55 怪盗ティーナの仕事 スティーナ視点
日も沈み、あたりは真っ暗となる
今回の標的であるギヨーム商会、王国支部は貴族街の一画に作られている。
洋館のような形で貴族のお屋敷に侵入するのと同じ扱いだ。
「お姉ちゃん行ってくるね」
お姉ちゃんのうつる写真に一声かけて……仕事着へと身なりを変える。
ウィッチハットにウィットドレス。怪盗よりは魔女っ子って感じな衣装だけど……こうやってあたし達はずっと歴代の怪盗ティーナを演じてきたのだ。
狙いは飛行青石。
これを手に入れた先、あたしはどうなるのだろう。怪盗をすっぱり辞めるのか、それとも続けるのか。
目的もなく怪盗を続けられるかどうか……正直分からない。
この仕事が成功してから考えることにしよう。
貴族街へとすぐさま移動する。向こうから挑戦状を送りつけてきたのですでに野次馬でいっぱいだ。
魔力も十分にある。さっさと仕事をこなそう。
「レディースエンドジェントルメン!」
幻影魔法を使い、高台へ足を踏み入れる。
歓声が上がり、皆の視線をあっと言う間に集中させる。
「今宵……ギヨーム商店殿より飛行青石を頂きに参上しました」
皆の視線を釘付けてるあたしは幻影。だから捕まることもないし、何の心配もない。
本体のあたしは上を見ている民衆の中をくぐり抜けてギヨーム商店の中へ入っていく。
幻影魔法で姿を隠しながら入れば問題はない。
もちろんトラップなどには注意が必要。でも盗賊スキルで罠外しが得意なあたしにそれも通用しない。
あっと言う間に挑戦状で指示されたギヨーム商店の展示室へと足を踏み入れる。
部屋の中は真っ暗だ。
だけどあたしが付けているマスクは暗視にも対応しており、何の問題もない。
中央に位置するの青く光る宝石、飛行青石。
本物かどうかは正直見てみないと分からない。
中央に仕掛けられた罠もないことを確認する。
……すんなり行きすぎてる。
トラップもない、人もいない。どういうことかしら。
例え宝を手にした瞬間、人が大勢入っても……幻影魔法を使えば難なく抜けられる。
考えてもラチが明かない。行こう。
「っ!」
目の前の宝石を手に取った時、展示室内の電気が通り、明るくなる。
その瞬間あらゆる部屋の扉から……スーツ姿の男達が武器を持って入室してきた。
そして一番先の通路をゆっくりと歩くのは端正な顔立ちをした若男。
「初めまして怪盗ティーナ。嬉しいですよ。あなたと出会える日を待ち望んでいました」
「……ドン・ギヨーム」
1代でギヨーム商会を立ち上げた男。まだ30にもなってない若男が王都を侵食する商店の主とは信じられない。
左、右を見て一番逃げやすい所を探す。
「この間の伯爵家の一件は困りました。私の計画が遅れた責任を取ってもらわないといけませんね」
「悪いけど……捕まる気はない」
「ふっふっふ、そうでしょうね。ずっと捕まえてみたかったのですよ。5年前に1度姿を消してしまい私は愕然としてしまいました」
お姉ちゃんの時のことだ。
その時から怪盗ティーナを狙っていたのか。
「怪盗のマントが地に落ちる所、どうしても見てみたかったのです! さぁ……これまでですよ!」
「……あなたの悪趣味に付き合う気などない」
あたしはすぐさま詠唱開始する。
得意の幻影魔法を使えば取り囲まれたって難なく逃れられる。
「幻影魔法……【ミラージュクリア】」
……あれ。
「発動しない……なんで、【ミラージュクリア】!」
「さぁ……怪盗を捕まえるのです!」
何度使用しても幻影魔法は発動しなかった。
しないというより、魔法をかき消されているような……。
飛び込んでくるスーツ姿の男達の攻撃を回避していく。
でも、多勢に無勢。組み伏せられてしまった。
「は、放せ!」
「怪盗ティーナ……カラクリを教えてあげましょう。今、この部屋は魔法を遮断するフィールドが張られているのです」
「なっ!」
「帝都の方で作られた技術を少し頂くことができまして……。機械の力は凄いですね~。あなたの魔法を完全に押さえ込めましたよ」
ドン・ギヨームが一歩ずつ近づいてきて……あたしのマスクとウィッチハットを乱暴に剥がしてきた。
「ふふ、中は麗しいお嬢さんでしたか」
「この……卑怯者!」
「怪盗に卑怯者扱いされるとは困りましたね」
男数人に組み伏せられてまったく体を動かすことができない。
魔法も発動しない。どうしたら……どうしたら逃げられる!?
「彼女の体を持ち上げなさい」
肩や腕を掴む……男達が体を持ち上げてくる。
じっとりした瞳でドン・ギヨームは近づき、あたしのウイッチローブに手をかけた。
ビリリリリリリッ!
「ああっ!」
乱暴に剥ぎ取られ、下着から何まで男達の視線に晒されてしまう。
恥ずかしくて、悔しくて、涙が出そうだった。
「な、何をする気よ……」
「言ったでしょう? 怪盗が地に落ちる所がみたいって」
「……?」
「あなたを産まれたままの姿にして民衆の前で怪盗の敗北という形で見せつけるのですよ」
「!?」
「殺すのは私もイヤですからねぇ。あなたの体の隅から隅まで民衆に見てもらうことにしましょう」
「こ、この変態!」
男達が残るウィッチローブを引っ張ってきた。
必死に脱がされないように力を入れるが止められるわけもない。
こんなことになるなんて……ここ一番で大失敗してしまった。。
この結末はイヤだ。
いや……。
だ、誰か……。
誰か助けて……!
「いやあああああああああっ!」」
「ハハッ! 怪盗の敗北です!」
「それはどうかな」
その声には聞き覚えがあった。
突如……空間を切り裂くように現れた人影。
黒のタキシードに……あたしが持っているのと似たシルバーのマスクを付け、シルクハットを付けた人物が現れたのだ。
その男は即座に何かを投げて、あたしの体を押さえつけている3人の男の頭にぶつけて気絶させた。
「あなたは……何者です!」
ドン・ギヨームが問う。
「ふふ、私の名は……」
男はさきほど投げつけたもの……ポーションを手に答えた。
「怪盗ポーション! そう呼んで頂こうか!」






