クラス内対抗戦 その6
クラス内対抗戦もいよいよ三日目。
本日からはシードに選ばれた選手も試合を行う。
シード選手の試合、片方のトーナメントで三つずつを行うので本日の試合予定数は六試合だ。
現在新、舞桜瞳、白木銀子の最早いつものメンツとなった三名は対抗戦の為に教室を移動している途中である。
「いや~皆頑張れ~って感じだね!」
「気楽だね」
「まあね~シード選手とは戦わないから実質シードみたいな感じだし~」
「今日が終われば半分以上の試合が終わりますから。予定でも明日と明後日で対抗戦は終了です」
「そっか、もう三日目だもんな。なんか時間が流れるのが早い気がする」
クラス内対抗戦の日程は全五日の予定だ。予定、と入っているのは不慮の事故を想定したものだろう。異能力者同士の戦いに完全な安全は存在しないのだ。
「忙しいらね~……いや忙しすぎるんだよ!対抗戦で疲れてるのに、まだ座学をしなくちゃいけないなんてさ~!酷過ぎるよ~!それになんだか全部難しいし……基礎教科って何~!勉強ばっかりで嫌になっちゃうよ~!」
舞桜瞳が地団太を踏みながら文句を言う。
不満を伝えたいのだろうが、その様子はデパートのおもちゃ売り場で欲しいおもちゃを買ってもらえない子供にそっくりだ。彼女の小柄な体格も相まって、ほほえましい気持ちが生まれる。
「ねっ、新君も銀子ちゃんもそう思うでしょ~?」
「まぁ忙しいとは思うけど、座学は楽しいから。そんなに苦じゃないかな」
「今は基礎教科だけですが、対抗戦が終われば異能力学等も加わります。今の内に基礎はしっかりしておきたいですね。羅盤学園は文武両道ですから」
「成績の事もあるしな」
「真面目だよ~!理解不能だよ~!銀子ちゃんはともかく新君真面目ちゃんだったの~!?予想外のキャラ付けにびっくりしてるよ~!」
「真面目ちゃんって何だよ……僕は普通に学生してるだけだよ」
真面目ちゃんと呼ばれるのは新には心外だ。
新は任務でこの学園に通ってはいるが、勉強は嫌いではない。寧ろ学ぶ事は嫌いではない方だ。
兄妹やディテクターといった頭の良い同僚が居るというのもその一因だろうが、それ以上に新には『学ぶ』という行為への忌避感が余り無かった。
故に新にはいまいち彼女等の言う所の『勉強は辛い』という感覚が分かってなかったりする。
「折角高校生になったのにさ~今の所戦って勉強してご飯食べて一緒に帰って雑談してカフェでお茶して勉強して、また勉強してって……青春出来てないよ~。青春したいよ~」
「途中結構青春してませんでした?」
ごねる舞桜瞳に冷静にツッコミを入れる白木銀子。
確かに学生生活が始まってすぐと考えれば、結構楽しんでいる方だろう。
そしてそれは逆にも言える。寧ろ逆、つまり新目線から見れば美少女二人といきなり学園生活を送っているのだ。青春と言わずに何と呼ぶのか、と彼の同僚が見ていれば叫んだだろう。
「そうかな~?う~ん、確かに考えてみると新君と出会ってから銀子ちゃんとも仲良くなれたし……私って結構青春してるのかな~?」
「してると思うよ、多分だけど」
多分というのは新にも普通の学園生活がどんなものなのか実はよく分かってないからである。
「それに今は忙しい時期ですから。クラス内対抗戦が終われば暫くは何も無い期間ですよ」
「なら今日の分も頑張りますか~」
「いや舞桜さん今日試合無いじゃん……」
てへっと小悪魔の様に舞桜瞳は笑った。
■◇■
結論から言えば、本日の六試合はつつがなく進行したと言わざるを得ない。
平たく言えば見どころも少なかった。盛り上がりには欠けていた。可もなく不可もなしだ。
シードに選ばれた生徒が勝つ事もあれば、逆もあった。そもそも今回のトーナメントにおいてシードに選ばれた生徒は実力では無くランダムに選ばれたものだ。シードだからと格上ではない。
実際現状の最強格と言える永宮雅成や白木銀子はシードではない。
永宮雅成も当然の様にシード生徒を降していた。
そうして結果的に明日の試合に参加する十六名出揃った。その中には八十新も含まれる。
新の主観で言えば二名を除いてこの十六名に大きな実力差は存在しない。
