〇七、聴講
タァミャに案内されて、俺たちは席に就く。タァミャとキュハァスはお互いの近況を話している。それにしても腹が減った。コメが食いたい。そう考えているうちに、彼女たち二人の話が済んだようだ。
「ヒトロク様、お食事は何かご希望が御座いますか?」
「あぁ、コメが食いたい。気分としては、焼き魚かなぁ」と、俺は少々無茶振りを考えてる。それをキュハァスがタァミャに伝える。やはり、俺の言葉は通じない様だ。
『大丈夫ニャ、今日はデカいのが入っているニャン』と、タァミャ。語尾が脳内補完される。
「腹減ってるからデカいのでよい」と、俺は反射的に答える。タァミャとキュハァスが顔を見合わせる。
『では、わたくしもそれでお願いします』と、キュハァス。
『承りましたニャン』
タァミャが踵を返すと、壁に向かってカーテンでも引くような仕草をする。すると、壁が透き通りそこに外の景色が現れる。外の景色というよりは、透過性の壁の技術に驚く。
「ハマショー!」
『な言ってるニャ? それを言うならハラショーニャ!』と、告げてタァミャは去っていく。
「さすが、ロシアンブルーの毛色」と、感心する俺。
「なぁ、キュハァス。ドゥランのテンカイを渡った民って何?」
「彼らは雲より高い、そのまた上の空からやって来たそうです」
「へぇ、宇宙移民なのか?」
「その『ウチュウイミン』とうのは存じ上げませんが、天界を渡り星々を巡ったと伺っております。わたくしには見当も及びませんが」
「あぁ、天界ね。宇宙の事か。なるほどねぇ、技術力高いわけだ」
「ヒトロク様、その言葉だけでご理解なさるのですね。その慧眼、恐れります」
「それほど大した事ではないよ。知っているだけの事さ」
顔には出さなかったが、随分とトンデモ展開だと思う。新たな疑問が次々と湧き出して脱線して、自分でも制御できない流れに向かってしまう。初心に立ち返り、ここは何処かを訊いてみる。
「所で話変わるが、キュハァス。ここは何処だ?」
「ここですか? ここはドゥランの迎えの館です」
「いや、そうではなく。この土地、違うな。この展開では、この惑星は?」
「ワクセイですか。それは判りませんが、ここは北洲南部の新領域の西岸側です」
「ホクシュウ?、新領域? ???」と、新たな疑問の噴出に混乱する俺。それを見て、キュハァスが続ける。
「北洲は、我らが大地である央洲の北にある大地です。先の大戦の結果、北洲の国々から明け渡された土地がここ新領域です」
「オオイクサ?、戦争か」
「それは、とても惨い戦だったと伝え聞いております。北洲の民どもは、禁忌を犯して、この土地を切り開くだけでは留まらず、わたくし共の大地への攻め入ってまりました。衆の兵で戦う術を持たぬわたし共の民たち、央洲の北辺に住まう民たちは瞬く間に滅ぼされ、我らが大地の奥深く、宮様の足元近くまで攻め入られてしましました。勿論、わたくし共も北洲の攻め入る兵どもへ抗って見せたのですが、衆の兵どもと爆ぜる火炎でなすすべもなく打ち破られてしまったのです」
「なんと言ったらよいのが、凄惨な戦争だったんだな。それで今ここは、新領域。何があった?」
「はい、宮様がアァマへ助力を願い、アァマがそれに応えていた頂きました。アァマの使徒方々が、わたくし共へ衆の兵で戦う術を授けてくださいました。初めは、アァマの使徒の方々がわたくし共の代わりに戦ってくださいました。その戦いは、天からの雷を放ち敵を蹴散らし、光の鏃や見えない刀剣で敵を倒し、また、天から星を降らせて城を攻め落とし、眩い光で街から敵を消しました。そうして、少しづつ北洲の兵どもを押し返していったのです。それから戦う術を身に着けたわたくし共は、宮様が兵を率いて我ら大地から北洲の兵どもを追い返したのです。しかし、アァマの使徒方々の助言で、彼らは禁忌を破ったのだからその代償を求めるよう宮様へ助言されたそうです。それで、宮様の率いた兵どもが北洲の大地へ攻め入り、戦に勝ち得たのです」
「聞いていると、アァマって神様かなにかか? 容赦ないね。まぁ、当然の戦略かぁ。禁忌破ってまで攻めてくるからな。って、この新領域って央洲にとっての緩衝地帯やん。ある意味、火薬庫じゃねか」
「カミサマという言葉は存じませんが、アァマとは天界を巡る民と聞き及んでおります。わたくしはアァマの方とお会いしたことはありますが、皆さま気さくな方々と存じ上げております」
「へぇ。アァマってヒトなんだ。なんか話を聞いている神話レベル的な神様の様な印象を受けるんだが…」
と、そこへタァミャが途轍もなくデカい何かを運んでくる。
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