EX7 スティーナの戦い②
腕を上げたな……。
前を歩くスティーナを見て実感する。
彼女の得意技でもある幻影魔法を前提とした戦い方はMPを大量に消費してしまう。
そのため速さを生かした双銃剣での戦い方をあみ出すことにしたらしい
怪盗をやってたおかげで空間認識能力が高いのが強い。
飛んだり、跳ねたりと俺やカナディアとはまた違った戦い方をする。
「後ろからジロジロ見て……なによ」
「いや、育ったなぁって」
スティーナの頬がかっと紅くなる。
「ちょっと! イヤらしいとこ見ないでよ、えっち!」
「誤解です!」
「カナディアがあたしのお尻ばっか見てるって言ってたし」
ちろっと怪しげにスティーナがにらみつけてくる。
分かってないな、美少女のそんな目つきはご褒美にしかならない。
あと勘違いしないで欲しいんだけど、見ているのは尻だけじゃない。
ロングブーツからホットパンツまでの素晴らしい生足は何度見てもたまらない。曲線美が美しいというのだな。
これは恐らく怪盗をやっていたことから理想的な生足へと変わったのだろう。
本人はカナディアとの差を気にしているようだが胸部の成長は悪くない。
ほどよく育ち、ほどよく見える胸元の谷間が良い時がある。
カナディアがサーロインなら、スティーナはヒレだろう。お互い良さがある。
「とんでもなく下劣なことを長考してるって顔に書いてるわ」
「き、気のせいだよ」
いかん。女性を値踏みするようなことをしてはいけない。気をつけよう。
セーフエリアで休憩し先へ進んでいく。
今はD級だけど、C級ダンジョンを1人でクリアできるなら……すぐにC級に上がってそう遠くない内にB級へと上がることができると思う。
一般的に戦闘の才能があればB級に、特別な才能があればA級、天才がS級というイメージでいい。
「ねぇヴィーノ」
「ん?」
「ちょっと聞きたいことが……」
グゥゥゥゥゥゥゥ!
ダンジョンの最奥の一歩手前大きな地響きが鳴る。
会話を止め、俺達は急いで奥へと進んだ。
「これ!」
「驚いたな」
このダンジョンの最奥はストーンゴーレムが出現していたはず。
C級にしては手強い言えば壁のような魔獣だ。これを単独で倒せないとB級は難しいと言われている。
今のスティーナならやれると思っていた。
しかし、目の前にいるのは亜種のエイアゴーレムだ。
魔法で生み出されたといわれている特別金属【エイア】を身に纏ったゴーレム。
エイア金属は精製が難しい。これは金になるぞ!
「亜種が出現することは滅多にないんだ。俺も5年で2回ほどしか会ったことない。ラッキーだけど……手強いんだよな」
恐らくB級レベルだと思う。
ストーンゴーレムより硬く、一撃が重い。
俺はポーションを取り出す。
「待って」
スティーナは俺の体を遮り、ゴーレムを見据えた。
「あたし1人でやらせて欲しい。こんなのトラブルの内に入らないでしょ」
その通りだ。
別のケースだったらストーンゴーレムが2体いた話も聞いている。
当たり前のことしかクリアできない冒険者は上にはいけない。
……本来はそーいうのは仲間と協力して打ち勝っていくものなんだけど。
「ヴィーノだったら何発で倒せる?」
「エイアーゴーレムは相当硬い。さすがの俺も苦戦するだろう」
「そう……」
「速投げで2発。全力なら1発かな」
「……それ苦戦っていうの?」
呆れたもの言いをされてしまう。
B級レベルで2発も使う時点で結構な堅さだと思うけどなー。
カナディアとかアメリだったら斬撃1回で倒せるんじゃないか。
スティーナは双銃剣を手に飛び出して行く。
ゴーレムはスティーナを視認し、巨大な腕で殴ってきた。
「【ミラージュ・クリア】」
スティーナの姿は見えなくなる。
ボス戦だ。MPの出し惜しみをするべきじゃない。
足音と地を蹴る砂煙である程度の位置は特定できる。
でもゴーレムからすれば急に消えたのだと思うだろうな。
スティーナは幻影魔法を解き、弾丸を数発、そいて2、3度斬りつけた。
【ミラージュ・クリア】を使ったまま攻撃は出来ないようだ。
理由は怪盗のタネにもなるからって教えてくれなかったが……そのように判断するしかない。
足に銃弾、斬撃を与えて、衝撃でゴーレムを転ばせる。
ずしんと大きな音が出るがゴーレムはゆっくりと立ち上がった。
「まずいな……」
今の所、スティーナが優勢である。
ゴーレムの動きは鈍重だ。身軽なスティーナなら軽く避けることができる。
問題はスティーナの攻撃力が低すぎることだ。
あれだけの銃撃と斬撃を与えてゴーレムはのけぞりすらしない。
元々半支援係みたいな立ち位置だから仕方ないが……攻撃が通らなければ勝ち目はない。
ミラージュクリアを使用し、頭上へと上がる。
そのまま斬撃と与えた。
「グオオオオッ!」
少し効果があったのか、ゴーレムは仰け反る。
スティーナは一度下がった。
「ふぅ……、しんど……」
ゴーレムはコアと言われる中枢組織が存在し、一般的にそこを狙って行く必要がある。
そのため、弱点部位を攻撃すると仰け反りやすいので攻めやすいのだ。
このゴーレムのコアは頭の中にある。
弱点が分かったならそこを攻めればいいが……スティーナのスタミナが落ちてきた。
明らかに速度が落ちている。まだゴーレムの攻撃はかわすことができるが……運動量が落ちるといずれは回避もできなくなる。
ポーションではスタミナを回復することはできない。どうする?
