EX6 女子だけのS級クエスト①
あたしの名はスティーナ。
怪盗として名を馳せる立場にいたけど新しい夢のため、怪盗稼業はすっぱり止めて冒険者家業に足を踏み入れることになった。
未だギヨーム商会や他から怪盗ティーナに対して挑戦状が届くけど完全に無視しており、怪盗ティーナ引退かという報道も良く聞く。
寿退役みたいなこと書かれてるとツッコミたくなるけど……完全に違うとは言い切れない気もする……。
冒険者は本当に大変だ。
幻影魔法は誰よりも自信を持っていたが冒険者としては半人前にもなれなくて日々勉強ばかりだ。
2人のS級冒険者に誘われ、手元に置いてもらえたのは幸運だったと思う。
ヴィーノとカナディアは良い人達だし、S級にこうやって認められることは滅多にないことだと他の冒険者達から言われる。
まぁ……ヴィーノのポーション狂っぷりに唖然となる時あるし、カナディアの病み具合は呆れることもあるケド。
怪盗時代とは違った楽しさを今、感じている。
◇◇◇
「今日のクエストはたのしーーな!」
「ご機嫌ですねアメリさん」
前を歩くカナディアとS級冒険者アメリが軽快に会話をしている。
今回あたし達はS級ダンジョンである【魔の森】に来ている。
王都から近い場所にあるため、あたしも存在はよく知っていた。
「年下のカワイイ子達と一緒だとテンション上がるぜぇ」
「おっさんみたいなこと言わないでよ」
「アメリさんらしいですね」
アメリはあたしよりも身長が低く、幼い顔立ちをしているが立派な冒険者だ。
見た目に騙されそうになるけど、背追うハルバードが振るう時魔獣は一瞬にして消し飛ばされてしまうのだ。
でもそれ以上にあたしはアメリに対して恐怖心を持っている。
怪盗時代にめちゃくちゃ笑わされた恐怖は未だ体に刻みつけられていた。
「ん、スティーナ。震えてんのか?」
「だ、大丈夫」
「魔の森は涼しいですからね」
そういうことにしておいてもらおう……。
今回のクエストの目的は【巡回】である。S級ダンジョンの探索クエストだ。
主にS級ダンジョンと呼ばれる所は危険が多く、手強い魔獣がいることからS級冒険者が一緒でなければ入場ができない場所となる。
この巡回は主にセーフエリアが機能しているかどうかの確認。あと強力なS級魔獣が増えていないかどうかの確認も兼ねている。
あとは貴重な素材の採取もあるらしいがあげるとキリがないのでここで割愛。
この【巡回】クエストは2ヶ月に1回必ず実施しているらしい。
一番怖いのはS級魔獣の繁殖だって。そりゃそうよね。どんなに強い相手だって1人だったら数で押せるけど、それが10体もいたら恐怖でしかない。
だから増えすぎないように早めに根を絶っておくのである。
ヴィーノが少し前にここのS級魔獣であるデュラハン倒したらしいから大きく増えていないだろうとアメリは言う。
「そんで?」
アメリが振り向いて首を動かし、あたしとカナディアを見る。
「ヴィーノとそろそろいい関係になったのか?」
ドキリとする。
何かカナディアにも勘違いされているが、別にあたしはヴィーノに恋心を抱いているわけではない。
そりゃ……助けて貰ったのは嬉しかったし、お姫様だっこされた時もきゅんきゅんしたし、頭撫でてくれた時はもう……何かホワホワしちゃったけど……。
でもこれは絶対恋なんかじゃないと思う。
今度ヴィーノと2人だけで一緒にクエストがあって、カレンダーのその日に丸をつけているけど……楽しみなんかじゃないんだから!
「えー、私とヴィーノは夫婦のような関係ですからぁ」
カナディアは頬を手にあてくねくねとしだす。
誰の目から見てもカナディアはヴィーノの妻気取りに見える。
おそろいの指輪(探知機能付き)もしてるし……同じ家にも住んでいるから親密なのは間違いないんだけど……ヴィーノはそんな感じに見えないのよね。
今度聞いてみようかな。
「まだ正式にプロポーズしてくれたわけじゃないので……まだですけど、私はいつでも……待ってるんですよ」
「スティーナはどうだ?」
「あたしは別に……。冒険者の先輩として頼りにしてるけどそれだけだし、ねぇ、カナディアなに?」
カナディアが目を細めてあたしを見ている。
基本良い子なんだけどヴィーノにからかいで色仕掛けとかすると……負のオーラを発生させる。
誰よりも重い女なんだろうなと感じる。
「スティーナから泥棒ネコのにおいがするので」
「だ~か~ら、勘違い! それで!? 二人一緒に住んでいたら間違いとかあるんじゃないの!」
「お、話題をそらしてきなぁ。実際どーなんだよ。若人が同じ家に住んでたらいろいろあるんじゃねーの」
「ご飯とか一緒に食べますけど、それ以外は……。あ! 私が一緒に寝て……といったら必ず一緒に寝てくれる所ですかね。抱いてくれるととてもよく眠れるんです」
「ぶほっ!」
あたしは思わず吹いてしまった。
「あ、あなた達そこまで!? あ、いやまぁ……一緒に住んでいるから普通なのかもしれないけど……ヴィーノのアレってどうなの?」
「スティーナ、あんた興味ビンビンだな!」
「その言い方やめて」
怪盗稼業もあって……彼氏の出来たことの無いあたしはそのような話に興味が尽きない。
食堂で働いていた時にもよく口説かれてたけど怪盗ティーナのこともあったから親密になれた男性はいない。正直、よく知らない相手と体を交わしたくないし。
こんな命の危険のあるS級ダンジョンで話している場合じゃないのかもしれないけど、とても気になるのだ。
仕方ないよね!






