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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
36/82

Day2 初めましての方は初めまして

 

 次の日、僕は昨日の反省を活かして普通の時間に家を出た。

 僕達兄妹は部活や委員会に属している訳じゃ無いので、朝練なんかも当然無い。

 まぁ朝練とかがあるのは相当意識の高い部活だけだろうけれど。荒日学園内でも運動部系で二、三個有るだけだ。


 異能者を競技に組み込むのは難しい。異能は十人十色、千差万別であり一括りに全てを扱う事は出来ないから。

 そうなればレギュレーションを組むのも困難になる。異能者は異能エネルギーで幾らでも身体能力を強化出来るし、達者な異能力者ならバレずに自身の異能も使えてしまう。

 だから文化部なら兎も角として、運動部も幾つかの競技を除いては異能の使用を全面禁止というスポーツマンシップに頼った形で競技を行っているのだ。

 それに素の身体能力を強化するのは決して無駄じゃない。身体能力強化だって基礎が強い方が良いに決まってる。

 因みに幾つかの競技というのは異能の使用をある程度ルールの範疇に取り込んだ競技で、こっちもそんなに多くは無い。


 まぁ長くなったけど、何が言いたいのかと言うと。


「ブツブツ何言ってんの?」

「いや、何でもないよ玉記……独り言だから」

「寧ろそっちの方が怖いんだけど?」


 今日の登校は妹、玉記も一緒だという事である。

 そりゃあいつも僕の方が遅い時間に出てるのだ。()()の時間にずらせばこうなる。

 こう言うと僕が普段遅刻ギリギリみたいなので訂正しておくと、ギリギリでは無い。ちょっと遅め位だ。


「それで、今日は大丈夫そう?」

「まぁテンションも落ち着いたし大丈夫だと思うよ」

「いやまぁそっちもだけど、身体の方。一応昨日倒れてんだからさ」

「おっ心配してくれるのか」

「心配位するでしょ家族なんだから。てかキモイ」


 相変わらず途轍も無いツンデレだ事。

 玉記は誰に対しても態度を変えないし崩さない。ある意味では常に態度が崩れてるからなのだけれど、美点ではあるのだろう。分け隔て無く、悪意無くこんな感じなのだ。


「転校生、桜海さんだっけ?凄い美人だし今日も騒がれてるかもね。転校生って大変だね」

「…………」


 は?


