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ベツバラ!!  作者: 理想久
第一章 ようこそ異能学園へ
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測定試験(1)

 

 そうして翌日。今日は昨日、杠英二の説明にもあった様に異能のランク測定試験日である。


 昨日は不幸な事件に巻き込まれた新達であったが、その後は大した事件も起きずそれぞれの自宅へと帰宅した。途中買い食い等があったがそれ位で普通の帰り道と言った感じだ。

 強いて言うなら新にとっての初めての買い食いであった事位か。


「はーい、皆良いですか~全員揃ってるよね~?」


 杠英二の声が廊下に響く。

 今はクラスの人間が廊下に出て、目的地へと向かっている所である。


「【羅針盤】は世界に三台。勿論学園にも一台しかないからね。僕達十五組は前のクラスが終わるまで待機って事なんだけど、それじゃあ時間が勿体ないからね。順番待ちをしている間、移動を兼ねて教室紹介をしていくよ〜」


 羅盤学園の敷地は広大である。

 各学年の教室がある教室棟だけでも三棟。更に各種施設を備えた特殊教室は数十の数が存在し、学園の敷地内に散らばっている。

 ここに研究室や商業施設等も合わさると、到底一日で学園内を回りきる事は出来ない。

 そうなると大変なのは教室間の移動だ。


 勿論学園もそれは理解している。

 故に膨大な数の教室は更に学年毎に、教室毎に専用の物が割り当てられているのだ。

 【羅針盤】の様に一点ものの設備を要する場合はその限りでないにしても、これだけの充実した施設・設備を備えているのはやはり国立の特権であろう。


 そして新達の属する十五組もそれは当然に当て嵌まる。

 ランクの測定試験は二日間に分けて行われる。順番はそのままクラスの番号であり、全十八組ある中の十五番目という事だ。かなりの後半である。

 昨日は一組から九組迄が行われ、本日は十組から終わりまでだ。


 一年生の教室棟から【羅針盤】迄は結構な移動距離があるが、五クラス分の待ち時間を考慮すればかなり時間的には余裕がある。

 なので道中に存在する各種教室を紹介しつつ、移動するというのが現在の予定という事だ。


「始めに、ここは実習室十五。使う機会は多いと思うよ。異能を実際に使って訓練をする場合は大体は此処だね。各クラスの実習室は基本専用だから、利用時間内ならいつでも利用できる。タブレットが鍵の代わりになるから、申請はそこからね」


 教室から移動し、最初に紹介された教室はかなり広い部屋だった。

 市民体育館程の大きさと考えれば分かりやすいだろうか。もしくはそれよりも大きいかもしれない。少なくとも十分に異能を使って訓練を行える空間がそこには存在した。


 教室棟の外へ出て一つ独立した建造物だったので、最早部屋と言うよりは本当に体育館の様な場所なのだが。教室というくくりで言えば教室である。


「特殊に作られた素材で、ある程度までの異能による被害は軽減してくれる。思いっきり……とまでは推奨しないけれど、手加減しすぎて訓練にならないという事は無いと思うよ」


 見てみれば壁や床が一つの建材で統一されている事が分かる。

 これが杠英二の言う特殊な素材という事なのだろう。


 こんこん、と新が軽く足で蹴ってみるがかなりの硬度がありそうだった。


「後、例年少なからず居るから注意しとくけど、戦闘訓練は此処では禁止だからね。危険だし、君達はまだ自分の異能について無知だから。ある程度訓練が進んだら解放されるからそこまでは我慢だね」


 ◇


「次は此処、簡易測定室」


 次に案内された部屋は先程とは打って変わって狭めの部屋だ。


 狭いと言ってもクラス全員は余裕で入る。ただ先程の実習室とは異なりここは複数の教室が集まっている特殊教室棟の一部屋、それも当然だ。

 実際、この部屋の隣にはそれぞれ十四、十六という数字がプレートに刻まれている。各々が十四クラスと十六クラスに対応した専用の部屋という意味だ。


 中には人の腰程の高さの機械が幾つか並んでおり、それを囲む様にPCが並んでいた。

 如何にも何かを測るのだ、という雰囲気に溢れている。


「ここも時々使うと思うよ。【羅針盤】は予約必須だし、それも滅多に空きが出ないからね。ここではランク測定というよりは異能の性質とか強度についての測定が出来る感じだね」


