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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一章 ようこそ異能学園へ
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クラス内対抗戦 その2

 

 名前を呼ばれ、二人の生徒が集団の中から前に出る。


 男子生徒の名前は安彦元。坊主頭が特徴的な少年。やや高い身長にそれなりに引き締まった身体。

 女子生徒の名前は顕谷美織子。ポニーテールで髪を纏めた少女。活発そうな印象を受ける女生徒だ。


 二人共新は話した事が無いが、ある程度の印象はある。


 安彦元は快活な少年だ。熱血漢、と言ってもいいのかもしれない。

 クラスオリエンテーションの時から大きな声で会話しているのが耳に入ってきていた。

 対して顕谷美織子は永宮雅成の周囲を囲っていた人間の内の一人という印象だ。

 新の席とは少し離れている為に人物像は判明していない。


 両者は属性としては反対の様にも見える。

 しかし共通している事もある。

 両者ともに、羅盤学園に通う異能力者であるという事だ。


「じゃあ二人共、ステージに上がって。線が見えるよね、そこで向かい合って」


 一つの常識として。腕力において同年代の男女では、特に十代の男女ではどちらの方が強い傾向にあるだろうか。或いはこれは、運動能力の大小と捉えてもいいかもしれない。

 多くの測定がそうであるように、こと運動能力を測定する場合には男女の差は大きく現れる。技術を考慮しない純粋な身体の性能では同年代の一般的な男女では男子が優位に立つ事が殆どだろう。

 格闘技においても男性と女性で分けられている位だ。その性別の間にある差は大きい。


 では何故。何故二人は同じステージに立っているのだろうか。


「ルールは簡単。制限時間三分以内に場外に出た方が負け。続行不可能になっても負け。時間切れの時点で両者共にステージ上に居た時は先生が公平に判断するよ。……じゃあ準備はいいね?」


 向かい合う両者が頷く。


「うん。では用意――始めッ!」


 それは彼等彼女等が異能力者だからだ。


「はッはァ!!」

「――っ」


 開始の宣言を皮切りに、先ず始めに安彦元が動いた。

 ドンッ!と、ステージを強く蹴り前へ跳躍する。その動作は素早く、一直線に前へ、顕谷美織子の方へと。


「悪いが、俺は全力で行かしてもらう!異能力――〈炎の人(フレイムマン)〉!!」


 安彦元の宣言、同時に異能力が発現する。

 手足が炎に包まれ、炎上する。それはあたかも手品師が炎上マジックを行う姿の様だ。

 しかしこれは手品師ではない。彼の手足が燃えているのではない、彼の手足自体が炎を纏っているのだ。

 中身に変化はない。火傷どころか傷すらない、元々あったままの手足が炎の中に見えていた。


 これが異能力〈炎の人〉(フレイムマン)。自身の身体に燃え盛る炎を纏う異能。

 シンプルだが強力かつ高い攻撃性を有した異能力。

 現れた炎は彼には影響を及ぼさないが、正真正銘の炎。その熱も、性質も普通の炎と変わらない。

 いや寧ろ、それ以上の凶悪さと言っても過言では無い。


「火傷したくなきゃ落ちな!」


 ステージは広い。

 いくら身体能力が強化された状態とはいえ、すぐには辿り着けない。それでも流石、というべきか。安彦元は異能を使用すると同時に走り出し、既に顕谷美織子との距離を詰めていた。


 しかし、安彦元が異能力者ならば当然に顕谷美織子もまた異能力者なのである。


「異能……〈盾創造〉(クリエイト・シールド)!!」

「なっ……!?」


 顕谷美織子が異能を使用する。

 現れたのは鉄で出来た一枚の盾。人一人は隠せない位の大きさだが、今の状況ではそれで十分だ。


 いきなり現れた鉄の盾、しかし前方に跳躍し加速した安彦は急には停止できない。

 咄嗟に彼も減速しようと片足で床に踏ん張ろうと試みるが、間に合わない。


 ガンッ、と。文字通りの金属と物質が衝突する音が響く。

 ステージ上には勢いを殺しきれず、盾に正面衝突してしまった安彦の姿があった。


「…………痛ってぇぇぇ!!くそッ!中々やるじゃん!!」


 盾が消え、安彦が自身の顔を痛そうに擦る。見れば鼻血が静かに垂れていた。

 身体能力を強化していたからだろう、あの勢いで衝突しても鼻血だけで済んでいる。本来なら歯の一本や二本折れていても何ら不思議ではない勢いだったが、痛そうに擦ってはいるが殆ど無傷だ。


