二人の帰り道 (加筆修正)
また保存ミスしてたみたいです……すいません
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ようく思い出してみれば、二人だけの帰り道はこれまでに無かった。
それは彼等を繋ぐきっかけとなったのが舞桜瞳という少女だったから。そして彼等の会話のきっかけもまたその殆どが彼女によるものだったからだろう。
(な、何を話せば……)
新は自分は上手くやれていると感じていた。
ランク測定での結果や初試合での不戦勝等のハプニングがありはしたが、舞桜瞳という友人が出来て、そして白木銀子とも関係を持つ事が出来た。
任務としては完璧では無くとも、順調であると感じていた。
実際彼は任務としては上手く行っている。
しかしどうだ。
舞桜瞳が居なくなっただけで、彼等の間には会話が生まれなくなった。
二人だけの帰路、三人では何度も歩いた道。けれど今の二人の間に漂う空気は昨日迄のそれとは異なる。重いとは言わずとも、決して軽い空気ではない。
お互いに何かを思ってはいるが、どうすればいいのかという空気だ。
失って初めて気が付く、というのはよく言う話だ。
思い返せば新から会話の話題を提供した事があっただろうか。
(気まずい)
新は人間関係初心者である。
学生としてこの都市に来るまで、会話と言えば組織の同僚とするものばかり。
特に同世代で、対等で健全な関係の人間とした会話等数える程だ。
こんな時に何か気の利いた事を言える筈も無かった。
二人はすたすたと歩く。
会話が無くとも、二人は移動する。
「……そういえば」
数分か、十数分か。
二人の間に存在していた沈黙は白木銀子の言葉によって取り払われた。
「新さんとは明日試合ですね」
思い出したように話しているが、先程教室で出た話題だ。
何か話す事はないかと白木銀子もまた考えていたのだろう。
「ああ、うん。そうだね。明日は僕等の試合だ。……まあ正直、白木さんに勝てるとは思えないけどね」
自嘲する様に新は笑う。
「そうですか?前にも言ったかと思いますが、新さんに負けてしまうかもですよ?異能者の戦いに必ずは存在しませんから」
「いやいや僕はランク3だよ?白木さんはランク4だろ?3と4の差は……まあ永宮君を見てても痛い程理解させられたっていうか」
「永宮君と私は違う人間ですよ。それにランク4は特別な訳ではありません」
ランクは総合的に判断されるもの。必ずしも戦闘能力を示す訳ではない。
しかし永宮雅成も白木銀子も、共に戦う事に秀でた異能力者。そのランクは同じ異能者の括りの中ではランク=実力と捉えても差し支えない筈だ。
故にこれは謙遜だ。
「それでもだよ。片山さんとの試合を見てたら、今の僕では到底無理だ。だってほら僕なんかランク0だよ?」
揶揄う様に、自嘲する様に、新は自分が【羅針盤】にランク0と認定された事を持ち出す。
空気を和ませようとした、新の精一杯の自虐ネタである。
「ふふっ、それは装置の故障だったじゃないですか。本当はランク3でしょう?」
「まぁ多分ってつくけどな……まだ測定出来てないし。今の僕の公式なランクは2だよ。中学時代に測った時のまま変わってない。それよりは、まぁ流石に伸びてるだろうけど」
勿論新に中学生だった時代等存在しない。
それに正直新もランク2は無いだろうと考えている。この無いだろう、というのはこの学園における基準としての話だ。
本気を出してい無いので当然だが、少なくともランク3は無ければこの場に居る事自体を怪しまれかねない。入学時のデータより全員大小の差はあれど成長していたのだ。新も入学時のランク2からランク3位の実力は必要だろう。
「そうですね。なら尚更負けてもおかしくないです。それに新さん結局オンデマンドさんとの試合は不戦勝だったじゃないですか。実力は分かりません。私も頑張らないと追い抜かされてるかもです」
「ははは……」
そんな事は無いのだ、と。新は言う事が出来ない。
白木銀子に新が追い付いているか、追い付いていないかの話や段階ではない。そんな前段階の話をしている訳では無いのだ。
内心では分かっている。これは純然たる事実として存在している。事実なので変えようが無いのだ。
白木銀子は、八十新には勝てない。
白木銀子だけではない。永宮雅成も、そしてこのクラスの誰であっても。
全ての生徒が一度は試合を行った今、正確にはルーク・オンデマンドを除く全員ではあるが、八十新はクラス全員の異能力の概要とクラスメイトの実力を把握している。
その上で、あくまで彼は客観的に判断をする。
少なくともこのクラスの最強は自分であると。
そして恐らくは、羅盤学園においても自身に比肩する生徒は極少数であろう事も。
だから彼は言えない。
目の前の少女に、言う事が出来ない。
「……そうだね。みっともなく負けない様に僕も頑張るよ」
だから曖昧な返事をする。
「期待してますね」
「期待される程じゃないと思うんだけどなぁ」
ふふふ、と白木銀子は同じように笑った。
■◇■
「そ、そういえばさ」
「はい?何でしょうか」
話題の転換を図り、新は思い出したように言葉を始める。
しかし何か話題がある訳も無い。そもそも新は無趣味な人間だし、知っている娯楽と言えば読み物位のもので白木銀子の趣味を知らない以上話し出す事も出来ない。
言い出したは良いものの、何を話すべきか迷う新。
