その二
いわゆる中二病に、一寸早めにかかっていたのかもしれない。
何だか自分が妙にひねくれてしまったみたいで、ああ小学生位の子供の頃は悩みの一つもなくて誰とでもすぐに笑って打ち解けられたものだった。
あの頃は全く無邪気だったなぁ。
なんて、今から思えば赤面苦笑もののセンチメンタルな感傷に日々鬱々と真面目に浸っていた。
そんなある夜、ふっと夢を見た。
小学校低学年時分の私自身と、同じく小学生位の女の子とえらく楽しそうにきゃっきゃっと走り回り遊び回っているのだ。
花を摘んだり虫を捕まえたり、野良猫と一緒に草むらに寝転んでみたり。
ああ、楽しかったなぁ。
夢から覚めて、静かな自室の暗い天井の木目を眺めながら、ぼんやり夢を辿っていた。夢に出てきたその元気に日焼けした屈託ない女の子には見覚えがあった。
ああ、Y子だ。
ついこの間まで一緒に自転車に乗り遊び回っていたY子の顔だ!
あの頃は、男も女も年齢もなにもかも関係無く、誰とでも朗らかに笑いながら一緒に外を跳ね回っていた。この間、ほんの僅か数ヵ月前の日々が遠い昔の懐かしい記憶のようにふつふつと甦ってきて止まらない。
なにも尖っていなかった無邪気なあの頃が一気に遠く彼方の古い記憶になってしまったように思われて、悲しくなった。
せめてもう一度、あの頃の感覚に実感として少しでも触れたい。
そうだ、Y子に会いに行こう。
唐突にそう思った。
別に会って昔みたいに遊びたい訳ではない。けれども、Y子に会って少しでも笑えれば、私にとってはそれでよかった。
それは丁度金曜の夜だった。
今から行こう。そうしよう。
私は虚しい眠りから起き上がり、一気に動き出した。
思えば、他人の迷惑もなにも顧みる事を知らない愚かで独り善がりな少年であった。
行くと決めたら速いものである。
まずはY子からその年の一月に貰った手紙を机の引き出しから取り出した。
急に引っ越す事になっちゃった。ごめんね。さみしいぜ。もしもこっちに来ることあったら絶対寄ってよ。待ってるよ!
幾度も読み返した文面を見て、住所を声に出して読んでみた。
地図を広げて、家からY子の引っ越した場所まで指で大まかに距離を測ってみた。
四、五十キロかな。
まぁ余裕でしょ。
リュックサックを取り出して、まずは地図を横のポケットに入れて、それから次々に思い付いたものから積めていく。
Y子と会うのがもし夜だったら、何もないのもつまらないよなと、娯楽用に去年の夏に使わなかった花火とチャッカマン。それから急の事態を想定しながら非常食としてのおせんべいやら雨の対策としてちゃちなカッパやら折り畳み式の傘やら、小さなリュックサックがパンパンになるまでごちゃごちゃ詰め込んで、爽やかに背負った。
愛用のジーンズを穿き、Tシャツの上に青く薄いウィンドブレーカーを羽織り、小銭しか入っていない財布をポケットに詰め込んで、これで準備は整った。
いざ出発。
何ら迷うことなく颯爽とわが愛車に跨がった。