表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/146

EX5 男だけのS級クエスト①

 夜行性の生物の鳴き声が辺りに響き、少し冷えた風が寒さを感じさせる。


 静寂な夜の遺跡はどうにも不気味だ。


 霊的生物には恐怖は感じないけど、やっぱり明るい所の方が探索としては楽しいな。

 こういうメンタル面に影響されるからこそ【常夜の遺跡】はS級ダンジョンに設定されているのだろう。

 遺跡ながら風化し、草木が侵食し始めている。強力な魔物も多種生息しており、今も殺気を至る所で感じる。


「ポーション・ライトが切れてきたな」


 光虫と電気バリネズミの皮膚をポーションと合成させるとポーション・ライトが出来上がる。

 最近このような携行品をポーションで作ることにハマっている。

 ポーションを消費して光輝くように設定している。燃料を全部ポーションに出来ればいろいろ応用が利くのである。中身のポーションが無くなれは自動的に光らなくなる。


 今回のためにポーション・ライトは20本用意した。1晩過ごすには十分すぎるだろう。


「ポーション・ライトいります?」


「……」


 会話は続かない。

 今日の任務はシィンさんと2人でS級ダンジョンの巡回なのだ。


 嫌われているのは分かっていたけど……この前の買い物で打ち解けたと思ったんだけどな。


 ざわっ。


 草木が揺れる。

 俺はポーションを取り出し、速投げで3本投げた。


 っ!


 手応えあり、並の魔物ならこれで撃破だ。

 だけど気配は消えない。まだ生きている。

「ちっ!」


 出てきた魔物は霊的魔獣アタックミラー。しかも3体も現れてしまった。

 その名の通り、鏡の形をした魔物で物理攻撃を全て無効にしてしまう。

 俺のポーション攻撃も物理に属するため無効にされてしまう。


 魔法を込めたポーションを投げれば効果はあるが……それをする必要もない。

 今日一緒に組んでいる人は最強の魔法使いなのだから。


「氷の棺に飲まれ、眠るがよい。【ディープフリーズ】」


 魔獣の周囲に出現する氷の結界に移動を阻まれ、それ以上近づくことはない。

 この魔獣の待つ先は強力な魔法による一撃だった。


 結界の中の全ては凍り付き、そして速やかに砕け散った。



「魔法を使わせれば並ぶ者は本当にいないですね」


「先へ行くぞ……」


「クールだなぁ。その姿を見たら女性も放っておかないと思いますよ」


 俺の言葉にシィンさんはがっと目を見開いた。


「油断をするな。遊びに来ているわけではない……。おまえもS級なら理解をしろ」


「あ、はい! すいません」


 ここはS級ダンジョン。

 もしシィンさんがいなかったらかなり苦戦していたことだろう。


 先輩からのありがたい助言だ。もう少し気を引き締めないとな……。

 俺は厳重に警戒しながら……このダンジョンのセーフエリアに到達した。

 巡回の目的の1つにセーフエリアが機能しているかどうかもある。


 今日はここで休憩だ。


「ところで私の姿で女性が放っておかないとはどういうことだ?」


「それ聞きます!? 5分前、めちゃくちゃ格好良かったのに」


「私は仕事と休憩は別と考えている」


 カッコイイこと言ってた裏では女の子のことを考えていたわけか。

 ま……男としては当たり前ではある。


 野営の準備をして、即席で作ったスープをシィンさんに手渡す。


「それで? この前遊んだ時にカナディア達からもらった服は着てみたんですか?」


「ああ……私が私でなくなったような感覚に陥った。だが……鏡を見て悟ったのだ。絶望的に顔と合ってない」


 幻魔人(ファントムリッチ)って呼ばれているからな。

 顔が青白くて、頬はこけている。言い方悪いが死相が出てそうな顔なのだ。


 シィンさんは黒のローブを来ている方が俺的にはかっこいい。

 女性的には怖いんだろうけど……。


「そこで……服のお礼にカナディアに食事を誘おうと思うのだが」


「……」


 あれ、何で俺……今すごくイラっとしてしまったんだろう。

 カナディアの黒髪を忌避しない人が増えるのはいいことだと思うのに……何とかして阻止したいと思ってしまっている。


「どうかしたか?」


「あ、いや……その……」


「嫉妬の感情はごまかす必要はない。誰しもが持つ当たり前の感情だ」


「……そうですね。俺、やっぱりカナディアが大事なんだと思います」


「私も常日頃、女をはべらかせるイケメンに嫉妬の気持ちを(たぎ)らせているからな」


 それは何か違うような気がするけど……。でもこのようなやりとりで改めて自覚するものだ。


「カナディアは俺が黒髪を褒めてくれたからあんなに懐いてくれてるんです。もし他の人が褒めたりしたら……そっちに行くんじゃないかって怖くて」


 きっかけは出会った頃の時。

 俺がカナディアをパーティの参加に誘った時、黒髪を揺らして戦う彼女が美しかったとその率直な意見を言った。彼女の加入のきっかけは間違いなくあれだったと思う。

 あの時は俺だけがカナディアの良さを知っていたのに……今はスティーナやアメリとカナディアの良さを知るものが増えている。


「カナディアは私と王国軍事演習を行っている時、常におまえとの暮らしの話を楽しそうに語る。きっかけは黒髪を褒めたから……だろう。しかし今日の今までに培ってきた絆は決してウソではないはずだ。もし、おまえとの暮らしが嫌ならきっと彼女はあんな笑顔をしなかったはずだ」


「……そうなんでしょうか」


「私はカナディアの笑顔に好感を持っている。彼女が幸せならそれが一番なのだ」


「シィンさん、本当に良い人ですね。……目が覚めた気がします。これだけ良い人なのに何で世の中の女性は放っておくんでしょうね」


「そうか……。私にはまだスティーナちゃんやミルヴァちゃんがいるからな。ふふ……彼女達とも関係を持ちたい」


 その惚れっぽさというか節操無さが原因な気もする。

 だけど……シィンさんの言うとおりだ。

 このままのらりくらりしていたら愛想を尽かされてしまう可能性もある。


 そろそろ覚悟を決めた方がいいな。いつまで現状維持だなんて。


「むっ」


 シィンさんが空を見上げ、鋭く睨む。

 何かあったんだろうか……俺も見上げた。そこにいたモノは……。


そろそろ短編集も半分は超えた感じですね。

予定ではEX8まで投稿する予定です。そこから3章ですね!


次回EX5 男だけのS級クエスト②です。

来週の投稿をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版ポーション160km/hで投げるモノ! ~アイテム係の俺が万能回復薬を投擲することで最強の冒険者に成り上がる!?~』
第2巻が7月20日 より発売予定です! 応援よろしくお願いします!

表紙イラスト
表紙イラスト
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