EX3 冒険者の休日①
S級冒険者は休みが少ない。
予め、月に何回休みを取るか連絡をするんだけど……S級レベルの緊急クエストが出ちゃうと休日返上で対応しなきゃいけなくなる。
この4ヶ月で2,3回あったんだよな。
ちなみに緊急ってのは王族や上級貴族の警護とかそんなのにS級冒険者いるの!? ってレベルのものが多い。
王国軍や近衛兵とかがあまり強くないのが問題だ。冒険者の方が強いゆえにどうしても頼られてしまう。
今日の休みはまったりと過ごしたいものだ。
「ヴィーノ、どうですか」
「あっ……」
カナディアはいつものレザーアーマーの姿ではなく、白の清楚なワンピースで着飾っていた。
このようなおしゃれは前に工芸が盛んな街で一緒に遊びにいって以来だと思う。
大太刀を外しているということは完全にオフなんだろう。
ちなみに俺は最近遊ぶ時でもポーションを欠かせない。無いと不安になるので着飾らず冒険者服のままでどこでも移動する。
「うん、よく似合っている。カナディアは冒険者の格好だとカッコイイけど、その格好だと年相応でかわいいな」
「やった~。ありがとうございます」
年の割に愛が重く、年の割に体の成長が早い。
体を大きく隠す格好なのに外からでも分かる色気がすごい。
こんなこと口ではとても出せないが。
「これからデートに行ってきます~。おしゃれしなくちゃ」
「そうか、楽しんできな」
「むーーー」
喜んでもらうつもりで言ったのにカナディアは表情を曇らせた。
何が悪かったんだろうか。女の子の気持ちはよく分からん……。
「少しぐらい嫉妬してくれてもいいんですよ!」
そういうことか。口で説明してくれると分かりやすい。
「私はヴィーノが女の子と一緒だとほんのちょっと嫉妬しちゃうのに……。最近スティーナと仲良いのも気になります。まぁ世の中重婚は可能ですけど……」
「あれでほんのちょっと!?」
あの嫉妬ぶりはヤバイ。俺じゃなきゃ死を覚悟してもおかしくない……。
俺の服に女のにおいがついていると大太刀を振り回すんだぞ。
よく言われるが俺とカナディアが本気で戦ったらどうなるか、多分9割近くで俺が負ける。
人間相手だと全力でポーションを投げられないというのもあるが、カナディアの攻撃をパリンでかわしきれずその内倒される。
「ごほん、俺は遊びにいくぐらいなら特には思わないよ。でも」
「でも?」
「クエストとかでさ、カナディアが別の誰かと上手く連携が取れていたら……すっげー嫉妬すると思う。カナディアの横には俺以外のやつを置いてほしくない」
「ヴィーノ……」
これは真剣な想いだ。
旧パーティに殺されかけた俺は信頼関係のあるパーティメンバーに強い憧れを持つ。
俺のポーション投擲に追いついてくれるカナディアの強さ、美しさをずっと俺は見続けたい。
だから俺以外のやつがカナディアと連携を取ったりすると悔しくてたまらない。
でもくだらない嫉妬だ。実際、S級のアメリとか俺より上手く連携しちゃうしどうにもならないところはある。
気付けばカナディアが側まで来ていた。
「私にとってもそうですよ。ヴィーノが横にいてくれて、戦闘で後ろにいてくれるとすっごく安心します」
カナディアは俺の手を取る。
「この手で私は命を救われました。これからもずっと側にいてくれますか?」
「当然だよ。……今日休みだし、良かったら2人で外食でもしないか?」
「いいですね! 行きましょ、行きま」
「おい、コラ!」
少し高めなら怒りが含まれた声に俺とカナディアの意識は強制的にそちらへ向く。
「今日はあたしと一緒に買い物へ行くんでしょうが! 黙って聞いてたらイチャイチャしてぇ!」
新たな仲間、スティーナが少し頬を紅くして憤っていた。
いつもの身軽なスタイルと違い、何だか女の子らしい格好で印象が違う。
声をかけてみよう。
「スティーナ、いたんだ」
「いたわよ、最初からカナディアを口説こうとした時からね」
口説いたつもりはまったくないんだけど……。
正直スティーナの存在には気付いていたし、今日スティーナと買い物にいくことも分かっていた。
半分ウソで半分本当の外食の誘いだったのだ。
「先約があるなら仕方ない。2人で楽しんできな」
「何言ってんの。あなたも来なさいよ。あたしにも食事をおごりなさい」
「あ、いいですね!」
「えーー」
本当は今日、ポーションの新しい合成をしようと思っていたのに……。
身から出たさびとはいえ失敗してしまったな。
「ヴィーノ、行きましょう!」
「ヴィーノ、早く準備しなさいよね!」
でも、この2人と並んで歩けるなら……それも悪くないよな。