72 再会
カナディアはこの黒髪の集落が所有する修練の庵という所に行ったらしい。
太古より存在する場所で黒の民は皆、そこで腕を上げるとか……。中に興味はあるが今、そこに行く意味はなかった。
スイファンに指示された場所で俺はカナディアを待ち続ける。
今いる場所は修練の庵から帰ってくる時に必ず通る場所らしい。
今、俺は1人だ。さすがに今回はスティーナにも下がってもらった。
……ミラージュ・クリアで覗いてそうな気がするけど……カナディアに集中しよう。
夕日がまもなく沈もうとしている。
夜へと変わる時、少しずつ……地を歩く足音が聞こえ始めた。
一歩、さらに一歩、この地が生む南風と合わさって胸がざわついてきた。
少しの時を経て、ようやくその足音が聞こえなくなる。
彼女は足を止めたのだ。
思い返せば……この半年、たくさんの時を彼女と過ごしてきた。
彼女の顔を見る度に心の安息を感じたものだった。
でも今は……不安な気持ちで胸が一杯である。
「カナディ」
「何ようです。そこに立たれると目障りなのですが」
「っ!」
針を刺すような痛々しい視線と冷徹な言葉。
まるで初めてカナディアと会った時のようだ。誰も信じず、寄せ付けず。ただ一人で戦い続けたあの時のカナディアを思い出してしまった。
「俺は……話をしたい」
「話すことなどありません。邪魔です」
そんな言葉をカナディアにだけには言われたくなかった。
違う……。
言わせてしまっているのは俺だ。
カナディアは本来とても優しい性格をしている。
迫害され続けて自分を守るしかなかったあの時とは状況が違う。
今も必死で必死で……自分を守ろうとしているだけなんだ。
「王都で君に言いたいこと……いっぱいあったんだ! 全部、全部聞いて……拒絶するならそれでもいい! 何も言えずにさようならすることだけはイヤだ!!」
「っ! 勝手なことを」
その通りだ。傲慢でクズで我が儘で……カナディアの想いを知りつつも逃げてしまっていた。
勝手な行動だってことはよく分かってる。でも……今しかないんだ。
ここでカナディアを行かせてしまうわけにはいかない。これ以上失望をさせたくない。
「……」
カナディアは手を震わせている。そして唇を噛んで何かを我慢している。
おそらく一線を引いている。言葉ではその一線を越えることはできない。
だったら……これしかない。
「カナディア……俺と勝負をしてくれ。君の大太刀と俺のポーション。言葉で超えられないなら……ぶつけ合うしかない!」
「……」
「初めての大ゲンカだ。受けてくれ!」
「……修練を経て私はさらに強くなりました。そんな私に勝つつもりですか」
「勝つ! 絶対勝つ。俺が勝ったら……」
大きく息を吸う。
「俺の妻になってくれぇぇぇぇえ!!」
「えっ」
一瞬呆けた顔をしたカナディアだがすぐに鋭い表情へと変わっていった。
嫌がられる可能性もあったが何も反論を述べず両目を瞑る。
やがて俺の提案に応じるように背負う大太刀の鞘を引き抜いた。
「いいでしょう。私を妻にしたければ屈服させてみなさい!」
「ああ、絶対……君を手に入れる! 俺の全てを使って君を振り向かせてみせる」
さっきの試験の後補充をした1000本のポーションで絶対にカナディアに勝ってやる!






