EX7 スティーナの戦い①
「おはよ」
「ああ、おはようスティーナ」
明朝、冒険者服に身を包んだスティーナが我が家にやってきた。
今日はスティーナと2人でダンジョンに潜る日となる。
ただ……今回はいつもと違ったクエスト内容となる。
「準備はしっかり出来ているか?」
スティーナはゆっくりと頷いた。
顔色も良いし、疲れなども見られない。
様子はいつも通りだ。これなら良い結果となるだろう。
今回のクエストは俺ではなくスティーナ自身の働きにかかっている。
ただ気になるのは……。
「じーーーーーーー」
カナディアちゃんが後ろでじろっと睨んでいることだ。
「2人でデートなんて……浮気です」
「クエストだって。カナディアは別のクエストに行かなきゃ行けないんだから仕方ないだろ」
「分かっています。分かっているんですけど……スティーナ、誘惑しちゃダメですからね」
「しないわよ! それに何度も言ってるでしょ。あたしはヴィーノに興味ないって」
「あのなぁ、誘惑って……。俺が女の子のそんな視線に引っかかったことあるか?」
「スティーナのフトモモよく見てるじゃないですか」
バレてやがる! なぜだ!?
カナディアには今度別で穴埋めするとして俺とスティーナはさっそく、目的のダンジョンへ向かうことにした。
◇◇◇
俺とスティーナはC級ダンジョン旧採掘場跡へと向かう。
今回の目的はスティーナのランクアップのためのお手伝いである。
ダンジョンの危険度でS~Dまで決められているがC級、D級には入場制限がない。
増えてしまった魔獣の討伐、薬草、鉱物の素材採取などがギルドのクエストとして存在する。
スティーナの目標としてはB級冒険者になることだ。
B級になることができれば巨大な魔獣である破滅級のクエストに参加することができるし、外国へ出張に行くことも許される。
スティーナの望みである世界を見てまわるのことにはB級冒険者になる必要があるのだ。
私用で行くこともできるが、外国旅行は相当に金がかかる。金持ちの道楽と言ってもいいかもしれない。
だからこそ仕事で行くのが一番安く、手っ取り早い。
そのためにはたくさんのクエストをこなして、評価を上げて、ランクアップする必要があった。
「ヴィーノもB級に上がるのは大変だったの?」
「そうだな。B級になると一目置かれるようになるから……必死だったよ」
あの時はまだよかった。
一心不乱に上を目指して他のメンバー達と協力し合っていたと思う。
俺もポーションでの回復投擲をあみ出したのもこの頃だったし支援係としては十分役目を果たしていた。
B級となって傲慢が表に出始めて、A級で完全に天狗になってしまったんだろうなと感じる。
俺がもう少しポーションの可能性に早く気付いていればあんな別れにならなかったのだと後悔する。
「ヴィーノ?」
だけどそれだとカナディアやそこにいるスティーナと出会わなかった可能性もあるし……今でよかったと言える。
旧採掘場跡の中へと入った俺はスティーナの後ろを見守る。
「手を出す必要はないからね」
「分かってるさ」
今回はあくまでスティーナが受けたクエストだ。S級の俺が手伝っては意味がない。
俺が軽くクリアしてその成果を全部スティーナに押しつけるという嘘報告も出来るがそれをして困るのはスティーナだ。B級相当の力を付けてB級にならないと正当な評価に繋がらない
「ふぅ……」
単独でのダンジョン探索は全方位に気を配らないといけないので精神的にも疲れてくる。
俺はポーション戦闘を覚えるまで1人で潜ったことはなかったからな。パーティで潜るよりも大変だ。
「ここの魔獣はそこまで手強くないと聞いてる。最初に気を張ると疲れるぞ」
「わ、分かってるわよ」
元々、スティーナは他の冒険者と一緒にこのダンジョンに潜るつもりだったのだがその冒険者が体調不良で行けなくなってしまったのだ。
1人で行こうとするスティーナを見かねて休暇だった俺が同行することにした。
初めはいいと断られたんだけど……何かあっては困る。
1人で行くほど大変なものはない。カナディアもそう言っていた。
幻影魔法の使い手のスティーナは俺のパーティの重要な戦力だからな。
さっそく前方にウェアラットが現れる。
ネズミ型の魔獣でどこにでも生息している。俺がポーションじゃなくても倒せる数少ない魔獣だ。
スティーナは武器を構えて飛び出す。
最初の戦闘が弱い敵なのはラッキーだ。準備体操にはちょうどいい。
スティーナは軽快な動きで双剣を振り、ウェアラットを斬りつけていく。
元怪盗だけあって非常に身軽だ。壁や天井を使って移動し、後ろにまわりこむ。
動きは俊敏だがそれだけのウェアラットはたたみかけられるスティーナの攻撃に成す術無く斬りつけられていく。
縦、横、前、後ろ、そして上。そこから華麗に斬りつける。
軽業というものなんだろう。俺には到底できない芸当だ。
勝てないと悟ったのかウェアラットは急いで逃げていく。
「逃がさない」
スティーナは双剣をウェアラットに向けた。
そこから威力のある弾丸が撃ち放たれウェアラットを貫き、絶命させた。
冒険者を始めた頃、スティーナはダガーを使っていたが双銃剣という変わった武器種に適正があることが分かり、スティーナはそれを使って戦闘を行えるようになった。
近距離では双剣を、遠距離では銃を……テクニカルな操作が必要だがスティーナは難なく扱いこなすことができる。
「奥に行くわよ」
金のツインテールが揺れ、スティーナはクールに奥へと向かっていった。
前見た時よりも腕を上げたな……。
ダンジョン攻略は進む。






