73 対決:カナディア(前編)
夕日が間もなく沈もうという中、俺とカナディアは向かい合う。
実はこうやって向かい合って戦ったことは1度もない。
なぜならカナディアは前衛で俺は後衛の支援役。そもそも役割が違いすぎるのだ。
同じ相手と戦うことがあっても、お互いが戦う相手だったことはない。
でもカナディアの大太刀術を誰よりも知り理解している。
俺の役割はカナディアを支援し、誰よりも気持ち良くを戦えるように尽くすことだからだ。
……ポーション投擲でカナディアの獲物を早々に倒して怒られることもよくあったけど。
「よそ見ですか、余裕がありますね」
「っ!?」
予想よりも早い移動に反応が一瞬遅れる。
カナディアの振るう大太刀の斬撃を俺はギリギリの所でかわすことができた。
だが斬撃が1回で終わることはずもなく、次の二撃目が上半身を狙ってくる。
俺は回避能力では当然カナディアの斬撃を避けることはできない。
避けられないなら……受け流すしかない!
「ポーション・パリン!」
カナディアの技が単体攻撃であればポーションで受け流すことができる。
ポーションを使えば俺だってS級冒険者。カナディアに引けを取らない。
3本のボーションで一連の攻撃を避けることができた。
ダメだ、近づかれるとこちらの手が少なくなる。
近接戦闘は得意ではない。バックステップで距離を取る。
カナディアは大太刀の鞘を抜いている。
本気で俺と戦おうとしているのだ。
そのため技が直撃すれば俺は死ぬかもしれない。あんなデカイ太刀で斬られるんだ、無事ですむはずがない。
俺もそうだ。俺の本気のポーションが頭にヒットすれば人間の頭なぞ吹っ飛んでしまう。
だけど……手を抜きたくない。
この勝負、絶対手を抜いちゃいけないんだ。もし……カナディアを殺すようなことがあれば……俺は死を選び、あの世でカナディアと添い遂げる。
地獄に落ちるかもしれないけど……何としてでもカナディアの元へ向かってやるんだ。
ポーションを5発。カナディアにぶん投げた。
ストレートにまぜて、シュートとスライダーを2発ずつ混ぜている。
このトリックを見破れるか?
予想とは違い、カナディアは全てのポーションを避けてしまった。
シュートもスライダーの変化も見破って曲がる方とは逆に避けたのだ。
……まさか。変化弾を出す時のポーションの握り方を覚えているのか。
そんなことできるのは激戦を共にくぐり抜けてきた……相棒ぐらいだな。
カナディアは飛び出してきたた。
「四の太刀【桜花】!」
四の太刀は瞬速の7連撃。カナディアが最も良く使用する技だ。
特別な手段を用いず、自然に7回の大太刀を振る。ただその7回に遅延の動きは存在せず、流れるような動きに敵は1撃目を防御しても2撃目、3撃目で防御を砕かれて残る攻撃を全て受けてしまう。
たくさんの魔獣がこの攻撃で斬りきざまれていくのを見てきた。
型があるためその7回の攻撃は全ての軌道を把握している。
だったら……俺の取る手段は1つ!
「ディフェンス・ポーション!」
ポーションを両手に持ちカナディアの斬撃に当てるように打ち付ける。
このポーションは瓶に特殊金属を混ぜており、圧倒的な硬度を誇るポーションだ。
最近まではずっとパリンで対応していたが、軌道が読める攻撃であればこのディフェンス・ポーションの方が都合がいい。
相手の力が強ければ受け流し、こちらの力が強ければ打ち合う。
ポーションを豪速で投げる俺の筋力は常人を遙かに超えている。
アメリのような特異種でも無い限り、俺より力が強い奴はそうはいない。
7回の攻撃を防御し、俺はカナディアに向けてポーションを連続で投げる。
今度は避けずに瓶の上の方を斬って落としてしまった。
あれじゃ……中の液体を浴びせるのは無理か。
さすがだよ、カナディア。よく分かっている。
「六の太刀【空斬】!」
六の太刀は遠距離攻撃。
鋭い剣刃で敵を両断する。腕を上げるたびに射程が伸び、カナディアは空中戦も華麗にできるようになってきた。
俺のポーション投擲よりも早く撃ってやります! って言われた時は唖然としよなぁ。
いつかは抜かれてしまうんだろう。カナディアは天才美剣士だ。
だけど今は……まだだ!!」
「ストレート・ポーション!」
その剣刃であれば俺のポーションの方が早くて強い!
