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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一章 ようこそ異能学園へ
12/82

クラス内対抗戦 その1

 

 仮にソレが事実だとして。

 本当の自分なんてものを理解出来るのは。

 結局の所、自分自身だけなのでしょう。


 ■◇■


「ふぅ……」


 部屋の中に一人。

 殺風景な部屋ではあるが、既に住み慣れた新の個室。誰にも除かれないこの空間が、潜入任務中の新にとっては唯一何も気にすることなく居られる場所だ。


「ランク0……ランク0ね……。そんなの有り得るのか?」


 ランク0……すなわち無能力者である称号。


 ちなみに非異能力者もしくは無能力者、どちらも『異能者でない』事を示す言葉だが、公的には非異能力者といわれる。

 なので【羅針盤】の結果としては『八十新は非異能力者である』となる訳だが……。


 言うまでもなく、新は非異能力者ではない。

 れっきとした異能力者であり、それは入学の段階で証明されている。

 第一そんな事実は新自身が誰よりも知っている。でなければ新は自分が異能力者だと勘違いしてる悲しい男という事になってしまう。


 しかし事実、本日の測定試験において【羅針盤】が測定した新の結果はランク0だった。


 これが意味するのは()()()()()()()、という事でもある。

 実際もう一度測定を行ったが結果は同じ、ランク0。


(エラー……測定不能ではなく、明確なランク0(無能力)。反応なし、という事)


 【羅針盤】は新の測定の後、残りの生徒達の測定を行ったがその全ての結果は信頼できるものであった。一部不満を覚えた人間もいたようだが、それは過去の測定結果から変わっていない、というだけで新の様に非異能力者として測定された人間は居ない。


 【羅針盤】は壊れていない。故障ではない。

 ならば新の測定結果は何だったのか。


 それは羅盤学園教師である杠英二にも分からない事だった。

 少なくとも彼が教師として【羅針盤】を使ってきた中で、この様な事は初めてだというのだ。


 杠が言うには、【羅針盤】の仕組みは複雑だがその根底はシンプルなもの。


 曰く。

 ――〈怪物〉の触手には、あらゆるモノを感知する機能があったんだ。

 ――【羅針盤】の指標にはこの触手の残骸が使われていてね。

 ――測定はこの触手が異能力に反応する、その反応の仕方を分析して行われるんだよ。


 強いエネルギーには強い反応を示し、弱いエネルギーにはそれだけ反応が弱くなる。蓄積された触手事態の経験の中から希少であると判断したものには異なる反応を示す。

 分析構造こそ複雑なれど、根底にあるのは単純な反応のみ。

 シンプルに言えば分析方法が固定化されている以上、間違う筈が無いという事でもある。

 故に……測定は高い信頼性を有している。

 杠自身が言っていた様に、彼の専門分野でもある知識だ。大きな嘘ではないだろう。


「…………理由は考えても仕方ない、か」


 兎も角、彼がランク0と判断されたのは今の時点でどうしようもない事だ。

 今から何かしたところで【羅針盤】の測定結果は変わらない。

 彼が異能力者で有る事は分かっている為、流石に結果については学園側が何らかの配慮をするそうだが、新にとって重要なのはそこではなかった。

 重要なのはクラスメイト全員の前でランク0だと判断された事。その結果が事実かどうかではなく、そう判断された事が問題だった。


「悪目立ち、したよなぁ……はぁ」


 変に目立たない、そう決めた矢先の出来事。

 理不尽に慣れている新とはいえショックも受ける。


 あの後、舞桜瞳や白木銀子には励まされたが微妙な雰囲気になったのは間違いない。

 彼女等は帰り道では普通に振る舞ってくれてはいたが、昨日よりもぎこちない感じだった。少なくとも新はぎこちなさを感じ取ってしまっていた。


 そういう事実がまた新の心を曇らせる。

 これまでの対人関係、特に友人という関係が皆無だった新にとってそれは未知に等しい感覚だった。


「しょうがない。…………寝よう」


 部屋の灯りを消し、一人布団を被る。


 暫くして彼は眠りに落ちた。


 ■◇■


「やぁ諸君、おはよう!」

「おはようございまーす。朝から元気ですね、先生」

「はははッ!空元気だよ!職員会議が夜まで続いてたからね!!うん!」


 次の日の朝、始業の時間になると杠英二が初日にも負けない大声で挨拶をしながら教室に入って来た。

 ぱっと見は元気そうに見えるが、目は疲れており、通常時の半分程しか開いていない。どうやら昨日は徹夜だった事が伺える。

 杠の言う空元気とは真実の様だ。


「さーて、今日からはクラス内対抗戦だよ!もう案内は届いてると思うけど、実習室十五で対抗戦を行います。これで最後まで残った二人が新人戦に出場って事だね。何か質問がある人はいるかな?」


