52 怪盗少女の正体
これなら彼女の体に傷もつかないし、アメリのストレスも解消できるし、いい拷問なのかもしれない。
隣で震えてるカナディアに声をかける。
「あんなに拘束されてくすぐられたら……私は死んじゃいます」
「ま、まぁ……あれは例外だからね」
「アヒャヒャヒャヒャ、や、やめてぇぇ! 死ぬぅぅぅぅい!」
こりゃ陥落も早そうだな。
小腹空いたし、何か食ってこよう。
30分後、息絶え絶えの怪盗ティーナが拷問台で震えている。
ポーションの実験台として購入したものだが、こんなことに使えるなんて思ってなかったな。
怪盗が暴れまくったせいで上下一体のウイッチローブが上方向にめくれ上がり、柔肌と白のくまさんパンツがこんにちはしている。
足の枷が外れてるじゃん……すんげぇ暴れたんだろうな。
それにしても女の子のパンツが当たり前のように見えるのはまずい気がする。
横目でちらちら見ていたらカナディアが駆けだしてローブを下げて隠してしまった。
「見過ぎです!」
仕方ないじゃん!
よし、本来の仕事に戻ろう。
怪盗少女に近づいた。
「君の本名を教えてくれるか」
「スティーナでしゅ……」
見事屈服したようだ。
俺より少し色素の薄い金髪で赤眼。
横から伸ばしたロングツインテールは魅力的な姿をしている。
カナディアがキリっとしている美人なら彼女は幼さ残るかわいらしさを感じとれた。
「やめて……って言ったのに泣くまでくすぐるなんてひどい! ぐすっ」
「おぅ! 女の子は泣いてる顔より笑ってる顔の方がいいぞ!」
「えっ、ひゃん! いやん! つっつくのやめ!」
「アメリ……そのへんでやめたげてな」
拷問台の後ろでアメリが怪盗ティーナ、本名、スティーナの両脇腹を狙いつくす。
「カナディアがSランクなら、スティーナはA+だな。いい感度してるぜ。あたし好みだ!」
何のランクだよ。
さて、そろそろ話を進めさせてもらおう。
「なんなのよぅ……無茶苦茶に陵辱して、【ポーション狂】の変態!」
「俺に罪をなすりつけるのはやめて!」
まだ拘束を解くわけにはいかないので、涙で濡れた顔を拭いてあげることにする。
「それでスティーナ。君にはいくつか聞きたいことがある」
「……うん」
「もし嘘をついた場合」
「嘘をついた場合?」
「また君は死ぬほど笑うことになる」
アメリはスティーナが見えるように両手を伸ばしてワキワキし始めた。
「ひっ!!」
これなら大丈夫だろう……。
「怪盗ティーナ。確か、王都で5年前にも活動していたと思うけど、同一人物ではないよな?」
「うん、あたしの家系が代々怪盗をやってたの。権力者に対するささやかな抵抗と民衆への扇動目的としてね。5年前は姉が活動していたわ。病気で亡くなったけど」
怪盗ティーナを遡れば適度に名前が挙がってくるのだ。
俺は王都に住んでないので又聞きでしかなかったのだが……王都出身のメンバーからすれば有名人である。
スティーナの呼吸が安定してきたので言葉を並べる。
「君の目的を教えてくれるか?」
「……。飛行青石を探してるわ」
「ああ、ちょっと前くらいに王都に運び込まれたって噂の宝石のことだな」
「アメリ、知っているのか?」
アメリはひょこっと拷問台から顔を出す。
「飛行青石を手にしたものは自由自在に空を飛び回ることができるって言われている。本当かどうかはわかんねーけどな」
「どうしてその宝石が必要なんだ?」
「……言わなきゃダメ?」
にょっきっとアメリの手が動く。
「わ、分かったわよ! お姉ちゃんの遺言で飛行青石を手に入れろって言われたの! これで満足!?」
キレ気味に言われてしまった。
さすがに遺言関係を無理やり言わせるのは悪かったな。
それからも何個か質問をさせてもらった。
基本的に広く言われている通りで悪者のお宝だけは売り飛ばし、他の所で盗んだ宝石が飛行青石でなければ返却したようだ。
義賊というのは間違いないのだろう。
王都の貧民街で1人で暮らしている。怪盗としての知り合いはいるけど、正体を知るものは誰もいないらしい。
まぁこんなもんか。
あとは怪盗の技は基本幻惑魔法で欺いている。
「もういいでしょ! いい加減放してよ!」
スティーナは気の強い女の子のようだ。長時間拘束されているんだから仕方ないか。
そろそろ解放してあげよう。
「もっとくっ殺、みたいなことされたかった! もう……何なのよ!」
くっ殺ってなんだ。王都民だけが分かる暗号だろうか。
この子の嫌がってるのわりに……実際楽しんでないか?
「弄ばれるなら男の方が良かった……」
スティーナはまだ混乱しているのかもしれない。言葉をつっこむのはやめて上げよう。
「【風車】だって本当はいい年なんでしょ!? おばさんがいい年こいて何してんのよ!」
「あーー、それは言っちゃぁ」
「何よ、ホントのことじゃ、はひっ!」
脇腹を揉まれて飛び跳ねた。
スティーナからは見えないだろうがアメリの目が光っていることが分かる。10代からすれば25歳はその用語を思わず使ってしまうのかもしれないけど、ダメな言葉だと思う。
この状況でアメリの悪口を言うなんて……何というわりとおバカなのかな。
アメリの両指がスティーナの脇腹に深く差し込まれて、強く刻み込まれた。
「ちょ、や、やめっ! あひゃっ! こ、呼吸ができ、できない!」
スティーナは体をよじるが当然逃げられるわけもなく悶えつくす。
「あーーーーーーーあーーーーーーーーー!」
笑い声ではなく、奇声になっているのでこれ多分絶対きついやつだ。
もう俺には止められないのでアメリの気が晴れるまで放置することにしよう。
「カナディア、紅茶でも入れてくれない?」
「は、はい」
カナディアも巻き込まれるがイヤなのか遠慮がちだ。
スティーナの尊厳のため男の俺が見るのはやめておこう。
笑い狂った顔とか……はだけた下着とか見たらかわいそうだもんな……。
スティーナの奇声が止まったのはそれから1時間後のことだった。