「何でもずっと海外に居たとか。噂だけど、ブロンドに青い眼だったらそっちのが確率高そうだよね」

「す、凄いネタバレだよ!!楽しみ奪われたよ!!実の妹に転校生イベントネタバレされた!!」

「ちょっと…急に叫ばないでよ、キモイよ」


 テンションは落ち着いたとはいえ一日お預けされた分期待値は高まっていたし楽しみにしていた。

 そもそも昨日から想像に妄想を重ねて楽しんでいたのだ。それも転校生イベントを経験する為に。


「なのに全部ネタバレされたよ!」

「まじで恥ずかしいから……離れてくれる?」

「ていうか玉記は何でそんなに知ってるんだよ、学年も棟も違うのにさ」


 玉記は現在一年生。学年が二つも離れている上に、玉記は普段過ごしている校舎も違う。

 下の学年からとなると僕のクラスからは結構遠い。


「だから噂になってるんだよ。しかも、結構ね。写真とかも流れてるし、下の学年からでも見に行ってる人が多いの。昨日出回ったから今日あたり凄いかもね」

「そ、そんなに?」

「そんなに。今まで見た中だと確実に一位争いかな」


 流石にそれは凄い。というか最早洗脳じゃないかとすら疑う程の人気っぷりだ。

 転校生が珍しいという事情を踏まえても一体その桜海という人はどれだけ美人なんだ。


「良かったね、可愛い人が同じクラスで」

「……冗談はやめてくれ」


 玉記が笑う。

 こうして笑っている姿を見ると兄妹の贔屓目無しに見ても玉記だって十分可愛いと思うのだけど。

 いや実際どうなのだろう。玉記の学年の事を詳しくは知らないのだから、案外こういうキャラが最近ではモテるのかもしれない。

 キャラ選択を間違えた身としては参考にさせてもらおう。


「……でもまぁ楽しみではあるよ、ネタバレは辛いけど写真見た訳じゃないし」

「あんまりハメを外しすぎないようにね。怒られても私は庇えないから」

「外すハメも無いよ、僕には」


 悲しい事を言わせないで欲しいな。


 いや本当に洒落にならないからさ。


 ■◇■


「じゃあまた夜ね。遅くなるなら連絡してよ」

「うん、じゃあな」


 学校に到着し、玉記と別れる。

 今日は寄り道なんかしない。真っ直ぐに僕のクラス、僕の教室へと階段を登って向かう。


 三年生の教室は三階に位置し、僕のクラスは廊下の突き当たりだ。他の職員室やスカウト組の教室へは渡り廊下等を使って別棟へ行く事になる。


 既に階段を登って二階に辿り着いた辺りから違和感があった。普段には無い喧騒、普段には無い浮き足立った空気。

 それ等は三階に到達した時にはより顕著になっていて、目視で何が起こったのか理解出来た。


「おいおい……マジですか」


 明らかに廊下の奥に人が密集していた。

 数十人規模の生徒達が波となって押し寄せて、僕の教室を覗き込んでいたのだ。


 ここまで来れば誰にでも推測は容易い。

 転校生、桜海さんだ。


 噂になってるって言ったってこれ程とは思うまい。

 初めて見る光景だよ、生徒が大群で僕の教室を覗き込んでるなんてのは。しかも大半が男子だし。


 今からこれを潜り抜けて教室に辿り着かなければいけないと思うと面倒臭さが半分、もう半分はわくわくだ。

 こういうのは期待を上回るなんて事はそうそう起きえないとは分かっているけれど、これ程に観衆を集める容姿とは如何程のものなのか。

 否が応にも期待というハードルが上がるというものだ。


 群衆をかき分けて進む。幸い窓側の人口密度は薄かったのでそこを攻めて教室の前までは辿り着く。その後はもうごり押しで人の隙間を見出しながら、これまた教室の入口から中へ。

 本来なら扉があるのだけれど、今は外の生徒が中を見る為に開かれていた。


「……っと、ふぅ」


 やっとの思いで人混みの中を潜り抜けて教室の中へ辿り着いた僕の目に飛び込んできたもの。

 それは……僕の席が完全に埋もれている様子だった。


 あぁ成程。そういえば僕の後ろの席は現在空席だ。少し考えれば分かる事だけれど、転校してきた人間は必然的にこのクラスではその席に座る事になる。

 つまりクラスメイト達が転校生の席を囲んでいて、そのせいで僕の机までもが埋もれているという事だ。おい座れないだろ。


 はぁ、ともう一度だけ軽くため息を吐いて僕は教室後方僕の席へと進む。

 囲まれていると言っても所詮はクラスメイトだけ。外の人口密度には到底及ばない。それに僕の席も埋もれてはいるけれど、結局囲まれているのは転校生の席なので密集しているのは後ろの方だ。


「はいはーい、ちょっとごめんよ」

「あ、おはよう」

「うん、おはよう」


 適当に挨拶を交わしつつ、僕の席へ。

 近づくにつれてクラスメイト達の会話も鮮明に聞こえてくる。


「桜海さんはどこに住んでたの?」「入る部活は決めた?」

「ランク測定ってもうしてるよね?幾つだったか教えてよ!」

「卒業の進路とかってどうする?」「異能実技でさチーム組まない!?」


 彼も彼女も、皆思い思いに質問をするから言葉が被って非常に聞き取りずらい。


「昔は新大陸の方に住んでいました」「部活は入らないつもりです、すみません」

「ランクは3相当だったと記憶しています」「卒業後の進路はまだ未定ですね」

「そんなものがあるんですか?考えておきますね」


 しかし声の主、まだ姿は見えていないけれど恐らくは桜海さんだと思われる声は次々と質問を捌いていく。どれもたわいのない一問一答だけれど数があれば答えるのも一苦労だろうというのに。