「きゃ!」
ゴーレムの攻撃を避けきれず双銃剣でガードして吹き飛ばされる。
このダンジョンの最奥は広い場所ではあるが……やはりこれが限界か。
恐らくストーンゴーレムなら倒せたはずだ。ここまでよくやった。
俺はポーションを取り出す。
「ヴィーノ待って!」
「スティーナ」
「これに頼りたくなかったけど……、手を出されるくらいなら!」
スティーナは自分の腰のホルダーからポーションを取り出した。
回復ポーションとマジックポーションの2つだ。
店売りのものではなく、俺が作ってあげた特製ポーションである。
HPとMPを回復させたとしてもスタミナは回復しない。
ポーションが尽きるまで戦い続けるのか。
スティーナはポーションを飲みほした後、目を瞑り、両手を突き出して双銃剣を持ち……ゆったり言葉を紡ぐ。
魔法を撃つための詠唱だ。
「【ミラージュ・インクリース!】」
あの技は確か怪盗ティーナ時代に使っていた。
10人くらいの数に分身することができる幻影魔法の1種。
でも分身を増やした所で……何の意味も……。
「【マテリアル!】」
10人に増えたスティーナは全員一斉にゴーレムに飛び出した。
各々天井や壁、ゴーレムの腕を伝って上がりきり、10人のスティーナは一斉に弾丸を吐き出し、強力な斬撃を与えた。
分身はあくまで分身。ダメージは与えられない、そう思っていた。
しかしその分身は全て実体が存在したのか10人のスティーナの攻撃は全て実体化している。
1人だけでは仰け反る程度だが、10人の一斉攻撃だ。
倒せないわけがない。
ゴーレムのコアを含む頭部を全て刈り取り、力なく地に沈んだ。
スティーナの分身は消し去り、ゆったりと着地する。
「はぁ……はぁ……」
「スティーナ、大丈夫か!」
見事な勝利だ。
エイアーゴーレムをD級冒険者が1人で倒すなんて……破格の活躍だろう。
戦いのログは残したし大騒ぎになるぞ。
「あんな技があるなら初めから使えばよかったのに」
「無理よ……。マテリアル化にMPほぼ全部持って行かれるんだもん」
【ミラージュ・インクリース・マテリアル】
分身を一時的に実体化して、術者と同じ攻撃をさせることができる技か。
大したものだ。
「ほんとはヴィーノのポーション使わず勝ちたかった」
まー、俺のポーション最強だからな!
特級エリキシル剤でも使わない限り、MPをフルに回復することはできない。
俺のポーションはそういう意味では特別なのだろう。
それに頼らず勝ちたかったという気持ちは理解できる。
だが……今回、俺の手持ちではなくスティーナの手持ちで回復しているので、スティーナ単独で敵を倒したと間違いなく言える。
「エイア金属を運んで売るだけで小金貨1枚くらいにはなるんじゃないか?」
「そんなに!?」
「ああ、ポーション5000個買えるぞ! あ、レート変わったからちょっと少なくなるか」
「いらないわよ! 本当、ポーション狂なんだから」
スティーナに笑みが戻り、俺も思わず笑ってしまう。
「本当にごくろうさま。……よくやった」
「うん、ありがと……」
しかし……分身を実体化する技は使えるな。
もっといろいろなことに試してみたい。
「スティーナ、ほらっマジックポーション」
「もらうわ。MPすっからかんだしね……」
「そんでもう一本」
「……」
10本のマジックポーションを手渡し、じっと見つめる。
「な、何よ」
「せっかくだし、スティーナの胃腸限界も見ておくか。カナディアは10本までいけたぞ」
「は? 冗談でしょ。こんな液体たくさん飲めるわけ」
「マテリアルを使えば効率よくMPを飛ばせるだろ。さっ、ほらっ……飲むんだ! 断るってんならそのお口にデッカイもん無理やりぶち込んでやらぁ!」
「ちょ……ま……え? いや……やぁ……やだああああ! ガポっ!」
この後、お腹を壊したスティーナにボロクソに詰られ。
ダンジョンの最奥で乱暴されて腹の中をパンパンにされた的なことをカナディアにチクられた結果。
俺は激怒したカナディアから王都中を逃げ回るハメになったのであった。