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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一記 愛染王位日誌
32/82

Day 1 雷に撃たれた出会い。

おまたせしました。ペースは落ちますが新章始まります。


 これは、僕が気紛れで始めた何の変哲も無い様なただの日記である。


 ■◇■


 ある夏の日差しが厳しくなってきた日の事である。

 午前中はまだましだけれど、お昼から日が沈み始めるまではかなり気温も上がるそんな日々。

 自宅から学園まで徒歩で通学している僕にとってはかなり家を出発するのが憂鬱な毎日だ。十数分の道のりとは言え、暑いのは個人的に寒いのよりもキツイ。

 こういう日は登校するだけで汗ばむし、ベタベタしてしまう。そんな訳で例え自宅から学園までというそれ程長くない距離であっても徒歩では辛いものがある。

 寒いだけなら着込めばいいのだけれど、制服だと薄着にも限界がある。

 だから普段は気温が高くなる前に、この時期は少し早めに登校しているのだ。それでも朝早く起きるのは得意では無いし、面倒臭いのには変わりはないだけれど。


 けれども今日の僕の足取りは軽やかだった。

 何故か。それは僕のクラスに今日転校生が来るからである。

 俗に言う所の転校生イベントであり、しかも噂に寄れば転校生は女子だという。

 これは健全な男子高校生ならテンションが上がってしまうのも無理はないイベントだろう。

 僕のクラスの教師が「そういえば明日転校生が来そう」と言っていたので教師情報にも関わらず未確定な噂という謎状態だ。


 そういう訳で僕の通学の足取りは軽やかだった。

 普段の早めの出発よりも更に早めに出発してしまう位には軽やかだった。

 家を出る時に余りにも早く出るので妹から「……どうしたの?」と若干引かれ気味だったけれど、それでも大丈夫だ。


 とはいえ早く着き過ぎても暇な事には変わりない。

 教室でぼーっとしているのも悪くは無いけれど、それもなんだか合わない。かなり早い時間に教室に居て眠っている所を見られたら少し恥ずかしいしね。

 そんな訳で僕は寝転んでいた。

 学園内の敷地には木々が生えている場所が何ヵ所か存在する。森とか林とかまでは行かないけれど木漏れ日が気持ちいい位には生えている場所がある。

 しかも今僕が寝転んでいるには人が滅多に来ない穴場スポットであり、こうして軽く寝て暇を潰すには最適な場所だった。涼しいし吹く風も心地良いので度々昼寝をしたりもする。


 話は少し遡るけれど、今日は転校生がやって来る。

 この学園に、しかもこの時期に転校してくるというのは普通の転校生とは少し意味が違う。


 まずは学園。

 この国には二種類の異能者養成学園が存在している。


 私立か国立かの二種類であり、どちらの方が多いのかと言えば圧倒的に前者である。

 私立の学園の特徴は、『特徴があるという事が特徴』とも言うべきで様々な職種や研究内容に合わせて無数の学園が存在している。

 こういった教育機関は超常史以前では大学から分かれる様なものだったらしいが、今では異・能・者・を育成するに早いに越した事は無いという事で高等学校に当たる学園が多く設置されているのだ。勿論普通の大学や高校もある。


 そして国立はというと、この国には三校しか存在していない。

 所謂国立三校であり、それぞれが世界異能機関によって認可・設置された異能特区内に存在しているだ。現在国内の異能特区が三つなので国立校も三つという訳である。


 一つが規模最大、森影異能特区の羅盤学園。

 広大な敷地に膨大な設備。生徒総数も私立含めて最大で、あらゆるものの規模が大きい事で有名だ。

 歴史としてはそれ程長くは無いのだけれど、〈怪物〉による都市の破壊からの復興という流れもあってか今最も栄えている異能特区であり学園である。


 二つ目が……これは少し特殊なのだけれど東骸異能特区の雅写学園。

 最も入学が容易い、と言えば一番分かりやすいだろうか。来るもの拒まずの精神で、国立三校でありながら入学志願さえすれば誰でも入学できる。だけれど、生徒数はそれ程多くない。

 噂によれば裏組織にギャング、異能犯罪者の温床で治安がめちゃくちゃに悪いのである。

 だから雅写学園に通っているのは、普通の生徒ではない。

 まぁ僕もそれ程詳しくないからこの辺で。


 そして三つ目こそ、僕が通う伊野異能特区の荒日学園。

 

 この学園の特徴はスカウト組と一般入学組で完全にクラスが分けられている事。しかも生徒数も他の二校に比べれば圧倒的に少ない。多い学年でも五クラス程度で、僕の学年はスカウト組一クラス、一般入学組三クラスの計四クラスだ。