 そんな会話を聞きながら僕が自分の席の傍まで辿り着いた時、人の隙間からついに彼女の顔が見えた。


「…………」

「…………」


 お互いに目が合う。

 そこに居たのは、天使が如き美貌を持つ少女。

 朧気で儚げで、幻想的な雰囲気を纏ってそこに座っていた。

 窓から差し込んだ日差しが、彼女のブランドの髪を煌かす。光が青い瞳を宝石の様に輝かせている。

 吸い込まれる様な、そんな空気感を纏って彼女はそこに居た。


 成程、確かに玉記が美人だと表現するだけの事はある。

 これは人生上一、二を争う美しさだ。

 美しさの中に少女ならでは可憐さを有している。

 故に女神よりも天使。天使が如き少女だ。


「……初めまして、貴方が昨日お休みしていた方ですね?」

「うん、そうだね。おはよう」


 彼女は律儀にも席から立ち上がって僕と目線を合わせてくれる。

 正確には僕の方が少しだけ背が高いので同じでは無いのだけれど、気分的な問題として。


「他の方には昨日自己紹介をさせて頂いたのですが、もう一度させて頂きますね。私の名前は桜海ソラと言います。前の席ですし、これから何かと頼らせて頂いたりもするかもしれません。短い間ですがよろしくお願いしますね」

「うん、こっちこそ。噂通りっていうかそれ以上でびっくりしたよ。流石にこれだけの人だかりだし、疑ってた気持ちはどっかに行ったけどね。これから半年間よろしく、桜海さん」

「はい、よろしくお願いします」


 彼女はそのまま頭を下げる。

 なんて流麗な動作だろうか。海外ではお嬢様だったのかな?


「それで……」

「おいおい!俺達が今話してたんだぞー!」

「そうだよー!順番守ってさー!あ、ていうか昨日は大丈夫だった?」

「そうじゃんお前昨日気絶して結局放課後に目覚めたんだろ?授業サボれて羨ましいんだか、折角の桜海さんの自己紹介を聞けなくて残念なんだか分かんないな!」


 次々と桜海さんに今まで集まっていたクラスメイト達が僕に言葉を浴びせてくる。

 おい、今僕が桜海さんと話してるんだぞ。ていうか今何か言いかけてたじゃないか空気読め。


「順番っていうかここは僕の席だし、守るも何も無いだろ。それに休んだ分はどっかで補習だぞ、補習。結局やらなきゃいけないんだったら昨日見たかったよ」

「それもそうか、じゃあただ残念な奴だったって事か。残念だったな」

「おい喧嘩売んな」


 そんな後悔は昨日乗り越えてきたのに思い出させないで欲しい。ただでさえ今朝早速実の妹から転校生のネタバレについて喰らっちゃったしさ。

 まぁあれは半分事故みたいなもんだし、玉記に悪気は一切ないと分かってるから良いんだけど。クラスメイトの君達は完全に分かってて言ってるから許せないな。


「はは、悪い悪いまぁ良いじゃんか。で、感想は?」

「まだお肌には潤いたっぷりだ」

「乾燥肌じゃねーよ!……桜海さんを見た感想だよ、分かるだろ」


 ああそっちね。

 クラスメイトの内の一人とひそひそと話す。

 いやでもこれ僕の席で耳打ちしても意味ないでしょ。普通に桜海さんの席の真ん前だし、なんなら今様子を見た時に目が完璧に合ったんだけど。


「……いや、本人の前では言えないでしょ」

「俺は言えるけど?」


 知らんがな。思わず関西弁が漏れ出てしまったけれど、いや僕は言えないよ。

 だからそんな期待した眼差しでこっちを見られても困るし、肩に『同志よ!』みたいな感じで手を置かれても困る。それと周囲の人間も面白そうにこっちの様子を窺うな。楽しくおしゃべりしてて欲しい。


 どうしようか、いや言えないよ。

 そんな恥ずかしい事僕のキャラじゃない。

 いや……僕のキャラなら言うか?


「ほらほらーときめいちゃったか?」


 こいつを殴れば解決しないかな。

 と、僕が考えていたその時。


「あー、お前等お待ちかねのホームルームだ。とっとと席に座れ」


 我等が担任、杠信二の一声によって一先ずは窮地を脱したのだった。


 ■◇■

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