相性差を鑑みなければ、何が起こってもおかしくないメンバーという事だ。
明日勝利した生徒が次に勝利するとは限らない。これも二名を除けば、の話だが。
既に新人戦に出場する選手は決まっているというのが全員の共通認識。
言わずもがな永宮雅成と白木銀子だ。
この二人は別格も別格、少なくとも大半の生徒はそう認識している。
新の目から見てもそうだ。余程の相性差が無い限り、学生のレベルでこの二人が敗北するのは稀だろう。それだけランクの壁は分厚い。
流石に全生徒が戦意喪失している訳ではないが、既に敗退した生徒にとっては消化試合の様なものだ。これは仕方ない問題で、トーナメントの都合上敗者復活は無いのだから暇になってしまう。
「ですが他の生徒の試合を見る事も勉強になります。実力や戦い方を知るのは対異能者の基本ですからね。それにこれから三年間同じクラスなのですから。」
「えっ!?そうなの~?まぁ私は嬉しいけどさ~」
「そんなの案内に書いてたっけ」
新は事前の案内や公開情報には目を通していたつもりだったが、確認漏れがあったのだろうか。
「案内には書いてませんよ。私はスカウト組ですからお二人よりも少しだけ知ってるのかもしれませんね。入学時の先生から説明でされたんです」
「そっか~気にしてなかったけどスカウトされた人も居るんだもんね~。スカウトって凄いな~」
「このクラスだと私と永宮君だけだと思います、全体でも少数派ですから。……あ、ルーク・オンデマンド君は留学生でしたね。彼はどっちなのでしょう」
羅盤学園は一般入試を受けて入学した一般入学組と、学園のスカウトマンによってスカウトを受けたスカウト組に分けられる。スカウト組は勿論入試は免除で他の生徒よりも入学は容易だ。
羅盤学園は生徒数が多く、また校風故にもう一つの異能者養成学園である荒日学園よりかは入学しやすいが、それでも入試は行われる。
切磋琢磨、玉石混交の校風と言えど、最低限の素質や知能は求められるのだ。
「やっぱりスカウト組って何か特典的なのあるの~?」
「いえ、入学してからはそれ程一般入学組と大差無いと思いますよ。羅盤学園は玉石混交、一般入学もスカウトも同じクラスに編成されますし何より三年後にどうなるかが重要ですからね」
「そこが利点でもあるんだろうけどね」
「そうですね……今の試合を見ていると、欠点でもあるのかもしれません」
生徒数が多く、競い合う機会も多い。様々な生徒が存在するからこその多様性は異能者にとって自身の力を磨く最良の場と考える事も出来るだろう。
しかしそう全員が上手く考える事は無い。
今行われているクラス内対抗戦で永宮雅成と白木銀子の両名が実力を示した事でやる気を削がれてしまった生徒が居る様に。時に実力の差は成長の機会を奪ってしまうものだ。
「ですがそこでやる気を無くしてしまうようならそこまでという事です。この先もっと実力を問われる機会は多くなるでしょう。その中で戦っていくなら自分を保ち高める強い精神力が必要不可欠になります。そうでないと、辛いだけです」
超常史は異能者の歴史。
異能者はその主役だ。
異能者の力が国力であり、異能者の活躍こそが属する組織の力を決める。
異能者養成学園は国力増強の為に設立された学園。学園の中が世界なのではなく、卒業し異能者として活動するようになってからが異能者の人生なのだ。
「ほえ~私はそこまで考えられないよ……やっぱり銀子ちゃんは凄いね~」
「まぁ……私の場合は家の事もありますから。普通、では無いと思います」
天帝近衛四家、白木。
彼女が背負う家の名前は余りにも多きい。
産まれた瞬間から彼女は白木家の異能力者なのだから。
『国を守る』という運命を背負って産まれて来た彼女と、多くの学生の意識が異なるのは当然の事なのかもしれない。
「私が言うのもなんですが、天帝近衛四家はそれだけでこの日本では特別……になりがちですからね」
自嘲する様に白木銀子は微笑む。
「……でも、白木さんの言う事は正しいよ」
新はそんな白木銀子に同意する。
新もまた物心ついた時から組織に所属していた身だ。