 あくまで簡易、という事なのだろう。

 これは新にとっては助かる部分だった。新は基本的に潜入任務をしている身。自分の情報は極力出さない方が望ましい。特に異能に関する情報は切り札とも呼べる部分だ。

 そういう意味では、この部屋で簡易的とは言えども能力についての各種測定が行えるのは便利だ。誰も居ない時を選んで測定すれば他の人間に知られる心配も無い。


「ここも申請さえすればいつでも使えるから、使いたい場合は申請を忘れない様に」


 どうやら学内の施設の類は基本的に支給されたタブレットを通して予約が必要らしい。

 それも当然と言えば当然。クラス専用の教室とは言え、個人が研鑽する異能者なのだ。訓練室等が良い例で、被害が出ないとは確実には言い切れない。広範囲に影響を及ぼす異能も存在する。


「さて、道中にあるのはあと二つだね。そろそろ順番だし、サクッと回っちゃおう」


 ■◇■


 その後は実験室、休憩室の二つを回った。

 この二部屋は専用だが下手すれば使わないまま学園生活を終えるかもしれないと杠英二は言う。

 研究室も設備が整っては居たが簡易測定室と同じように基本設備しかないようだし、休憩室は生徒分の収納スペースがあるだけの簡素な部屋だった。

 

 研究室については曰く、「研究設備が使いたい人は専用のゼミに入ったり、学外の施設使うからね。ここを使うの人はあんまり居ないかな」との事。

 研究に熱心な者は専用の場所に赴き、そもそも興味の薄い人間は使う事は無い。そういう事だ。


 休憩室も同じような事で、休憩が目的ならもっと別の場所に行くという事なのだろう。実際学園の近辺に部屋を借りている者も多いし、寮もある。下手な休憩室より自宅、と考えるのは普通だ。


 という訳でこの二つの教室の見学は簡単に終わった。

 それでも丁度いい時間帯になっているのだから敷地の広大さは凄まじいものだ。


「はい、此処が第一測定室。【羅針盤】がある部屋だね。まだ前のクラスがやってるみたいだね。丁度いいじゃないか、これもタイムマネジメント力の賜物かなぁ~?」


 前のクラス、つまり十四組がまだ中で測定試験を行っている様だ。

 中の様子は扉に付けられた小さなガラス窓からしか覗けないのでどの様に測定が行われているのか、また【羅針盤】の姿は見えないが中に誰かが居るという気配は感じられる。


「うわぁ~いよいよだね!新君!」

「確かに。結構歩いたからな」


 急いで歩いた訳でも無いので新に疲れはない。そもそもこれ位の移動では新は疲れないが。

 しかし時間的には結構な移動時間だった。当日になってからこれだけの時間が経過した、という意味ではいよいよ測定だという舞桜瞳の気持ちも分からなくはないだろう。

 実際クラスの一部はそわそわしているのが伝わってくる。


「私実は前に測った時、そんなに高く無かったんだよね。前は~うん、丁度発現した時位かな?新君のランクはどうだったの」

「そうだな……僕もそれ程高く無かったよ普通位」

「え~銀子ちゃんは~?」


 もう一人、一緒に移動していた白木銀子にも同様の質問をする。


「私は……確かランク3でしたね。と言っても三年以上前の話なので今は分かりませんが」

「えぇ!?三年前で3だったの!?凄すぎるよ~!」

「それは凄いな。三年前、という事は中学生だろ。その時にランク3、流石白木だな」

「……そうですね」


 異能の発現時期は千差万別だが、多くの場合思春期かその直前に発現するとされる。

 これは異能力が個人のパーソナリティに大きな影響を受ける為だ。個人が明確に形成される時期、人間で言う自我が明確になっていく時期に異能力は発現する事が多い。

 

