74 対決:カナディア(中編)
「八の太刀」
八の太刀!?
初聞きの技に混乱を隠せない。
今までは七の太刀までしか聞いたことがない。
合わせ技などもあるが……八の太刀は完全に初めての技だった。
どういう技で来る……? 避けるか、受けるか……対抗するか。
カナディアは大太刀の剣先を俺に向けて、飛び出してきた。
両腕を動かす。
これは突きだ!
一瞬の判断が功を奏してポーションをばらまくことに成功した。
バラまきさえすればこれができる。
「八の太刀【百雨】」
「ガトリング・ポーション!」
一心不乱に突く、その技を俺は100本のポーションで迎え撃つ。
その速度は互角。ポーション瓶の割れる音が鳴り響いた。
大量のガラスと液体が俺とカナディアの間に降り注いだ。
「はぁ……」
「っ……ふぅ」
お互いの100回目の攻撃。
それが終わるとカナディアは後退し、息を整えようとする。
こちらも息を整えさせてもらおう。
「ヴィーノ」
名を呼ばれ、胸が高鳴る。
しかし……カナディアの瞳はまだ鋭いままで敵意はそのままであった。
「私の勝ちです」
「何を言っている。君の技は全て防ぎきった。有利なのはこっちだ」
体力勝負なら俺の方に分がある。
性差は歴然、技術はカナディアの方が上だろうが……体の強さは俺の方が上だ。
時が経てば経つほど……有利となる。
「あなたは気付いていない。ポーション投擲には致命的な弱点があることに……気付いていないのです」
「なんだと……」
「決着をつけましょう。……これで終わりです」
何だ、俺の弱点とはいったい何なんだ。
カナディアには何が見えている。
カナディアは再び突きの姿勢に入った。
大きく息を吸い、俺に刃先を向ける。
「八の太刀・終極【千雨】!」
終極技は1回の戦闘に1度しか打てない。
各太刀の上位技だ。だけど……基本的な攻撃パターンは同じなので対処はできる。
ここで使用するなんていったい何を考えているんだ。
勝ちを諦めたのか!
俺は再び100本のポーションを放り投げて、ガトリング・ポーションを使用する。
千雨というだけあり、さきほどの百雨とは比べものにならないほど多量の突きを繰り出す。
しかし想定の範囲内。100本投げながら、宙に100本ばらまくなんてわけがない。
何本突いてこようが……ガトリング・ポーションが全てを防ぐ!
俺は1000本投げられる体力を持っている。体力勝負なら絶対に負けない!
100本、200本、300本、400本。
500本、600本、700本、800本。
っ!!
しまった、そういうことか!
俺はポーションの投擲を止めた。
その瞬間、カナディアの体は崩れ落ちる。
「ゴホッ! ゴホッ! ……まだ私の技術では1000回突くのは無理のようです」
手を震わせながらもカナディアは立ち上がり、体力が限界に近いのか肩で息をしていた。
対する俺は……体力は問題ない。
だけど……。
だけど……。
ポーションの残数が12本しかなかった。
「【ポーション卿】がポーションを使えなくなったら何ができるのです……?」
くっ! その通りだ。
俺の攻撃はあくまでポーションありきとなっている。弾がなければ銃は撃てない。矢がなければ弓は引けない。
ポーションがなければ……俺は戦えない。
カナディアはまだ距離を取って息を整えている。
残る12本、全てジャイロを撃ったしても全て避けられてしまうに違いない。
勝てないのか……。
俺は負ける?
嫌だ……絶対に嫌だ。
俺はカナディアに勝つんだ。どんな手を使ってでも……カナディアに勝利し、カナディアに想いを告げる。
「カナディア。これが最後の攻防だ」
「12本で1本ずつジャイロを撃つか……それとも同時に投げるか……どっちです?」
余裕が出てきたカナディアに俺は首を横に振る。
俺に出来る事は……最後に出来る事は……これしかなかった。
「どっちでもない」
「どっちでもない?」
「ポーションが使えなくなったらどうするって言ったな? じゃあ……こうするんだよ!」
俺は12本のポーションを……。
全て飲みほした。
「え……え?」
「ポーションが無いなら……俺自身がポーションになる!!」
全身にポーションを行き渡らせ……力が漲ってくる。
「くらえええええ! ヴィーノ・ポーション!」
それは特攻だった。
俺はまっすぐカナディアの元へ突き進む。
六の太刀【空斬】を食らっても四の太刀【桜花】を食らっても止まることなく突き進む。
どんな攻撃でも止まる気がしなかった。なぜなら俺はポーションだからだ!!
「うらあっ!」
「ぐっ!」
カナディアの体を思いっきり抱きついて、強引に地面へ押し倒す。
「は、離れなさい!」
「絶対離さねぇ!」
両手で強くカナディアの体を抱え込む。
抱きついた衝撃で放した大太刀を遠い所へ蹴飛ばした。
腰のあたりに手をまわし、自分の頭をカナディアの胸元の下あたりで押しつける
「絶対……絶対に離さない」
「くっ……いい加減に! えっ……」
「もう……放したくないんだよ。俺の側からいなくなるなんて……そんなのやだよ」
カナディアが側にいることで思わず……弱音が出てしまった。
次回、決着となります。






