71 トリック
「そーねー」
振り返って俺に対してスティーナは顎に手を寄せて考える仕草をする。
「元怪盗の意見として……1発で決めるのは避けるべきね。あたしもそれで失敗したし。どんな物事でも準備が7割。それはどんなことで同じだと思うわ」
「確かにな」
「そうはっきり言われるとむかつくケド。……あとは欺きなさい。欺いて欺いて……最後にあっと驚かせることをするの。そうすればきっと成功するわ」
答えが出た気がした。
お祖父さんを討ち取る道筋ができた。そのような気がする。
「スティーナ、ありがとな」
「あなたが……頼ってくれたのは嬉しかったわ」
「頼って当然だろ。だって俺達は仲間なんだから」
「……若造とスティーナさん。随分と仲が宜しいなぁ。若造、まさか貴様カナディアだけじゃなく」
「投げます!!」
これで二股疑惑なんてされたらたまったもんじゃない。
スティーナのアドバイスを経て、俺は決着までの道筋を立てた。
まず1回目。種も仕掛けも無く、1本のポーションをぶん投げた。
速度も威力も中途半端な1発だ。当然お祖父様は打ち返してくる。
次は……こう!
2本のポーションを手に取る。
「2回目!」
同じ速度で2発当時に投げる。
「面白いな! じゃが!」
お祖父さんまでの距離だと2本のポーション間に大きな差をつけられない。
1回のスイングで2本のポーションを打ち返されてしまった。
「3回目! そして4回目!」
3連発、4連発。少しずつポーションの数を増やしていく。
だがどれか一本空振りが取れればと思ったがそれもできずポーションは全て打ち返された。
「フハハハハ、何本投げても無駄じゃよ! 婿殿!」
「だったらこの5連発でどうです!!」
ポーションを複数抜き取り、大きく振りかぶってぶん投げた。
「5連発!」
5本のポーションをまっすぐにぶん投げた。
普通の人であれば困惑するだろう! だが3発も4発も打ち崩したお祖父さんならこの5連発も恐らくは……。
「何個増やそうが無駄じゃあ!」
苦肉の56連打はすべて打ち返されてしまった。
俺は投げた後、微動だにすることができない。
さすがに投げすぎた。
「5発も同時に投げるとは末恐ろしい若者よ。だが5発も10発も同じじゃ、ワシを空振りなどできん!」
「確かに……そのようですね。ただ……バットを振ったままでいいんですか?」
「へっ」
その呆けた言葉と同時に空から一本ポーションが落ちてきた。
当然振ったバットを戻すことなどできるはずもなく、そのポーションは急角度ながらお祖父さんの後方を通り過ぎた。
振ったバットの後に落ちてきたんだ。これは空振りと同じだろう。
カチャリと地面に落ちて割れたポーションをお祖父さんは振り返って見ている。
すぐに俺の方に向き直った。
「まさか……あの5連発は囮!?」
5発の同時ポーション弾。これはあくまで囮である。
本命は超上空へ投げた切り札。
俺は6発のポーションを同時に投げたんだ。
2連発、3連発、4連発、といけば誰だって次は5連発と思う。
欺いてやった。超スロー・ポーションは戦闘ではあんまり役に立たないが……習得しておいて本当によかった。
俺は後ろを向く。
「シュウザさん、俺の勝ちです!!」
「むぅ……ぐぅ……だが!」
「シュウザ殿。婿殿の勝ちじゃ。勝負の世界は非情、カナディアちゃんのために策を講じるのは良きことだ」
お祖父さんはにこりと笑い……俺の側まで近づく。
鍛え上げられた手を肩にあててくれた。
「孫娘を宜しく頼むぞ」
「は、はい!」
「ふふ、決着がついたようですね」
いつのまにかスイファンさんがこの場に現れていた。
「父上、シュウさん。今日はごちそうを作るので……先にお風呂になさってください」
「シュウザ殿、一杯やろうぞ! のぅ!」
「むっ……むぅ」
お祖父さんがシュウザさんを連れ帰ってくれた。気を使ってくれているのだろうか、ありがたい。
屋敷の裏の広場にはスイファンさん、スティーナが残る。
「ヴィーノさん、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「あとは……カナディアの気持ちだけですね」
スイファンさんは柔らかな笑みを絶やさないが少しだけ口調がきつくなっているような印象がする。
何か……状況が変わったのか。
「カナディアが修行を終えたようです。今からこちらに帰ってくると連絡がありました」
「っ!」
「そしてヴィーノさんやスティーナさんが来られたこともお伝えしました。婚姻試験のことはまだ言っていませんので一波乱あるかもしれませんね」
そうだろう。
カナディアはどう思うだろうか。俺が連れ返しに来たことを喜んでくれるか、もしくは見限ったと責めてくるか。
どっちの可能性も考えられる以上……会うしかない。
「カナディアに会います。この婚姻の試験もクリアしたと伝えます。そして俺はこの気持ちをカナディアに伝えたい」
「もしかしたら罵倒されるかもしれませんよ。あの子は私によく似ていますので……どんな行動を取るか手に取るように分かります」
「……。例えそうであっても、カナディアに嫌われたとしても俺はこの気持ちを彼女に伝えます。
スイファンさんは一息つき、じっと俺の目を見つめる。
当然俺もスイファンさんの瞳を見るわけで、この気持ちが嘘ではないと目に力を込める。
「……そうですか。ではヴィーノさんには【真名】を教えていいかもしれませんね」
次回ついに彼女と出会います……波乱になりそう