まっすぐ飛ばした本気の一撃はカナディアの剣刃を吹き飛ばし、カナディアの顔面に目がけて飛んでいく。
「っ!」
カナディアは返す刀で俺の渾身のストレートを斬り結んだ。
ちっ、やはり斬られてしまったか。お祖父さんもあれを打ち崩した。カナディアができるのは当然といえる。
避けられなかったら頭をはね飛ばせたというのに……。
「二の太刀【神速】」
二の太刀は威力は低いが恐ろしい速度で突撃してくる技だ。
俺の動体視力でも見切ることはできない。この技だけはパリンも通用しない。
だったら……罠を仕掛けておけばいい。
「マイン・ポーション!」
「ちっ!」
二の太刀は直線で突き進んでくる。
使用するタイミングもこれまで何戦も一緒に戦ってきたから熟知している。
ストレート・ポーションを投げる直前に地面に仕掛けたマイン・ポーションがカナディアの移動に感知し、爆発する。
だがやはりS級冒険者。カナディアはギリギリの所で気付き、跳躍することで避けやがった。
普通だったらあれで足を一本は取れたはずだ。
跳躍し近づいてきたカナディアは当然縦に斬ってくるよな!
「一の太刀【落葉】!」
一の太刀は空中から振り下ろされる強力な一撃だ。
単純な攻撃だが、その威力は絶大。負荷も小さく、四の太刀と一緒でカナディアがよく使用する技だ。
空中にいるということは飛べない限り避けることはできない。
ここが鍵である。
「ジェット・ポーション!」
ポーションを点火させ、爆煙と爆音を吐き出させながらカナディアの空中攻撃を迎撃する。
火炎をマシマシで混ぜたポーションだ! 燃え上がるがいい!
しかし、カナディアは刀を下げて、体を向きを変えた。
ジェットポーションを足蹴りにして俺から距離を取る。
何て身軽なことを……。普通あのままポーションを切り裂いて炎にまみれる姿が見られたのに……さすがだ。
「まだまだ行くぜ!」
10本のポーションを掴んで、一度に投げた。
カナディアは全てのポーションを簡単に斬り裂いていく。
「三の太刀【円波】」
三の太刀は周囲に攻撃する術だ。
一度に大量の敵を倒せるかわりに射程が若干短い。
しかしパリンやディフェンスで防ぎきれない。
だったらこれだ!
「アヴォイド・ポーション!」
前方の地面に二本のポーションを投げる。
ポーションが割れた時に中に混ぜ込んだ風属性の魔法が俺の体を後ろへと飛ばす。
このポーションの役目は俺を安全に回避させ、攻撃するカナディアの動きを風属性の力で抵抗を与えるのだ。
この一瞬の差が大きい。
カナディアは両手で大太刀を持ち、地面に突き刺した。
「七の太刀【絶壊】!」
あれは……俺の家を崩壊させた技。
三の太刀と違い、魔力攻撃によるもの。射程も三の太刀よりも遠い。
だったらこれしかない!
「バリア・ポーション!」
魔力攻撃を遮断する素材を封じ込めたポーションを割って煙を出させ、その攻撃の全てを遮断した。
「ハァァァァァァ……」
この声!?
カナディアがあの技を使う時……小さく声を上げ、息を吸う。
バリアの煙のせいで前方がよく見えない。
だけど……何をしてくるかは経験で分かる。
俺は軸足に力を入れて、ポーションの握りを整える。
そのまま大きく手を振った。
「五の太刀【大牙】!」
「ジャイロ・ポーション!」
五の太刀はカナディアの技で最も攻撃力の高い一撃だ。
その分、大きく息を吸い、全身の力を使う必要があるため隙が大きい。
だけど……その威力は絶大だ。俺のストレートでは相殺しきれない。
ストレートで無理ならジャイロの貫通力にかけるしかない。
「ぐうううううう!」
「らあああああああ!」
剛撃にくらいつく、ジャイロ・ポーション。
大太刀をへし折ればそのままその腹っぱに穴を開けることができる。
俺が持ち技で最強の威力の攻撃だ。これを止められるわけがない。
「このぉ!」
カナディアは大太刀を庇い、頭を支点に体を横に回転させる。
その技はお祖父さんがやっていたジャイロ・ポーションの対処方法!
ポーションの貫通を受け流し、避けやがった。
お互い距離を取り、一時攻撃を止める。
「……」
「何か言いたそうだな」
「べつに……」
じっと目を細めてにらみつけられるが何を思っているのか……さすがに分からない。
けどまだ……決着は着いていない。
どちらが勝つか。どちらが強いか……。決着までの道筋は……見えてきている。