 杠がそう言うと、一人の生徒が挙手した。 


「はい先生。何でクラスの代表は一人じゃないんですか?それって結構意味ない気がするんですけど」

「うん、良い質問だね。それは優秀な生徒には出来るだけ多くの経験を積んで欲しいからっていうのが半分。同クラスの生徒同士だとこの先授業とかで何度も手合わせするだろうからね。一番最初のこの時期に色んな人間と戦う訓練をしておこうって事」


 異能は使えば使う程に慣れていく。熟練し、応用も効く様になる。

 限界はあるが、この場に居る殆どの人間は対人経験が無い生徒達だ。より多くの戦闘経験を始めの時期から積んでおく、というのは理に適っている。


「初日にも言った……と思うけど、初戦から同クラス同士で戦う事は無いっていうのはそういう事でもある。新人戦では決勝まで行かないと同クラスの人間とは当たらない様にトーナメントが作られるからね」

「じゃあ、もう半分はなんです?」

「もう半分は……そっちの方が盛り上がるから!っていうのは言い過ぎだけど、この新人戦は上級生を含めた学園の人間全員が新入生のレベルを見る場でもあるからね。参加生徒は多い程見応えがあるでしょ?」


 杠自身の言う通り、若干ふざけた言い方ではあるが実際その通りだった。

 羅盤学園は巨大な学園、所謂マンモス校だ。しかも異能を研究する研究機関でもある。


 異能者養成学園は異能者を養成する為の教育機関でありながら、もう一つの役割として所属生徒の異能を研究する為の機関であるのだ。

 中でも羅盤学園は国内最大の規模を誇る異能者養成学園である、その数は他と比較しても多い。戦闘面での異能の研究や理数系の研究、変わった所では超常史の歴史研究等もある。


 この様に生徒会や部活動それ以外にも研究室等、学内には大小様々な学生組織が存在している。中には異能特区内の企業と連携した組織も存在する位だ。

 こうした学生組織が優秀な生徒を見つける場所、自らの組織に勧誘する為に目星を付ける絶好の機会。あわよくば即勧誘(ヘッドハンティング)狙う場所こそが、新人戦という行事だ。


「さて他に質問がある生徒は居るかな?……居ないみたいだね!じゃあ早速移動開始!実習室十五だよ、間違えないでね!あ、着替える生徒は着替えてね」


 皆事前の案内を読んでいた事もあり、杠の移動開始の合図と共に各々移動し始める。

 既に人間関係がある程度出来たのか、複数のグループで移動していく。永宮雅成は一人で移動していたが、取り巻きに数人いる辺りまだ話しかけるチャンスを伺われている様だ。


(さて、僕も行くか……)

「新君~一緒に行こ~」

「あ、うん。今行く――」


 舞桜瞳に呼ばれる。

 少し気まずかったが、新が着替えを持って立ち上がったその時、今度は別の人物から声をかけられた。


「あ、八十君は少し残ってくれるかな」

「……分かりました。ごめん、二人共先行っといてくれ」

「……うん~先に待ってるね~。いこ、銀子ちゃん」

「はい。実習室で待ってますね」


 ■◇■


 やがて新以外のクラスメイトが全員教室から居なくなる。

 それを待っていたのだろう、杠は椅子に座って新に話始めた。


「じゃあ早速で悪いんだけどね」

「昨日の、ランク0の件ですよね」

「うん。話が早くて助かるよ」


 新で無くとも大方予想はつく。

 昨日の今日だ、寧ろあのまま放置……という事の方が対応としては有り得ない。


「昨日の夜、八十君の測定試験の結果について職員会議を行ったんだ。っていうのも大丈夫かな?」

「それで寝不足だったんですね」


 彼の疲労した表情の理由はそれだ。

 恐らく殆ど寝ていないのだろう。どうやらこの学園の職員会議は大層ハードな物らしい。


「あはは、僕は担任だからね。他の先生方よりも長く残ってたって訳。でも【羅針盤】は羅盤学園の誇りで、これまで間違いなんてものは無かった。だから皆その結果をどうするか決めかねてたのさ。……僕が壊したんじゃないかって疑われたりね。酷い話さ」


