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EX8 黒と白

 「ふぅ……遅くなった」


 冒険者ギルドでクエストの報告を終えたのはいいものの、他の冒険者達に捕まってしまったので雑談に花が咲いてしまったな。


 交易の街では無能扱いでボロクソだったのに、王都のギルドではS級ってことで持てはやされる。

 人がいかに地位というものを大事にしているか分かるもんだ。


 だけど地位におごらず、尊敬される人でいたいと思う。

 何だかんだ先輩S級冒険者のアメリもシィンさんも変わった性格だけど頼りになるし、安定感が違うもんな。


 俺ももう少し頑張ろう!


 夜道を走り、我が家へ向かう。

 時刻は8時を超えている。明日から遠方へ出張のため早めに就寝し備えなければならない。


「あれは?」


 王都の中央には大きな公園が存在し、商業街には森林に囲まれた公園を一望できる場所があるのだ。

 帰り道にそこを通るのだが見知った影に俺の足は止まってしまう。


「カナディア?」

 

 俺の呼びかけにカナディアは振り向き、微笑んだ。

 そんなふいの横顔にドキリとする。

 真っ暗なのに何でカナディアの黒髪はこんなにも美しいんだ?


 近くにある電灯が神秘的に映し出しているのか。


「おかえりなさいヴィーノ」


「あ、ああ。こんな所でどうしたんだ?」


 カナディアは今日、別のクエストに参加していて……早めに帰っていたはずだったが。

 俺はカナディアの横へと行く。


「実をいうとヴィーノを待ってました」


「待ってたって……いつから」


「うーーん、ざっと2時間くらい?」


「もう夜も更けて……こんな遅くまで待ってたら危ないぞ」


「ふふっ、私がですか?」


 背負う大太刀がキラりと光る。

 目の前の子は誰よりも強かった。


「お腹空いただろうに……」


「そうですね、お腹ペコペコです」


「俺もだよ。帰ったら……昨日作り置きしてたカレーがあったよな。食べようぜ」


 カナディアから教えてもらった一晩寝かせたカレーはたまらまく美味である。

 お互いに過ごしてきた世界が違うおかげで育ってきた文化の違いというものを知ることができる。


「……ん、だからですよ」


「へ?」


「どんなに美味しいものでも1人だと寂しいです。ヴィーノと一緒ならより美味しく味わえると思います」


「そうか……」


 俺達は……もうお互いになくてはならない存在になったんだなと思う。


 ……カナディアの手に触れ、掴んでみた。


「ヴィーノ?」


「ダメか?」


「……いえ」


 小さくて柔らかくて……でも力強い手。

 カナディアはゆっくりと握り返してくれた。


 結婚という言葉にふんぎりのつかない俺はなるべく進展しないように……現状維持を思ってきた。

 少しでも進まない……なんて悪い考えで離れてきたんだ。


 でも……今、自然とカナディアは俺を手を握り返してきてくれる。


 こてんと少し照れたように目を泳がせ、微笑んでくれる。


 俺は一歩踏み出した。


 この関係を進めたくなったんだ。


 現状維持はもうやめだ。俺は覚悟を決めた。


 今度2人が休みの時に小旅行でもいくか? あ、でも……次の休みがいつか分からない。


 だったらいっそ押し倒して……俺の想いを言葉と体で伝えよう。



「カナディア、俺はやるぞ!」


「はぁ……。何だか分からないですけど、頑張ってください。夫のやることを見守るのが妻の役目です!」








 ◇◇◇




「つまんない……」


「白の巫女がそのようなことを言ってはなりません」


 従者の言葉にシエラはくっとにらみつけたが従者はたじろぐだけで何も変わりはしない。


「いつになったら外に出られるの?」


「教皇様にはお伝えしております! も、もう少々お待ちください」


 もう何度目かの言葉にシエラは1度息を吐いた。

 これでもう数ヶ月、この部屋に閉じ込められて陰鬱な日々を過ごしている。。


「あ、あの……シエラ様」


 この従者と喋っていても埒が明かないと想い、シエラはにこりと微笑んだ。

 従者はそのシエラの笑みに頬が紅潮し、じわりと目より涙が溢れ出す。


「し、失礼します!」


 震えた顔を隠すように立ち去ってしまった。

 シエラはそんな従者の反応を鼻で笑い、自室のベッドへ体を預けた。


 背丈は成人女性の平均に満たないながらも魅力的な体付き、腰まで伸びたシルク色の髪、シミ一つない白き肌、高名な絵師が描いたこの世の最も美しい女性……それを体現したのがこの白の巫女、シエラという少女であった。


 かつての黒の民との戦争に勝ち、長年の繁栄を極めた白の民。

 その初代の白の王の血を引く最後の純血。その血を引く女子は白の巫女と呼ばれ、そのシエラの姿はこの国との象徴とも呼べる人物であった。


 そして今、シエラの処遇を巡って……国は大きく揺れている。


「お腹空いた……」


 この半年までは豪勢な食事で満足していたのにある時を境にシエラの境遇が反転した。


 いやいやながらも慰安や表敬訪問、お祈りをして生きていたのに今や部屋へ監禁された状態となっている。

 食事も肉料理は消え、野菜メインとなり腹にたまらない。


 原因も分かっている。白の国の統治者があの人物に変わってからだ。


(このままここにいてもいいことなさそう……。教皇ちょっとおかしいし……)


 シエラはベットから飛び降り、外が見えるテラスの先から少し気がかりとなっている方角へ視線を向ける。


(王国の方で黒の波動が見えた。黒の力がまだ残ってるなら……やれるかも)


 シエラは自室にあるもので何かが使えるか確認し始める。


(そんなことより……まずはお肉食べたい。こんな所……出る)


「行くよ、セラフィム」


 その呼びかけに突如具現化したそれはのっそりと主の元へと動く。


 白の巫女が白の国より……逃げ出すまであと数日。

本話をもって2章完結となります。

次話より3章開始です。3章は全て書き終えているので変わらず週1投稿でずっと進み続けます。


本当は毎日投稿すべきなのですがいろいろとあって申し訳ありませんがこのスタンスでやらせてください。


この話の続きが61話となりますので次回は3章62話となります。

これからも宜しくお願いします。

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書籍版ポーション160km/hで投げるモノ! ~アイテム係の俺が万能回復薬を投擲することで最強の冒険者に成り上がる!?~』
第2巻が7月20日 より発売予定です! 応援よろしくお願いします!

表紙イラスト
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