EX3 冒険者の休日②
今日はカナディアとスティーナのデートに付き合わされることになった。
2人とも普段は冒険者として適した服を着ており、私服を着ることはほとんどない。
ちなみに俺はまったくない。正直な所冒険者服が最も似合っていると思っているので私服などいらないのだ。
買った方がいいかなと思った時期もあったけど……見せたい相手だって目の前の2人くらいなもんだし、それなら冒険者服でいい。
「スティーナのスカートは珍しいな」
普段はホットパンツで動きやすい格好をしているため、清純そうな白のミディスカートはとても目新しい。
怪盗ティーナの時はウイッチドレスを着ていたから初見というわけではないが。
「スティーナの服、とても可愛いですね!」
「そ、そう?」
スティーナは恥ずかしそうに顔を背ける。
「スラムにいた頃は綺麗な服を買う余裕もなかったし、古着でよかったんだけどね」
スティーナはカナディアの方を見た。
「カナディアがおしゃれして行こうって言うから……タンスから引っ張り出してきたの。おねーちゃんのお下がりだけど」
「ヴィーノもよく似合っていると思いますよね?」
「ああ」
普段のスティーナの冒険者服はボーイッシュというか、機能美を考えられたものとなっている。
スティーナはスタイルも良い方だ。カナディアほどではないがどう見積もっても同年代に比べれば良好と言える。
そんな子がボタンブラウスにスカートなんて女の子らしい格好をすればとても魅力的にうつるもんだ。
金髪のツインテールもいつもの倍かわいらしく見える。
「今日のスティーナはとても可愛らしいな。見違えたよ」
「っ!? ば、ば、……むぅ」
スティーナは顔を真っ赤にして顔を隠してしまった。
黒髪のカナディアはともかく、スティーナへのかわいいは言われ慣れているだろ……。前、スラムに行った時も人の目を惹いていたし。
案外照れ屋なのかもしれない。
……反面カナディアが複雑な顔をしていた。怒ってるような、喜んでいるような……なんだこれ。
「カナディアはどんな顔をしてるんだ」
「スティーナがかわいいことに対しての嬉しさと負けられない気持ちが同居しています」
「……よくわからん」
「ごほん、ま、でも冒険者になってかなり余裕が出来たから……新しいことには挑戦していきたいと思うわ」
スティーナは顔を上げ、そう呟いた。
スティーナはD級だが、俺とカナディアがその能力を重宝し積極的にクエストに誘っている。
S級クエストの報奨金は莫大だ。同パーティとしてスティーナにもわずかに分配されるがその額はB級クエストを1人でクリアした額に匹敵する。
それはD級の報奨金と比べれば破格の値段だった。
半年これを続ければスラムを脱出して、商業街のアパートを借りることができるだろう。
店が立ち並ぶ商店街に入った俺達は数々の衣服店に目移りしてしまう。
冒険者が良く行く武器屋、防具屋、道具屋はまた別の商店街に存在する。
そっちはほぼ行きつけレベルだが、この衣服専門の商店街は初めて行くぐらいだ。王都の住民達も立ち入りしており、賑わいを見せていた。
「……あの、や、やめてください」
賑わいを見せていればもめ事も発生するもの。
桃髪の若い女の子が3人のガラの悪そうな男達に囲まれていたのだ。
こういうのは見ると気分が悪くなってしまう。
……だけどウチの女性陣は誰よりも早く駆けつけるのだ。
「ちょっと、そこの子が困ってるじゃない」
いの一番に声をかけたのはスティーナだ。
彼女は正義感が強く、義賊をやってたこともあり、困っている人を見逃せない優しい性格である。
冒険者は正義の味方ではないが、彼女らしい正義を貫いている。
「あん、なんだ!?」
「ひゅー、かわいい子がいるじゃん」
「君も俺達と遊ぼうよ!」
スティーナも可愛らしい顔立ちだ。ぱっと見、さらに情を注ぐことだろう。
本来であれば男の俺が前に出るべきなんだろうけど……。
ウチのパーティの女性陣は強すぎた。
「では私とも遊んで頂けますか?」
「え? げっ黒髪!」
「ひっ……死神」
「死神とデートして死ななきゃいいですねぇ」
「ひ、ひぇ! 逃げようぜ!」
「うわああああ!」
カナディアの髪を見て男達は一斉に逃げ出してしまった。
王都の住民は黒髪に忌避感を持っている。
顔を見たら飛び級の美人なのにな……。
見る目のないやつらだ。
囲まれていた桃髪の女の子に声をかける。
「大丈夫か、ミルヴァ」
今回、声をかけたのは知り合いだったということもある。
この地方で桃髪は結構珍しい。なので一発で王都のギルドの受付嬢であるミルヴァであることが分かった。
「ありがとうございます、カナディアさん、スティーナさん、ヴィーノさん」
ミルヴァは人懐っこく笑った。
この笑顔がクエストで疲れた冒険者をいやしてくれるのだ。
ミルヴァも受付嬢の制服ではなく、他の女性陣と同じ私服を着ている。
「こんなところでどうしたの?」
スティーナの問いにミルヴァは苦笑いを浮かべた。
「まだしっかりと王都を見物できてなくて……服を見に商店街に来たら絡まれちゃいまして」
「工芸の盛んな街ではあまりないことだからな」
王都も貧富の差が大きく、全体的に見れば治安は良くない。
王族や貴族が住む貴族街は入場を制限しているので治安はいいが、商業街はスラムからも人が流れてくるので他の街ほど治安はよくないのだ。
「ミルヴァさんもよければ私達と一緒にまわりませんか?」
「わー、ほんとですか! 行きたいです」
行き先は同じということでミルヴァも一緒についてくることになった。
若い女の子が増えて一層華やかになったな。
もう、俺の存在は必要ないのではないだろうか。
奥の店に向かって歩こうとした時、スティーナが何やら表情曇らせていた。
「どうした?」
「いや……その……あのベンチでこっちを凄い形相で見ている男の人がいて」
スティーナの視線の先を見てみた。
「……知っている人よね」
「ああ、ちょっと行ってくるから先に行っててくれ」
黒いローブで全身を包み、紺色の髪で片目を隠した……男性がベンチに座ってギロリと睨んでいた。
俺がその人に近づくたび……その睨みの強さが増している。
睨みの対象はどうやら俺らしい。
「何やってんですかシィンさん」
その男性こそ【幻魔人】の二つ名を持つS級冒険者のシィンさんだった。






