epilogue
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それから、束の間の休憩を挟み新と白木銀子の二人は教室へと移動した。
教室に着いた時には既に実習室の大破については話題になっており、教室内はざわめきで満ちていた。
そして話題は十五クラスに留まってはいなかった。至る所で、実習室が一夜にして大破した謎の事件は話題になり囁かれ続けていたのだ。
「あ!銀子ちゃんに新君!聞いた聞いた~!?もう凄い事が起きてるんだよ~!!実習室がね、昨日の夜の間にもうボッロボロになっっちゃんだよ~!ねぇ、もう見た~!?」
「……知ってる。落ち着きなよ」
「これは落ち着いていられないよ~!だって私達の実習室なんだよ~!私ね見に行ったんだけど、もう凄かったよ!まるででっかい怪獣が暴れまわったみたいな感じだったんだ~!新君は何か知らな~い?」
「あ、あははは……」
苦笑いで誤魔化す新。まさか犯人は僕達です、と名乗りを上げる事も出来ない。
「あ!そういえば銀子ちゃん、昨日は大丈夫だったの~?なんだか思い詰めてたような気がしたからさ~……思い違いだったらごめんね、なんだけど」
「……ええ、もう大丈夫。心配をかけてすみません。でも瞳、ありがとう」
「そっか~……なら良かったよ~。で、銀子ちゃんも何か知らな~い?」
「……何も知らないです」
少しの間は空いたがきっぱりと否定する白木銀子。しかしその視線は舞桜瞳の方を向いておらず、明後日の方角を見ている事は内緒である。
「そっか~、でも夜に起こったみたいだしね~二人が知らないのも当然だよね~。夜の時間に学校に残ってた人なんていないもんね~」
「「……」」
まさか残っていましたし僕達が犯人ですとも言い出せない。
二人共黙秘である。
そして二人が黙秘を貫いていると、教室の扉が勢いよく開いた。
「は、は~い……朝礼するよ……皆、席に座ってね~……」
「先生!実習室が壊れたのって本当ですか!?」「誰が犯人かとか分かってるんですか!?」
「やっぱり異能犯罪者が学園に忍び込んだとかですかね!?」「庵膳木会長が居たって本当ー!?」
「ほらほら……気持ちは分かるけれど落ち着いて、一先ず全員いるようだね。一端席に座って……話はそこからするから……」
明らかに疲労困憊状態の十五担任、杠英二である。
髪の毛はぼさぼさだし、顔も無精髭が薄っすら生えている。
集まった生徒達も尋ねたい事だらけなのだろうが、渋々といった感じで自分の席に戻って行った。
そして杠英二がふらふらの足取りで教壇に立つ。
「あっごめんね~……ちょっと職員会議があって、いつもより時間無くてね……はは、なんで?なんでうちのクラスこんな事ばっかりなんだ……?」
「「……」」
永宮雅成と白木銀子の二人に加えて、【羅針盤】の信頼を揺るがしてしまった八十新。それだけでも新学期早々の厄介事だというのに、加えて実習室の破壊事件である。
恐らくはあの後庵膳木が学園に連絡し、速攻で教師寮から呼び出されたのだろう。そこから職員会議になり、担任である杠英二はギリギリまでその会議に参加していたという事だ。
どちらも新と白木銀子が原因である。
「ま、まぁ気を取り直して説明するねーふぁいとー……」
何とも気の抜けてふぁいとで本日の朝礼が始まった。
◇
「どうやら庵膳木会長が上手くやってくれた、というのは本当だったみたいですね」
「みたいだね。しかも、かなり僕達に有利にしてくれてる」
「……助けたいだけ、というのがまさか本当だったとは。別に疑っていた訳じゃないですが、ここまで上手くやってもらっていると逆に疑ってしまいます」
朝礼の時に杠英二クラスに向けて語った内容を要約すれば以下の三点である。
一。夜の間に異能犯罪者が学園に侵入した。恐らくは学園破壊を目的にしたテロリストであり、かなり強力な異能者であった。
二。それを偶然生徒会業務で深夜まで学園に残っていた庵膳木星毅生徒会長が発見。戦闘行為になるが、学園への被害の事を考えて実習室まで誘導し戦闘を行った。
三。結果としてテロリストは逃走。実習室は破壊されたが、破壊規模は実習室だけであり、その他の場所に被害は出ていない。現在は崩落の危険性等を鑑みて実習室を閉鎖している。
「僕達の名前すら出ていない。完全に隠してくれている」
「多分、表向きの発表内容も調整してくれたんでしょう。話の途中で何度か杠先生と目が合いました。口裏を合わせている事を知って今の言及を避けてくれているんだと思います」
「そっか……なら取り敢えず今日を乗り切ればいいて事かな」
「です、ね。これからどうなるかは分かりませんが、一先ずは対抗戦に集中して良さそうです」
実習室があの状態なので、十五組の対抗戦は二年生用の実習室を借りて行う事となった。
ただでさえスケジュールが詰まっているので、今日中に対抗戦を終わらせる為のだろう。
「結局、僕の力ではどうにもならなかった。……庵膳木会長が居なかったら、僕等今頃仲良く退学だったかも知れない……本当にごめん」
「どうして謝るんですか?」
