83 修羅場②
テーブルを4人で囲み、シエラの境遇についてようやく話を進めることができた。
「……」
「……」
カナデとシエラは睨み合い、あまり良い雰囲気ではない。
カナデの横には俺が、シエラの横にはスティーナをつかせた。
「なぁシエラ。君はどこから来たんだ?」
「ん、白の国。王国からはかなり遠いと思う」
白の国。
S級冒険者になってから各国のことは覚えるようになった。
王国から遙か北に存在する国である。世界で最も広い国土と言われており、半分近くが雪で埋もれているとか。
王国から白の国へ陸路で行くのは並大抵の努力じゃ無理だぞ。
「どうやってここまで来たのよ」
「空飛ぶ船に忍び込んできた」
「飛行船か!!」
隣国である帝国でここ数年で運用が始まった貨物運搬用の空飛ぶ船である。
実物は見たことがない。帝国と白の国を結ぶ便が何ヶ月に1回あるようで、その内の1回が何と王国まで飛んでくるのだ。
目的は王国への技術誇示だと言われているが……。
まさかシエラのやつ帝国→白の国→帝国→王国の順路の飛行船に乗ってきたってのか。
「どうして……逃げ出してきたんだ? 白の巫女って言ってたよな、白の国では重要人物じゃないのか? 追手が来たりなんかは……」
「わかんない」
「へ?」
「セラフィムが教えてくれた。このまま白の国にいたら不幸になる。逃げ出せって」
「セラフィムって何よ」
スティーナの言葉と同時シエラは右手を挙げた。
先ほどの羽の生えた鎧姿の何かが出現する。
「な、な、何これぇ!」
スティーナもいい反応するな。俺と同じリアクションだ。
「……母上に聞いたことがあります。黒魔術にも昔、魂を糧として魔人を生み出す秘術があったと……遙か彼方に失われたようですが」
「白の国にはまだ残ってる。純血種が減って……使える人間はわずかにしかいないけど……」
純血、そうかシエラは白髪で白の瞳をしている。
カナデのように異色の血が入っているわけではないんだな。
「セラフィムは何でも知っている。だからシエラを救うために力を貸してくれるの……白の国にずっといたらひどい扱いになるかもって」
「白の国で何が起こっているんだ……?」
シエラは分からないと告げる。
何となく状況は分かった。危険な状態から逃げ出したというよりは危険になるかもしれないから逃げたということか。
うーん、どうしたものか。
王国に報告した方がいいのか? いや……でも。
「逆にシエラが聞きたい」
「うん? 何でもいいわよ」
「なんでヴィーノとスティーナはこんな黒狐と仲良くしてるの?」
「な、なんですか! その言い方!」
「【白喜黒死のまじない】の効果はまだ消えてないはず。なのに2人には効いてる気配がない。どうして?」
「シエラ。もしかして君は黒髪の言い伝えのことを知っているのか!?」
シエラは頷いた。
「遙か昔に発動した白魔術の一種。黒の民を滅ぼし、白の民が世界を治めるために世界中にかけた禁忌魔法」
さらにシエラは続ける。
【白喜黒死のまじない】
この禁忌の白魔法は世界中の人々……、言えば俺やスティーナのような黒や白ではない異色の髪を持つ種の心に白の民を称え、黒の民は殺せという悪意を植え付けることができる魔法らしい。
そのまじないは代々受け継ぐ形となり、現代にまで残っている。
この力により黒の民はあらゆる人から憎悪の目で見られてしまうらしい。
カナデの人生において最も打破したいと思っている事項。それがここに来て判明するとはな……。
そして逆に俺やスティーナがシエラに対して初対面なのに好意的になってしまうのもそのまじないのせいだという。
確かに突如現れた子にここまで親愛の情が湧くのは言われてみればおかしくも思う。
「そんなバカなまじないのせいで私達は迫害されたって言うんですか!? 白の民は世界の支配者のつもりですか!」
「……」
「カナデ、別にシエラがやったわけじゃない。落ち着け」
カナデの思う気持ちも痛いほど分かる。
それほどまでに黒の民の一族はこのまじないで厳しい生活を送り続けてきたのだ。
「それで俺やスティーナに効いていないってのはどういうことだ?」
「……。まじないの力が弱まったとはいえ……黒の民の血を引くものに異色種が心を通わせるなんて聞いたことない」
ずっと白の国住んでいたらシエラからすればそうなのだろう。
王国にはカナデを差別をしないものもいる。アメリやシィンさんなどS級冒険者。
ミルヴァもそう。あとは工芸が盛んな街の孤児院の子供達もそうだ。
そもそもカナデが異色種の血を引いている以上黒髪の人間と異色種が結ばれるのはゼロではないはずである。
「白狸には分からないでしょうけど、ヴィーノとは深い愛情で結ばれているんです!」
「まじないをはね除けるほどの強い精神力を持っている……」
S級冒険者は案外それかもしれないな。
アメリもシィンさんも相当強い心を持っている。
後は王族やギルドマスターも上に立つ立場として生まれつき強い耐性があってもおかしくはない。
ミルヴァや孤児院の先生はどうだろう。まぁ……理由をわざわざつける必要はないか。
「あとはよっぽど黒髪が好きの変人かもしれない」
「ぷぷ、ヴィーノは案外そっちじゃないの」
「失礼だな! カナデ、俺はちゃんと君を心から思っているからな」
「でもたまに黒髪にくるまれて寝たいとか言いますよね」
「カナデさん!?」
「S級冒険者でないあたしが黒髪を受け入れるのは強い心を持っているから。そういうわけね」
「同性も異性も黒髪の呪いの効果は同じ」
「じゃあ、スティーナも変人枠だろ」
「そこは納得できますね」
「あんたらねぇ!!」
クスりとカナデは笑う。少しだけ笑顔が戻った気がする。
黒髪の迫害の理由がここで分かるようになりました。
このまじないの消去がこの作品の最後の到達点かもしれませんね!
さてシエラとの触れ合いはまだまだ続きます!
そして書籍版のタイトルロゴが発表されたので紹介させて頂きました。
アマゾンでも予約出来る状態ですので是非ともお願いしたいと思います。
来週更新から2週間毎日更新しますので2月20日の発売日まで宜しくお願いします。