 白木銀子の中学生は発現時期としては妥当と言ったところだが、そのランクは高いと言わざるを得ない。ランク3、新の言う通り流石は白木家の血筋である。


「えぇ~そんなの聞いたら自分の言うのが恥ずかしくなっちゃうな~」

「ですがランクの高低は一概に威力や強度で決まる物ではないですから。私の場合は()()の異能が高く評価された、という事だと思いますよ」

「それでもだよ~。羅盤学園(ここ)だとランク=凄さ!みたいなとこあるし~」


 事実、ランクが異能社会において重要な指標である事は間違いない。

 世界異能機関が定めた共通の異能の指標。機関のランク認定員が測定するそれは、現代の異能者にとっては一つのステータスだ。

 ランク6と呼ばれる異能者が数人しか認定されていない様に、高ランクになれば成るほど異能者の数は減っていく。この世界の異能を持つ人間の殆どはランク1か2なのだ。

 ランク5ともなれば国家の戦力と言っても十分過ぎる程の影響力と武力を個人で保有する事になる。


「まぁ、あんまり気にしなくて良いと思うけど。これから新しく測定するんだろ。それに昨日の話だと【羅針盤】は〈閲覧権限〉並みの正確さらしいし。認定員だと見抜けないものまで分かるんじゃない?」


 よくある話として、ランクの測定には誤差が生じ易い。

 これはあくまで認定員も人間だという事が理由になる。

 本人の隠された素質や、異能の本来の性質、或いは希少性。そういったものを全て考慮してランクを測定するのは難しい。

 ランク認定員はある程度のランクの人間が選出されるが、それでも自分よりも圧倒的な実力を持っている相手を測定する事は困難なのだ。その場合は実際の実力よりも低く認定されたりもする。

 だからこそ【羅針盤】や〈閲覧権限〉の特殊性が強調されるのだ。 


「そっか……そうじゃん!これから新しく測定するんだもんね!前回から上がってるに決まってるもんね!うんうん~なんだか安心したよ~!」


 少し気を落としていたようだが、新の言葉を聞き、元気を取り戻した様子。

 大袈裟とも思える程のリアクションだが、これが舞桜瞳なのだ。


「良かった、元気が出たようですね。そうです、今から測定するんですから気にしなくて良いですよ」

「ありがとう銀子ちゃん!ようし、気合入れるぞ~!!」

「その意気ですよ!」

「……意味あるのかな?」


 ■◇■


「はーい、じゃあ説明しますね!」


 前のクラスの生徒達が退出し、十五組の番が巡って来た。

 

 前のクラスが出ていった時に新は生徒を見た所、数人実力の高そうな生徒は居たが全体的には普通という印象だった。やはり永宮、白木の二人が揃う十五組は異質らしい。

 こうなるとクラスの編成はやはりランダムなのだろう。それにしても実力が偏っては居るが、これも玉石混交を掲げる学園では通常営業なのかもしれない。


「まぁ皆異能のランクは知ってると思うので軽くおさらいです」


 部屋に備え付けられているモニターにまた杠英二お手製のものと思われる資料が映された。


「異能ランクは世界異能機関によって設定された異能の段階付けだね。異能強度、範囲、威力、効果、そして希少性なんかを総合的に判断して1から普通は5迄の五段階でランク付けされる。皆も異能が発現してるからには一度はランク測定を受けた事があると思うけど、ああいうのが認定員による測定で公式なものだね」


 普通と前置きしたのはランク6、そしてランク0の人間の事を考慮しての事だろう。

 ランク6は言わずもがな、世界最高位のランクで現在では世界に七名しか認定されていない。最もその内の二名……〈魔王〉と〈怪物〉(Monster)は絶命しているので正確には五名だ。

 これは特殊な事例にのみ認定されるもので、認定員が認定するものではない。なので別枠だ。

 