 杠は困った様に笑う。

 それも仕方ないだろう。

 恐らく新があの結果を出すまで、誰も【羅針盤】の正確性を疑わなかった。新という例外が生まれた事でその信頼に揺らぎが生じたのだ。


 羅盤学園の生徒の評価方法は玉石混交の言葉にもある様に実力主義の面が強い。

 それは戦闘能力もそうだが、ランクも大きな因子として評価基準の中に存在している。

 これは直接戦闘能力を保有しない生徒が不利にならない為の配慮という側面もあるが、根本にあるのは【羅針盤】という異能測定機が存在したからだ。

 戦闘能力、希少性、異能の性質に強度……様々な異能の要素を複合的に判断し測定する【羅針盤】は評価にもってこいという訳だ。


 しかし、だからこそ(ランク0)に対しての判断を慎重にしなければならなかったのだろう。 


「すいません、ご迷惑を」

「ああでもでも君が気にする事では決してないんだよ!君が異能力者なのは分かり切ってる事だからね。悪いのは面倒くさい色々な諸々!」

「気にしなくても大丈夫ですよ」

「はは、そう言ってくれるのはありがたいんだけどね。君はまだ入学したてのほやほや卵、新入生なんだから。少しは文句を言ったっていいんだよ?何で僕がランク0なんだーとか、本当ならランク4の筈なのにーとか他の皆みたいにね。まぁ言い過ぎも良くないんだけどさ」

「あ、あはは……」


 確かにランク0は新にとって有り得ない結果だったが、別にそう判断されたからといって新は悲しんだりはしていない。新が昨日悲しんだのは任務失敗を恐れてだ。

 しかしそんな事を杠に言える筈も無い。

 よって新は適当な笑いではぐらかした。


「おっと、皆も実習室で待ってるだろうから本題を話すね。……結論から言うと、君のランクは一先ず2という事になった。これは入学のデータだね。新君は一般入学組だからこのデータは発現したての時のものだろうけど……ごめん、少なくとも今はそういう事にしておいて欲しい」

「いえ、だから先生が謝る様な事じゃないですよ」


 ランク2、これは新が入学するにあたって準備した偽の異能のデータだ。

 どうせ入学すればランク測定は行われる、ならば出来るだけ低い方が都合が良い、そう思い用意したデータ。【羅針盤】の存在は予定外だったが結果的には準備が功を奏したようだ。


「それにあくまで【羅針盤】が出した結果なんですから」

「ううん八十君。確かに【羅針盤】が出した結果かもしれないけど、それはそれ、これはこれなんだよ八十君。事実として【羅針盤】は君をランク0、非異能力者という間違った測定をしたんだ。その結果君に不利が生じているんだから、謝るのは学園側(僕ら)なんだよ」

「…………!」


 杠英二は真っすぐ新の目を見て迷いなくそう言った。

 目の前に居る人間は、先程迄のどこかパッとしない成人男性ではなかった。昨日までの頼りない、情けない姿ではない。

 目つきが変わっていた。形が変わっているのではない、しかしその目に宿るのは確固たる意志だった。宿る意思が、彼の眼差しを別物にしていたのだ。


 そしてそれは新が外界において初めて触れた大人らしい大人の在り方でもあった。


「僕、先生の事誤解してました」


 新は謝罪する。

 それは内心で無意識の内に彼を侮ってしまっていた自分への反省でもあった。


「へ?誤解?何が?」

「いえ何でもありません。……結果、ありがとうございました。どうせ成長してないですからランク0もランク2も僕にとっては同じです。だからそんなに気にしてません」

「うん、本当にごめんね。……さ、暗い話はここまでっ!僕もすぐに実習室に向かうから、八十君も早く向かってね。今日は君の番じゃないけど、人の戦いを見るのも勉強だからさ」

