56 怪盗ポーション スティーナ視点
それはまさに創作で出てくるような怪盗の姿だった。
黒のタキシードとマントにシルクハットにマスク。
ポーションを持って意気揚々と話す姿はどう見たってあいつだ。
S級冒険者ヴィーノ。もしかしてあたしを助けに来たっていうの。
それにしても……なんだろう。あいつが現れてからこの部屋全体で何だか甘いにおいがする。
「ドン・ギヨーム。彼女をかい、か、解放してもらおう。そしてその飛行青石は怪盗ポーションである私が手に入れることにしま、しましょう」
口上を喋り慣れてないから噛みまくっている。
あいつは強いけど大丈夫なの? 冒険者がこんなことをしたら大きな問題に発展すると思うんだけど。
「新しい怪盗の様ですね! だが……この部屋では怪盗の力は使えない! さぁおまえ達……捕まえなさい!」
一斉にスーツ姿の男がヴィーノの方へ向かっていく。
だめ……いくらあいつが強くてもこの人数相手じゃ。
「ぐわああああああ!」
ヴィーノに飛びかかった男達は皆一斉に吹っ飛んでしまった。
なおも10人、20人と向かっていくのに押し飛ばされていく。
全員吹き飛ばされてしまい、残っていたのは怪盗ポーションともう一人……。
「この数を……いなすだと……」
「当然! 私の助手、怪盗ポーションレディは最強なのだからな! フハハハハハハハ!」
いつのまにかヴィーノの横にいたのは黒髪はそのまま、目を隠すマスクを着て大太刀を担ぐ。そこはいい。
……とてもえっちな格好をしている女がそこにはいた。
誰がどう見たって同じS級冒険者のカナディアだ。
武器を持って襲ってくるスーツ姿の男達を華麗な動きでかわして、一太刀で斬りつけていく。
鞘を付けた状態だから斬り殺してはいないようだ。
さすがのドン・ギヨームの私兵もS級冒険者には叶わない。
ドン・ギヨームがあたしの方に顔を向ける。
「その子を人質にしろ!」
再び男達に掴まれてしまうが、急遽飛んできたポーションで男達はあっと言う間に倒されてしまった。
「私に人質は通用はしない。ポーションレディ!」
カナディアが太刀を振り回して、あたしの方に駆け寄ってきた。
あたしの腰に手をまわしてくれて、ヴィーノの方へと進む。
「大丈夫ですか……スティーナさん」
「カナディア、あなた」
小声で話をする。
ひとまず、ヴィーノの後ろへとまわった。
「あなた……何でそんなエロい格好してるの?」
「え、エロ!?」
端的に言えばカナディアはレオタードの格好をしている。
豊満な胸元はこれでもかというほど露出し、あたしを助ける時に動いたことでブルン、ブルンしていた。
発育良すぎじゃない? 別の意味で犯罪的だ。
きわどいVラインとぷるぷるのお尻が丸見えじゃない。
「痴女?」
「違います! ぜ、全部ヴィ、怪盗ポーションの指示です!」
「あなた……女の子に何着せてんの」
「いや、怪盗の助手はお色気って相場が決まってるんだって! おほん、口調が乱れてしまったな」
ヴィーノは声を震わせ弁明する。
そもそも正体ってポーションぶん投げたり、黒髪のまま戦ったりって……隠す気はあるのだろうか。
だけど形勢逆転。このまま離脱できれば。叶うなら……ギヨームが持っている飛行青石を回収したいケド。
「くくく……」
ドン・ギヨームは高笑いを始める。
この状況でもまだ……あるのだろうか。
「面白くなってきました! いいでしょう! アレを出しなさい、全てを捻りつぶすのです!」
ギヨームが手を振ると展示室の天井がぱかっと扉のように開いたのだ。
そして落ちてきたのは非常に大きな物体。
その物体が動き出したかと思うとドラゴンサイズの機械の魔獣に変化していく。
「ハハハハハ、帝国から購入した機械獣ジェノサイドマシーンです。蜂の巣になるといいでしょう!」
機械獣が機動し、あたし達に向けて武器を向ける。
「ふっ……」
だけど当然ヴィーノは小馬鹿にするように笑うだけだ。
「か弱きのレディを守るため……怪盗ポーションが手を下してやろう」
ヴィーノがポーションを握る。
「スクラップにして差し上げよう!」