 これが意味するのは少数精鋭。羅盤学園学園なんかは『玉石混交』、雅写学園は『蟲毒』とも評されるけれど、そういった校風とは相反しているだろう。実際、荒日学園生徒の水準は他の学園に比べても高い。

 勿論僕は一般入学組。スカウト組は全国から選りすぐりの異能力者の卵が集められるだけあって流石に実力者揃いだ。彼等は正真正銘のエリートという訳である。

 そして僕のクラスに転校してくるという事は転校生は一般入学組だという事になる。


 そして時期。

 今はもう夏休みも目前に控えた時期である。しかも僕らの学年は三年生で卒業間近。普通こんな時期に転校生というのは結構珍しい話である。

 こういう時期以外なら転校生も他の学年でならあったらしいけれど、この時期では異能者養成学園で無くとも滅多に無い事だろう。

 異能者養成学園の存在意義は結局の所異能者を育てる事にある。強力な異能者の獲得はどんな黄金よりも価値高く、どんな兵器よりも国を護るのだ。

 だからこそ国立三校のように全く教育方針の違う学園が用意されているのだろう。

 なのでこの時期に転校してきても荒日学園のカリキュラムは殆ど受けられない。転入試験には合格しているので実力は大丈夫だろうけれど、学園で学ぶのは決して戦闘の実力だけではないのだ。

 

 この時期にスカウト組でも無い転校生が入学してくる。

 これは実は妙な事だった。


 とは言っても転校生が来るのは楽しみだし、普通に優秀な人が普通に入試を受けて入学して来ただけかもしれない。転校理由も普通に転勤とかね。学生は基本下宿か特区内に自宅を持っているけれど、そういうのだって無くはないだろう。

 推測で物を語ってもしょうがない部分はあるし、推測に推測を重ねてもどうせ今日来る転校生に尋ねた方が早い。ここであーだこーだと考えても意味は無い話だ。


 キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴る。

 始業十分前を告げる予鈴であり、十分後にはホームルームが始まる。

 

 身体を起こして遠くの方を見れば遅刻寸前の生徒が何人か門に向かって走っていく姿が見えた。

 

 さて、僕もそろそろ移動しなければならない。少しだけ休むつもりだったのだけれど、涼しさを薄暗さが絶妙に気持ち良くてつい寝すぎてしまった。意識の切り替えが上手く行かなかったのも理由の一つ。

 荷物も少ないとはいえ持っているし、僕のクラスは階段を上らないと辿り着けない。

 これまた幸いな事にこの場所はかなり教室に近いので小走り位で移動すれば十分間に合うだろう。


 そうして僕は立ちあがり、ゆっくりと教室まで移動しようとした……


 その、時だったのだ。


 人生が変わるという言葉がある。聞いた事もある。そういう瞬間には往々にして強い衝撃を受けるのだとか。それを形容して雷に撃たれたような衝撃と表現する事もある。

 運命的な出会いに、出逢いに、出遭いに、心を正しく痺れさせるような瞬間が訪れるらしい。

 フィクションの世界では背景が黒色に塗られて、主人公たる人間がビリビリと揺られている事がある、そんなアレだ。


 僕に起こった事を説明するなら、正にそれだった。


 目の前に歩く黒髪の、それも美少女と思われる人物が泣いていた。

 理由は分からない、声をかけようにもかけられない。けれど確かに目尻に涙を浮かべていたのだ。


 何故美少女と思われると自信なさげなのかと言えば、僕は彼女の顔を見る瞬間にまるで雷が直撃したかのような衝撃が身体に迸り、上手い具合に意識を飛ばしてしまったからである。

 

 さてさて意識を保っていられるのも限界だ。手足が痺れ、思考がショートする。


 意識を手放す瞬間僕は思う。

 ああ、取り敢えず始業には間に合わないだろうな。

 グッバイ意識。 

 

 ■◇■


 異能者の登場はそれまでの歴史を大きく変化させた。

 変革させた、という表現の方が伝わりやすいだろう。

 それだけ大きな変化だったのだ。


 社会制度、自然環境、科学技術。それまで人間が積み上げてきたものが、約五十年という短い期間に塗り替えられてしまった。

 巨大な龍の存在、新大陸の誕生、迷宮の出現。

 個人が強力な武力を保有する事で体制側の崩壊も起こり、戦争が勃発したり、英雄と後に称される人物が活躍し、国連にとって代わる異能者の組織が生み出された。


 異能。世界を大きく変えた巨大な力。

 世界人口の九割以上が何らかの特殊能力を有した時代、超常史。


 これは超常史に生きる人々の話だ。


〇荒日学園

国立三校の内の一つ。伊野異能特区内に位置する。

生徒総数は他二校よりも圧倒的に少ないが、平均的な実力で言えば三校一。

性質上敷地面積はそれ程でも無い。


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