必死に何か話題は無いものかと思考を加速させる。
それは時間にしては刹那。体感時間では十数秒。
新は一つのものを発見する。
「そういえばそのアクセサリー良いね。どこで買ったんだ?」
そう白木銀子の腕に付けられたリング状のアクセサリーだ。
十五組最初の日にも舞桜瞳が話題にしていたそれは、金属と染色された糸を組み合わせたブレスレットのようなものだ。
ミサンガと呼ぶには軽く付けられるものでは無いのだろうが、シンプルながら凝られた作りだと一目で分かるそれは、白木銀子に良く似合っていた。
「ああ、これは入学式の日に購入したんです。色々なハンドメイドを売っている露店で、店主の人が私に凄く似合うからってお勧めして頂いたので」
「そうか通りで。うん、良く似合ってると思う。店主の人はセンスが良かったんだね」
入学式の日と言えば例の男子生徒が彼女をナンパして町に繰り出した日である。
あの男子生徒が白木銀子の健啖家ぶりを見て撃沈させられた前か後かは分からないが、彼女の雰囲気に合う品を選んだ店主は良いセンスの持ち主だったのだろう。
「ええ、気に入っているんです。店主の人は『この色の意味は決意を固める効果があるんよ~』と仰っていました。入学式の日でしたし、これからの学園生活の、その一つのおまじないとして」
恐らくは店主の口調を真似しながら白木銀子は話してくれる。
「色の意味か。そんなのがあるんだね」
「他にも色々と説明して頂いたのですが……これが一番しっくりきたというのもありますね」
色に意味を持たせたアクセサリー。確かに白木銀子が身に着けているアクセサリーは幾つかの色の糸が組み合わされていた。花言葉の様なものだろうか、と新は思う。
「というか、少し意外でした」
「え、何が」
何か変な事を話してしまったのかと新は自分を振り返るが、どうやらそうでは無いようである。
「少し失礼でしたね。意外というのは、新さんがこういうアクセサリーに興味を持っていた事です。あ、それ自体は別に全然良いのですが。男子というのはこういうものに余り興味が無いのかな、と考えていたものですから」
「ああ。全然失礼とは思ってないけどさ。確かに男子が……という事は無いだろうけど。そういう傾向はあるかもね」
新がこういうアクセサリーについて微妙に知っているのは、これもまた同僚の影響である。
彼女曰く、『身に着けているもの位は気にしなさい』との事。
それ以来、最低限の身なりは気にしているのだ。それに相手の装備を気にするというのは戦闘においても非常に重要な事だと、新は考えている。
……まぁこの思考は同僚の想像とは少しずれていたのだが。
そして新たにとっても新情報だったのは彼女が世俗に疎いのでは?という事だった。
今時と言えばこれまた偏見なのかもしれないが、今時の男子もアクセサリーに気を使う者は多いし、クラスにも数名程アクセサリーを着けている者が居る。
羅盤学園は特段髪染めもアクセサリーも禁止されていないので、上級生を見ればもっとはっちゃけた服装をしている者だって居る位だ。
(多分、ナンパに乗ったのは本当にナンパと思って無かった説があるな)
名家白木のお嬢様。そういう肩書を見れば箱入り娘でもなんらおかしくない。
寧ろそういうものだと言われる方が納得はし易いかもしれない。
世俗には少し疎いとはいえ、あの男子生徒への対応を見るにモラルはあるのだろうし、これまでの会話からも善悪の基準もしっかりあるのだろう。
「昔、知り合いの女の人から服装を見るのは大切だって教わってね。まぁ、僕はそんなに付けないんだけど」
「良い事を言う人ですね。特に、女の子相手では有効かもしれませんよ?」
隣に立つ白木銀子が新を見て笑う。
「……そういうからかいは舞桜さんだけで十分だよ」
「ふふ、分かっちゃいました?少しからかいたくなってしまいました。確かにこれは……私の柄では無いですね。舞桜さんにお返ししておきましょう」
「本人居ないけどね」
いつの間にか二人の会話が弾みだす。
三人で居た時程盛り上がりには欠けるが、しかし緩やかな楽しさというのもある。
一歩前進だ、と新は思う。
任務の内容を思い返しながら、新は二人の帰り道を歩いた。
■◇■
それは都市の中の、少し外れ。
青年が歩いていた。
「う~ん、見つかんないっすね。これはもう年外に出ちゃったかな?」
『す、いませんね。九堂、さ、ん。わたしが、気がつ、いていれば』
「久遠寺ちゃんが気にする事じゃないっすよー。それにこういう事はオレの十八番っすからね」
『ほら、ほ、ら。みんな、も』
イヤホン越しに何かが呻く声が聞こえる。
それを微笑ましい表情で見ながらディテクターは笑った。
「謝る必要は無いっすよ~。じゃあ久遠寺ちゃんもお気をつけて」
『は、い』
そのまま音も無く通話が切れる。
青年は気にする様子も無く、ビルの屋上から都市を見下ろしていた。
「いやーきついっす。これ以上は無駄になりそうっすね。収穫は少しあったので、これをお土産にするっすかね~」
青年はディテクターはポリポリと頬を掻きながら、眼下の町を見ていた。
「さ~てアラタ君の家に向かうとするっすかねー。文字だけだと、やっぱ寂しい感あるっすからね。いやーボスも過保護だなー」
ぴょん、とディテクターは独り言を残してビルの屋上から飛び降りる。
ビルの下には飛び降りた筈のディテクターの姿は無く。
夜の街の明るさが、広がっていた。




