51 つかまっちゃった 怪盗視点
「あなたはあたしを超える才能を持っている! 幻術魔法を勉強すれば立派な怪盗ティーナになれるから!」
あたしと同じ金髪赤眼の瞳を持つおねーちゃん。
普段はすんごく優しいんだけど、怪盗修行になるとすごくうるさくなる。
年離れていて、あたしを産んですぐ亡くなった母代わりだった。
お母さんからおねーちゃんに引き継ぎ、先祖代々伝わる家業を失いたくないから気持ちは分かるけど……。
あたしは怪盗なんて……実際興味がない。
でも何だかんだおねーちゃんが好きだったから、我慢して必死に覚えたんだろうなって思う。
5年前、あたしが12歳になった時おねーちゃんは病気で寝たきりになってしまった。
おねーちゃんから怪盗の技術や幻影魔法を教わりながらも……必死に看病をする。
でもやっぱり王都の貧民街に住んでいるからお金はないし、具合もよくならない。
あたしはおねーちゃんの病気を治すため、怪盗家業でお金を稼ぐ提案をした。
でもおねーちゃんはそれに頷かなかった。
「怪盗ティーナは正義の味方なの。決して悪には染まってはいけない」
そして、あたしが15歳になって成人するまで……病気に耐え抜いてくれたけど、おねーちゃんは逝ってしまった。
最期の言葉は今でも覚えている。
「あなたはあなたの道を進みなさい。もし迷っているなら……飛行青石を手に入れなさい。その時はあなたは空へ羽ばたくことができる」
お母さんもおねーちゃんも17歳が初デビューだったと言っていた。
だからあたしも17歳になったから怪盗ティーナとしてデビューした。
おねえーちゃんの遺言である飛行青石を手に入れるために……。
目を瞑ればおねーちゃんが子供の時に言ってくれた言葉を思い出す。
「あなたの名前は怪盗ティーナから取ったってお母さんが言っていたよ。一緒に頑張ろうね、スティーナ」
◇◇◇
「はっ!」
目覚めた。
明るい照明に思わず目が眩みそうになる。
「くっ!」
すぐに動こうと思ったが手足が動かない。
視線を向けると台にX字で拘束されていた。手足に錠がついており動かせない!?
これ、拷問台なんじゃ!
「ふふふ……目が覚めたようだな」
声の方向に視線を向けると金髪、碧眼の優男、S級冒険者ヴィーノがイヤらしい眼であたしを見ていた。
服は……脱がされていない、けど絶対これそういう場面だ!
盗賊技術を使えば錠を外せるけど……そこからはこの男や多分奥にいる【堕天使】からは逃げられない。
今は耐えるしかない。
「ウィッチハットと眼を隠すマスクを外させてもらおうか」
くっ、無理やり剥がされてしまい、あたしの素顔が晒されてしまう。
「へぇ……結構カワイイ顔してるな」
自慢じゃないけど貧民街のアイドルと言われるくらいには見てくれは良い。
でも、仕事と怪盗修行で彼氏も出来たこともないし……こんな感じで捕まるならさっさと初めてを捨てておけばよかった!
絶対、あたし犯されるんだ!
「イヤらしい眼で見ないでよ!」
「そんな眼してないし!」
【ポーション狂】は焦ったように声を出した。
「どうせ服を剥ぎ取ってイヤらしいことするんでしょ! 分かってるんだから!」
「いや、俺……冒険者だからそれはちょっとまずいって」
【ポーション狂】はじろっと顔を近づけてくる。
「ポーションをイヤらしい所につっこむ気でしょ!」
「その使い方はさすがの俺も考えたことないよ!? ……そんなこと俺にされたいの?」
「……!?」
ば、バカにして!
そんなことを思うわけ……。
よくよく見たら【ポーション狂】って顔は悪くないのよね。
S級冒険者だから筋肉もあるだろうし……冒険者だから多分優しくしてくれ。
「どうしてもって言うなら……触……ひっ!!」
【ポーション狂】の後ろで殺気を放つ【堕天使】の姿に思わず縮み上がってしまった。
黒髪から闇のオーラが出ているようですごく怖い……。
「女の子を痛め付けるのは趣味じゃない。それで……、君の名は? 怪盗ティーナはあくまで仕事の名前だろ」
「……」
あたしは口を噤んだ。
「いろいろ喋ってもらいたいんだけど……」
「悪いけど、あたしは何も喋らない。どんなことをしたってね! 怪盗としての矜恃がある。どんな拷問にも耐えきってみせる!」
「イヤ……拷問なんて。あ、そうだ。あれで喋らせるか」
【ポーション狂】はあたしの顔をじろっと見つめる。
「本当に言わない? 今ならつらい目に合わなくてすむけど……」
「ぷい」
もはや喋る気もない。
こいつらが寝静まったら逃げだそう。さすがに夜通しはないはず。
2人相手だと逃げられないと思うけど、1人だったら多分逃げられる。
何がなんだろうと耐えてみせる!
「カナディア、アメリを呼んできてくれ。君好みの金髪美少女が両手を上げて待ってるって」
ん?
それから5分後、青髪をツーサイドアップで縛った年下にしか見えない女の子がやってきた。
でも有名人なので知っている。S級冒険者のアメリだ。
ものすごく期待に満ちた顔をしており正直ドン引きだ。
不可解なのはそのアメリが動けないあたしの元に手をワキワキさせながら近づいてくることだった。
とても嫌な予感がする。
急いで錠を外そうとするが焦りでうまくいかない。
【ポーション狂】は明るい声を出した。
「話す気になったら言ってくれ。まぁ……笑いすぎて言えるもんならな」
「い、いやあああああああああ!」
あたしはこの日地獄を見た。






