08 ※カナディア視点
私の名はカナディア。
ある目的のため冒険者になった私だったが……その生活は楽なものではなかった。
黒髪を持つ者は災厄を呼び、死を象徴させる呪われた生き物。
そう言われて迫害され続けた日々、髪を染めた方がいいと何度も言われたけど……この黒髪を誇りに思っている私は受け入れられなかった。
15歳で成人してからパーティも組めず、ギルドでも適当な扱いをされ、明るいと思っていた性格は暗く、人を信じられない冷血なモノに変わっていた。
A級冒険者となった今も……それは変わらない。
そんなある日のことだった。
「まっ、飲んでみなよ」
そうやって優しげな言葉とともに渡された1本のポーション。
私より少し年上で金の髪と碧色の瞳をした男性は微笑んだまま手を振り去っていた。
「この……ポーション、大丈夫なのかな……」
回復魔法が使えず、パーティを組めない私には……ポーションは命綱。
先の戦いでも手持ちを全て消化してしまい、命からがら帰ってきた。
ギルドへの報告が終わったらすぐにでも休みたいと思っていた。
「……ぐびっ」
あ、美味しい。
ポーションって薬品だからものすごく苦くて……可能なら飲みたくないはずなのに。
「っ!? これっ! 傷が……全部無くなってく……」
今回のクエストで受けた傷がほぼ全て癒えてしまった。
こんなポーション初めて飲んだ……。
彼はいったい何者なのだろうか。
◇◇◇
「もし良ければ……俺と一緒にパーティを組んでくれないか?」
「えっ」
それはあまりに予想外の言葉だった。
彼にポーションの礼をしようとダンジョンの最奥へ潜った矢先、S級モンスターの襲来でお互い死にかけて……何とか生き残ることができた。
そんな矢先のパーティ参加のお誘いだ。
だけど、その意図にすぐに気付いた。
私の戦闘力に目を付けたのだろう。
確かにこの人のポーションの力は絶大だ。あの力を理解した彼はきっと想像も付かないような冒険者になるはずだ。
旧パーティがこの人を評価しなかったのは愚の骨頂だと思うが、私にも利点はある。
でも、はい、お願いしますとは言えない。
私にパーティを組んでほしいだなんて、この人は気付いていないのだろうか。
「……私の黒髪を見てそう言っているのですか?」
まぁ当然意見を翻すでしょう。
黒髪の私と一緒にいたらこの人まで迫害を受けてしまう。
黒髪を持つ女は不幸を呼ぶのだから。
そんなことを気にしない人なんてこの世には存在しない。
「あの時の……君の黒髪が何よりも美しかった」
「えっ……」
この世に存在しない……はずだった。
聞き間違いじゃないよね?
この人、今……私の黒髪が美しいって言ったよね?
その衝撃は私の全身をかけめぐった。
私の黒髪が綺麗だなんて言葉を今の今まで言われたことなんてなかった。
生まれて16年。冒険者となってからもこの黒髪が原因で様々な嫌がらせをされてきた。
それでも私はこの黒髪が大切だった。両親から受け継いだこの黒髪を捨てることは命を捨てると同義だ。
手入れもして……長く伸ばして……いつか、綺麗だよと言ってくれる人が現れたら。
絶対に好きになるんだろうなと思っていた。
「助けてくれた時のカナディアがさ……とても綺麗だと思ったんだ。馬鹿みたいなこと言うけど……その黒髪をずっと見続けたい。そう思ってしまったんだよ」
この人……ヴィーノさんはまた綺麗だという。
穏やかな顔立ちで……とても純粋な碧の瞳で言うんだ。
思わず涙がこみ上げてきた。
ああ、嬉しい。こんなに嬉しいことが起こるなんて思ってもみなかった。
どうして黒髪の私が綺麗だと言ってくれるんだろう。
もしかして私のことが好きだから!?
「だから一緒にパーティ組みたいなって。ん?」
「かかかかかみをあwせdrftgyふじこ!」
好きじゃなきゃ呪われた黒髪なんて口説かないよね!?
これって実はプロポーズ!?
いや……でも、さすがにそれはないか。
「カナディア……俺のモノになってくれ」
やっぱプロポーズだああああ!?
どうしよ! どうしよ!
「ヴィ、ヴィーノさんの気持ちはよく分かりました!」
そんなの私の黒髪を好きだってくれるなんて好きになるしかないじゃないか!
身も心もこのお方に捧げる覚悟がございます!
「あ、明日、そっちの街に絶対嫁ぎにいきますので!……今日はこれで! またね、あ・な・た!」
私は猛スピードで交易の街へと戻り、寝泊まりしている宿へと向かう。
嫁入りには何を持って行けばいいのか。
とりあえず全部持って行こう。
そうだ。向こうの街についたらさっそく手料理を食べてもらおう! エプロンはどこだったかな!
「カナディア今、嫁に行きます!」
お父さん、お母さん。
私は……嫁に行きます!