幼い頃から同僚達から様々な事を教わり、多くの任務に参加してきた。
状況は非常に白木銀子と似ているかもしれない。
しかし新の場合、白木銀子程の重圧を感じた事は無かった。それが当然だと感じていたし、不満も無かった。そういうものだと納得していたし、学ぶ事も楽しかった。
けれど白木銀子の言葉を聞いて、それは違うとは思えなかった。
例え自身の思うものとは異なっていたとしても、彼女の言葉に誤りは無いと感じたから。
「ふふ。そう言ってくれると、気が楽になりますね」
そう言って白木銀子は笑う。
彼女の微笑は、いつもの様に美しかった。
■◇■
キーンコーンカーンコーン。とありきたりなチャイムが鳴る。
「じゃあ皆さん、今日の授業は此処迄。各々予習復習を忘れる事の無いように。……ああそうそう。全クラス共通の事項ですが、明後日のクラス内対抗戦が終われば本格的な授業が多く始まります。新人戦に出場する学生は訓練に忙しくなるでしょうが、研鑽を怠る事の無いように。では解散とします」
女性教師が授業終了を告げ、教室から出ていくと多くの生徒がざわつきを取り戻した。
いつものグループに集まる生徒も居れば、そのまま教室から去っていく生徒も居る。
羅盤学園は多くの高等学校と同じく各教科毎の担当教師が存在し教える授業形態を採っている。
今の教師も普段は他のクラスの担任だが、基礎教科の担当教師であるので新達の十五組に授業をする為にやって来ていたという訳だ。
そして羅盤学園の教師と言うからには彼女も当然に異能者である。
羅盤学園の教職員は二種類。生粋の教職か、元は研究職に就いていたいた者かだ。
どちらも異能者という事には変わりないが、学園の特色もありこの割合は半々と他の学園に比べても元研究職の割合は高い。
「終わったよ~今日も長かった~!さ!どこか遊びに行こうよ!もう一秒も待てないよ~!」
机に溶けながら言う舞桜瞳。
何だかんだと優秀なのか授業中は彼女は普通に授業を受けている。
「どこか買い食いとかしたいよね~!なんかザ・青春って感じじゃない~?」
「あら、良いですね。じゃあ今日は町の方に行ってみますか?」
森影異能特区は羅盤学園を中心として広がる巨大な都市。
白木銀子の言う町とは、新達の帰り道とは異なる方向に存在する若者向けの店舗が多く並ぶ地区の事だ。そこには飲食店は勿論アパレルやレジャーもそろっている。
少し離れているとは公共交通機関の発達した森影異能特区。
今から出発すれば明日に支障が出ない時間には戻ってこられるだろう。
「うんうん~!って、あっ……そうだった、私今日予定があるんだった……」
「珍しいね。いつも暇そうなのに」
「失敬だね~新君は~。私にだって予定位はあるよ~。ちょっと色々しなきゃいけないんだよね~サボってた罰かな~」
本気で忘れていたのだろう、がっくりと肩を落として落ち込んでみせる。
「という訳でごめんね~!私抜きで全然行ってくれてもいいからね~!本当に気にしないで~!」
「瞳、大丈夫ですよ。町にはまた今度全員で行きましょう。瞳だけ仲間外れにはしません。新さんもそうですよね?」
「うん。舞桜さんだけ置いてったりしないよ。また次にしよう。それに明日は試合だし、丁度良かったんじゃないかな」
「うう~新君~銀子ちゃん~!」
ここに居る全員十六名の中に選ばれているメンバー、つまり明日は全員試合だ。
試合はこれまで通り午前の始業から行われる。夜遅くまで遊んでいたので疲れて本気を出せませんでした~というのは言い訳にしても余りにも拙い。
「二人が優しくて感激だよ~!」
「そんな大袈裟な……これ位普通だよ」
「そうですよ瞳。私達友達じゃないですか」
大袈裟に喜ぶ舞桜瞳。それに対して白木銀子は友達だから当然だと言う。
「うん~!じゃあ私行くね~!本当にありがとう~!」
そのまま舞桜瞳は素早く荷物を鞄の中にしまうと、二人に手を振りながら風の様に去って行った。
新達も準備は終わっていたので教室から出るが、廊下には舞桜瞳の影も形も無かった。
なるほど、彼女は初対面の時もこうして目の前から居なくなったのかと一人納得する新だった。




