EX1 ポーション業界の事情
EXと書かれたサブタイトルは現状61話~62話の間のお話となります。
「うーむ」
王国新聞キングダムタイムズは情報収集として大事な媒体である。
S級冒険者となると冒険者の模範となるように振る舞わないといけないので世間の噂に無知というのは恥ずかしい。
あの人強いけど頭はねぇ……みたいなのはかっこ悪いのだ。
なので朝、クエストに出る前には必ず朝刊にざっと目を通すのが朝のルーチンワークである。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
カナディアの入れてくれる紅茶は眠気のある朝の活動にしゃっきりを与えてくれる。
カナディアは紅茶の造詣が深い。様々な種類を知っており、紅茶を入れる知識もある。
S級冒険者の給料でティーカップやケトルを優先的に買っていたことも印象的であった。
出張に行くとこの紅茶が飲めないのが寂しい。
「何か面白い情報は載ってましたか?」
カナディアは紅茶を置いていたお盆を手に聞いてきた。
俺は椅子に座っているため、カナディアは屈む形の体勢となる。
ふわりと長い黒髪が揺れ、そちらに視線がいってしまった。
「あ、ああ……そうだな」
カナディアは必ず新聞を俺に読ませてから自分で読む。
先に読んでもいいよと言ったんだけど、家長優先です! と言われたのでお言葉に甘えて読ませてもらっている。
「冒険者の必需品を買い占めて値段をつり上げているやつがいるそうだ」
「どういうことですか?」
「最初に値段が上がったのは毒消し草とマヒ消し草の2つだな。これらは銅貨1枚で買えたのに今や銅貨2枚になってしまっている」
「倍に上がったんですね」
需要と供給というやつだ。
薬草系は農家が作ったりしているものを卸して売り出されている。
だが……冒険者の数が増えるとその分消費も激しく、価値が上がってしまうのだ。
ここ4ヶ月の間に急に値段が上がってしまったらしい。
どこかの商会が買い占めやがっているのか……。
最悪薬草は自生しているので冒険者に取りに行かせればこれ以上の値段上昇はなくなるだろう。
それより問題はこれだな。
「ポーションの値段も上がっている。しかもなぜか一番安い……低効能のポーションが馬鹿売れしてるらしい」
これも4ヶ月ほど前からだ。基本的に一番安いポーションは小銅貨2枚で買えるが、今や3枚となっている。
D級冒険者、C級冒険者には手痛い出費となっている。
ポーションには3種類あり、ポーション、上ポーション、特ポーションなんて名前で呼ばれている。正式名称は長いので略称が主流だ。
上ポーションで大銅貨2枚、特ポーションで小銀貨2枚だ。
特ポーションはS級冒険者も使用するもので効能も高いが値段もバカ高い。
ちなみに俺の作る特殊ポーションは特ポーションの倍以上の効能を持ち、秘薬エリキシル剤と同じくらいの効能を持つ。
普通のポーションに素材を合成させて出来るので上ポーション、特ポーションを買う必要がない。
あと、俺のポーションが出回るとポーション業界がぶっ壊れるので絶対流通させるなと言われている。
ただ盗まれたり、俺の渡したポーションを転売したりするやつがいるのは分かっていたので【アイテムユーザー】のスキルで出来る仕掛けを施している。
なので転売しようものなら瞬く間に普通のポーションに戻るような仕掛けになっている。
話を戻すと財力のあるS級冒険者が買い占めるのであれば特ポーションの方だと思うんだが……なぜポーションが馬鹿売れしてるんだ?
わからん……。
「この4ヶ月でいったい何があったんだろうな……ん?」
俺が新聞から目を外すとカナディアが目を細めて……怪しげに見ていた。
「それ……本気で言ってるんですか?」
「え?」
「ヴィーノ……昨日何買ったんでしたっけ」
「ポーション1000個と毒消し草500とマヒ消し草500だけど……、合成って1回に10枚とか使うんだよなぁ。S級クエストの報奨金じゃなかったら破算してたよ……アハハ」
「ヴィーノって時々抜けてる所ありますよね」
カナディアに言われるのは納得できないが、話はここで終了してすることなった。
「ポーションを不当に買い占めてるヤツか……どんなヤツなんだろうな」