「はい。ありがとうございました」


 二人は教室を後にし、実習室へと向かった。


 ■◇■


 案内は二日目、クラスオリエンテーションが終わった夜には送られていた。

 その案内は一週間の十五組を含めた一年生の予定が大雑把に書かれていた。


 今日は四日目、即ちクラス内対抗戦の日である。


「ねぇ、新君」


 教室から遅れてやってきた新に、舞桜瞳が声をかけた。


「あのね~昨日は少しぎこちなかったけどさ、もう普段通りでいいよね?」

「うん。僕ももう気にしてないし……っていうか二人はそんなにぎこちない感じでも無かったけど」

「ま~ね~。でもほら、気を使われた方が辛いって時もあると思うんだよね~」

「そうですね。昨日は変な雰囲気にしてしまってごめんなさい新さん」

「まぁ、うん。じゃあ謝罪は受け取っておく事にする。けど本当に大丈夫。寧ろありがとう、気を使ってくれて」


 どうやら昨日のぎこちなさは二人も同じだったらしい。


「じゃ~いつも通りだね!もうきっぱり忘れてさ、暗いことはなしなし〜。そんな事より今日の事だよ!今日からクラス内対抗戦だよ~!?緊張するよ~。私今日なんだよね〜」

「事前案内だと、今日やるのは十六人八組ですね。トーナメントを見ると……あ」


 白木銀子はタブレット端末に送られてきていた案内を開き、トーナメント表を確認する。

 そこで白木は何かに気が付き、指を指した。


「これ、新さんも私も勝ったら二回戦で当たりますね」

「……確かに。二回戦で当たる」


 トーナメント表を見れば勝ち進んだ場合二人は二回戦でぶつかる事になっていた。


「ふふ、戦えるのを楽しみにしていますね?」

「こっちはあんまり戦いたくないけどね」

「え~!二人共ずるいよ!私は反対側のトーナメントだから決勝までいかないと会えないし!ていうか決勝とか無理だし~!?」

「いや、当たるのが別に良い事じゃないでしょ」

「そもそもトーナメントが二つなので片方のトーナメントで勝ち上がっても戦えませんけどね。新人戦には各クラスから二名出場しますから」

「そうじゃん!じゃあ結局無理だ〜」


 確かにこの三人の中では舞桜瞳だけがトーナメント表の反対側だった。

 舞桜の言うように舞桜とどちらかが相対するにはそれぞれのトーナメントで優勝する必要がある。

 が、それは恐らく不可能だろう。

 何故なら。


「確かに……そちらには永宮君が居ますからね。……正直、普通の人では勝てないと思います。彼は優秀ですから」

「だよねだよね~!?ランク4だよランク4!!そんなの勝てっこないよ~」

「それを言うなら白木さんもランク4だけどな」

「……確かに!じゃあ新君無理じゃん。ご愁傷さま……骨は拾ってあげるね……」

「確かにそうかもしれないけど、骨を拾うは無いでしょ……」

「いえいえ、私もそれ程大したものじゃないですから。一回戦で負けてしまうかもですよ?勝っても新さんに負けてしまうかもしれません」

「絶対嘘だよ~~!!謙遜してるだけだって〜!」

「……」


 微笑を浮かべながら謙遜する白木銀子だが、それが本当に謙遜でしかないのは誰の目から見ても明らかだ。


 白木銀子。

 二日目の帰り道に彼女が見せた力は間違いなく、大したものだった。確かな実力によって生み出された結果だった。

 それは疑いようもない事実。

 白木銀子は強い。未だ底は見せていないが、少なくともこのクラスでは最強に近いだろう。

 新の見立てではかなり慣れている、自分の異能力についてそれなりの修練を積んでいる。

 この場に居る者の殆どは原石。自身の異能について知ってはいるが理解には及ばず、また戦い慣れていない。

『人』に対して異能を使うという経験は殆どの人間がした事の無い未知のものだからだ。


 一つ例外があるとすれば同じ天帝近衛四家である永宮か。

 実質的にこの戦いは白木対永宮が決まっている様なものだ。


「皆〜!遅れてごめんね!!ちょっと野暮用でさ!さてさて待ちに待ったクラス内対抗戦だよ!ステージに上がって!」


 飛び込んできた杠と殆ど同時に、実習室の中央付近が迫り上がっていく。

 現れたのは四角形のステージ。実習室の中央を陣取る形で出現したそれは、そこそこの広さを有していた。

 つまりこれからこの壇上に上がり、クラスメイト達が戦うのだ。


「さて、最初の試合は顕谷美織子(あらや みおこ)さんと安彦元君!ステージに上がっちゃって!」


 いつの間にかマイクを持っていた杠が宣言すると、二人の生徒がステージに上がった。


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