 そしてランク0。これは最早異能社会となった現在では少数の中の少数、異能を持たない人間の事を指す言葉だ。0、つまり無いという事。公的には非異能力者と言われる事が多いが、ランク0も一つの指標として存在している。

 しかしこういった人間の殆どは生来の疾患や、或いは単に発現が遅いだけという事が殆どだ。異能の発現時期は千差万別、成人してから発現する事例も少数ながら存在する。

 

 こういった二例は存在するが、余りにも特殊な事例。

 故に杠英二も普通は、という言葉を用いたのだろう。


「で、ここからが本題だね。これが【羅針盤】、羅盤学園が誇る技術の結晶!唯一世界異能機関から認可を受けた公式ランク認定機であり、世界最高峰の異能測定装置さ!」


 杠英二が指を指した方向、教室に入った瞬間から目に入っていた巨大な装置。

 これが【羅針盤】。昨日見せられた形通りだが、想像以上だったのはその大きさだ。

 新は昨日パネルの大きさから大体の装置のサイズを推測していたが、その二倍はある。パネルだと思っていたのは各種項目に分けられたモニターであり、本当の操作パネルはもっと下部についていた。


「ふふん!この機械の凄い所はね、その正確さ……ってこれは昨日言ったっけ。じゃあ簡単に仕組みだけ話そうかな」


 そう言って杠英二は【羅針盤】に近づき、パネルをカタカタと操作し始めた。

 すると静かながら起動音と共に装置に光が灯り、同時に黒色のドームが透明に変色する。中から現れたのは一本の棒。針の様に先端は尖っているが、針と余りにも大きく太い。

 なるほど、これが【羅針盤】の名前の由来なのだろう。


 ドーム状に覆いかぶさった透明板に巨大な指針の如き棒。上から見ればまんま【羅針盤】(コンパス)の形という訳だ。


「と言っても構造はシンプルなんだ。ほら、ドームの中に大きな棒みたいなのが見えるでしょ?あれがかの〈怪物〉の残骸、その触手を加工して作られた特殊な感知器になってるんだ」


 〈怪物〉の残骸、その触手。どうやら羅針盤の指針に当たる部分の素材がそうであるようだ。


「今は作動してないけどね。作動させると、この感知器が測定対象の異能領域の性質を感知して動作し始める。その時の反応をデータに起こして解析。この解析が凄くってね!正に羅盤学園、いいや日本と言う国における技術の粋を用いて作られた巨大なデータベースを元に異能領域から異能の性質、果てには異能者のエネルギー量までを瞬時に割り出すんだ!その誤差は限りなく短縮されて、何と従来の測定装置と同程度!これには僕の杠家のだけでなく、宝条や優秀な分析異能者の異能の波長を分析して作られた簡易異能領域が……!」

「先生!そろそろ測定を始めませんか?」


 一人の男子生徒が杠英二の解説を制止する。

 その声に一瞬びくっとした杠英二だったがすぐに状況を把握した。


 彼を囲っていたのは止まらない杠英二の解説に置いてけぼりになる生徒達。

 興味のある一部の生徒や話の内容を完全に理解できる者を除いては知っても知らなくてもいい情報。別に知りたくない訳ではないだろうが、当然目の前のもっと重要な測定試験(こと)に比べればどうでも良い事には違いない。


「あ、ああ!ごめんごめん!実は僕の専門分野は工学系なんだ。だからつい……本当にすいません」

「いえ。お気になさらず。ほら、早く始めましょう」

「うん、そうだね。ありがとう永宮君」


 永宮。その男子生徒は確かにそう呼ばれた。

 赤みがかった茶髪に、凛々しさを体現したかのような顔立ち。美男子、と言うよりかは男前。白木銀子の自然体が作る美しさではなく、透き通った炎の如き美しさを感じさせる。


「じゃあこれから測定試験を始めるよ。順番は誰でもいいけど、折角だし永宮君からするかい?」

「では俺からやらせて貰います」


 そして十五組一人目の測定者は永宮雅成に決まったのだった。


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