78 黒の民とは
朝食を終えた俺達はスイファンさんに呼ばれ、客間に通された。
スイファンさんとシュウザさんが横に並び、俺とカナデ、スティーナが対面する。
「今日、帰られるのですね」
「はい、申し訳ないのですが……冒険者としての仕事を他のメンバーに押しつけていますので」
本当はもう少しこの村に滞在したかったのだが……休暇や仕事で来てるわけじゃないので長居は難しかった。
実際、この村から王都までは3日以上かかってしまう。往復で考えると1週間以上だ。
向こうでの仕事がかなり残っているに違いない。
A級以下の時は仕事を受ける受けないは自由なのにS級は仕事が溢れているからなぁ。
カナデとの婚約を国に届け出すのも少し後回しになりそうだ。結婚式なんていつになったらできるのやら。
「父上、母上、せっかく帰ってきたのにごめんなさい」
「いいのですよ。あなたの目的のためなのですから。頑張りなさい」
「うむ、スティーナさんも持てなせずすまんかったな」
「あはは……。これっきりじゃないですし、次の機会にお願いします。スイファンさんのご飯美味しかったです!」
定常の挨拶はこのあたりで……本題に入るとしよう。
「シュウザさん、スイファンさん。……黒の民のことを俺達に教えてくれませんか」
二人はお互いに顔を見合い、真面目な表情で俺達を見た。
SS級冒険者であるペルエストさんがこの村と王国とのやりとりをカナデと俺に引き継ぐと言っていた。
俺達は黒髪の人達のことについてもっとよく知らないといけない。
カナデもある程度は知っているだろうが、年配の人に比べればだろう。
スイファンさんは実際29才だけど……。
「この村の村長はワシだが、黒の民を纏める巫女、黒の巫女はスイとなる。ならばスイから全てを話させよう」
黒の巫女。
初聞きの言葉に少し戸惑う。
「ではお話しましょう」
それからスイファンさんはゆっくりと過去を話始めた。
黒髪の一族、通称【黒の民】
そして白髪の一族である【白の民】
古代文明の時代では上位種として争っていたようだ。
白はよく分かってないが、黒はスイファンさんが使用する黒魔術などがその名残だという。
そして最終的に黒の民は白の民に敗北した。
敗北した黒の民は黒髪狩りという名目で大幅に数を減らしてしまったらしい。
その黒髪狩りを行う際に白の民が使用したと言われる【呪い】がある。
この呪いのせいで黒髪以外の人間全てが黒髪を潜在的に忌み嫌うようになったらしい。
その力が現代まで残るせいで未だ黒髪の人間は迫害されてしまうのだ。
ただ時代のうつりかわりで呪いの効果も薄まってきたようで……全員が全部黒髪を嫌うというわけではないらしい。
これは俺やスティーナ、ミルヴァなどが身を持って経験している
黒の民は数少なくなるものの、王国にあるこの黒の村を除けば……外国にもごく少数の集落があるにはあるらしい。
「私が黒の民の象徴と言われた神に仕えし黒の王の血を引くものとなります。女性の場合は巫女と呼ばれるのですね。なので次代の巫女はカナディアとなるのです」
「あの……こんなこと言ったらアレなんですが……俺がカナデをもらってよかったんでしょうか。結構昔から力を受け継いでいるんですよね?」
王族や貴族などが身分が低い者の血を入れないようにしているのと同じで、黒の巫女のような何か希少な血を引くカナデと結婚していいものか心配になってしまった。
「私の瞳を見てください。碧でしょう? カナディアと同じです。本来黒の民の血が強いと黒髪、黒目となるのですよ。つまり……もう血はかなり薄まっているのです」
「黒髪狩りで相当数を減らしてしまったからな。純血に拘っている場合ではないんだ」
スイファンさんに続けてシュウザさんもそんなことをもらす。
異色種族。俺やスティーナのような黒や白とはまったく違う系統の色素の髪を持つ人を指す。もし結婚して黒髪が生まれる確率はそう高くない。ただ……黒の王の血を引く子供は必ず黒髪になると言われた。
つまり俺とカナデが子を作ったら皆子供が黒髪となるらしい。
「今、あなた達が王都で子供を作ったとしても……幸せに暮らすことはできないでしょう。それは分かりますね?」