 これが異能者の戦い。

 ある時は異能を用いて身体を燃やし、ある時は身体に存在するエネルギーを用いて身体能力を強化し、ある時は鉄の盾を作り出し敵対者を阻む。 

 そこには男女の基礎身体能力の差は存在しない。


 先日の白木銀子がそうであった様に、異能者の強弱は時に性別の差も年齢の差も超越する。


 異能、技術、意思。異能力は身体に宿る、技術は経験に宿る、それらを意思が生み出す。異能は個人のパーソナリティに依存するが故に、精神に由来する。

 千差万別の異能力。無限のパターンを持つ異能力。個人のパーソナリティに由来するが故に、完全に同じ異能は存在し得ない。


「こ、怖いじゃない!いきなり飛びかかってくんな!!」

「勝負なんだから手加減する方が失礼だろーが!」

「それが怖いって言ってんのよ!燃えるじゃん!」

「だから先に言っといただろ!」


 顕谷が安彦に文句を言うが、安彦も負けてはいない。これは勝負であり授業の一環なのだから、彼の言うように手加減する方が失礼というものである。安彦元は新の見立て通りの熱血漢だった。


 しかし彼女の言い分も最もなものだ。


「はぇ~二人共、戦い慣れしてるね~」

「確かに、流石は羅盤学園の生徒なんでしょうか」

「え〜私あんなに俊敏には動けないよ?」


 舞桜瞳と白木銀子が二人の事を評価する。

 そう、ここに居る生徒……いや学園に居る大半の生徒は実際に異能力を用いて戦った事が無い人間だ。自身の異能力を使える事は、戦える事とは違う。特に一般入学組の生徒はそうだ。

 それを踏まえれば、二人の先程の攻防は戦いの体を保てていた。それだけでも現在の時点では褒めるに値するだろう。

 無論これからはどんどんとレベルが上がっていく。戦闘訓練も増え、異能の特訓を積む。そうした過程と共に若き異能者は成長する。

 その為の異能者養成学園なのだから。


「うっしゃあ!二回目行くぞオラ!!」

「あーもー!!暑苦しい奴とかホント無理なんだけど!!」

「暑苦しいとか言うな!……オラッ!!」


 姿勢を整えた安彦が再び地面を蹴って進む。

 今度は最初よりも初期の相手との距離が近い。数秒をかからず安彦は顕谷の懐に辿り着く。


 安彦元の異能力はかなり近接戦闘に特化した創造系統現象系の異能力だ。遠距離攻撃は不得手とする代わりに、近距離に潜り込んでしまえば燃え盛る腕での格闘戦。かなり有利に持ち込める。

 それこそ反応速度という面では近接系の戦闘スタイルでも上位だろう。


 しかしそれをもまた、顕谷美織子が黙って許す筈がない。


〈盾創造〉(クリエイトシールド)!!」


 顕谷美織子が異能を使用する。


 〈盾創造〉は創造系統物質系に分類される異能力だ。物質系の異能は現象系とは異なり、この世界に直接物質を生みだす事が出来る。生み出された者は使い手の練度によっても様々だが一定の時間の後に消える。

 彼女の創造対象である〈盾〉は物理攻撃しか攻撃手段のない安彦にとってかなり相性の悪い異能と言える。

 再び生み出される鉄の盾。先程と同じく、顕谷美織子の体躯よりは一回り小さい。その盾が安彦の直進するその延長線上、彼女の少し前に生み出された。


「それは読んでるっつーの!!」


 安彦は地面を再び強く蹴る。

 しかし今度の加速は前方では無い。上に跳ぶ、慣性が働き安彦元の身体は斜め前方へと浮いた。


 異能によって創造された盾を飛び越えて顕谷の方へ。

 前もって盾の創造を予測していた安彦は前回と同じ様に衝突はしない。


 安彦元は考えた。

 一枚目の盾は暫くして消失した。それは一体何故だろうかと。

 消えれば作り直さなければならない、それは当然の事。

 安彦自身は創造系統現象系の異能力であり、他の異能力がどのようなものなのか詳しくは知らない。テレビ等を通じて異能者の戦いを見た事はあるが、それだって見た事があるに過ぎない。