実際、そうだろう。新のやり方では結局救えなかった筈だったのだ。
あそこで庵膳木会長が登場しなければ、或いは会長の善意に頼らなければ、二人は今この場に居なかったのかも知れなかった。
「いや……」
「確かに会長にはお世話になりました。けれど、私が助けてもらったのは貴方です。貴方に助けてもらって、私は今生きているし此処に居られる。違いますか?」
もっといい方法があっただろう。そういう思いが今になって新の心から泡の様に浮かぶ。
だが、それを白木銀子は否定する。
「確かに最良の選択では無かったかもしれません。けれど、最善の選択だったと私は思います。新さん、貴方の選択は確かに私を救ってくれました。そしてもう一度言いたい事があります」
白木銀子は新の正面に立つ。
そして真っすぐ、その美しい瞳で新のを見てこういった。
「ありがとう、助けてくれて」
そこに嘘があろうものか、おべっかがあろうものか。それを疑う程に新は鈍感ではない。
「そっか、僕は自分の選択を誇って良いんだね」
そうだ、そうなのだ。新が選択したのだ。あの時、覚悟を持って選んだのだ。
なら後悔すべきではない。そうしないと決意して此処に居るのだから。
「うん。後悔は、しない。そう決めたんだから、そうしないとね」
「それにあの時の新さん、かっこよかったですよ?」
「へ――!?」
「『ようこそ、異能学園へ』って言って私の手を引いてくれた時とか、『僕は君が駄目な人間だとは一度も思った事は無いよ』とか。ふふ、まるで主人公ですね」
「あ、あれは!何というか、凄く変な感じだっただけで……!」
ふふふ、と笑いながら二人は実習室へと向かう。
実習室に戻ると、舞桜瞳が姿をくらました二人に問い詰めたがなんとか誤魔化した。
「頑張って!銀子ちゃん!次は優勝だ~!」
「まだですけどね。でもありがとう」
すぐに試合が始まる、白木銀子の番だ。
これに勝ち、次も勝利すれば晴れて十五組の代表生徒である。
「勝ってね……銀子さん」
「勿論。私は……白木銀子ですから」
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「そっか、それでカッコつけた新君は上手く行ったんですねー。あははは、揶揄って悪かったって何度も言ってるじゃないっすか。それに全部聞こえてた訳じゃないんすから大目に見て下さい」
ディテクターが都市を歩いている。
「対抗戦の結果はどうなったんすか?……うん、うん。お~良かったじゃないっすか、白木ちゃん無事に勝ち進んだんっすね!もう一人はやっぱり永宮の、まあ順当っすね。天帝近衛四家が勝ちあがるのは予想してたっすけど、他のクラスではどうなったんすかね?何か知ってます?」
電話越しの誰かと通話をしながら、都市を闊歩する。
「それで?ああ、勿論拾っときましたよ。中々大変でしたよ、ギリギリ教師達が来る前に回収したんすから、褒めて欲しいっす」
そして懐からある物を取り出す。
それは既に壊れているが、辛うじて形状から元が何であったのかは判別出来た。
「ええ、当たりですね。これが銀子ちゃんを暴走させたもので間違いないっす」
それはブレスレット、しかも白木銀子が身に着けていたものに良く似ていた。
色や形状を鑑みれば、まず間違いなく白木銀子が付けていたものだ。
「どうやったのか知らないっすけど、どっかで接触したんでしょうね。なんでテロリストっていう庵膳木の言い分はあながち間違ってなかった訳っす。しかしえぐい事するっすね……効果は『心の闇を暴走させる』って所っすか?精神状態が不安定になれば成程強力な異能は暴走しやすいっすから」
このアクセサリーこそが白木銀子暴走の要因。
新が壊した、白木銀子の暴走体を形成していたエネルギーの流れの核。
壊れて床に落ちていたこれを、ディテクターが人知れず回収したのである。
「……ん、ああ気にする必要はないっす。これはアラタ君だけの不始末じゃないっすよ、オレの不始末でもあるっすから。……でも気になる点もあります、これは明らかにあんな小物が作れるような代物じゃない。……裏に誰か居るのは間違いないでしょうね」
『そうですか』と。通話相手が口にする。
そして『大丈夫です』とも。
それを聞いたディテクターは嬉しそうに、或いは楽しそうに微笑んだ。
「さーて、明日はオレも学園に戻らないっといけないっすから、ここらで通話は切ります。じゃあアラタ君も疲れが出ない様にさっさと寝るっすよー!」
そう言ってディテクターは通話を切ると、今まで歩いていた都市……ビルの屋上から飛び降りた。
「楽しくなってきた!」
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とある昼下がり、校庭に生えた木々の内の一本の下で少年が寝ていた。
チャイムが鳴る。始業の合図だ。
「ほあ……」
だけれども少年は、再び夢の中に戻っていくのだった。
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Next Episode 愛染王位日誌
これにて第一章 ようこそ異能学園へ は完結となります。




