうして?」
「確かに私は皆さんの異能がどういうものか知りません。ですが、彼等も私の事を知らなければそれは完全な実力の勝負ですから」
「……凄い自信だね」
それは『対策さえ練られなければ私が必ず勝つ』と言っているのと同じだ。
そこまでの自信があるのか。それ程に彼女は強いのか。
「ああ、いえ!そういう意味では無くってですね。……私の異能は初見の方が望ましいんです」
「あー……そういう事か」
「はい、ですから寧ろ私は知られていない今の方が有利なんです」
異能の強弱を決める要素は幾つかある。
異能領域の強度や範囲、異能者のエネルギーの大小、或いは能力・効果。
こういったものの中でも相性は捨て置けない要素だ。
極論、異能とは相性ゲームなのだから。
相性の悪い異能には余程異能者同士の間に実力差が無ければ有利不利は覆らない。
強さとは一概には言えないのだ。
「じゃあ応援だけでもさせて貰おうかな。桜海さんの番には全力でね!ほら、桜海さんの対戦相手は男子だから!……って、これも情報を渡した事になるかな?」
「ふふっ、それ位なら全然大丈夫です。気持ち、有難く受け取っておきますね」
なんて話していると、一瞬だけ桜海さんが静かになる。
そして一瞬の後に口を開いた。
「あの……良かったら私の出番まで一緒に居ても良いですか?」
「えっ!?いやまぁ、良いけど……?……何で僕に?」
おいおい、急に言われるからびっくりしちゃったよ。
何度も繰り返すけれど、桜海さんは可愛い。それはもう超絶美少女のエンジェルだ。
そんな彼女に急にこんな事言われたら普通の人間なら驚くに決まってる。
「……クラスの皆さん、質問の勢いが凄くて。一緒に居ると……ちょっと」
「……一緒に見よっか」
納得の理由である。
そりゃ昨日から今朝の調子じゃ疲れるよね……。幾ら可愛くてもだからといって普通の女子高生、質問攻めはそりゃあ疲れるに決まっている。
同情しつつ、僕らは開始まで軽くストレッチをした。
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ドンパチ、ドンドン。
或いはガンガンとか、ガキィンとか。
あーボンッとかもあるかも。
「皆さん真剣ですね」
「そりゃね。団体訓練は集団行動が基本だけど、やっぱりここぞで問われるのは個の実力だから」
「私が言いたいのは……いえ、やっぱり大丈夫です」
「?」
四つある内の一つ。主観で一番盛り上がりそうな場所に来ていた。ついでにここは桜海さんの出場する円でもある。
実習室は広いとは言っても閉じられた空間だ。なので当然他の円の戦闘音も聞こえてくる。
「まだ全員の名前を覚えきれていないのですが……彼等は?」
「女の子の方が無鯛さん、男子の方が椅子木だね」
実力はどっちもランク3上位ぐらいかな。
「……椅子木君の方が優勢ですね」
「だね。無鯛さんはよーいドン!で始まる戦いが苦手だから」
「その様ですね。明らかにペースが崩されています」
「無鯛さんを応援したいんだけどねぇ……流石に椅子木が相性有利かなぁ」
無鯛さんは攻防の隙間から懐に潜り込もうとするが、しかし椅子木の異能に阻まれ近づけない。
こういう試合形式だと不意を付けない無鯛さんは不利だ。
「無鯛さんの異能は『透明化』で合ってますか?」
「それで合ってるよ、条件はあるけどね」
「……『息を止める』ですね」
いや、鋭過ぎるだろ。
見ただけでそこまで把握出来るもんなのか?
「うん、正解。『息を止める』っていう条件の代わりに無鯛さんの〈無息歩行〉は発動中、異能領域を最小限に抑えられるんだよ」
「ならこの試合形式は厳しいですね。円が狭過ぎます」
「本当なら油断してる相手をドンッ!って戦闘スタイルだからね……けどそういう不利も含めて訓練だからさ」
攻めあぐねているのがよく分かる。
対して椅子木の方は典型的な創造系統現象系タイプエレメンタルの異能だ。
一点では無く、面に対する制圧を得意とする戦法。
広範囲に及ぶ異能の範囲は無鯛さんにとってはかなりやり辛い相手だろう。
椅子木の方も無鯛さんに有効打は与えられてないのだけれど、格闘技と同じで攻めあぐねている方よりは積極的に攻めている方に評価は入る。
そして、「そこまで!」という杠信二の声が教室に響き第一試合は想像通りに椅子木の判定勝ちで幕を下ろした。