 しかし異能は一度解除すれば再度発現させなければならない。

 異能の使用。それは分かりやすい形では自身の異能に名前を与え、それを呼ぶ事によって引き金を引く。

 それには短い時間とはいえラグが発生してしまうものだ。


 ならば顕谷が盾を消したのは、一度作り出した盾をその後操作する事は出来ないからなのではないか。


「――ッ!」


 そしてその仮定は正しい。

 未だ未熟な異能力者である顕谷美織子。彼女は自身の〈盾創造〉によって創造した盾を操作する事が出来ない。しかも一度に作り出せる枚数にも限りがある。


 故に安彦は上に跳んだ。一枚目の盾が既に彼の後方にある今、加速した彼が顕谷の元へと到達するのは秒読み状態。彼と彼女との間に遮るものは何もない。


 ――筈、だった。


「〈盾創造〉………曲がれ!!」

「がっ!?」


 空中に浮いた安彦を突如として衝撃が襲う。同時に彼の意識を刈り取らんとする鈍痛がやって来る。

 何が起こったのか、突然の衝撃に揺らぐ意識の中で彼は痛みの方向を見る。


 そこにあったのは、地震にぶつかる盾。彼から見て右方向から飛来した鉄の盾。

 それは面の方向がぶつかっているのではなく、彼に対して垂直に、刺さる様にめり込んでいた。


 確かに安彦の仮定は正しかったが……一つ誤解も存在した。

 今の顕谷は確かに作り出した盾を操作出来ない。しかし作り出す瞬間の向きは操作可能だったのだ。

 それは操作と呼ぶには乏しい動き。しかし盾にはそれなりの重さが存在する。

 その盾が身体に当たればどうなるのか。


 空中に跳躍していた彼は踏ん張れる地面が存在しない。

 それはボールを投げ、バットで打つ、そんな光景を連想させる。

 彼の加速は盾が飛来した方向に逸らされ、勢いを落とさずにそのまま右方向に飛ばされる。


 ズザザザザ、と音を立てて彼はステージ上を滑っていく。

 やがてドサッと彼はステージの外へと落ちた。


「そこまでっ!安彦くんの場外負けによって、勝者は顕谷さん!」

「やったぁ!!」


 実習室に杠英二の声が響く。同時に顕谷が勝利の嬉しさの余りに飛び跳ねた。

 十五組のクラス内対抗戦初戦。その勝敗は顕谷美織子の勝利で終わったのだった。


「はいはいはい皆どいて。どう、安彦くん?意識はあるかい?」

「ッてて……はい、ギリギリって痛っ!」

「あらら、いくら身体能力が強化されてても鉄の盾がぶつかったからね。それにあの勢いだ、救護室に行った方がいいね。おーいロボットくん、この子をよろしく」


 ステージの傍でぐったりしていた安彦に杠は近づき、一言二言状態を確認し終えると予め実習室に用意していた担架ロボットを呼び、安彦を運ぶように指示した。


「こ、これくらい大丈夫っすよ!ってうわッ」


 大丈夫と主張する彼を担架ロボットは持ち上げ、そのまま実習室の外へと運んで行った。

 ロボット故なのかその光景は少々雑に見えたのだが……多分大丈夫なのだろう。


 運ばれていく彼を見送り、杠が話始める。


「はい!という事で初戦の勝者は顕谷さんだね、おめでとう!皆ももし怪我とかした時はすぐに救護室に運べるようにロボットくんが待機しているから心配しないでね。あっ、でも行き過ぎた行為はこっちで止めるからそのつもりで。それとこれとは話が違うからね」


 救護室は案内はされなかったが各学年のエリアに一つずつ存在している。つまり羅盤学園全体では三つ存在しているという事だ。

 そこには医師や治癒に関係する異能者が常に常駐し、治療設備も備わっている。よっぽどの重体でなければ救護室だけで治療を終えられる。

 これが学園内で多少無茶が出来る理由の一つであった。


「さて次の試合に行くよ。次は湊駿(みなと しゅん)くんと天王寺ラファエラさん。もう説明はいいよね。ステージに上がっちゃって!」


 ■◇■


 十五組は全三十八名からなるクラスだ。

 新人戦出場者二名を決定する為、トーナメントはAとBの二つ用意されている。しかしトーナメントを二つに分ければ片方のトーナメントで十九人。

 その為トーナメント表を作成すれば幾人かのシードが出る。

 このシードはランダムに抽選され、そこに実力は介在しない。そもそも実力で選べるのはこの対抗戦が終了してからだ。


 本日行われるのはシードを除いたAトーナメント一回戦八試合。新と白木銀子のトーナメントは明日。今日は舞桜瞳と永宮雅成の居るトーナメントである。


 現在一回戦第四試合までが終了した。

 これから行われるのは第五試合、既に本日の試合数の半分は終了している。


 シードが参加する事になるのは二回戦から。トーナメントの関係上シード以外の生徒は新人戦出場の為に五回勝たなければならない。

 これは不利とも言えるが、学園側の判断は異なる。シードはランダム、そして試合数が多いという事はそれだけ経験を積めるという事でもある。


 強ければ勝ち残る。実力があれば勝ち残る。

 それが当然と言えば当然。


 しかし多くの生徒にとって試合数が多い事は不利だと感じるだろう。出来るなら少ない試合回数で勝ち残りたい筈だ。


「じゃあ第五試合!淵江敦(ふちえ あつし)くんと……永宮雅成くん!!さぁ壇上に上がって!」


 だが、この生徒は違う。

 本人がどうかはこの際関係なく、この生徒にとってはシードだろうがそうでなかろうが関係ないだろうと思わせる。


 永宮雅成。永宮の血を引くランク4の異能者。


「両者揃って……準備は良いかな?」


 一回戦第五試合が開幕する。


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