カナデは渋い顔で俯く。
15歳で交易の街へ1人で行ったからこそ分かるのだろう。
例え親がどれだけ子を愛し、守ったとしても黒髪の子供が王都で過ごすのは今の世では難しい。
子をここへ住ませるしか方法はない。子育ても相当大変なことになるだろう。
そこはじっくり話し合って……進めていくしかないないのだろうな。
黒の王の血を次世代に伝えるため絶対に子供は作らないと行けなさそうだし……。
「白の民の方はどうなってるんでしょうね。あっちも多分一緒ですよね?」
「あれだけ数のいた白の民ですら純血を保てなくなってるようですよ。今の白の巫女が最後の純血と言われてます」
「そうだったんですか……。でも白の民のことも詳しいんですね」
「ふふ、私の母が冒険者で外国を飛び回っているんですよ。白の民の動向を時々連絡してくれるんです。海外に飛び散った黒の民の支援を兼ねています」
「お祖母様は凄く強いんですよ! ペルエストさんと同じくらい強いかもしれません」
マジか……。もしかしたら外国のSS級冒険者の1人なのかもしれないな。
どこかでお会いしたいもののだ。
「海外は迫害が強いんですよね? 大丈夫なんですか」
「母は黒髪ではないので大丈夫ですよ。黒の王の血を引く父と異色族の母が結婚し私を産みました。黒の民で異色族の血が入っていない人は多分もういないのでしょうね」
なるほど、そういうカラクリだったのか。
俺のような異色種族と黒の民が結婚することはかなり珍しいことだが0ではないらしい。
だいたい……異色族の人間が変態であるのが通説らしい。なんでだよ。
そうなるとカナデの夢である黒の民の地位向上を行うには呪いというものを何とかする必要があるわけだ。
効果が薄まったとはいえ……俺達が生きている内に成し遂げるならやはりそれを何とかする必要がある。
2人にそれとなく解決方法を聞いてみたが……首を横に振られることになった、
まぁ……古代の呪いらしいし、分かるわけないよな。
「母上、これは何か分かりますか?」
カナデはポーチから黒のキューブを取り出した。
あれは確かS級昇格試験の時に入手したものだ。
今思えばあれは……黒の民の研究施設とか何かだったのかもしれない。
「分かりません。ただ、黒魔術に似た力が込められていますね。うまく使いどころが分かれば大きな武器になるかもしれません」
「黒の民に詳しい人とかいないんですか?」
俺の言葉にもスイファンさんは首を横に振る。
「多くの研究者は殺されてしまいましたからね。残ったのはこのような僻地でも暮らしていける強い戦闘力を持つ者だけです。ここでは頭を鍛えることはできませんから」
エライ学者とかはみんな王都の貴族街にある学園に通ってたって話だもんな。
「だから黒の民ではなく……白の民の研究者の方が案外詳しいのかもしれませんね」
他にたくさんの話を聞かせてもらい、重厚な時間を過ごすことができた。
俺も学びがあるわけではないから頭が爆発しそうだけどたくさんのことを聞けてよかったと思う。
「ではカナディア」
「はい」
「15歳のあなたではまだ早いと思っていましたが伴侶を得て、S級冒険者である今のあなたならば……良いでしょう。今日からあなたが黒の巫女を名乗りなさい。少しずつ巫女の力を渡していくので大事になさい」
「母上……承知しました」
「ヴィーノさん、この娘を宜しく頼みますね。あと……休暇が取れるならまた会いにきてください。ペルエストさんの仕事の引き継ぎをするなら村のことをもっと知る必要がありますからね」
「はい、カナデと一緒に必ずまた来ます!」
あけましておめでとうございます。
本年度も宜しくお願いします。
この作品ではあまりない設定回
力を受け継いだカナディアが黒の巫女という称号を手に入れます。
次話、3章最終話となります。
そして新年おめでとうということで活動報告にカナディアのカラーラフを掲載させて頂きました。
是非ともご覧頂ければと思います!
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1472085/blogkey/2714714/