80 シエラとの出会い
4章から追加タグ ハーレムがつくことになります。
ただ既存のサブ女性キャラ(アメリ、ミルヴァなど)はハーレム要員になったりせず、
男性キャラも増える方向にはなるので作品の方向性が大きく変わることはありません。
ハーレムが苦手であってもここまで読んで頂けた読者様であればそのまま楽しんで頂けると思っております。
以上、宜しくお願いします。
仕事を終え、冒険者ギルドから出た俺は最短距離ではなく、人通りの少ない道を通って我が家へ帰る。
もう夜も更けてしまっているので本音を言えば最短距離で我が家に帰るべきなのだ。
俺は新婚ホヤホヤである。
ちょうど1ヶ月前にカナデと入籍し俺は正式にカナデと夫婦の関係となった。
入籍までに両親への挨拶とかいろんなイベントがあったんだけどそこはまた別の話としよう。
結婚したとしてもお互いS級冒険者ゆえに忙しく、……生活はあまり変わっていない。
結婚式をどこかでやりたいと思っているが……追々ということで以前と同じ生活を行っている。
今日はカナデが出張で地方に出ているので夜は俺1人である。
誰もいない我が家に帰った所で寂しいだけなので寄り道をしているというわけだ。
王都は正直な所、治安がいいとは言えない。交易の街ほど悪いものでもなく、工芸が盛んな街ほど良いものではない。
王都の巡回は冒険者の仕事ではないけど、数ヶ月に1回は見過ごせない何かが発生するのだからやめるわけにはいかない。
「はぁ……見つかるんだよな」
そんな1回が今日見つかってしまった。
貧民街と商業街の境の通りで女の子が倒れていた。
こんな所で倒れるなんてさらってくださいと言っているようなものだ。
「ねぇ? 君、大丈夫?」
声をかけてみる。
「うぅ……う」
具合が悪いのか、反応が薄い。
腰まで長く伸ばした白髪に柔肌が目立つ大きく白いドレス。
何だこの格好……貴族街の令嬢が婚約を嫌がって逃げ出したって所だろうか。
荷物もないし、身1つとは大胆なものだ。
「夜……だよな」
俺はもう一度空を見上げる。
雲一つない中で数々の星が見えるごく普通夜空だった。
ここには電灯などもなく、月明かりしか差し込んでこない。
なぜ俺は直感で彼女が白髪だと分かったんだろう……。
「具合が悪いのか?」
もう一度問う。夜にやっている医者には心当たりがある。S級冒険者だとこういう時身分を盾に押し切れるので便利である。
褒められたやり方ではないけど……。
少女の唇が少しずつ動いた。
「……すいた……」
「なんだって……?」
「おなか……すいた」
ぐぅぅぅぅぅぅぅ
少女の腹から鳴る音に俺の気も抜けた。
◇◇◇
さすがにこの時間は飲食店もやっていない。
仕方なく背負って、家へ連れて帰ることにした。
カナデがいれば同性ってことで託せるんだが……今日はいない。
女の子を連れ帰るのがバレると嫉妬深い妻にぶっ殺されそうで怖いんだけどそうも言っていられない。
女の子に断って体を持ち上げる。
ふむ、背丈はアメリと同じくらいでかなり小さい。
背負ってみたが当然恐ろしく軽い。これだけ軽ければ楽に運べそうだ。
「むっ」
この背中に当たる感触……この女の子。体のわりにとても大きい。カナデと同じくらいありそうだ。
だが、すでに俺は既婚者。一昔前の俺であれば動揺しただろうがこの程度では……だが悪くない。
女の子に不審に思われぬ内に家へ連れ帰ることにしよう。
到着した我が家は新築の物件である。
前の家はカナデがぶっ壊してしまったため、ちょっと無理して新築の物件を購入した。
時間があれば自分で建てたかったのだが仕方ない。
前は2人までしか住めなかったが、今の家は家族用ということで部屋がたくさんある。
2人で住むには広い家だが……今後のことを考えると大きいに越したことは無い、
「さて……何を作るか」
女の子を椅子に座らせたはいいものの力なくテーブルに上半身をぐてっと倒れてしまう。
一刻も早く、メシを作ってあげなきゃいけないようだ。
こういう時はさっと作れて美味しい得意料理のクリームスープを作ってやるとするか。
旅先ではないので干し肉を使う必要もない。冷蔵庫には買ったばかりのブロック肉があったはずだ。
サービスで使ってあげよう。
手早く調理してスープを作り、力が入るように肉や野菜をたんまりと入れる。
2人分と思いちょっと作りすぎたかもしれない……まぁいいか。
食器を用意してスープを注ぎ、テーブルにうつ伏せる女の子の前に置いた。
「いいにおい……」
女の子の腕が動き、ゆっくりと体が持ち上がる。
「食欲をそそる香辛料も入れてるからな~。うまいぞ」
「食べて……いいの?」
「ああ、ゆっくり食べな」
それからが凄まじかった。
女の子はスプーンを手にとりすごい勢いでクリームスープを食していく。
そしてむせる。
「ごほっ! ごほっ!」
「ゆっくりって言ったろ。ほらっ」
こうなるのが分かっていたのでコップに水を入れて、少女に手渡した。
少女はコップの水をぐいっと一飲みしてまたスープを食べていく。
「おにく!……おにく、おいしい!」
「そうだろ、そうだろ」
料理上手なカナデや意外と手堅い料理をこなすスティーナも俺の作るクリームスープは大絶賛だ。
全体的に見ると女性陣の方が料理上手なんだけど、男は得意料理の1つや2つあった方がいい。
「おかわり!!」
「はえーな!」
器の中にあった肉や野菜、ジャガイモなどが跡形もなかった。
スープもしっかり全部飲まれている。
多めに作っておいたから足りなくなることはないと思うが……。
一応さらに大きい器を用意してたっぷり入れてやった。
「ほら、おかわりだ」
「……」
女の子はじっと俺を見つめる。
「お腹いっぱい食べていい?」
その問いかけが少し気になったが俺は頷くことにした。
「ああ、腹いっぱい食べな」
「ん!」
見事な食べっぷりだった。
アメリと同じくらいの体型と思えないくらい、ガツガツと肉入りクリームスープを食べていく。
「おかわり」
「お、おお」
気付けば……2人分多めの量を彼女1人で食べ付くしていた。
俺の晩ご飯まで食い尽くしやがった。
「ふぅ……落ち着いた」
「……随分食べたな。腹パンパンだろうに」
「まだ腹八分目」
ウソだろ!?
空腹の俺だってそこまで食えないぞ。
おやつは別腹なら分かるけど……同じものをあれだけ食えるとは驚きだ。
「とても美味しかった……。ごちそうさま」
「ど、どういたしまして」
女の子は満足したように表情を綻ばせた。
これだけの食べっぷりなら思わず許せてしまいそうだな。
さてと……復活した所だし事情を聞くか。
いや、その前に。
「何で倒れてたか聞く前に風呂に入った方がいいな」
「……くさい?」
そこはあえて答えない。
だが女の子は地面に倒れていたこともあり全身が汚れており、白い服も真っ黒に汚れていた。
「魔力節約してたから……仕方ない」
「ん、何か言ったか? すぐ湯を沸かすからちょっと待ってろ。あ、そうだ。君の名前を教えてくれ。俺はヴィーノ」
「……シエラ」
これが俺とシエラの初めての出会い。
この出会いが俺とそして……カナデにとっても大きな契機となることは今の俺達にはまだ分からなかった。