07 パーティを組もう
「俺はただの【アイテムユーザー】なんだ。特殊なことはできない最底辺職のはずで……」
「そもそも【アイテムユーザー】ってレア中のレア職でしょう? 私、ほとんど聞いたことないですよ」
十数年で1人、2人しか現れてないというのは最上級職と呼ばれる聖騎士【ホーリーナイト】や賢者【ワイズマン】と同等である。
ただ、前に出現したアイテムユーザーの冒険者の能力が低すぎたために後ろ指をさされる職となっている。
そもそもアイテムを使用することは誰にもできることである。それが上手く使えるだけで何がすごいというのか。
「俺はただ……独自のポーションを作ることしか出来ないよ」
「ええ、私にくれたポーションですよね。傷がほぼ全快してびっくりしました。あれだけの効能、伝説の秘薬エリシキル剤くらいですよ」
「戦闘だってポーションを渡すくらいしか……」
「倒れてる私の口に投げ込みましたよね。相当な距離離れていたのに……まぐれですか?」
「あの距離なら目瞑ってでもいける」
「ありえないですから!?」
「で、でも……戦闘力は皆無なんだ。何もできない」
「ドラゴンの首をぶち折っておきながら何言ってるんですか……」
思わず目をぱちくりさせ、カナディアと見合う。
「俺って実はやれる方だった?」
「あなたも含めて、旧パーティはよっぽど無知だったようですね」
またカナディアにため息を吐かれてしまった。
未だ信じられないが……【アサルト】の面々に無能、無能と言われ続けてその通りだと思い込んでしまったのか。
「おかしいとは思っていたのです。あのパーティ、そんなに強いようには思えないのに……私が苦労するA級クエストを難なくクリアするのですから」
「うっ……」
「そりゃそうですよね。適切なタイミングで口の中にHP,MPをほぼ全快にしてくれるポーションを投げてくれる人がいるなら全力で攻撃に打ち込めることでしょう」
「で、でもヒーラー職は複数人一度に回復できるんだろ? それに比べたら俺なんて大したことは」
「回復魔法ってそんな便利なものじゃないそうですよ。なり手のいない貴重な職だから重宝されるそうですけど」
「……俺、自分の力を全然理解していなかったのか」
【アイテムユーザー】は無能という言葉をずっと信じてしまっていた。
HPを回復するポーションもMPを回復するマジックポーションも店売りは品質が悪く、回復力が足りないと思っていた。
だから改造して使いやすくしたけどパーティだけで運用していたんだ。
カナディアの言うことが本当であれば……A級パーティ【アサルト】はヒーラー職を加入させたとしてもこれまで以上の活躍は見込めないだろう。
あいつらに伝えるべきか……?
いや、俺の言うことなんて信じないし、自業自得だろう。
俺は殺されかけたんだ。わざわざ伝える意味もない。
冒険者を辞めて故郷に帰ろうかと思っていたけど……まだやれるのかもしれない。
ダンジョンを出た俺とカナディアは別れ道まで一緒に進む。
カナディアは交易の街に戻るけど、俺はあいつらと顔を合わせたくはないのでここから少し離れた工芸が盛んな街へ行こうと思う。あそこは小さいながらもギルドがあるしな。
あとやるべきことが1つある。
「それでは私はこれで……」
「カナディア」
交易の街へ行こうとしたカナディアは立ち止まった。
「もし良ければ……俺と一緒にパーティを組んでくれないか?」
「え……」
カナディアは驚いた顔で振り向いた。
「君が良ければ一緒に組みたい」
俺はパーティを追い出された冒険者。カナディアも単独冒険者。
俺は近接戦闘ができる人が一緒だとありがたいし、カナディアも回復役がいたら冒険が楽になるのは間違いない。
「……私の黒髪を見てもそう言えるのですか?」
この国では黒髪は死を象徴させる言い伝えがある。
災厄を呼び、関わるものは皆、決して幸せになれないという話だ。
実力はあるのにカナディアがパーティを組めないのはこれが原因だ。
でも、俺はカナディアとパーティが組みたかった。
「あの時の……君の黒髪が何よりも美しかった」
腰まで伸ばしたとても長い黒髪。太陽の光を得た黒髪は光沢を経て輝く。
川のように流れるサラサラのストレート。装飾品が一切ない所もその黒髪に自信があるからなのだろうと思う。
翡翠の瞳の間にちらつく前髪は美麗な顔立ちに良く似合っていた。
そして……S級モンスターに攻撃を加えるカナディアの舞が何よりも美しかった。
揺れる黒髪に見惚れてしまっていたんだ
「えっ……」
「助けてくれた時のカナディアがさ……とても綺麗だと思ったんだ。馬鹿みたいなこと言うけど……その黒髪をずっと見続けたいそう思ってしまったんだよ」
「……」
「だから一緒にパーティ組みたいなって。ん?」
よくよく思えばかなりセクハラちっくな発言になってしまった。
出会ったばかりの男にこんなこと言われたら毛嫌いされてしまうのは必然。
カナディアと言えば絶対に気を許さない高潔な淑女
その翡翠の瞳は氷のような視線であらゆる人間を凍らせることができる。
きっと鼻で笑われ……。
ん、氷どころか、顔が真っ赤になってないか。
「かかかかかみをあwせdrftgyふじこ!」
ものすごく動揺されている。
もう一度言おう。
「カナディア……俺のモノになってくれ」
「ヴィ、ヴィーノさんの気持ちはよく分かりました!」
発言をちょっと間違えたような気がするが、カナディアは一歩、また一歩後ろに下がっていく。
「あ、明日、そっちの街に絶対嫁ぎにいきますので!……今日はこれで! またね、あ・な・た!」
カナディアは猛スピードで走り去ってしまった。
……これは了承ということでいいのだろうか。
あんな態度だとまるで俺がカナディアに求婚したみたいになってるじゃないか。
ただパーティを組みたいとか黒髪を褒めただけなんだけど……。
嫁ぐって言わなかったっけ……。
まさかそんな極度に思い込みが激しい人間がいるわけないよな。