09 合流
2時間かけて工芸が盛んな街へ到着した俺はひとまず冒険者ギルドへ向かう。
受付嬢に簡単に挨拶。どうやらまだ俺が死んだという話は伝わっていないようだ。
だが……いずれは生死も交易の街の冒険者ギルドに伝わってしまうだろう。
拠点をここへ移すことを告げ、詳しくは話さず早々にギルドから抜け出した。
そのままの足で安宿へ行き、店主に金を渡して早速部屋を取る。
次に行く所は魔獣の素材を売買する交易所。
タイラントドラゴンの素材を売った俺はアイテムを入れるホルダーとポーションを大量に買い込んだ。
S級モンスターの素材は思ったよりも金になったな。後でカナディアと分けないといけないから取り急ぎ半分使うことにしたが充分に余ってしまった。
店売りのポーションと店売りの薬草と交易所で手に入れた素材を使ってヴィーノ特製ポーションを作成しなければ……。
明日、カナディアがやってきたらしばらく2人で行動するのだし、回復薬は大量に持っておきたい。
宿に戻って来た俺は部屋の扉を開けた。
「おかえりなさい! ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……ふふっ!」
「えー」
可愛らしいピンクのエプロンを付けたカナディアがニコニコした表情で待ち構えていたのだ。
ツッコミ所満載だが……一個ずつ聞いていこう。
「明日来るんじゃなかったの……」
「待ちきれなくてつい来ちゃいました! にゃは!」
あの別れ道から交易の街まで1時間。そこからこの街まで3時間。俺がこの街に来て、まだ1時間経っていない。
馬車を使ったにしても早すぎる……。本物のA級冒険者はこれほどまでに早く動けるのか……。
そんなにパーティを組みたかったのかな。
ふと部屋を覗くとカナディアの私物らしきものが置かれていた。
この部屋は食事や洗濯などを自分でやるかわりに格安で泊まれる宿だ。
居住するための宿である。この村を拠点にする冒険者にとっては非常にありがたい場所だ。
ここは幸い2人分の泊まれるベッドがある。
「もしかして生活圏を交易の街から移したのか?」
「はい! 嫁になるのであれば一緒に住むのが当然なので!」
嫁……?
ああ、相方とかそういう意味か。2人パーティだもんな。
しかし、その常識はおかしい。
旧パーティだってみんな別々の所に住んでいた。各々適した宿を取っていたのだ。
どうやらカナディアはパーティを組んだことがないのかそっちの知識はまったくないようだ。
1つ1つ教えて行かなければならないだ。
でも。
「夕食作りましたけど……食べます?」
エプロン姿の黒髪美少女がお玉を持って愛嬌を振りまく。
そんなの食べるしかないよねぇ!
◇◇◇
「明日からの方針を話そうか」
「これが顔合わせというやつですね。私知ってます!」
「君……キャラ変わってない!?」
「夫の前で素でいるのは当然じゃないですかー!」
あの凜々しい黒髪冒険者のイメージが……。
よく考えれば年相応と言えばそうなのかもしれない。
身内と他人で受け答えが変わる人ってよくいるし……。
でもカナディアに夫扱いされるのはちょっと嬉しいかもしれない。
これまで女関係も悲惨な人生だったし。
カナディアの手料理を食べて一休憩した後、テーブルを挟んで向かい合う。
明日合流してから話すつもりだったが、今してしまってもいいだろう。
「これからは俺とカナディアで連携を取っていかなきゃいけない。当然君が前衛で戦い、俺が君を支援をすることになる」
「そうですね、夫婦の共同作業ってやつですよね」
「他に前衛もいないし、いつも通り戦ってくれていい。俺は君の動きを観察して支援していく」
「何だか夫に後ろから見られてると思うとドキドキしちゃいますね……」
カナディアはきゃーっと可愛らしく顔隠す。
さっきから夫って言われるのだけど、冗談で言ってるんだろうか……。
しかし、初対面と本当に印象が変わったな……。にやけ顔をするカナディアがまだ信じられん。
「そうだ俺のことはさんを付けなくてもいいぞ。パーティは基本的に対等だ」
「そ、そうですか? 確かにあなた呼びとかを嫌がる人はいるって聞きますし、……ヴィーノとお呼びします」
「あなた呼び……ってなんだ? いいや、あとカナディアはいくつになるんだ?」
「はい、今年で16になりました」
「俺は19だ。年齢や性別によって受けられるクエストもあるから気になったんだ」
15歳で成人して冒険者となるのでカナディアはわずか2年足らず。それも単独でA級冒険者になったということか。
……相当な天才かもしれないな。
「あ、あの!」
「なんだ?」
「私、つくす女ですから!」
でも相当変わった子だと思う。というか話かみあってなくない?
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